レティシア2年生 とある休養日
リオ視点
昨日は叔父上に呼び出された。
エドワードがターナー伯爵家へ修行に行っているからレティシアの神殿訪問をどうするかと。
俺が一緒に行くと伝えて、城下町に出かける許可も頂いた。
ルーン公爵邸を後にして家に寄る。
俺の帰宅を知った母上が迎えてくれた。
「リオ、おかえりなさい。どうしたの?」
「ただいまかえりました。母上、当分は神殿への寄付金は俺が納めに行きますよ」
「エドワードがしばらく留守にしますものね。わかりましたわ。帰りに用意させるわ。カナトが帰ってるから会ってきますか?」
「いえ、特に話すこともありませんので」
「わかったわ。食事を用意させるから待ってなさい」
すぐに帰りたかったけど仕方ないか。
母上の言葉に甘えて食事をしているとドアが開いた。
兄上か。面倒だな…。
「おかえり、珍しいな」
「兄上こそおかえりなさい。義姉上はご一緒ですか?」
「久々の帰国だからエレンは実家に行っている。」
「ご一緒しなくてもいいんですか?」
「帰りに迎えにいくよ。お前はどうしたの?」
事情を説明すると兄上は笑われた。
「相変わらずだな。エレンには言うなよ。レティシアとエレンは絶対に近づけるなよ」
「義姉上、シアのこと気に入ってますよね?」
「あれはレティシアの教育によくない。可愛いレティのままでいてほしいなら近づけるな」
義姉上がそんなに、問題ある方には思えないけど兄上には逆らってはいけないので頷く。
「お前は要領がいいよな。明日レティシアと出かけるのか?」
「はい。シアの予定が合えばですが」
兄上が部屋から出て行きすぐに戻ってきた。
チケットを2枚渡される。初めてみる団名のサーカスのチケットか。
「レティシア好きだろ。二人で行ってこいよ」
「義姉上と行くためのものでは?」
「あいつはサーカスに興味がないよ。ただレティがサーカスを好きって教えたら赴任先で是非フラン王国にも来てくれと誘っていたよ。」
「レティシアに手紙でも書かせましょうか?」
「文通がはじまるかもしれないからやめろ」
「ありがたくいただきます。義姉上には兄上からお礼を伝えてください」
「ああ。レティにはチケットはお前が手に入れたことにしていいから。」
「わかりました。ありがとうございます」
サーカス連れていったら喜ぶだろうな。チケット見せたら瞳が輝くだろうな。
兄上の好意に甘えよう。
食事も終わったので母上から寄付金を受け取り学園に戻った。
シアのことだから図書室にいると思ったけどいない。
嫌な予感がして外出届けを調べると、見つけた。
外出届けは生徒会で処理している。処理したのはビアードか・・。
ビアードと外出?
外出届けの時間をみると、そろそろ帰ってくるか。ビアードがいれば安全だろうけど、門で待つか。
しばらくするとビアードと楽しそうに話しているシアが帰ってきた。
俺を見ると二人は固まった。
シアに怪我はなさそうだな。外出届けを俺に出さなかったんだから、外出のことは隠したかったのか。
シアは頑固だから、後でビアードに聞けばいいか。
サーカスの話をしたら目が輝いた。ビアードに見向きもせずに俺に縋りついてるシアに機嫌がよくなる。
シアの上目遣いは可愛い。これは他のやつにやるのやめてほしい。
シアの上目遣いに効果があるとわかれば他のやつにつかう頻度が増えるから教えないけど。
二人を見るとやましいことは無さそうだし、この辺で許してやるか。
今はシアとの時間を優先しよう。
シアのいれたお茶で部屋でゆっくりしよう。
シアとの時間を楽しんだ後にビアードに話をききにいくと驚いた。
確かに獲物をさばく平民のイベントなんて許可しなかった。
シアを一人で行かせなかったビアードには感謝するけど、しっかり釘をさす。
シアは俺が細かく言うと拗ねるからビアードに理解してもらえれば問題ない。
翌日シアと馬車に乗り出かけた。
「なぁ、シア、そろそろ神殿訪問叔母上に任せないのか?」
「これは私の御役目です」
「学園入学前の令嬢の務めだろ?神殿での作法も身についてるのに毎回お前が行く必要あるの?」
「私、ターナー伯爵家に2年行っていたでしょ?その時にお役目をしませんでしたから。それに魔力がないから信仰心が足りないって思われてるんです。だから外面は誰よりも信心深い令嬢でなければいけないんです。」
シアが目を伏せた。
「あとは?」
「リオには敵いませんね。神殿って神官の目しかないでしょ?だから色々言われるんです。そんなところにエディやお母様を行かせられません。本当は神殿には一人で行きたいんです。ただエディが姉様と一緒にいれるって嬉しそうに言うから駄目って言えなくて」
バカだよな。エドワードも叔母上も気にしないのに。
シアが心を痛めてるって知ったら率先して引き受けるよ。エドワードが一緒でも色々言われるのは予想外だけど。
「今日は先に神殿に行くけどな」
「え?」
「ほら。ルーン公爵家の寄付金預かってきた」
「リオは馬車にいる?」
「俺もマールの寄付金納めるから」
「別行動」
「昔みたいに隣にいるよ。俺は何を言われても言い返す自信もあるし傷つかないから」
「リオ兄様の強靭な心が羨ましい」
シアの頭を撫でる。
「だから嫌なことは俺に任せればいい」
「できません」
意地っ張り。俺は勝手に守るからいいけど。
馬車が止まったので神殿に行く。
寄付金を納めているとシアに見惚れている神官が何人かいる。
今日は神官の数多くないか?
