リアナの日記 後編
リアナ・ルメラ視点
お母さんのお話通りにいかなくて時々気持ちが沈む。
気分が落ちる時はハクからもらったバイオリンを抱きしめる。
ハクに会いたい。どんなに男子生徒を魅了してもハクのような気持ちはおきない。
このバイオリンよく見ると裏になにか彫ってある。複雑な紋章。これを調べたらハクのことがわかるかな。明日、図書室にいこう。紋章をノートに書き写した。
ハクの事が知れると思ったら気分が上がった。憂鬱な学園生活も頑張れる気がする。
図書室に行く途中で本を抱えているレティシアを見つけた。
レティシアは図書室によくいることは知っている。でも今日は彼女と話す気分じゃない。
「ルーン嬢、持ちますよ」
あれ、この声って?聞き覚えのある声が聞こえてレティシアに近づいた。
「お心づかいありがとうございます。お気持ちだけで結構ですわ」
「僕も図書室に行くんです。お持ちの本を次にお借りしたくて」
「すみません。難しくて延長して借りてましたわ」
「構いません。僕、医術に詳しいんです。難しければいつでもお教えしますよ」
僕っていってるけど、聞き間違えるはずがない。思い出す声と一緒。
「ありがとうございます。」
「良ければ、僕のおすすめ教えましょうか?この著者の弟子の本が図書室にあるんです。ただ医学書の分野にないんです」
「お言葉に甘えてよろしいでしょうか」
「喜んで。半分貸してください。麗しのルーン嬢に本を持たせたまま隣を歩けません。僕をたててください」
レティシアの手からハクが4冊取り上げた。レティシアは1冊だけ持っている。
「ありがとうございます。軽々持ち上げるのが羨ましいです」
レティシアの笑顔にハクが優しく笑った。
あんな顔はみたことない。髪の色は違うけど、あれはハクだ。間違いない。
レティシアを見るハクの瞳が優しくみえる。
「ハク」
声をかけても、私のほうを向いてくれない。
「待って、ハク」
レティシアが首を傾げたけどそのままハクと一緒に通りすぎていく。
「ルーン嬢」
レティシアをの名前を優しく呼ぶハクの腕を掴むと振り払われた。
「伯爵家より下位なら話しかけないでもらおうか」
「さすがにそれはご令嬢にする仕草ではありませんよ」
「ルーン嬢、彼女の貴方への無礼は平等の学園とはいえ」
「お気遣いありがとうございます。ルメラ様、」
ハクは私じゃなくてレティシアの味方なの!?
レティシアを見てどうして顔を赤くしたの!?
「これを」
レティシアにハンカチを差し出される。レティシアのハンカチの模様に見覚えがあった。書き写した紋章にそっくり。
紋章は家の証。ルーン公爵令嬢が持ち歩くのはルーンの紋章。バイオリンに刻まれたルーンの紋章って。
「これ以上、ルーン嬢に無礼を働いてみろ。話すだけでも不快だ」
ハクの冷たい態度に心が悲鳴をあげる。あんなに会いたかったのに。
「シア?どうした」
「マール様、彼女がルーン嬢に無礼を」
「リオ、手出し無用です。」
「わかってるよ。シアは図書室?」
「はい。医学書を紹介してくださるって。」
「俺は彼と少しだけ話したいから先に行ってて」
「ルーン嬢、すぐに追いかけますから図書室で」
「はい。お待ちしてます。本は自分で持ちます。ありがとうございました」
「シア、危ないから本は俺が持っていくよ。好きな本を借りてやるから先に行ってて。そんな目で見なくても用があるのは彼だけだから。俺はシアに嘘はつかないだろ」
「わかりました。リオ、本、ありがとう」
「俺のシアの笑みに見惚れてるところ悪いけど、レティシアは俺のって忠告したよな?」
「下心はありません。ただ同じ医術を学ぶ者としてお力になりたかっただけですよ」
「よくいつも俺の目を盗むよな」
「僕は捕まってばかりですけど」
「俺はいつでも付き合うからレティシアと医術を語り合う時は呼んでくれ。」
「機会がありましたら。ルーン嬢をお待たせするわけにはいきません」
私に視線を向けずにハク達がレティシアを追いかけていく。
ハクがレティシアを好き?嘘よ。絶対に許さない。
お母様のお話では私の部屋がレティシアの侍女に荒らされる。レティシアが犯人とわかりクロード様に婚約破棄されるお話がある。
