レティシア18歳 ギルドのとある1日
リオ視点
シアが鏡の前に立っている。
肩まで伸びた美しい銀髪に指を絡めている。
食事だから声を掛けたいんだけど、鏡を睨んでいるシアは無言で考え込んでいる。
シアが考え込むとろくなことがないんだよなぁ。
シアが髪を一つにまとめて、短剣を握りしめ振り上げたので、慌ててシアの短剣を持つ手を掴んで止める。
「りお?」
手を掴まれたシアはきょとんとした顔で首を傾げている。
不思議そうな顔で見つめられた。
「何してるの?」
「髪、切ろうかなって」
髪を切るのに短剣を使うのか!?
再会したシアの髪はきちんと切られていた気がするんだけど。
「伸ばすんじゃなかったの?」
シアの青い瞳が揺れた。
「シア?」
シアが好む声で問いかける。
「私の髪、気持ち悪いんだって」
「は?」
悲しそうにこぼす言葉に意味がわからなかった。シアの髪は短くなっても美しい。輝かしい銀髪は魔力が宿ってなくても高値で取引されるだろう。惚れた欲目なしでも村では一番美しい髪だろう。
「この髪を見てると不快になるんだって。だから切って帽子で隠そうかなって」
「俺はシアの髪が好きだよ」
「文化の違いかな。染めればいいんだけど、この髪はお母様と同じだから染めたくなくて」
シアは叔母上を怖がっているけど憧れてもいる。
容姿の美しさを褒められても社交辞令と受け止めるシア。顔立ちの美しさはピンとこなくても、髪の美しさは貴族令嬢のたしなみで当然のものと思っている。
「ならそのままでいいんじゃないか?」
「でも私の髪は人を不幸にするんだって」
「俺は銀髪が不吉なんて初めて聞くけど誰に聞いた?」
「内緒」
シアが感情を隠した美しい微笑みを浮かべた。
令嬢モードの微笑みは美しいけど、この笑みを浮かべるシアを説得するのはなかなか難しい。
俺に踏み込まれたくない様子を見ると村の女が余計なことを言ったかな。
昔からシアは令嬢達の対処は自分でしようとする。
俺が無理やり介入しない限り丸投げしない。村の女に関しても同じか。
優しいシアは村人相手に仕返しは絶対にしない。
美しいシアに嫉妬した奴からやっかみを受けてもディーネがシアに隠れて仕返しするが、シアが気づけば止めるだろう。
「村を出るか?」
「リオ?」
「俺はシアの髪が好きだから、シアが周りを気にして髪を切るくらいなら村を出ようと思う」
「でもいっぱいお世話になったのに」
恩か。後見のない訳ありの未成年を冒険者として受け入れ、住処を与えてくれた村。
シアの旅で一番長く住んだ場所。
村を出るのが簡単だけど、対処できないほどのことじゃない。
「シアがこの村にいたいならいてもいいけど、髪は切らないでくれる?」
「でも」
静かに悩んでいるシア。
「俺はシアの銀髪が好きなんだよ。唯一の俺とのお揃いだろ。シアの髪は俺の色だから。俺はずっとシアの髪を見ていたいよ」
「リオ」
「一応調べてみるよ。でもシアの髪が誰かを不幸にすることなんてないよ。もし事実なら引っ越しだ。シアを悲しませる村なんていなくていい」
「リオも不幸になるかもしれない」
「俺はすでに人生の地獄も不幸も味わったよ。シアと離れる以上に不幸なことはない。シアが傍にいるかぎり俺は幸せだ。絶対に不幸になんかならないから安心して」
心細げなシアを抱きしめる。
「俺はシアと一緒なら幸せだよ。俺はシアの髪をまた結いたいんだけどまた伸ばしてくれる?」
「髪を伸ばしても一緒にいてもいいのかな?」
「もちろん。いなくなったら必死に探すよ。俺はシアがいないと眠れないし食事の味もしない」
「大げさですわ」
「本当だよ。お前が離れてからは眠れなくて魔法を使ってた」
「リオ、ぐっすり寝てましたよね?」
「シアを抱いたらすぐに眠れた。今だってシアがいないとぐっすり眠れない」
「知りませんでしたわ」
「幻滅した?」
「ありえません。リオ兄様に必要としていただけるなんて光栄ですわ。もう味はしますの?」
「ああ。シアと再会してからはもとに戻ったよ」
「よかったですわ」
安心して笑うシアに口づけると赤面した。
もう髪のことを考える余裕はなさそうだな。何度口づけをかわしても慣れずに赤面するシアが愛しい。
食事をすませてギルドに向かう。
シアはレラさんに預けた。探し人はいた。
