リアナの日記 前編
リアナ視点
リアナの家が変なことは小さい頃から気付いていた。
リアナの家族はお母さんと時々会いにくるおじさん。
村では大人も子供も働くのにリアナの家は誰も働きにいかない。
いつもおじさんが食べ物や服、色んな物をくれるからお母さんは働かなくて平気みたい。
リアナは毎日お母さんと一緒に料理や掃除、洗濯をしながら暮らしていた。時々おじさんがくると綺麗な言葉の使い方を教えてくれた。将来役にたつから覚えなさいって。
お母さんがおじさんの言うことは絶対というから不満があっても言うことを聞いていた。
お母さんの機嫌を損ねるとリアナの好きなお話が聞けなくなるから。
リアナのお母さんはお話と絵が上手だった。おじさんもリアナもお母さんのお話が大好きだった。
リアナの家は村の外れにあった。お母さんは村の人との交流はなかった。
でもリアナが村に遊びにいくと村の人は遊んでくれた。特に男の人たちはリアナが笑うとなんでも言うことを聞いてくれた。
お母さんは村の人はリアナには釣り合わないと言うけどリアナは気にしなかった。
お母さんのお話は楽しいけど、家の中はつまらないもの。それに村に行くと、みんながリアナを可愛いって褒めてくれるのが気持ちが良かったから。
「リアナは恵まれたお姫様よ。」
お母さんの口癖だった。
リアナには運命の人がたくさんいる。お母さんが綺麗な絵をたくさん描いていつもお話をしてくれた。
主人公は大きくなったリアナ。
リアナは15歳になるとお勉強をするために学園に行く。そこで運命の人たちに会う。
一人目は王子のクロード様。このクロード様はキラキラしているの。
可愛いリアナは学園の女の子に意地悪される。でもいつもクロード様が助けてくれるの。
クロード様は意地悪されても負けないリアナに恋するんだって。
お母さんのお話はクロード様のお話が一番たくさんあるの。
リアナは学園の泉のお話がお気に入り。女の子に意地悪されたリアナをクロード様が探しにきて抱きしめてくれるの。
「リアナ」
「なんでもありません。」
「私が助けようか」
「リアナはクロード様がいてくれるだけで頑張れます。だから大丈夫。助けはいりません」
「もう少しだけ待ってて」
ここで優しく笑うクロード様の絵が一番お気に入り。
二人目は王子様の弟のレオ様。
レオ様は静かな人。大好きなのはお母様だけ。優しくして傍にいてあげるとリアナに恋をしてくれる。
レオ様のお話は少ない。一緒に楽器を弾くお話がお気に入り。
三人目は騎士見習いのエイベル様。
エイベルの幼馴染のレティシアの意地悪からリアナをいつも庇ってくれる。
そんなエイベル様は騎士として伸び悩んでいて、傍で健気に応援するリアナに恋をしてくれる。
エイベル様の馬に一緒に乗ってお出かけするお話がお気に入り。
四人目は外交官見習いのリオ様。
リオ様はリアナに意地悪するクロード様の婚約者のレティシアの味方。
でも断罪されたレティシアを見て、彼女をとめられなかったことを責めるリオ様の傍でなぐさめるとリアナに恋をしてくれる。
いつも涼しいお顔のリオ様がリアナの無茶に頭を撫でて優しく仕方ないなって微笑むお話がお気に入り。
他にもたくさんいますがこの四人がお母さんとおじさんのおすすめだって。
あと一人おすすめを忘れていました。
ロダ様。
ロダ様だけは16歳の時に出会うの。
海の向こうの国の王子様。お忍びでフラン王国に来て行方不明のお母さんを探しているので、ロダ様の心に寄り添いながら一緒にお母さんを探してあげるとリアナに恋をしてくれるって。
ロダ様と海の魔法で海の中を散歩するお話がお気に入り。
お母さんは誰を選んでもリアナは幸せになれるって。
最近のおじさんはクロード様が一番おすすめだって。
可愛いリアナにみんなイチコロと言ってくれる。褒められるのは気持ちがいい。
お母さんはあんまり褒めてくれないから。
リアナも子供のころはお母さんの話を信じてたけど、さすがに大きくなれば作り話かなっと思う。