今のレティシアは大好きなリオ様との婚約破棄かな。ハクを惑わすなんて許さない。
もしかして権力で脅してるのかもしれない。ハクはルーンに困らせられてたから。
私は自分の部屋を荒らした。そして、しばらくは放課後のレティシアを観察した。レティシアは寮に帰ったあとは出かけない。だからレティシアが寮に帰ったのを確認してしばらく時間が立ったあとに寮に帰って悲鳴をあげた。
同じ寮の生徒は誰も気にかけてくれなかったので、泣きながら生徒会室にかけこんだ。
「助けてください」
中にはクロード様とエイベル様とリオ様、あとは知らない生徒がいた。
「ルメラ嬢、礼を」
「エイベル、構わない。座って。事情を聞こうか」
クロード様は泣いてる私を見て椅子を示した。
「帰ったら私の部屋が荒らされてました。私、レティシア様に嫌われてるから」
優しい顔のクロード様の細かい質問に答える。
私のアリバイも用意してあるから大丈夫。レティシアが疑われるようにしっかり考えたもの。
「それに、私の大事なバイオリンが」
「バイオリン?」
「これです。今までなかったのに、後ろに見たことない紋章が」
バイオリンをエイベル様に渡しました。
私のバイオリンをリオ様が静かに見つめています。
「レティシア様、ひどい」
「生徒会で調査を進める。部屋は一時的に別の部屋を用意する」
「私、レティシア様が怖い」
「殿下、私が彼女をお部屋までご案内しますわ。もうご用はありませんか?」
「調査が終わるまで憶測でものを話さないように」
「クロード様は私を疑うんですか」
「私は常に中立だ。」
「ルメラ様、いきますよ」
私は女生徒に案内されて違う部屋に案内された。
学園で泣きじゃくる私を見た人達が噂を広めてくれるはず。
私を泣かすのはレティシアと噂を広めてあるから。
「私はどうしてレティシア様に嫌われるんですか」
この人もレティシアが嫌いだから噂を広めてくれるはず。
「私はこれで」
「待ってください」
「勘違いしないでください。私はルーン様を嫌いですが貴方の味方ではありません」
「え?」
「失礼します」
どういうこと?レティシアを嫌いなら一緒にレティシアを悪役令嬢にすればいいのに。
残念ながら翌日、噂は広まっていなかった。
またレティシアが権力を使って噂をおさめたのかな。
取り巻きの男子生徒からルーン公爵家は学園でも上位の権力を持つ家だと教えてもらった。
生徒会の調査ではレティシアが犯人という証拠はないと伝えられた。事実だけど、レティシアの醜聞にするのに利用することにした。男子生徒によると位の高い貴族ほど、醜聞や醜態は許されないことらしい。
ルーン公爵令嬢のレティシアは特に致命的になる。レティシアは生徒や民の模範でいなければいけない立場らしい。
私の取り巻きによると令嬢は戦うのは良くない。でもレティシアは武術の授業を取っている。私の部屋を荒らしたことを餌に決闘を挑めばいいかな。決闘の勝者は敗者に願いを適えてもらえる決まりがあるみたい。私は武術に強い生徒を虜にしている。レティシアと戦わせよう。戦っても負けてもレティシアの醜聞になるから。
それに私が勝ったらどうしようかな。
レティシアに決闘を申し込んだら嫌な顔をした。いつもは私のことなど、相手にしないレティシアが拒んでいる。辞退するなら負けと話したらレティシアの顔が青ざめた。この決闘は勝っても負けても私の勝ち。レティシアの評価が下るだけ。
決闘を嫌がるレティシアをニコル様が説得してくれた。
ニコル様の空気にのまれてしまったけど、決闘が決まれば私の勝ちだもの。私からハクを奪ったレティシアを許さない。醜聞もちの公爵令嬢は惨めで目も当てられないと誰かが言っていた。
レティシアとの決闘の噂が広まった。
想像よりも簡単に大きくなって驚いた。この決闘の準備はリオ様がしているらしい。
私はレティシアが権力でリオ様に仕事を押し付けたと広めるためにレティシアに文句を言う事にした。
レティシアの所に行くとレティシアがオルゴールをみて笑っていた。やっぱりそれは大事なのね。なら壊そうかな。
レティシアは私の声に反応しなかった。
ただぼんやりしていた。レティシアの注意を引くために机を揺らした。そしたらオルゴールが落ちた。
