レティシア2年生 社交会1
見守る会のあるご令嬢視点
廊下から歓声がきこえます。令嬢達の人気の殿方がきましたね。
このクラスはルーン様に会いに見目麗しい殿方がよくきますの。
今日はマール様ですわ。いつ拝見しても目の保養になりますわね。
もちろんルーン様にご用ですね。
令嬢達の熱い視線など見向きもせずにルーン様に一直線に向かわれます。見ていて気持ちが良いです。
「シア、来週の休養日付き合ってくれない?」
ルーン様がマール様から招待状を渡されてますね。
「夜会?」
「ああ。うちが主催」
「この招待状はうちにもきていますよ。エディと二人で参加する予定ですが」
「シアには俺の婚約者として、主催側で出席してほしい。兄上達が帰国される予定だったんだが、間に合わないみたいで」
「久々にお会いできると楽しみでしたのに残念ですわ。わかりましたわ。ドレスの色は何色にすればいいですか?」
主催の夫妻はコーディネイトを合わせます。きっと今回はルーン様達もお揃いのコーディネイトですね!?是非拝見したいですわ。
「ドレスはうちが用意するよ。前日泊まってうちで支度すればいい」
「ドレスはたくさんあるので心配いりませんわ。」
「贈らせて」
「いただく理由がありません。」
「俺がシアを自分好みに着飾りたい。俺の顔を立てて素直に受け取って」
「レティ、素直に受け取りなさいよ。婚約者にドレスを贈らないなんてとんだ甲斐性なしよ。リオ様のことをたててあげなさい」
ルーン様が苦笑されましたね。
シオン様とマール様が組むのは珍しい。
ルーン様はシオン様に弱いのでいつも負けてしまいます。
私としては、マール様に頑張っていただきたいですが…。
でもルーン様に見惚れるマール様も目の保養になるので、問題ありません。
「わかりました。ただ今から採寸しても間に合いません」
「すでにルーン公爵家御用達の針子に頼んである。」
「リオ、それ私が参加しなかったらどうする気でしたの!?」
「そしたら次回で。」
「リオも伯父様もどうしてドレスを贈りますの!?。うちにもたくさんありますのよ。そんなに貴重なお金を使わないでほしいです」
「父上もシアに貢ぐの楽しいみたいで。俺も父上の息子だから仕方ない。シアを自分好みに飾るの楽しいし。お金は有り余ってるから心配しないで。」
さすがマール公爵家。
マール公爵家がルーン様を溺愛している噂は本当のようですね。
「もっと大事なことに使ってくださいませ」
「俺達の楽しみに使ってるからいいの。シアは笑顔で受け取ってくれれば十分。」
「レティ、諦めなさい。公爵家なんてお金は有り余ってるんだから貢がせればいいのよ」
「セリア、だってこんなにもらっても返せない。マールのお屋敷には私のものがどんどん増えていきますのよ。」
「マール公爵家に嫁ぐんだからいいじゃない」
「まだ婚約ですもの。なにがあるかわかりません。」
「ルーン公爵家が没落しても、マール公爵家はレティを迎えいれてくれるわよ。マール公爵家が没落したら話は別だけどね」
「うちは没落しません。」
「セリアも来るか?今回は異国のゲストが多いけど」
「招待状だけください。気が向いたら出席しますわ」
シオン様がマール様から招待状を受け取りましたね。
シオン様が社交に出席されるのは稀です。
私は王家主催の社交でしかお見かけしたことがありません。
「ニコル、ほら」
「リオ様?」
「スワン伯爵家のパイプ作りになるだろ?」
「ありがとうございます。」
マール公爵邸の夜会は是非参加したいですわ。
ルーン様が婚約者として参加されるなんて見守る会の人間としては是非拝見したいですわ。
お父様から招待状を頂いた時は感動してしまいました。
とうとうマール公爵邸の夜会ですね。
私はお兄様と一緒に参加します。
マール公爵家の皆様にご挨拶をしませんと。
まだ私達の番まで遠いですね。
マール様とルーン様ですわ。
二人共水色のお揃いのコーディネートですわね。
お二人が並ぶと目の保養ですわ。
お二人で挨拶に周られますね。外国語も堪能で凄いですわ。
外交官の家に嫁ぐなら外国語は必須ですものね。
マール様達に見惚れていたら、挨拶の番がきましたわ。
お兄様の挨拶に合わせて礼をとります。
あら?エドワード様もいらっしゃいますわね。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「エドワード、こちらこそきてくれてありがとう」
「姉様のエスコートは僕が引き受けますよ」
「エドワード、レティシアは俺の婚約者として、ここにいるから今日は譲らないよ」