でもおじさんはお母さんの言うことは当たるのでリアナがたくさんの男の子に恋をされるのは現実だと言う。
お母さんはおじさんの言うことは正しいのよって言うから本当なのかな。
リアナは一番可愛いからお母さんのお話もやっぱり本当のお話?。
15歳になればわかるよね。
そう思ってたけど、リアナは12歳の時にお母さんの話には出てこない運命の人に出会ったの。
あの日の強い風には今も感謝してるの。
家のお掃除をするのに窓を開けたらお母さんの絵が飛んでいったから急いで追いかけた。
急いで絵を集めていると一緒に絵を拾ってくれた綺麗な人と出会ったの。
お母さんの絵に負けないくらい綺麗な人。村の男たちとは比べ物にならない。
絵を見つめて笑った顔にリアナは見惚れた。お母さんの言う恋に落ちるの意味がわかったの。
「これは?」
「お母さんの絵」
「誰だかわかる?」
レティシアの絵を見せられた。
「レティシア」
「ルーン嬢も成長したらこうなりそうだな。他の絵も見せてくれる?」
リアナは持っている絵を渡した。
また絵の人の名前を聞かれたので答えた。
「君の名前は?」
「リアナ」
「平民がなぜ・・。こんな辺境にくることはないはず。絵の人たちに会ったことはあるかい?」
彼にじっと見つめられるのが恥ずかしくて首を横に振った。
「この人たちのこと教えてほしいんだけど」
「あの、お母さんのお話にでてくるの」
「そのお話、聞かせてくれる?」
彼にお母さんのお話を話した。
彼がリアナを見て笑ってくれるのが嬉しかった。
「ねぇ、また来るから会ってくれる?」
「うん。」
「ありがとう。ねぇ、レティシアとリオの絵だけもらってもいい?こんな綺麗な絵は初めて見た」
「うん。」
お母さんの絵をこんなに綺麗な人が褒めてくれるのが嬉しかったからレティシアとリオ様の絵をあげた。
「リアナ、君とまた会いたい。ただ私は事情があるから私と会うことは内緒にしてくれるかい?」
「うん。内緒にする。だから・・」
続きの言葉は言えなかった。
「もちろん会いに来るよ。私との逢瀬は二人の秘密だ」
彼は去っていった。リアナはその日は胸がどきどきして眠れなかった。
それからお母さんに教わりながら自分がもっと可愛くなれるように頑張った。
自分のことをリアナというのもやめた。
綺麗な彼に自分がお似合いとは思えなかったから。それに彼はお母さんのお話に出てこなかったから、どうすれば恋に落ちてくれるかわからない。
私は毎日、彼と出会った場所に訪れた。
一月がたち、もう会えないのかと思い始めたころ彼が会いに来てくれた。
「リアナ、会いたかった。これを」
差しだされる花束に顔が赤くなった。
「ありがとう」
私は会えば会うほど彼が好きになった。
4回目に会った時に初めて名前を聞けた。彼はハク。
私がハクと初めて呼んだとき一瞬寒気がした。でもその後は寒気がすることがなかった。
ハクに会うと胸がいっぱいで全然思うように話せなくなる。
村の男の子とは普通に話せるのに。私の顔を見て口ごもる子を見て、その子が私に恋をしていることがわかった。
私はお母さんに教えてもらった男の人を魅了する仕草は村の子には簡単にできて効果もあるのに、ハクの前では全然できなかった。
ハクは時々ハクのことを教えてくれる。
「リアナ、いつかはちゃんと話すから」
「私はハクといれればいい」
「そう」
ハクの笑顔が時々怖くなる時がある。でもハクといられれば幸せだった。
ハクはレティシアが断罪される話が好きなのか何度も話してほしいとお願いされた。
ハクはレティシアとリオ様の絵を欲しいというのでお母さんにお願いして絵をあげると喜んでくれた。
ある日ハクと逢瀬の場所にお姉さんがきた。
「あなたがリアナ?」
「うん」
「いつもハクがお世話になってるわね。私、ハクの姉なの。ハクがある女に追いかけまわされて困ってるの。頼れるのは貴方だけなの」
「私?」
「ええ。あの子のために力を貸して」