レティシアは呆然と見つめて動かない。無視するレティシアに苛々して、セリアの並べている薬をぶつけた。彼女は危険な薬を作っている。レティシアの皮膚がやければいいのに。そしたらハクも見惚れなくなる。残念ながらレティシアに変化はおこらなかった。
突然レティシアが泣き出した。あのレティシアがオルゴールが壊れたくらいで泣くの!?嘘泣きだよね。いつの間にかリオ様の腕で泣きじゃくるレティシアに罪悪感がわいてきた。きっと、嘘泣きよ。悪役令嬢だもの。子供みたいにあんなに悲しそうに泣くような可愛げないわよ。
リオ様に抱き上げられ去っていくレティシアを追いかけようとするとセリアに手を掴まれた。
「貴方、いい加減にしなさいよ」
「みんな騙されてるのよ」
「面倒だわ。でも誰も言わないから仕方ない。貴方が生きて学園にいられるのはレティシアのおかげよ。」
「意味がわからない」
「どんなに殿方を侍らかしても無駄よ。令嬢達が本気になれば敵わない。この国で貴族として生きていくなら尚更。」
「どういうこと」
「あとはご自分で。いずれ慰謝料請求するわ。失礼するわ」
セリアの言葉の意味がわからない。
この学園の女子生徒たちはみんなわからない。
セリアはレティシアの味方だから仕方がない。セリアのお話はない。ただレティシアの大事な友達を奪おうかと思ったけど、できなかった。セリアはすぐに被験者にしようとするから近づくのは危険と途中で断念した。レティシアの取り巻きは手強くて何をしても離れてくれない。さすが公爵家ということか。逆らえば公爵家になにをされるかわからないから陰で怯えて従っているのかもしれない。
決闘はエイベル様を誘ったらあっさり頷いてくれた。
ただ、この決闘で私の予想は外れた。レティシアはずっとリオ様の腕の中にいた。
私のハク様の心を奪ってリオ様に甘えるレティシアが憎かった。
あの女子生徒の提案に乗ろう。
レティシアが負けたら奴隷にする。そして大好きなリオ様と離して一生会わせない。決闘は神聖なものだからその願いは必ず叶えられるらしい。私は強い人を揃えたから負けるはずがない。
でもこの決闘、なんとエイベル様が棄権した。まさか、レティシアがエイベル様にまで手を回してるとは思わなかった。やられた。3対2は分が悪い。レティシアは静かに戦闘を見つめている。その近くでハク様がレティシアを見ている。
決闘を止められるのは、当事者の私とレティシアだけ。
レティシアが途中で棄権すれば私の勝ちになる。
「ルーン嬢は弱いからちょっと脅せば棄権するよな」
「今ならマールも、側にいない」
後の声を聞いて、レティシアに棄権してもらうことにした。
私はレティシアのネクタイを掴んで問いかけた。
レティシアの顔が真っ青になっていく。
早く棄権すればいいのに。
突然腕に痛みが走った。
「痛い」
「公爵令嬢暗殺未遂だ」
私は男子生徒に腕を捕まれ、王宮の牢屋にいれられた。
そこからの記憶がなかった。目が覚めると質素な部屋にいた。
黒い服の夫人が目の前に立っていた。
「起きましたか」
「ここは」
「修道院です」
「どうして、」
「貴方が罪を犯しましたから」
「罪?」
「国の至宝のシオン様の研究物を横領したこと」
「横領?」
「シオン様の了承もなくレティシア様に使ったでしょう?」
あの時!?
「他の方ならともかくシオン様のものということが問題です。国宝を壊したようなものです」
「そんなに高価なものなの?」
「はい。シオン様と研究物に手を出すのは重罪です。」
「それが私がここにいる理由ですか」
「はい。貴方の手と背中には罪人の焼跡。それを背負ってここで神に赦しをこいながら生きていくことになるでしょう」
「横領なのに、焼跡を?重たすぎませんか?」
焼跡は重罪人に刻まれる。手だけでなく背中にも刻まれるのは最も重い罪を犯した重罪人。
「貴方は死罪でした。ただレティシア様が訴状を出されませんでした。ですが、貴方は罪を犯しました。訴状がないからといって、裁かないわけにはいきません」
「私の罪?」
「まずは両殿下への不敬罪。両殿下は平等の学園だからと裁くことを望まれませんでした」
クロード様達への態度がいけなかったの?
