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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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レティシア15歳 最後の学園生活

サイラス視点


リオがルーン嬢の頼みでクラム達の修行に付き合っていた。

ぼんやりリオ達の様子を眺めているルーン嬢の隣に座る。


「ルーン嬢、聞いてもいい?」

「私でお答えできることでしたら。」

「ターナー伯爵家で修行したころリオに手紙は書かなかったの?」


実はリオは気にしていた。

待っているのにいっこうに手紙がこなかったと。


「はい。とくに用もありませんでしたから。」

「一通も?」


ルーン嬢が首を傾げた。

「私、マール公爵家には季節の挨拶のお手紙を何通か書きましたわ。いつも伯父様や伯母様がお返事くださいましたよ。」


その話は初耳なんだけど…。

マール公爵夫妻はあえて教えなかったのかな・・。


「リオ、個人には?」

「書いてません。申し訳ありませんが、グランド様の知りたいことがわかりません」

「ルーン嬢はターナー伯爵家にいるときは、どんな手紙は書いてた?」

「伯父様達へのお手紙以外ですとお父様とエディとセリアへのお返事ですかね。エディが3日に一度はお手紙をくれましたわ。懐かしいです」


ルーン嬢が懐かしそうに目を細めた。


「ルーン嬢は手紙が好き?」


「めんど、いえ、ありがたいです。」


ルーン嬢、面倒って言おうとしたよね?

慌てて笑顔で取り繕ったけど。

リオ、これは自業自得だよ。

彼女、自分から手紙を書くことはなさそうだよ。


「ターナー伯爵家はどうだった?」

「楽しかったですよ。できることが増えました。筋肉痛が辛かったくらいですわね。」


リオこの感じ、忘れられてたよ。

ルーン嬢はリオがいない時間も満喫してたよ。

最愛の婚約者に会えずに荒れていた友人にさすがに同情したくなった。


「あと、エイベルは頼りにならないので、いかにリオ兄様がすごいかわかりましたわ。」


リオ、良かったね。

多少は思い出してもらえたみたいだよ。


「修行が終わって帰ってからも時々エイベルが来ましたわ。普段はポンコツなのに時々すごく頼りになるから」


リオの心配は当たりか・。

ビアードにルーン嬢懐いてるよな。表情豊かに彼との思い出を語る彼女は確かに可愛い。

この可愛いルーン嬢を冷たくあしらうビアードも凄いよな。リオほどじゃないけど俺もルーン嬢に必死で頼まれたら心が揺れる。ビアードみたいに即答でお断りはできないよな。

麗しのルーン公爵令嬢にうるさい、めんどうと邪険に扱えるのはあいつだけだよな。

ルーン嬢に鍛えられたビアードは令嬢との距離の取り方がうまい。泣きそうな令嬢にも冷静に対応する。


「昔はエイベルも可愛かったのに、最近はつまらないんです」

「可愛い?」

「よくエイベルで練習してたんです。リオには全く効きませんので。昔は泣きそうな顔で見つめると慌てて慰めてくれたのに、今は見向きもしません。私もセリアみたいに美人に生まれたかったです」

「ルーン嬢も美人だろ?」

「さすがリオのご友人。優しいですね。私は平凡ですから、気遣いはいりません。グランド様に嫁ぐご令嬢は幸せですわ」


この満面の笑顔まずいよな。

「その発言、気を付けてね。勘違いしそうになるから」


「勘違いって本気ですよ。私、」

「ルーン嬢、その発言は婚約に不満があるようにとらえられるよ」

「失礼しました。うっかり私情が。私はお父様の命に異存はありません」


「リオとの婚約は嬉しくないの?」

「実感がないんです。結婚って家の利のためのものです。リオと一緒にいたい気持ちと結婚は別です。それに本当に結婚するかなんて最後までわかりません。お互い以上に利のある縁談があれば両公爵のお考えが変わるかもしれません」