ハクの力になれるのは嬉しい。頑張ればハクが笑ってくれるかな。
「頑張る。」
「貴方の村のこの生徒と仲良くなって貴方に夢中にさせてほしいの。できる?」
ハクのためならなんでもやる。それに村の男の子は簡単。
「うん」
「貴方に夢中にさせたらこの手紙を書き写して渡して。このお金を添えてね。私の書いた手紙は書き写したら燃やして灰にして。私の手紙が見つかればハクが死ぬわ」
ハクが死ぬのは嫌。
「わかった」
お姉さんから受け取った手紙を見ると、最後にルーンを殺せと書いてあった。
殺しは死刑になる。こんな手紙を渡すのは怖い。
「お姉さん、殺すのは」
「貴方はしらないのね。これは暗号なの。ちょっと脅かすだけよ。うまくいけばハクが救われるの」
殺さないのか。それならいいかな。リアナ、ありがとうってまた笑ってくれるかな。
どんなハクも素敵だけど絵を渡したときのような顔が見たいな。
「危険なことはないわ。ハクのためにもルーンに知られるわけにはいかないの。このことはハクにも誰にも話さないで。お友達にも他言無用と伝えて。もちろん貴方も。失敗すればハクが死ぬわ」
「わかった」
「絶対にハクにも内緒ね。そうすればハクは近々貴方に会いにくるわ。」
お姉さんの言う通りの行動がおえた時におじさんが嬉しそうに家に来た。
「今まで苦労をかけてすまなかった。やっと二人を迎えられる」
「旦那様!!」
お母さんがおじさんと抱き合っている。
「リアナ、これからはリアナ・ルメラ男爵令嬢だ。もっと広い屋敷で贅沢に暮らせる。苦労をかけた」
「おじさん?」
「これからはお父様と呼びなさい。すぐに引っ越ししよう」
それはだめ。ハクが会いにくるのに。
ハクのお姉さんが言っていたもの。でもハクのことは誰にも内緒。
「村の人とお別れしたいからもう少しだけここにいたい」
「1週間だけなら構わないが、リアナ、これからは貴族になる。綺麗な言葉づかいにしなさい」
「リアナ、旦那様の言う通りにしなさい」
「わかりました」
貴族になるってお母さんたちは喜んでいるけどそんなことより私はハクに会いたかった。
おじさんがお父様にかわって2日目にハクが会いに来てくれた。
「リアナ、会いたかったよ」
「ハク、あのね、私、引っ越すの」
「引っ越す?」
「貴族になるんだって」
「名前は」
「リアナ・ルメラ」
「そうか。リアナ、きっといずれ君はお母さんの話通り学園に行く。私は学園にいるけど君とは会えない」
「どうして?」
「書けたら手紙を送るよ。ただ君を危険にさらしたくないから手紙は読んだら燃やして」
「わかった。いつか会える?」
「ああ。準備が整ったら迎えに行くよ。そのために私達のことは秘密だ。」
「うん。わかった」
「約束だ」
「うん。ハク、私は」
「その言葉は聞けない」
ハクはいつもの笑顔を浮かべて去って行った。絵をあげた時みたいな顔じゃなくて残念だけど、会えただけでも嬉しい。
ハクは学園にいる。
学園に行けばハクに会えるかもしれない。
関係は秘密でも傍にいたい。だから私は勉強を頑張って学園に入学した。
「リアナ、貴方は選ばれた人間よ。私の言う通りになったでしょ?私の言う通りにすればみんなが貴方の虜になる。恋した貴方の言いなりよ。」
「リアナは可愛いからな。ただお母様のお話は学園では誰にもしてはいけないよ。お母様のお話に出てきた方々を魅了すればお前の願いはなんでも叶う」
「なんでも?」
「ああ。クロード殿下、レオ殿下、エイベル・ビアード、リオ・マール、いずれ入学するエドワード・ルーンの心を射止めればいずれこの国のすべてはリアナのものになる」
「権力があればなんでも願いが叶うんですか?」
「ああ」
なんでも願いが叶う。
この人たちの心を射止めればハクと一緒にいられるんだ。そのためなら、頑張る。
私は3年2組に編入した。恋の落とし方は覚えているから簡単だよね。誰にしようかな。
偶然ハクに会えたらいいのにな。
「今日もルーン様とマール様は素敵でしたわ」
ルーン様ってハクを困らせてた人?
