学園のひととき
サイラス視点
「マール、あのルーン公爵令嬢と婚約したって本当か?」
「婚約してるけど」
「どうにかならない?」
「は?」
「俺の従妹、お前に惚れてるんだよ。魔力もあるし、長女だから結婚したら侯爵だ」
「興味ない。」
「外国語も話せるし、妹もいるからマール公爵家に嫁ぐこともできる。美人だし成績も優秀だ。一度会うだけでいいから」
「時間の無駄。俺の婚約者も美人だし、外国語は俺より堪能。」
「まだ確か9歳だろ?歳は近い方がいいしそれにルーン嬢って訳ありだろ?」
リオとルーン嬢、3歳差だからそんなに歳は離れてないけど。
公爵家の縁談に侯爵家が口を挟むってまずくないか?
「だから?俺は自分で望んでこの縁談をまとめてもらった。」
「一度会えば絶対に気が変わるから」
「お前の従妹に会う時間があるなら婚約者に会いに行く」
「お前、ロリコンなの?」
「俺は彼女以外に興味がない」
兄弟や親族で協力して令嬢の良縁探しをする家もある。
リオとルーン嬢の婚約をよく思わない人間は多い。リオの外見に一目惚れする令嬢も多い。
ルーン嬢はまだ社交界デビューをしていないから、魔力のない公爵令嬢より自分のほうがふさわしいという令嬢もいる。
社交デビューを早々しないのは訳ありという噂もある。
令嬢は8歳でデビューすることが多いから。
リオは公爵家とはいえ三男だから、地位的にはそんなに人気はないはずなんだけど。
令嬢達の一番の憧れは当主夫人。
三男の嫁だと嫡男夫妻より身分が下だし、当主夫人になれる可能性は低い。
伯爵家あたりの令嬢は公爵家に嫁ぐだけでも満足か。
次男の俺は兄上の下で働くことに不満はないから一緒に兄上夫婦を支えてくれる令嬢を選ぶ予定だけど。
リオはルーン嬢に惚れこんでるからどんなに頼まれても他の令嬢に会うことはないのに。
「マール様が嫌がってますよ。おやめください」
またリオに令嬢が寄ってきた。
リオは視線を向けずに帰り支度をして立ち去っていった。
「マール様・・」
令嬢は切なそうに見つめるけどリオは気にしない。
なんでこんなにつれないのにもてるんだろうな。
令嬢にモテるリオに嫉妬の目を向けていた連中もリオのそっけなさに拍子抜けしている。
今では、誰がリオの心を動かすか賭けをしている。
俺はルーン嬢に賭けている。この賭けは俺のひとり勝ちかな。。
今のところ俺の周りでルーン嬢に賭けてるのは俺一人だけだ。
友人の視線が俺に向けられる。
「サイラス!!」
「無理。俺にリオは説得できない。ルーン嬢はマール公爵家に気に入られてるから無謀だよ」
「ルーン嬢って訳ありだろ?」
「それは噂だろ?お前会った事ないだろ?」
「それは」
「社交デビューが遅いだけで訳ありかはわからないだろう。彼女のことを悪く言うとリオが怒るよ」
「リオ、ルーン嬢の事はほとんど話さないだろ。自慢できない婚約者ってことだろ?俺の従妹も一目会えば」
リオは自分でこの縁談をまとめてもらったっていったのが答えなのにな。
それにルーン嬢の話題をしてお前らに彼女への興味を向けて欲しくないんだよ。
もしリオにルーン嬢の自慢させたら時間がいくらあっても足りない。
ルーン嬢の可愛さをずっと語れると思う。確かに俺はルーン嬢が可愛いことは知ってるけど途中で眠る自信があるよ。
リオの惚気だけでも眠くなるのに。
「リオはルーン嬢に惚れこんでるから無駄。」
「あのマールが!?」
「リオはルーン嬢だけには優しいよ。そんなに従妹が好きなら自分で結婚すれば?」
「恐れ多い」
「じゃあ、俺帰るから」
「待って、サイラス、頼むよ」
友人の声は聞かずに訓練場に向かう。
リオが訓練している。今日は生徒会じゃないのか。
荒れてるな。ロベルト先生と戦ってリオが負けたな。
「お疲れ」
「来てたのか」
「集中できないみたいだな」
「シアが恋しい」
「会いにいけば?」
「今はターナー伯爵家にいるんだよ。週に1回は顔見てたのに。なんで違う学年に生まれたんだろう」
「年上だからこそ頼られる面もあるでしょ?」
「あと1年も帰って来ないなんて。シアに悪い虫がついたらどうしよう」
「悪い虫がついたら?」
「潰す」
笑って即答すること友人が怖い。
「もう婚約したんだから一安心じゃないの?」
「シアは可愛いから心配が絶えない。夏休みもシアに会いにいく時間がない。」
「手紙を書けば?」
「どうせならシアからの手紙を待ちたい」