「ルーン公爵の命なら受け入れると」

「はい。私はルーン公爵令嬢ですから。優先すべきはお務めです」



懐かしいよな。リオと相思相愛になってもルーン嬢は私情よりも務めを優先していた。

憂いをおびた顔を強気な笑顔に切り替えた彼女をみて生粋の公爵令嬢と思ったんだよな。

そんな彼女が姿を消した。

彼女が姿を消してから学園で再会した友人は様子がおかしかった。

常に読書か訓練をしている。



「サイラス、マール大丈夫か?俺さマールの次の婚約者になれるように取り次いでほしいって親戚に言われてるんだけど」


ルーン嬢がいなくなり、リオの婚約者が空席になったとささやかれている。

ただリオの読んでる魔導書や異国の本に毎日の訓練を見てると俺はリオが外交官になるようには思えないんだよな。今さら、リオが異国語の勉強をはじめたけど、国名さえ俺は聞いたことないよ。

貴族の間ではルーン嬢の死亡説と行方不明説がささやかれている。

たぶん行方不明説を信じて探しにいくつもりだと・・。

リオに話しかけても空返事ばかりで本から視線をあげない。

令嬢達が声をかけても視線をあげない。


「マール様、気晴らしに行きませんか?」


リオは相変わらず本から顔をあげない。


「本ばっかり読んでいても気が滅入りますよ」


あの令嬢もすごいよな。リオの無視に心が折れないのか。


「せっかくなのでルーン様との思い出話でもしてご冥福を祈りませんか?」


なぜか空気が冷たくなった気がする。ルーン嬢の死亡説を望んでいる令嬢達がいることは知っているけど、それをリオに言うのはどうなんだろう。

リオの様子は変わらない。空気の冷たさの原因は、


「いい加減になさいませ。無礼です。マール公爵家の許しもなく声をかけられるほど、あなたのお家は大きいんですか?」


リオに話しかける令嬢に声をかけたリール嬢だった。可憐な笑顔なのに寒気がする。


「リール様、ここは平等の学園です」

「もうすぐ卒業です。礼儀をわきまえなさい。それにレティシアのご冥福?ルーン公爵家から葬儀の話はありませんが」

「ですが姿を消したのは逃げたんでしょ?」

「私、レティシアを通してルーン公爵夫人と親しくさせていただいてます。貴方の名前を添えてお手紙を書きますわね。私、レティシアが亡くなったとも逃げたとも初耳ですわ。ルーン公爵家も新たな情報に感謝しますわね」

「リール様?」

「マール様はお忙しいのでマール公爵夫人にも私が伝えておきますわ。大事な妹分のことですもの。責任もって引き受けますわ。レティシアの情報がありましたらマール様ではなく私にお願いしますね。」


ふんわり微笑むリール嬢にやっぱり寒気がした。リオは顔を上げなかった。リオに話しかけた令嬢が震えていた。ある意味見せしめか。ルーン嬢への無礼な発言はルーン公爵家に報告すると。

この令嬢はルーン公爵家とマール公爵家から報復されないといいけど。

マール公爵家はわからないけど、ルーン公爵家は確実に報復するだろうな。


「マール様、私は信じてます。煩わしいことは引き受けますわ。」


リール嬢の言葉にようやくリオが顔をあげた。


「可愛いレティシアのためですもの」


「ありがとう」

「なにかあれば力になります。個人としても家としても」

「うちもシアの望みは叶えるよ。リール嬢の婚約を知ったら喜ぶだろうな。いつか伝えるよ」

「満面の笑みでおめでとうって言ってくれる姿が見れないのは寂しいですが」

「シアは俺のですから。俺はこれで」


リール嬢のレオ殿下との婚姻話のことかな。

陛下はルーン公爵家の筆頭派閥の離反を恐れ、同派閥のリール公爵家とレオ殿下の婚約を整えた。

ルーン公爵家が離反してもリール公爵家を押さえれば、他の貴族も取り込めるとのお考えだろうか。

訓練場に行くリオを追いかけるか。リオに縁談をすすめたい友人は黙ってるから放っておこう。自殺行為だよ。最愛の婚約者を亡くした友人を放っておいてやれよ。俺はリオが心配だから当分は傍にいることにした。