隣で話している女生徒の二人に近づいた。
「ルーンって誰ですか?」
「無礼よ。ルーン様を知りませんの」
「レティシア・ルーン公爵令嬢を呼びつけなんて」
この人はどうして怒ってるの?その名前って
「レティシア?」
「様をつけなさい。無礼よ。」
「レティシアって意地悪な人ですよね」
「男爵令嬢ごときが。ルーン様は聡明で優しく、可愛らしく」
「誰ですか?」
「貴方、いい加減に」
怒っていた女生徒が黙りお辞儀をした。周りを見渡すと全員が礼をしている。
「頭をあげて。ここは平等の学園だ。礼はいらない。君か」
お母さんの絵にそっくり。キラキラして見える。
「クロード様」
クロード様に笑いかけられた。お母さんの絵とそっくり。
「初めまして。この学園の生徒会長を務めるクロード・フラン。私のことは会長か殿下で構わない。」
「クロード様?」
「その呼び方はやめて。私がその呼び方を許す女性は一人だけだから。ルメラ嬢の事情は知っている。困った時は生徒会に。ステイ学園は君を歓迎する。よい学園生活を」
おかしい。お母さんのお話と違う。
お母さんの話はクロード様と一緒にレティシアが挨拶にきた。
「クロード様、一つだけおしえてください」
「不敬だ。」
クロード様の隣の男生徒に睨まれてる。
「やめろ。彼女も緊張してるんだろ。なに?」
「レティシアは貴方にとって」
「殿下、申しわけありません。ここは私にお任せください。うちのクラスの者が失礼しました」
「ああ。頼む。ルーン嬢は大事な臣下で生徒だ。」
クロード様は私に視線を向けずに私を睨んでいる男子生徒の肩を叩いて出て行った。
「貴方、平民から貴族にあがったとはいえ無礼すぎるわ。貴方の行動に殿下がお怒りになりクラス全員が連帯責任になったらどうしますの。まず殿下をお名前で呼ぶなんて許されません。自分より上位の方の名前を呼んではいけません。それにルーン様もです。この学園で過ごすなら最低限の礼儀は覚えなさい」
意味がわからない。どうして怒られなきゃいけないの。
瞳を潤ませる。
「ひどい」
「やめろよ。ルメラ嬢も緊張してたんだろ。」
「緊張したからって許されることではないわ」
「泣きそうだ。許してやれよ」
「ありがとう」
庇ってくれた男生徒を見つめると顔が赤くなる。うん。ちゃんと効果がある。
文句を言った女子生徒が私を睨みながら離れていった。
違う男子生徒が近寄ってきた。
「ルーン嬢への無礼はマールが許さないから気をつけろ」
「どうして?」
「何も知らないのか。ルーン嬢はマールの婚約者だ。マールはルーン嬢を溺愛しているのはこの学園だと常識だ」
ルーンはレティシア・ルーンと言われていた。レティシアはクロード様の婚約者のはず。
レティシアは二人いるの?
先生が来たのでこれ以上は男子生徒はなにも教えてくれなかった。
お昼の時間になったので、レティシアの正体を確かめにいくことにした。
一組にはお母さんの絵にそっくりな人たちが何人もいた。
銀髪、いた、あれだ。
「レティシア・ルーン」
名前を呼ぶとお母さんの絵とそっくりのレティシアがいた。
なぜかリオ様の腕に抱かれている。
おかしい。レティシアは高飛車でみんなに嫌われていて、リオ様しか味方のいないはずなのに。
レティシアに近づくのに勢いをつけすぎて転んだ。せっかく転んだので涙目で見上げても誰も助けてくれない。
お母さんの話だといつも誰かが手を差し伸べて起こしてくれたのに。
周りに助けてくれそうな人を探すと綺麗な瞳の生徒がいる。
あの綺麗な目の色は、ロダ様!?なんでいるの。
ロダ様に聞いても優しく答えてくれない。
おかしい。私が何を言っても誰も聞いてくれない。また女子生徒に責められる。
レティシアはリオ様に抱き抱えられている。
リオ様の端正な顔に見つめられて、見惚れたけど優しさはない。
お話のリオ様はレティシアの味方だけど、私に冷たくしなかった。
全然お母さんのお話と違う。私は気付いたら廊下に連れ出されていた。
お母さんのお話と違うけど、同じところもある。
お父様が近づいてほしいと言わなかった方とはお話通り。私に恋して言いなりになってくれる。
学園を歩いてハクを探しても見つからない。
全然うまくいかないのに心がくじけそうになった。その時に離れで待っているから誰にも会わないようにしてきてとハクから手紙がきた。一気に気持ちが浮上した。
誰にも見つからないように一人で指定された離れに行ってしばらく待つとハクが来た。
「リアナ、どうしても会いたくて。ごめん。時間がないんだ」
「ハク?」
「君と一緒にいたいけど家が許さないから。このバイオリンを僕のかわりに傍においてほしい。
ただ僕からの贈り物とは言わないで。君との思い出は二人だけのものにしたいから」
「もう会えないの?」
「ごめん。もう無理なんだ。君と会うのも最後だ」
「待って」
突然眠気に襲われ目を開けたらハクはいなかった。あるのはハクがくれたバイオリンだけだった。
私は寮の部屋に帰った。
どうゆうこと?もう無理?そういえばハクのお姉さんはレティシアがハクを困らせてるって言っていた。もしかしてレティシアが皆を騙してる?