「エドワード、心配してくれてありがとう。私のことは気にせずお務め頑張ってきてね。貴方への令嬢達の視線が痛いもの。優秀な弟を持って幸せだけど複雑ですわ」
「わかりました。姉様、帰りは僕にエスコートさせてくださいね」
「ええ。楽しみにしてますわ。行ってらっしゃい」
エドワード様がマール様と見つめ合い去っていきましたわ。
エドワード様の身長がもう少し高ければルーン様とのダンスは見目麗しく、見惚れてしまいますわ。
「よければ一曲」
ルーン様がダンスに誘われましたね。
婚約者と一緒の時はダンスに誘わないマナーですが異国は違いますのね。
「申し訳ありません。彼女は私の専属のパートナーでして」
「リオ、私は構いませんわ」
「黙ってて。ダンスより貴国のお話を伺えればと」
マール様がご一緒の時はルーン様がダンスを踊らないという噂は本当ですのね。
鮮やかにルーン様への接触を禁じてますわね。
ルーン様を誘った殿方が去っていかれました。
「リオ、私全然お役目を果たせていませんわ」
「シアは俺の隣で微笑んでいればいい。お前が隣にいれば、ダンスに誘われずに社交に専念できる。俺が対応するから合わせて。」
「わかりましたわ。」
「俺の話せない言葉の時だけ通訳して。」
「わかりました。」
「俺がダンスに誘われたら離れたくないフリしてくれる?」
「それ、大丈夫ですの?」
「ああ。」
これはマール様の独占欲ですよね!!
マール様はルーン様が他の殿方と関わるのが、嫌で離れないんですよ。
これは次の会でお話しないといけません。
幸せは皆で分かちあわないと。
お父様、招待状を手に入れてくださって感謝しますわ。
外国のご令嬢とそのお父様がお二人に近づいていきますね。
やはりマール様達にご挨拶されてますわ。
『本日はお招きいただきありがとう』
『こちらこそご足労いただき光栄です。紹介させてください。婚約者のレティシア・ルーンです。』
『お初にお目にかかります。ルーン公爵家長女のレティシア・ルーンと申します』
『美しいご令嬢だね。流暢な言葉だ。さすがマール公爵家の婚約者だ』
『ええ。私には勿体無いほど自慢の婚約者です。』
『娘は君に惹かれているようだが、一曲どうだい?』
ルーン様がマール様の腕の袖を握りましたね。
マール様が優しく微笑まれてますわ。
『申し訳ありません。私は彼女の側を離れたくないのでご遠慮させてください。』
『娘に勝機はなさそうだ。相当惚れこんでるようだね』
『お恥ずかしながら。』
『ルーン嬢、よければ私と一曲どうかな?』
『申し訳ありません。お誘いは光栄なのですが、リオ様のお側を離れ難く。リオ様はご令嬢達に人気がありますので』
ルーン様が悲しそうに目を閉じられました。
マール様と離れたくないとおっしゃってるのかしら!?
ルーン様がマール様に甘えるのは珍しいです。
『レティシア、俺にはお前だけだから安心して』
『意地悪を言ってすまない。無粋な真似はしないよ。是非二人のご成婚にはお祝いを送らせてくれ』
ご令嬢がお父様の背中から出てきましたね。
『貴方、マール様を愛してますの!?』
大きい声をだされて興奮されてるようですわ。
会場の視線が集まりますね。
ご令嬢のお父様が眉をしかめてます。
『黙ってなさい』
ルーン様が優しく微笑まれましたわ。
この雰囲気に動揺しないルーン様は凄いですわ!!
私なんて、言葉がわからないけど緊張してきました。
『リオ様には誰よりも幸せになって頂きたいと思っております。』
『貴方なら幸せにできると思ってますの!?』
『私は自分にできることを精一杯務めさせていただきたいと存じます。』
激しいご令嬢と穏やかなルーン様の攻防戦ですわね。
マール様がルーン様の腰を抱きましたわ。
『私は彼女といられれば幸せです。ご心配ありがとうございます』
『マール様、私は貴方を』
『申し訳ありません。私はレティシア以外を愛することも側におくこともできません』
『娘がすまないね。失礼するよ』
お父様がご令嬢を強引に連れて退席されましたね。
言葉の意味はわかりませんが、ルーン様が弱々しく微笑まれるのをマール様が抱き寄せて何か囁いてますわね。
ルーン様の表情が穏やかになりましたわ。さすがマール様ですわ。
マール様はルーン様の前だといつも優しく微笑まれますわ。
ルーン様はマール様の笑みを見慣れているのか、全く見惚れる様子がないのが残念ですわ。
私はお二人を見守るためには外国語を覚えなくてはいけませんね。
お兄様の痛い視線は気にしません。
私は今回縁談のためではなく、マール様とルーン様を見守るために来たんですもの。
お兄様は勝手に良縁探しに行ってくださいませ。
お父様に私のお目付け役を頼まれてる?