ルーン嬢のグランド様がいればリオは大丈夫ですって言葉が頭をよぎったけど、全然大丈夫じゃないからね。



「リオ様」


廊下で呼び止められた声にリオの足が止まった。

スワンとカーチスか。


「これを」


リオが封筒を受け取った。


「情報屋と紹介状です。使わなければ処分を。リオ様個人でお使いください」

「これ・・・」

「僕達にできることはこれくらいです。でも僕達個人としてはいつでも力になります」

「リオ様、レティシアは意地っ張りだけど寂しがりやだから早く見つけてください」

「ありがとう」


家の情報網は他人に教えたりしない。それに情報屋は紹介状がなければ相手にしてくれない。

それを渡すのは危険な賭けだ。二人がわからないはずないよな。

二人もルーン嬢の生存を信じてるのか。


スワン達と別れると今度はビアードに会った。今日はよく人に会う。


「マール、ちょっと」


ビアードの部屋に誘われついていく。


「許可は取ってある。やるよ」


箱の中には長剣がある。


「伯父上と選んだ。うちのお抱え鍛冶師自慢の品だ。手入れさえちゃんとすれば一生物だ」


ビアード公爵家お抱え鍛冶師は国でも最高峰の腕前だ。


「ビアード?」

「行くんだろ?あのお転婆娘はお前しか手におえない。」

「極秘なのになんでわかるんだろうな」

「それなりに長い付き合いだからな。それにレティシアは運はいいから簡単に死んだりしないだろ。」

「そうだよな。俺のシアはよく死にかけるけど運がいいから無傷なんだよな。剣ありがたくいただくよ」

「レティシアには絶対に言うなよ。ズルいって騒ぐから」

「わかった。」


リオが苦笑した。笑うの久しぶりに見た気がする。

その後はグレイ嬢達に捕まった。


「マール様、これを。魔力に応じて容量の変わる袋です。必要なものはハンナ様達と揃え中に入れてあります。いつか追いかけます」

「これはありがたく受け取るけど追いかけるのはやめて。俺は時間が惜しいから余計な手間をとらせないで」

「私も卒業までは動けませんもの。レティシア様のお傍にいきたいです」

「俺、修行したいからこれで」


グレイ嬢の話をさえぎってリオが立ち去ったので追いかける。

話しくらい最後まで聞いてやれよ。ルーン嬢がいないと彼女の友人にも容赦ないな。

まだ視線をむけて会話をするだけ気はつかっているのか・・。

リオは剣をグレイ嬢からもらった袋にいれた。こんなに小さいのに中が四次元とは凄いな。



「サイラス、俺はシアがいなくなって絶望したんだ。それなのに皆、信じてるんだな」


リオの呟く言葉に相変わらずルーン嬢に関してはポンコツだ。


「誰よりもわかりやすくルーン嬢を大事にしていたリオが前を向くなら沈んでいられないよ。ルーン嬢の人徳かもしれないけど」


ある意味普段通りのリオを見てスワン達が安心したのを知ってる。

シオン嬢だけは不敵に笑ってたけど。

ルーン嬢が亡くなったらリオは普段通りを保てないだろうから。

彼らもリオのルーン嬢への執念を知っている。

リオが彼女の無事を信じてるからスワン達も希望を確信できたはずだ。


「全部、シアのお友達からの餞別だよな。」

「リオとルーン嬢への餞別だよ。俺もリオの執念を信じてるよ」

「執念って」

「捕まえるんだろう?」

「ああ。俺はシアなしで生きるなんてできないから」

「認めるんだ」

「悔しいけどな。シアに俺が必要なんじゃなくて俺にシアが必要だった」

「バカだな。ルーン嬢にもリオは必要だよ。また一人で泣いてるかもしれないからさっさと捕まえてやれ」

「早く卒業したい」

「あと少しだろ。それまで訓練付き合うよ」


俺にはリオの訓練に付き合うくらいしかできないからな。

リオは卒業式が終わるとその日のうちに旅立っていった。

式が終わって姿が見えずに、驚いたけどな。

リオらしいか。

俺は友人が最愛の婚約者と再会できることを祈りながら俺の務めを果たすことにしよう。

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