「アルク、今いいか?」
「ああ。どうした?」
「この地域だと銀髪は不吉なのか?」
「は?初めて聞くけどなんで?」
「シアがこの地域は銀髪は人を不幸にするって聞いたって気にしてて」
「読めた気がする。シオン、ちょっと来い」
アルクがシオンを呼ぶと不機嫌そうに近づいてくる。
「兄貴、なに?俺、ルリといたいんだけど」
「は?」
「リオ、居たのかよ!?」
「お前、いい加減諦めろよ。なぁ、シオンお前、村の女に何か言った?」
「特に。好みのタイプ聞かれたくらい?」
「なんて答えた?」
「年下で銀髪で笑顔が可愛い子って」
「それこの村にルリしかいないだろ!?」
「振られても好きだから仕方ないだろ」
「俺のシアはシオンの取り合いに巻き込まれたってこと?」
「リオ、落ち着いて。シオンに対処させるよ。シオン、ルリは銀髪は不吉だって誰かに吹き込まれたらしいよ」
「ルリのとこ行ってくる」
「違う。お前は村の女の対処をしろ。お前のことを好きなやつらがルリに嫌がらせをしないようにしっかり言い聞かせろ」
「シオンが適当に村の女を選べばいいだろ?昔はつまみ食いしてたんだから簡単だろ。シアには俺がいるからさっさと次を見つけろ。お前のためにシアが傷つくなんて耐えられないんだけど。シオンを消せばすむか。」
懐から紙をだして魔法陣を書きはじめる。
「リオ、落ち着いて、ルリ、ちょっと来て!!」
「アルク、なんですか?」
「リオ、止めて」
「無理ですよ。荒れたリオはグランド様しか止められません。」
「いや、お前ならできる。抱きついて、口づけの一つでもしてみな」
「恥ずかしいですわ」
「お前、俺に恩があるよな」
「わかりましたわ。リオ、戻ってきてくださいませ。ここにはグランド様いないんです。私で我慢してください」
「シア?すぐすむから待ってて」
シアの頭を撫でる。
「嫌です。そんなにグランド様に会いたいなら一度帰国してくださいませ」
シアの言葉に顔をあげる。
「は?」
「私はここで待ってますわ。行ってらっしゃいませ」
「なんで怒ってんの?」
「リオはグランド様の言葉は聞くのに私の言葉は聞いてくれません」
「どうした?。サイラスなんてどうでもいいよ」
「私とグランド様ならグランド様を選ぶのに」
「選ばないよ。悩むまでもなくシアを選ぶよ。」
「ルリ、リオに嫌気がさしたならディーネと一緒に俺のとこ来いよ。家賃もいらないから」
「シオン!?」
「やっぱりシオンを消すのが一番早いよな」
「お前自殺願望あるの!?リオに消されるよ」
「リオはそんなことしませんよ。」
「とりあえず本題に戻ろうか。ルリ、銀髪は不吉でもなんともないよ」
「不吉って」
「それはルリの髪に嫉妬した奴らの戯言だよ。ルリに惚れた男に振られた村の女が不幸になっただけだ。」
「リオを好きになった方々の言いがかりですか?」
「おしいけどそんな感じ」
「髪の色はこのままでいいんですか?」
「ああ。ルリがそうしたいならそうしな」
「わかりました。リオはどこに行っても人気ですわね。やっぱり平凡な私じゃダメなんですかね?」
「ルリも黙っていれば美少女だよ」
「慰めなくて結構ですわ。私が平凡なことはわかってますので傷ついたりしませんわ」
「ルリは村で一番可愛いよ」
「シオン、そーゆーことを言うから誤解されるんですよ。」
魔法陣かけたな。あとは魔石を作って閉じ込めよう。
「リオ、何を書いてますの?」
シアの顔が青くなったな。
「シオンに修行をつけようかと」
「それは修行をつけるための魔法陣ではありませんわ。せっかくだから剣で手合わせしたらいかがですか?」
「せっかく書いたんだけど」
「たまにはリオの魔法なしの手合わせ見たいですわ。この魔法陣は使うのやめましょう?仲間に使う物ではないですわ。ね?」
シアが必死で頼んでくるな。首をかしげるシアが可愛い。
シアの頭をなでるとふんわり笑う。シアの願いを叶えるか。
シオンとは剣で手合わせをしてコテンパンにした。
シアにやりすぎと怒られたが後悔はない。シオンにはアルクが言い聞かせてくれるらしい。
シアがシオンを治療してたのはおもしろくないけど仕方ない。
うっかりやり過ぎたのは俺だしな。
ご機嫌ななめのシアをどうやって宥めるかな。




