おまけ リアナの日記 2
セリア視点
私はルーン公爵邸に来ている。
今日はルメラ様の事件の訴状を話し合うために集まった。
私の薬剤の横領もあるので一緒に片付けようと、あとは心配なことがあるから念の為。
訴状は被害者が用意する。心身の被害状況と加害者への望みを書いた訴状をもとに、刑が決まる。貴族が嗜めた訴状は相当な無茶がない限り訴状のままの刑になる。
裁判なんて形だけ。
「挨拶はいい。座りなさい」
「はい。失礼します」
ルーン公爵とお父様は仲が良い。
レティを溺愛してるのに本人に怖がられてる可哀想な人。
宰相と魔導士としては一流なのに。優秀なのに抜けてる感じがレティとそっくり。
この場にいるのは、ルーン公爵夫妻にエドワード様、マール公爵夫人にリオ様と私にシエル。
やっぱり当事者のレティはこの場にいない。
たぶんリオ様とエドワード様が呼びたくなかったのよね。
レティに惚れた男がレティを手に入れるために少女を利用し罪人にしたなんて知ったらどんな発想するか。あの子の考えはよくわからないのよ。あの子のことをわかっていると思い込んでるリオ様はおかしい。
「さて、事件の詳細はいいだろう。各々の立場から意見を述べてほしい」
「父上、慣例通りでいいかと」
「一族の死刑と取りつぶしか?」
「はい」
ルーン公爵令嬢の殺人未遂だから当然よね。でもそれは
「すみません。レティシアから死刑だけは絶対に嫌と言付かってます」
「話したのか!?」
リオ様、ルーン公爵に睨まれても動じないのね。
「概要は打ち合わせ通りに伝えてあります。たとえ話として聞きました」
リオ様のレティの話にルーン公爵が小さく笑った。
ルーン公爵の笑顔はわかりずらい。レティは笑顔と認識できない。
「うちの娘は・・」
「私が屋敷を吹き飛ばしに行きましょうか。訓練代わりに出向きます」
ルーン公爵夫人がレティの自信満々な顔と同じ顔をしている。
「ローゼ、貴方が行けば更地になるでしょう。やめなさい」
「娘に手を出されて母として」
「エドワードが見てますよ」
「エドワードも行きますか?」
「もちろんです」
駄目だ。これ。
「叔母上、母親が屋敷を更地にしたらレティシア大丈夫ですか?たぶん領民の救援活動を手伝いにいきますよ。病み上がりの体で」
リオ様、さすが。この家族と長く関わってるだけある。
「リオだって行きたいでしょ?」
「更地にするのは最後です。じわじわ痛めつけましょう。俺はレティシアの死刑反対説に非常に心を打たれました」
「そうよね。そんな簡単に楽にしてたまるものですか。」
「ルメラ男爵家は取りつぶしか?」
「父上、もう一声欲しいです。足りません」
「じわじわと取りつぶした後は好きに手をまわせばいい。」
「領民の保護は手を打ちます。ルメラ男爵家は僕にお任せ頂いても」
「ああ。好きにしろ。やりすぎるなよ。」
エドワード様の方がレティよりしっかりしてるわ。
じわじわと取りつぶしってやっぱりルーン公爵も怒ってるのね。
「レティシアはルメラ嬢は罪に問いたくないと」
「本気か?」
「俺は納得しかねますが、自分の所為で裁かれたとすればレティシアが悲しみます」
あの子はもう。あんなに色々されたのに。
嫌がらせになれたレティにとっては、そこまでじゃないのか・・。
自分の事は気にしない。仕方ないかな。それに今日のあの子の様子も気になる。
「リオ様、私の薬の横領で裁きましょう。」
「修道院送りか」
「罪人の焼印もです」
「それだけですか?ルーン公爵家に手を出したんです。目撃者もいます」
「俺だって」
リオ様にしては鈍いわね。
「様子を見ればいいんじゃないんですか」
「は?」
「焼印つけて修道院に送って、彼女次第で罪状を追加すれば。修道院の移動は自由です。厳しいところに送ってもいいし、送った修道院への寄付をへらしたり、どうとでもできるでしょ?許してあげるんなら、いずれ殿下の婚姻の恩赦がありますし、いくらでも方法はありますよ。」
それに修道院が一番安全。レティとルメラ様のファンに危害を加えられる心配もないから。
ルメラ様に狂信的に恋する方々もいたし。