リオが意地になってルーン嬢から手紙を待っていたみたいだけど全く来ないみたいだ。
ルーン嬢が修行期間中に全くルーン公爵家に帰ってないのは意外だったけど、令嬢教育は終わってるからってリオが忌々しそうにつぶやいてた。
9歳で教育をおえてるなんてやっぱり優秀なんだろうな。
しかも公爵家の教育はうちとはくらべものにはならない。
リオも怖いくらいに優秀だしな。
荒れていたリオが突然変わった。
リオはルーン嬢のいない時間を埋めるために学園の掌握に乗り出した。
相変わらずルーン嬢から手紙がこないことに落ち込んでいるのを知っているのは俺だけだけど。
最近は最終学年までの予習まではじめたみたいだ。義姉上にアドバイスをもらったおかげで光が見えたと言っていたけど大丈夫なのだろうか・・。
リオは令嬢達に声をかけられても視線を向けない。
机の上の贈り物は落し物に届ける。リオの宛名があるものはゴミ箱に。本当に容赦ない。
「マール様、お話が」
「話すことはありませんので、ご勘弁ください」
「受け取るだけで構いませんの」
「ゴミを渡されても困ります。見苦しいので立ち去っていただけますか?」
令嬢が泣きそうになっている。
リオが冷笑を浮かべた。令嬢の顔が明るくなったけど、それ反応したらいけないやつだから。
リオの冷笑に嫌な予感がする。いつもは無視するのに今回は相手するんだ。
「昔、俺の婚約者に手紙を書いたことがありますよね?」
「え?」
「俺は俺の婚約者を傷つけた人間を視界にいれたくないんです。俺の優しい婚約者が望まないので見逃してるだけです。6歳の彼女に貴方方が言った言葉をそのままお返ししますよ」
「そんな・・」
「でも俺はこれ以上の無礼は許せません。俺の婚約者に手を出すならお相手しますよ。」
震える令嬢を残してリオが去っていった。
リオは授業がおわれば絡まれるのが嫌ですぐにリオの特別室か訓練室に行く。
昼もどこで食べてるか知らない。
リオが悪者なのに気付いたら令嬢が悪者になっている。リオは令嬢に冷たいのに一心にルーン嬢を想う姿に惹かれる令嬢も多いらしい。婚約者がいるんだから諦めようよ。
リオの婚約者になったら自分が特別になれると思っているんだろうか・・。
令嬢達も打たれ強いよな。
1年たって社交界デビューのためにルーン嬢が帰ってきた。
公爵家の社交界デビューは注目を集める。色んな噂をもつルーン公爵令嬢は尚更。
彼女に興味を持ち、学園からわざわざ帰省してパーティに参加する生徒も多かった。
ルーン公爵家主催のルーン嬢の披露会には招待されないと行けないけど、王家の社交界デビューのパーティは招待状は不要だから。
一年に一度の令嬢達の社交デビューのパーティは出会いの場でもある。
会場にルーン公爵夫妻と共に現れたルーン嬢に目を奪われるやつが多かった。
リオに自分の親族をすすめた奴らはルーン嬢を見て固まった。
ルーン嬢、美人だからね。社交デビューだから気合を入れて支度されてるから尚更。
この年に社交デビューした令嬢は気の毒かもしれない。ルーン嬢と一緒だと見劣りしてしまうから。
リオにロリコンと騒いでたのに彼女を見て頬を染める姿にリオが冷笑を浮かべていた。
リオはロリコンから麗しの婚約者をもつ、うらめしい立場になったらしい。
お近づきになりたい奴らもいたけどリオがエスコートしてたから近づけなかったみたい。
それでも殿下がルーン嬢と踊ったのは流石としか言えない。
殿下と踊るルーン嬢に令嬢達の視線は厳しかったけど。
婚約者をもつルーン嬢が殿下と踊れるのは社交界デビューのパーティだけだから殿下も狙っていたのかな。
婚約者以外と踊るなら既婚者か親族に限定されるから。
婚約破棄は立派な醜聞。だから婚約が決まれば必要以上に婚約者以外の異性と触れ合うことは良くないこととされている。
「負けた。ルーン嬢に謝罪させてくれ」
「彼女にお前の話はしてないから会う必要はない」
「俺の気持ちの問題」
「知らない。」
ルーン嬢にお近づきになりたいやつらがリオに詰め寄っている。
リオは絶対に会わせないだろうな。
ルーン嬢が帰ってきてからは彼女に会うためにリオは外出ばかりしている。
翌年、ルーン嬢の入学式でリオの態度に周りは阿鼻叫喚。
一部の令嬢はリオを諦めたみたいだけど、逆にファンになった令嬢もいるみたい。
俺の友人たちは恐ろしいものを見るような目で見ていたけど、慣れたみたい。
相変わらずリオはルーン嬢を中心に生きてるみたい。