私はお二人の様子を拝見してるだけなので放っておいて構いませんよ。
その拝見してる様子が怖い!?失礼ですわね。
私はお兄様に強引に連れられて会場を後にしましたわ。
もう少し拝見したかったのに!!
なんと神様は私を見捨ててませんでしたわ。
外から見えるバルコニーでマール様とルーン様が抱き合っています。近くで拝見したかったんですがお兄様に許されませんでしたわ。
今日は報告することがたくさんありますわ。
次の見守る会の日が楽しみです。
今日はきっと興奮して眠れません。
まさかお兄様から話を聞いたお母様に誰とも踊らなかったことをお説教されるとはこの時は想像してませんでした。
お母様、台無しですよ。
おまけ 令嬢帰宅後のリオ視点
面倒なゲストを追い払った俺はレティシアを連れてバルコニーに行く。
戸惑った顔してるな。
「リオ、離れていいんですの?」
「休憩」
二人っきりだから、令嬢の仮面を外したシアが笑ってる。
「珍しいですね。」
シアの腕をひいて抱きしめる。
「リオ?」
「このままで」
シアは戸惑いながらも俺の背中に腕を回した。
この位置なら会場から抱き合ってることが見えるはず。
俺の隣にいるのにシアへ集まる視線が気に食わない。
今回、シアに主催側を頼んだのは俺の我儘。
ルーン公爵令嬢として出席したら笑顔を振りまいて、ルーン公爵家の社交をこなし、俺以外とも踊るだろうしな。
慣れない令嬢達のフォローにまわるだろうし、きっと俺の隣にはほとんどいないんだろうな。
俺の婚約者としての参加なら、シアは俺の願いを聞いてくれる。
俺の我儘とは気づかずに、婚約者として求められた役割をしてくれる。
俺にはシアとの仲を見せつけて、気に食わない奴らを牽制するくらいしかできないけど。
社交に参加しないわけにもいかないしな。三男の俺はともかく、長女のレティシアはルーン公爵家にとって社交をこなす大事な戦力だから。
シアの体が冷えてきたから会場に戻るか。
シアには言えないけど俺達を見守る会が俺達の仲を広めてくれるのは俺にはありがたい。
会場に戻ってシアとの仲を見せつけることに専念するか。
もちろん社交もこなすけど、最優先は害虫駆除だ。
俺の胸に体を預けて安心しているシアは可愛いけど複雑だ。
もう少し意識してくれないかな。
シアを連れて会場にもどる。
俺たちに視線が集まっているからダンスに誘ってシアの手に軽く口づける。
シアは柔らかく笑って誘いを受けてくれたけど、全く照れないシアの反応に戸惑う。慣れてる?シアはそんなに舞踏会には出てないはずだよな。きっと気のせいだ。
ダンスが終わると、上の空の俺に気づいたシアに誘導されて、会場の隅に移動する。
シアが俺の腕から手を離したので目で追うとチョコケーキを持って戻ってきた。
シアがケーキを一口サイズに切ってフォークを俺の前に差し出す。
レティシア、自分のやってることわかってる?
シアが笑顔を貼り付けているので仕方がないから食べる。
さすがの俺もここで食べさせられるのは恥ずかしいんだけど。
結局、ケーキを一つ食べさせられた。
シアは不満げにまた追加しに行こうとするので腕を掴んで抱き寄せる。
「レティシア、もう十分」
「チョコケーキでも元気が出ないなら」
「元気だから。もう少しだけ俺のお務め付き合って」
「わかりましたわ」
シアが心配そうな顔から社交用の笑顔に切り替えた。
もう俺達の役目は終わってるんだけどな。
しばらくするとエドワードが迎えに来たので、シアと一緒に父上とゲストに退室の挨拶をしてシアを馬車まで送る。
シアは最後までいようとしたけど、もうすぐ大人の時間だ。
成人前の俺達の社交の時間は終わり。
きっと後でシアにケーキを食べさせられたこと父上にからかわれるだろうな。
おかげで俺とレティシアの仲の良さは周りに知れ渡ったからいいか。外交でからかわれそうだが自慢するか。
麗しの婚約者に骨抜きにされてるのは事実だしな。