それにルーン公爵令嬢に手を出した罪人に貴族社会での居場所はない。
リオ様は不服そう。本当は報復したくてたまらないんだろうな。
でもそれはレティが嫌がるから、駄目ですよ。わかりにくい嫌がらせが一番です。
レティは鈍いから絶対に気づきません。
修道院送りと聞いて納得すればそのうち忘れますよ。
あの子の関心のないことへの忘却の早さは才能よね。
いい加減にしないとあの決闘はリオ様が一枚噛んでいたことをレティにばらしますよ。あの子は絶対に怒りますよ。
私はそれでもいいですけど。
脅しても駄目なら仕方ない。
「朝、レティが沈んでたんです。ルメラ様が捕えられた件で。面倒で関わらないことを選ぶべきじゃなかったのかもと。ちゃんと公爵令嬢として彼女が男爵令嬢として生きれるように向き合うべきだった。もしかして彼女にも事情があったのかもしれないから。ルメラ様が裁かれるなら自分も罰を受けるべきと。」
「なんでそうなるんだよ」
「マール公爵邸から帰ってからですよ。なんで全く気にしてなかったレティが沈んでるんですか?」
「俺と帰った時はそんな様子は」
「二人共落ち着きなさい。シエル、レティシアの様子は?」
「お嬢様は事件の後は面会者の対応に追われてました。マール公爵邸から帰られてから、疲れたので一人で休ませてほしいと面会謝絶を希望されてぼんやりしてました。マール公爵からいただいた本にも目を通してません。詳細は話してくださいません。沈まれてますが食事と睡眠はしっかりとられてます」
リオ様が眉間に皺をよせている。やっぱりリオ様が原因か。
「リオ様、例え話しとして話を聞いたっていいましたよね?」
「シアは自分のことだとは思っていない、ただ」
「確実にルメラ様に同情してます。どんな伝え方をしたかは知りませんけど」
「他国でおこった令嬢のことでシアの私的な意見を聞きたいって」
「バカなんですか。そんなことしたら、気付くでしょ!?」
「お前だって意見を聞けって」
「聞き方とタイミングがあるでしょ。むしろなんでいつも無駄に一緒にいるのに昨日はいなかったのよ」
「殿下の呼び出しがあったんだよ」
「二人共落ち着きなさい。レティシアは気付いてないわ。非現実的すぎてありえないって言ってたもの」
「わかりました。」
マール公爵夫人が言うなら平気かな。
あの子思い込み激しいから、ルメラ男爵夫人の話を信じた貴族がいるとは思わないよね。
私もあの人の記憶の記録を読んで、非常識すぎてわからなかったもの。
小説としても売れないわ。たくさんの男に愛されるって、1日に何人の男の相手をするのよ。
殿下が望まれた時点で、ほかの人は少女を諦めるわよ。王家には逆らえないもの。
レティだって魔力があれば、リオ様は諦めたわよ。諦めたかな、あの執念の塊が・・。
レティに魔力があればどうなったのかしら。レティは殿下が苦手だからうまく説得してリオ様と一緒に国外逃亡?考えるのやめよう。バカらしい。
「伯父上、俺もセリアの意見に賛成です。修道院でいいかと」
「エドワード」
「姉様が望むなら構いません。しっかり更生させられる修道院を選びましょう。ただ自分の罪を自覚して罪悪感に苦しんでいただきたいと思うんですが、僕は修道院に行けないんですよね」
「旦那様、私がしっかり言い聞かせます。反省できるまで体に叩き込みます」
ルメラ嬢は誰かに教えてもらわなければ絶対に気付かない。言葉が届くかはわからないけど。
届かないなら、もう終わりかな。修道院に入って病で亡くなることになるかな。
「ローゼ、修道院では暴力は禁止されています。私がその役目と見極めをお許しいただけるなら引き受けましょう」
「伯母上がですか?それは甘すぎませんか?」
「エドワード、言葉に気をつけなさい。お姉様は恐ろしい方よ。お姉様にお任せすれば」
「ローゼ?」
マール公爵夫人の笑顔にルーン公爵夫人が青ざめた。
レティが伯母様がなぜか強いって言ってたのはこういうことね。
「エドワード、母上に任せれば大丈夫だ。母上は優しいだけの方ではない。ターナー伯爵家の方だろ?」
「わかりました。伯母上にお任せしますが、状況は教えてください。」
