レティシア2年生 課題
シエル視点
お嬢様が課題を見て悩んでます。
社交の課題で自分より家格の高いもしくは同等の殿方からサインをもらうそうです。
パイプと良縁探しの役にたてばと、先生の心遣いですね。
課題であれば、話しかけやすいですものね。
五人にサインという課題にお嬢様は困ってます。
ルーン公爵家より家格が高いって…。
「シエル、ついてきて」
お嬢様は方針を決めたようです。
お嬢様のあとをついていくと、まずはリオ様ではないんですね…。
ビアード様の部屋をノックすると了承の声があり、中に入ります。
ビアード様には先触れなく訪問することが多くて申し訳ありません。
「エイベル、サインをくださいませ!!」
「は?」
「課題なんです。同等もしくは家格の高い方のサインを」
「サインはしてやるが、まずは横を見てみろ」
お嬢様が横を見ると固まりました。
私もお嬢様が気づいてないとは思ってました。
慌てて礼をとってます。
まさかクロード殿下がビアード様の部屋にいるなんて思いませんよね。
「頭をあげて」
「殿下、申し訳ありません」
「気にしてないから、頭をあげて」
「レティシア、殿下の命だ」
お嬢様が顔をあげました。戸惑った顔をしてますね。
殿下が笑ってます。
「レティ、大丈夫だよ。不敬罪にはしないよ」
「ありがとうございます。お邪魔をしてすみません。失礼しますわ」
「そろそろ休憩しようとしていたから。よければお茶に付き合ってよ」
「光栄ですが婚約者のいる私では」
「私もサインをしてあげるよ」
「レティシア、さっさと茶をいれろ。殿下を待たせるな」
お嬢様が笑顔でビアード様を睨みつけました。
よくこの部屋で勝手にお茶を淹れて飲んでますものね。
睨み合いに負けたお嬢様が社交の笑顔を纏ってお茶の用意をはじめました。
「シエル」
好みの茶葉がないようですね。
いくつか手持ちの茶葉を見せると、一つを選び取りました。
殿下が侍従になにか命じてますね。
侍従が出ていきました。
お嬢様が殿下にお茶を差し出すと殿下は微笑まれて手をつけました。
殿下、毒味は!?
お嬢様も自分が口をつける前に殿下が飲まれたので驚いてます。
「レティが私に毒を盛るはずないだろう」
「怖れながら、大切な御身です。」
「ごめん。レティが自らお茶を淹れてくれるのが嬉しくてつい。怒らないでよ」
お嬢様が困っています。ただ私では助けられません。
お嬢様が弱々しく微笑んでますね。
「昔はそんな笑みしなかったよな。調子が狂うな」
殿下の侍従が戻ってお嬢様達の前にマドレーヌを出しますね。
お嬢様は前に出された物を一口切り分け口に入れ飲み込むと殿下の物と交換されました。
殿下が笑顔で固まってます。
お嬢様自ら毒味をしないでいただきたい。
「レティ?」
「殿下、いただきますわ。」
お嬢様は殿下と交換したマドレーヌを食べはじめました。
嬉しそうに微笑まれてますから好みのお味だったんでしょう。
殿下も微笑ましそうに見てますね。
やっぱり殿下はうちのお嬢様のことが…。
お嬢様は可愛らしいから仕方ありません。
私ごときが考えていいことではありません。
でも、幸せそうにマドレーヌを食べるお嬢様に殿下が見惚れているように見えてしまうんです。
「さすが、殿下のごようたし。」
うっとり微笑むお嬢様に殿下が甘く微笑まれてます。
「そんなに喜んでもらえるとは。」
「失礼しました。」
お嬢様が慌てて再び社交の顔を作りました。
マドレーヌにつられて、仮面がはがれ落ちてましたから…。
「レティ、」
「失礼します。殿下はいらっしゃいますか」
「時間切れか。レティまたね。」
殿下がお嬢様に微笑んで優雅に去っていきました。
お嬢様の課題にはいつの間にか殿下のサインがありました。さすがです。
「エイベル、殿下は大丈夫なのでしょうか?」
「俺は、先触れも出さずに部屋に来るお前のほうが問題だと思う。ほら、サインをしたから帰れ」
「ありがとうございます。」
迷惑そうなビアード様のことは気にせず、お嬢様は退室されました。
お嬢様、ビアード様への態度は淑女として許されませんよ…。
次に音楽室を目指しました。
リール様とレオ殿下が演奏されてますね。
「レティシア、どうした?」
「お邪魔をして申し訳ありません。課題なんですが、レオ様、サインをいただけませんか?」
「サイン?いいよ。」
レオ殿下がお嬢様の課題にサインをしています。