「次は他の貴族への不敬罪。下位貴族は上位貴族に逆らってはいけません。これも学園なので裁かれません。」
そんなに裁かれるようなひどいことは言ってないもの。大げさよ。
「レティシア様への行いもレティシア様だけは許してます」
レティシアだけ?
聞き間違い?
「貴方が学園でレティシア様にしたことはおわかりでしょう。それとも一つ一つ説明が必要ですか?一晩はかかりますよ」
確かに、悪役令嬢にするためにたくさんしかけた自覚はある。
「レティシア様が貴方の無礼を咎められなかったことや正せなかったのはご自分の責任。貴方が裁かれるならレティシア様も罰を受けますとルーン公爵達を説得しました。だから罪には問われません」
嘘でしょ?バカじゃないの。
私だったら許さない。
「ただ、貴方には決して許されない重罪があります」
「重罪?」
他になにが・・。
「貴方は2度レティシア様を殺そうとしました」
「2度?」
「貴方は懇意のご友人にレティシア様を殺してほしいと頼まれましたね」
「知らない」
「レティシア様は貴方に2度殺されかけています。1度目2年生の武術大会。貴方はルーンを殺してほしいとお手紙を渡して頼んでいましたね」
「うそ!?あれはそんな意味じゃないって」
「他にどんな意味があるか教えていただきたい。騙されたのかもしれません。ただ今回、貴方のおかげで貴方のお友達がレティシア様に殺意があったことが証明されました。貴方のお友達はもう二度と故郷へは帰れません。レティシア様は貴族に利用されただけだから罪には問わないと言われましたがルーン公爵家が許しませんでした。ただレティシア様の願いで死刑は免れました」
「死刑、帰れないって、どうして。私のせいなの?」
「それは貴方が自分で考えて向き合うことです。二度目は覚えていませんか?」
「決闘の時は、脅すだけで、殺すつもりはなかった」
「首をしめたのに?」
「ちゃんと、レティシアが負けを認めたらやめるつもりだったわ」
「レティシア様は自分の安全のために負けを認めたりしません。代わりに戦っているリオ様達の身に危険があれば止めたでしょう。ただレティシア様自身は殺されても、負けを認めたりはしません。男爵令嬢に負けるという醜聞をさらす位なら、死を選びます。それに自分のために戦っているリオ様達を信じて最期まで見届ける方です」
「そんなのおかしい」
「弱小男爵家の貴方にはわからないかもしれません。ただ筆頭貴族のルーン公爵令嬢ですから。誰よりも責任と義務には厳しい方です」
「私は本当にレティシアを殺すところだったの?」
「貴方に首を絞められ意識を失いました。あのまま誰もとめなければおそらくは」
「そんなつもりじゃ」
「人の命も時も戻りません。貴方の罪のお話はこれだけです。レティシア様は貴方を裁くことを望まれません。ですがそれは周りが許しません。」
「レティシアはどうして、」
「あの子の言葉をそのまま伝えるわ。
好きな人に利用され、心をズタズタに引き裂かれて苦しいのに、これ以上裁く必要があるのかな。私だったら痛くて苦しくて水に溶けてなくなりたい。今度はちゃんと幸せになってほしい。」
あんなにひどいことをしたのに。幸せって
「でも少女を利用しようとした貴族は許しません。自分の利益のために無知な少女を利用した。人としても貴族としても許せません。しかも平民だった幼い少女に、手を出すなんて貴族位を返上して謝罪くらいじゃ許しません。」
怒ってる?