「シア、今日、神官の数多くないか?」
「いつもと変わりませんわ」
後で調べたらルーン公爵家の訪問日は神官の数が増えるらしい。
麗しのルーン公爵姉弟の訪問は神官たちの目の保養らしい。
早めに婚約者にできて良かったよな。シアの容姿だけで寄ってくる害虫が後を絶たないから。
礼拝室にむかう途中で声をかけられる。
「ルーン様、マール様ごきげんよう」
「お久しぶりです。お会いできて光栄ですわ」
「お二人が揃っていることですし、せっかくですのでお聞きしてもよろしくて?」
「ええ。私でお答えできるかわかりませんが」
「無礼講ですわ。ルーン様なら嫡男や王族との縁談も望めますしマール様も嫡男のいない家との縁談なら当主になれますわ。お二人とも正直に望んでくださるなら家が口添えしますわ」
「お心遣いありがとうございます。私はお父様の選んだ縁談に異存はありません。」
「私は自分でこの縁談を望みましたので。私は両家の繁栄のために務めを果たせれば本望です」
「ルーン様はいいんですの?婚姻して家格が下がるんですのよ?」
「私はリオ様をお慕いしておりますので、お傍においていただければ・・・」
シアが微笑みながら俺の手を両手で握ってくる。
レティシア?
「あら。無粋なことでしたね。お二人の邪魔をしてごめんなさい。失礼しますわ」
顔を赤らめた公爵夫人が颯爽と去っていった。シアの手が俺から離れる。
「さて、お祈りに行きましょうか」
シア?さっきの雰囲気なんだったの?
うん。シアに期待しちゃいけないよな。どうせ社交用だよな。
シアの隣で祈りを捧げる。
この様子は目を惹くよな。いっそヴェールでも贈るか?
跪いて祈りを捧げるレティシアは絵になるよな。エドワードも綺麗だしな。
このシアの容姿を侮辱した令嬢達は鏡を見た方がいいと思う。俺はリール嬢よりシアの方が綺麗だと思うんだけどな。
しばらくするとシアが立ち上がったのでシアに続いて移動する。
その後はサーカスを見に行った。
相変わらずサーカスには目を輝かせていた。
昔、大道芸を覚えるって意気込んでたけどまだ思ってるんだろうか・・。
いつの間にかサーカスの大ファンだもんな。
観劇も気に入ってるみたいだけどサーカスが一番好きみたい。
終わったな。
「リオ、握手に行きたい」
「それはやめような」
「わかりました」
シアはいつも演者と握手をしたいみたいだけどさすがに危ない。
演者が安全とは限らないから。
シアもわかってるからすぐに引き下がる。
食事をしようと思ったけどシアが眠そうなので学園に戻ろう。
連日の外出で疲れているから。
学園で食事を取ったら俺の部屋で寝かせるか。
きっと本を読んでやったらすぐに寝るだろうし。
一人だとセリアのとこに遊びに行くから。きっと昨日と今日の出来事を興奮して語りたいだろうしな。
シアは体力がない。だから定期的に休ませないと倒れる。
馬車の中で眠るシアの肩を抱きながら考える。
起こして食事をさせるかそのまま寝かせておくか。
部屋に運んで起こそう。食事をさせてまた寝かせるのが一番か。
従者は俺がシアを人に任せたくないことを知ってるから声をかけてこない。
シアを抱きかかえて移動する。鍵は従者に開けさせて食事の用意を命じる。
昔から傍にいる従者の生暖かい視線なんて気にしない。
寡黙なくせに視線でものを言う従者を気にしても仕方ないから。