お父様の言葉を思い出す。権力があればなんでも叶う。ならお母さんのお話の通りになるようにすればいい。そしたらハクは私の傍にいられるようになる。
お母さんのお話を思い出す。たくさん聞いたからどのお話も簡単に思い出せる。
登場人物は同じ。違うのはレティシアが悪役令嬢じゃない。
そしてお母さんのお話で私をいじめるレティシアは私に全然近づいてこない。
しかも、私と違ってレティシアは楽しそうに学園生活を送っている。
私はレティシアにはお話通りの悪役令嬢になってもらうことにした。だってレティシアが悪役令嬢にならないとレオ様以外の心が手に入らないもの。
私はハクと一緒にいるために権力がほしい。
きっとハクも喜んでくれる。
レティシアが悪役令嬢になるように噂を流しながら、お母さんのお話通りに進めていった。
うまくいかなかったり、おこらないお話もあった。それでもおこるお話は確実に再現した。
レティシアを観察するうちに気付いたことがある。レティシアはリオ様に惚れている。
おこらないお話があるなら、新しいお話を作ればいい。私はリオ様に近づいた。
リオ様は触れさせてくれないけど、笑顔で私と一緒にいてくれるようになった。立場があるから名前では呼んではいけないと言われたのでマール様と呼んだ。
私がハクといられないのにレティシアばっかりずるいもの。傷ついた瞳のレティシアに優越感がわいた。お母さんの言う通り私はお姫様なのね。でも私の優越感は続かなかった。悪役令嬢のレティシアはいつの間にかリオ様を奪い返した。私は確信した。レティシアはやっぱり計算高い悪役令嬢よ。優しく聡明な振りをしてレティシアは皆を騙している。でも私はリオ様の心を一時でも奪えた。ならきっと負けない。
レティシアがリオ様に夢中な間に他の人の心を奪おうと思った。
レオ様の心を奪うのをなぜかレティシアが邪魔をした。レティシアはレオ様のお話にはでてこないのに。お話通りにならないのはよくあることか。計算高いレティシアの所為。
でもレオ様との邪魔をしたお詫びにエイベル様を紹介してくれた。
レティシアが出て行ったのでエイベル様と二人っきり。
出会う場所は違うけど、二人っきりならきっとお話通りになるはず。
「エイベル様、私あなたを応援しますわ」
上目遣いで見上げるとエイベル様の顔が青くなった。
「ありがとう。俺、仕事があるから、帰ってくれ」
予想の反応と違う。首をかしげて笑いかける。
「私が傍にいます」
「いらない。帰ってくれ」
全然相手にされていない。
エイベル様の机の上の書類を手に取る。
「お手伝いします」
「いい。ほぼ終わってる」
「この量を?」
「ああ。」
エイベル様は書類の仕事が苦手でそれを手伝うお話があったけど、やっぱり今ではないか。
それなら、
「お茶をいれます」
エイベル様の棚にある茶器に触れようとする手をとられます。
「その茶器は触れないでくれ。壊されると困る」
「え?」
「この茶器の持ち主が割ったらうるさいから。茶が飲みたいなら侍従を呼ぶからいらない。帰ってくれないか」
お茶入れるのを拒否されることはない。私のお茶でエイベル様がこんなに心が落ち着くお茶ははじめてだって笑ってくれるはずなんだけど。
「エイベル様、悩みはありませんか」
「関係ないだろ」
「私、力になりたいんです」
「男遊びなら他でやれ。俺の縁談は母上に従う。あと俺に上目遣いも涙目も効かないから。」
エイベル様が部屋を出て行き、男の人に追い出された。エイベル様って泣いてる令嬢を見るとつい慰める人よね?泣いてる私を慰めてくれるお話があったよね。
エイベル様って女慣れしてない、硬派な性格よね?
また明日にしよう。お母さんのお話のエイベル様と違いすぎる。
エイベル様のことはうまくいかなくてもレティシアに意地悪されてる噂は大きくなっている。
少しずつだけどレティシアが悪役令嬢になっていっている。