「少女の両親もです。しっかり教育してから貴族としてお披露目すべきです。夢物語は自由です。幼い頃から洗脳するなんて最低です。過去に戻れるなら少女はうちで保護します。お母様は療養所にいれてお父様は貴族位を返上すべきです。馬鹿な夢を見るならお一人で。馬鹿な貴族に仕える領民が可哀想ですわ」
「それ、本当にレティシアの言葉?」
「あの子は令嬢と素を使い分けてるから。優しいところは変わらないけど」
「レティシアと親しいんですか?」
「ええ。」
「レティシアは私のこと」
「あの子は前しか見ないの。貴方にされたことは気にしてないわ。昔、自分を殺そうとした姉の妹を友達として大事にしてるくらいだもの。」
「嘘でしょ」
「出会う順番が別なら違ったかしらね」
「私、利用されたんですよね」
「知りたい?傷つくわよ」
「お願いします。」
「せっかくだから貴方のお母さんのお話の事実確認も混ぜてあげるわ」
「レティシアは幼い頃から殿下に見初められ令嬢達に嫌がらせを受けていたわ。リオもレティシアに惚れ込んでいたから追いかけ回していたの。リオと殿下のファンに嫌がらせされ、家では教育の鬼の母親にしごかれて散々な子供時代を送っていたわ。リオとセリア様にレティシアが好かれすぎて他のお友達できなかったのよね。不自由な幼少時代を送ったレティシアは子供は親に庇護されて自由に生きてほしいって思ってる。だからよく孤児や倒れた人を拾ってくるのよ。本人は覚えてないけど。ロダ様の御家族もレティシアが拾ってきたわ」
「覚えてないって。」
「レティシア、記憶力はいいけど、自分にとって不要なことはすぐに忘れるの。」
「お母様のお話と全然違ってます」
「エイベルとはターナー伯爵家で武術の修行で出会ったのよ。レティシアはポンコツエイベルってよく言ってるわ。よく喧嘩してるけど、気心しれてる二人にリオが妬いてたわ。リオが二人と一緒だと修行にならないから、その期間はリオをターナー伯爵家に近づけなかったのよね」
「エイベル様って」
「あんな可愛いレティシアと一年以上も一緒に過ごしたもの。令嬢に見つめられたくらいで、なびかないわ。ターナー伯爵家はターナー伯爵に会うためにたくさんの子息が出入りするの。貴方のハクはそこでレティシアに一目惚れしたのよ。ただその頃にはリオとレティシアは婚約していたわ。ハクはリオの目を盗んで社交会デビューのレティシアと踊っていたし。もともと人のスキをつくのがうまい子だったのよね。よくリオの目を盗んでレティシアと一緒にいたみたいね。レティシアは覚えてなかったけど。」
「もしかして、私が出会った時はハクはレティシアに惚れ込んでいたんですか・・。」
「残念ながら正解よ。ハクは貴方のお母さんのお話通りになればいいと思って会っていたのよ。運良くレティシアが手に入る機会があれば逃さないように」
「やっぱり」
「ハクのお姉様もリオを慕っていたから貴方を利用したのよ。」
「お姉さんはレティシアを殺したかったんですか?」
「顔に傷がついたら儲けもの。亡くなったら幸運程度の期待かしらね。貴方に渡したバイオリンがレティシアのものだとハクは知らなかったわ。バイオリンを渡したのはお姉様の指示よ。レティシアの物って知ったらハクは貴方に渡さないわ」
「最初から私なんて目に入ってなかったんですね。バカだな。私はこれからどうなるんですか」
「貴方はどうしたい」
誰よりも傍にいたかったハクの目に私はずっと映っていなかった。
「レティシアが私のことを許してくれるなら、私は自分の罪を償います」
「罪?」
「私は自分の願いのためにたくさんの人を騙して利用した。ハクと同じことをしました。どう償ったらいいかわかりませんが」
「貴方の罪は消えない。でもここは悪い所ではないわ。厳しいけど、貴方のためになる。これからは貴方次第。うちの息子はハクの家への嫌がらせで忙しい。ただ貴方がレティシアに無礼を働けば次は命の保障はないわ。覚えておいてね」
「あの、どうして」
「私もレティに甘いの。あの子は自分のせいで人が傷ついたり死ぬのが嫌いなの。今回はまだ子供の一度目の過ちだから目を瞑るけど二度目はないわ」
寒気がした。この寒さは覚えがある。
「失礼するわ」
優雅に去っていく夫人の後ろ姿にレティシアが重なった。
いつか、罪を償って自分に自信が持てたら会いにいけるかな。
レティシアは私のことを覚えてないかもしれない。それでもいい。
レティシアに負けないように頑張らないと。
私は自分の罪の償い方はわからない。
それでも、レティシアのお陰で、誰の命も奪われていない。
それだけが今の私には救いだった。