あっさりサインをくださいますが、いいのでしょうか…。
お嬢様の人徳ですわね。
「レティシア達もその課題が…」
「はい。中々難しいです」
「ルーン公爵家より家格が高い家は少ないものね。」
「課題の話を聞いて驚きました。」
「そこまで重要な課題ではないから大丈夫よ」
「レティシア、書けたよ」
「レオ様、ありがとうございます。お邪魔してごめんなさい。失礼しますね」
お嬢様はお二人に礼をして去っていきます。
手を振られるお二人はにっこり微笑むお嬢様を微笑ましく見ています。
「あとは、誰にしましょう」
お嬢様、忘れてはいけない方を忘れてますわ。
「お嬢様、外交の筆頭といえば」
「リオ兄様!!」
国内ではルーン公爵家が強いですが、国外ではマール公爵家が一番です。
またアリア様はマール公爵家出身。
ある意味ルーン公爵家よりも力がありますわ。
「リオ兄様、サインをくださいませ」
「は?」
突然部屋に入っていったお嬢様にリオ様が驚いてます。
お嬢様、落ち着いてください。
品位を忘れないでください。
夢中になるお嬢様は無邪気で可愛いらしいですが、ルーン公爵令嬢としては許されません。
「シエル、いいから」
私の視線に気付いたリオ様に止められました。
リオ様はお嬢様に甘いですからね。
「リオ、お願いです。」
リオ様はおねだりするお嬢様が可愛くて仕方がないみたいです。
「シア、何にサインすればいい?」
お嬢様が渡した紙を見て、驚いてますね。
「家格が同等か上位の殿方のサインをもらってきなさいって」
「殿下?」
「エイベルの所に行ったら偶然。」
「大丈夫だったのか?」
「はい。お茶に誘われて、お断りしようとしたらエイベルに怒られまして。お茶を一杯ご一緒させていただいただけですわ。」
リオ様が立ち上がってお嬢様を抱きしめてますね。
焼き餅ですね。昔からうちのお嬢様に夢中ですもの。
「リオ?」
お嬢様もリオ様の背に手を回しました。
「お仕事お疲れ様です。お茶をいれますか?」
お嬢様、リオ様は疲れてるわけではありませんよ。
「シア、俺のこと好き?」
「もちろん大好きですわ」
「殿下は?」
「特に」
「ビアードは?」
「敵です。リオ?」
「悪い。少しこのままで」
リオ様、お顔が赤いですね。
こんな顔をお嬢様には見せられませんもの。
お嬢様の前では格好をつけたいお年頃ですよね。
リオ様の努力の成果、お嬢様はリオ様を一番信頼しておりますもの。
しばらくして、リオ様はお嬢様を開放されました。
お嬢様の淹れたお茶を涼し気な顔をして飲まれてます。
「リオ、あと一つサインが必要なんだけど、」
「ここまで集めればあとはクラムにでも頼めばいいよ。敵対派閥は危険だよ」
「先生は、」
「これは下位貴族向けの課題だろ?たぶんこの4人だけでも先生は驚くよ。」
「驚く?」
「王家の二人のサインをもらえるのはシアとセリアくらいだろ?俺もシア以外にサインする気はない。エドワードがサインをすれば恐ろしい契約書みたいだな」
「フラン王国を背負う皆様のサインになりますね」
「だからあとはクラムに頼めば大丈夫だ。クラムの家も力があるから。」
「ありがとうございます。いってきますわ」
「シア、クラムには明日にして。もう遅いから。」
「気づきませんでした」
「目が離せないよな。」
「リオ?」
「もう帰ろうか。送るよ」
お嬢様がリオ様の手を取りたちあがりました。
後日、カーチス様にサインをもらい課題を提出されました。
両王子殿下のサインをもらったのはお嬢様だけだったみたいです。
先生からお褒めの言葉はありませんでした。
ここでお嬢様を褒めたら、また嫌がらせがはじまるかもしれません。
お嬢様の嫌がらせを警戒しているリオ様が手を回したのかもしれませんね。
リオ様はお嬢様を大事にされてますから。
お嬢様課題お疲れ様でした。
お嬢様の課題を見たセリア様とスワン様は物言いたげにお嬢様を見つめてました。
この課題すごいですよね。
これだけの権力があれば、傾国できそうです。
ケイトが昔、うちのお嬢様は悪女になる才能があると笑っていたことが思い浮かびました。
気にしてはいけません。
うちのお嬢様は悪女なんて、できませんわ。
お優しい方ですから。
お嬢様は課題が達成できれば満足する方ですから先生の反応は気にしてませんでした。
私は今日も可愛いらしいお嬢様のお側でお仕えするだけです。