「義姉上よろしいんでしょうか?」
「ルーン公爵家で手配をしていただけるなら役目を引き受けます。この中では一番私が適任でしょうし」
「わかりました。お願いします」
ルメラ様の修道院にマール公爵夫人のお説教か。
確かにこの中では一番妥当よね。それにマール公爵夫人は怖い人だから大丈夫よね。
マール公爵夫人が怖い人ってエドワード様も知らないのは意外かも。
「問題は伯爵家だな。」
「叔父上、俺にください」
「僕もほしい」
「お前は男爵家を貰っただろ」
「姉様からのお願いですよ。痛い目にあわせてほしいなんて。あの優しい姉様がお怒りです。僕が叶えますよ」
「なら弟はよこせ。」
「嫌です。昔から姉様をつけまわしていたなんて許せません。姉様を騙して、姉様に優しくされていたなんて。僕から姉様との時間を奪ったんです。」
「俺はあいつにもうシアの顔さえ見れない恐怖を埋め込みたい」
二人共私怨よね。
確かにあの弟は変装をして時々レティに接触していた。学園だけでなく、ターナー伯爵家や神殿とか。
しかもエドワード様を足止めして、レティと話していたらしい。
頭がおかしいけど、頭はいいのかしら。
リオ様の目も盗めたとは、ある意味すごいわ。私も気づかなかった。
覗いた記憶は紙に記録される。
彼の覗いた記録を見て、レティの記録の多さに驚いた。
エドワード様とリオ様が荒れるのは仕方ない。
姉のほうはリオ様に惚れてた浅はかで愚かなご令嬢みたいだけど。
ただなぜかルメラ様が令嬢から書き写した手紙の内容は殿下の婚約者のルーンを殺せだったのよね。
依頼を受けた生徒は平民だったからリオ様とレティの婚約を知らなかった。
でも実際は王族の婚約者に手を出すことの方がまずいけど。ルーンって名前だけわかればよかったから後は気にしなかったのかしら。
どうして殺す方法やその後の対処の指示も完璧だったのに、そこだけ間違えたのかしら。
姉がレティの殺害を依頼したことは二人は忘れているのかしら。
「なら私が姉をもらいましょうか?」
「セリア?」
「被験者欲しかったんです。伯爵家は取りつぶしでしょ?」
「だろうな。学園に騒動を起こした罪も重い。」
「レティシアがいないと、物騒すぎませんか。リオ、レティの言葉忘れたの?」
「伯母上?」
「報復するなら時間があるなら構ってほしいって」
「もちろん俺は指示を出すだけ。動くのは俺ではないので時間は、取らせません」
「ずるいです。」
「来年、入学するだろ」
「私が手を回してもいいが自分たちでやりたいのか?」
「はい。父上」
「エドワード、私も参加したいわ」
「もちろん、母上にも協力をお願いします。あの一族は定期的に自然災害に見舞われるので」
「エドワード、リオと相談して決めなさい。訴状はまとめて裁判官には手をまわす。あと去年、大会でレティシアに危害を加えた生徒は殿下が裁かれると」
「殿下がですか?」
「ああ。」
「わかりました」
殿下、自ら?クロード殿下はいまでもレティに御執心なのかしら・・。
殿下の申し出は断れないわ。
「レティシアは私の判断に従うが個人的に訴状は書きたくないと言っているから、ルーン公爵家として書く。セリアはどうする?」
「私の分もルーン公爵が手配してください。最後にサインします。お父様には事後報告で構いません」
「わかった。」
「リオ様、レティは私が引き受けるのでエドワード様とゆっくりお話をしてから帰ってきてください」
「わかった。頼むよ」
「私の被験者の件も考慮してくださいね。レティの頼みなら力を貸しますよ」
この話し合いはもう終わり。
レティはビアード様に預けてきたし大丈夫。
ビアード様はレティに甘くないから軌道修正させるでしょ。あの人はレティが泣いても動じずにうるさいで片付けられる人だから。その後のリオ様の報復は怖いみたいだけど。
夜にレティの様子を見に行こうかな。
ルメラ様がいないなら静かになるわね。
これで実験に専念できるわ。レティの望む平穏な学園生活になるといいんだけど、難しそうよね。
実験も楽しいけどレティの観察も楽しいもの。
もしレティの観察記録を書いたらいくらで売れるかしらね。




