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追憶令嬢の徒然日記 小話  作者: 夕鈴


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レティシア6歳 初めての料理

第七話あたりのお話です。

料理人ケイト視点


うちのお嬢様は面白い。


「ケイト、シエルの許可が出たので約束ですよ」


ずっと料理を覚えたかったお嬢様にとうとう料理長とシエルから料理を習う許可が出たらしい。

最初は料理長が教えると張り切っていたがお嬢様は俺をご指名ということだ。

なぜかお嬢様は俺に懐いている。

ただ刃物も火も使わせてはいけないって俺にどうしろと。

仕方がないからお菓子でも作らせるか。クッキーなら楽しめるかな。

晩餐の下準備は先輩たちが手伝ってくれた。

俺の負担にならないようにお嬢様が料理長にお願いしてくれたみたいだ。

料理長はお嬢様に弱いよな。


材料をそろえているとお嬢様が来た。

随分予定の時間より早いんだけど?


「お嬢様、まだ準備できてないんですけど」

「準備も自分でやりたいです」


マジか。シエルが苦笑しているな。

準備からだと時間がかかるな。マドレーヌにするか。混ぜて焼くだけ。


「ケイト、なにをすればいいですか?」


調理台は高いのでお嬢様には椅子の上に立ってもらう。


「このボウルに小麦粉いれて」

「どれくらい?」

「適当」


お嬢様が小麦粉の袋を持ち上げようとしている。


「待て、無理だ。このコップに3杯いっぱいにして移して」


お嬢様はカップに小麦粉を入れてボウルに移すときにほとんどこぼした。


「なぁ、シエル、お嬢様って?」

「だから止めたんです。お嬢様を悲しませることは許しませんよ」


お嬢様はめちゃめちゃ不器用だった。

嘘だろ?

お嬢様は成績優秀ってきいてたけど身内贔屓?。


卵を割れるようになるのもやっぱり苦労した。

殻が入るくらいはいいよ。

黄身が潰れるくらい気にしないよ。

ただお嬢様は上手に割れるようになりたいと願うので卵の練習は後日と宥めた。

卵、多めに発注しよう。お嬢様のためといえば賄いが卵料理だけでも文句はでないだろう。


なんとか材料もそろったのであとは混ぜるだけ。

でもきっとお嬢様はひっくり返すから俺がボウルを押さえて、ゆっくり混ぜてもらう。

多少周りに溢れるのは気にしないでと、宥めた。


「お嬢様、変わろうか?疲れてたろ」

「最後まで自分でやりたいです」

「休憩します?」

「これ以上時間がかかると皆さんの邪魔になるのでこのまま頑張ります」


このお嬢様は周りの晩餐の用意をはじめる先輩達を気にしてるのか。

貴族が平民を気にすることは珍しい。

お嬢様がこの中で一番えらいのに。他の料理人を気にして自分が遠慮するとか、変わり者だよな。

仕方ないからこの不器用で風変わりなお嬢様に付き合ってやるか。

なんとか混ざって、型にうつしてオーブンに入れた。

1時間もかからないと思っていたのにまさか半日かかるとは予想外だった。


「後は焼くのを待つだけです。お疲れ様でした」

「ケイト、まだ終わりじゃないです」

「は?」

「片付けと掃除します。見てたから任せてください」

「それは俺がやりますよ」

「嫌です。最後まで自分でやります」

「わかりました。全部は無理ですので、これで机を拭いてください」


濡れた布巾を渡す。お嬢様がうっかり椅子から落ちそうになったので慌てて支える。

シエルに目配せする。

悪い、そろそろ俺も仕事に戻らないと。


「お嬢様、そろそろ奥様が戻られますよ。お部屋に戻って着替えましょう」

「でも片付けまでが料理でしょ」


俺達の会話もよく聞いてたんだな。

先輩達が近くに寄ってきた。


「お嬢様、ここは私達にお任せください」

「こんなに散らかしたのに」

「はじめてですから。すこしずつでいいんですよ。焼けたらお持ちするので」


いつも厳しい先輩たちが優しい顔で説得してる。

確かにそろそろ本格的に邪魔だしな。

お嬢様と一緒に掃除したら何時間かかるか・・。


「わかりました。よろしくお願いします。シエル、焼けたら6個だけ個別に包んでもらえますか?残りは使用人の皆さまに」

「かしこまりました。お嬢様。」

「ケイト、ありがとうございます。また教えてくださいますか?」

「シエルと一緒ならいいですよ」


できれば遠慮したいけどこの雰囲気で断れない。


「ありがとうございます。約束ですよ。皆様お邪魔してすみませんでした」


俺の言葉にお嬢様が嬉しそうに笑って、礼をして去っていった。さて片付けないといけないな。

きっと焼けたらお嬢様のマドレーヌ争奪戦が起きるかな。

うちのお嬢様は手がかかる。

素直で思考がぶっ飛んでるから一緒にいる分には楽しいけど。


片付けも終わり、マドレーヌも焼けたので、お嬢様用に個包装にした。

丁度シエルが取りに来たので廊下に出て渡す。

シエルに一つ返された。


「お嬢様より一つはケイトに渡してほしいそうです。あとはダンとベンに」

「悪い、持って帰ると取られそうだから、あとで取りに行くから俺の分もダンに預けてくれる?」

「わかりましたわ。きっと残りは争奪戦ですね。料理長と執事長の分だけ死守してくださいね」

「これ、執事長に渡してくれ」


執事長はこの屋敷の全部を把握している。

お嬢様の料理のことも知っているだろう。

睨まれないように執事長の分はこっそり隠していた。

あの人、怒らせたら怖いから。

それに執事長もお嬢様を可愛がっているから。


「さすがですね」

「あとの三つって」

「私とお嬢様とリオ様の分ですわ。リオ様を驚かせるんですって」

「これ、リオ様の口に入るの?」

「ええ」

「ちゃんと作り直そうか?」

「いえ、このままで充分ですわ。たとえ砂糖と塩を間違えてもリオ様ならお嬢様のために喜んで召し上がると思いますわ。」

「ならいいけどさ」


仕事が終わってダンを訪ねて二人でマドレーヌを食べた。

もちろんお嬢様のマドレーヌ争奪戦に下っ端の俺たちは混ざる気はなかったけど、お嬢様の好意は嬉しい。

少し硬くて平凡な味。

きっとお嬢様はシエルと一緒に食べたんだろうな。

ダンはお嬢様にしてはまともだと笑っていた。

これリオ様に渡して大丈夫なの?

まぁうちの可愛いお嬢様に笑顔で渡されたら断れないよな。

お嬢様の話を聞くとリオ様もお嬢様には弱そうだしな。

今度はお嬢様にどんな仕草と表情覚えさせようかな。

素材がいいから教えるのが楽しい。

希代の悪女になったら笑えるけど性格的に難しそうだな。

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