レティシア1年生 神殿訪問
エドワード視点
今日は姉様と一緒に神殿に寄付金を納めにいく日です。
姉様がターナー伯爵家の修行から帰ってきてからはいつも二人で行っています。
リオに神殿は危険なので姉様を一人で行かせるなと言われています。
もし僕が一緒に行けない時はリオやセリア様が一緒に行くので報告しろと言われてます。悔しいですがリオの言うことは正しいので従います。
リオは姉様のためにならないことはしないので。
馬車がステイ学園に着いたので降りて待っていると僕の敬愛する姉様とリオがやってきた。
「姉様!!」
「エディ、馬車の中で待ってて。もし何かあったら、危ないわ」
「シアが言うな。一人で行こうとしてただろう?」
「出迎えのためにわざわざ外出許可を取るのも」
「自分で手続きはできるから手間じゃない。叔父上にお前のこと頼まれてるんだよ。」
姉様に苦言を言うリオは無視です。
「姉様、お久しぶりです。」
「エディ、また身長が伸びたわね」
「エドワード、二人で平気か?」
「護衛騎士もいますし、不要です。」
僕と姉様の時間を邪魔しないでほしい。
笑顔でリオを睨みます。
「わかったよ。気をつけて行ってこい」
「リオ、ありがとうございました。行ってきますわ。」
リオに礼をした姉様の手を取り馬車に乗ります。
「エディはエスコートが上手ですね」
「姉様をエスコートできて光栄です。」
「将来有望ね。エディ、お父様の仕事のお手伝いにお母様の教育に忙しいんでしょ?寄付金は私が行くから無理しなくていいんですよ」
姉様は心配性です。
姉様は昔からいつも心配そうに大丈夫かと聞いてきます。
僕は全然大丈夫ですが、姉様の優しさに甘えます。
父上や母上は厳しい人です。ただ僕が頑張ると姉様が綺麗に微笑んで褒めてくれます。
姉様のためならいくらでも頑張れます。
姉様は立派なルーン公爵令嬢です。
そんな姉様を相応しくないと非難する人達がいます。
ルーン公爵令嬢としてもリオの婚約者としても。
僕には姉君と違って優秀ですねと言ってくる不届き者もいます。
いつか後悔させると決めました。
父上は姉様を守りたいなら強くなれと言いました。
今の僕では駄目だと。父上はリオを認めています。
「エディ?」
姉様に心配そうに見つめられてます。
笑顔を作ります。
「大丈夫ですよ。」
姉様?
姉様が隣の席に移動して抱きしめてくれています。
「エディはいつも頑張ってますわ。自慢の弟です」
早く姉様を守れるようになりたい。
「ありがとうございます。僕は姉様と一緒に神殿に行くの楽しみなんです。」
姉様がきょとんとしてから笑いました。
「信心深いですね。」
「僕は姉様とご一緒できるのが嬉しいんです」
「光栄ですわ。将来人気者になりますわね」
姉様が僕の頭を撫でてくれます。
馬車が止まりました。
神殿に着きましたね。
ここからは姉様を守るのが役目です。
姉様を不埒な目で見るやつらも近づけません。
姉様をエスコートして馬車を降り神殿の中に入ります。
寄付金を渡して、移動します。
礼拝堂についたので、祈りを捧げます。
祈りを捧げたのであとは帰るだけ。
姉様と歩いていると、あれはマートン侯爵夫人。
姉様が僕の前に立ちました。
「ごきげんよう。マートン侯爵夫人」
「ルーン様達も来てましたのね」
「ええ。」
「そんなに祈りを捧げても信仰心がないのは隠せないわよ」
「お戯れを。魔力と信仰心は関係ありませんわ」
「伯爵令嬢が公爵夫人として嫁いだことがいけなかったのよ。貴方のせいではありませんわ」
マートン侯爵夫人は侯爵家出身。母上や伯母上が伯爵家出身なのに公爵に嫁いだことが許せないらしい。
魔力と家を重んじる貴族らしい人。
今まで自分が見下していた母上達に礼をとるのが屈辱なんでしょう。
「マートン侯爵夫人、不敬ですわ。魔力と信仰心は関係ありません。マール公爵家とルーン公爵家を侮辱していることにお気づきですか?」
「私は貴方の弟君に忠告しているのよ」
「ご配慮に気づかず申し訳ありません。私の弟は優秀ですので心配無用ですわ。」
姉上の横に立つ。
マートン侯爵夫人に優雅に微笑んでいた姉様が僕に視線を向けた。
侯爵夫人が公爵家の僕達への無礼が許されないとわからないんですかね。
「お話中に失礼します。私は未熟者故に今のお言葉の意味を父上と伯父上に教えていただきます。うちの教育不足をご心配いただきありがとうございます」
マートン侯爵夫人が顔色を変えた。
まさか、ここでのやり取りを父上に報告されるとは予想外ですか。
父上に母上と姉様の侮辱について抗議の手紙を送っていただくのでご安心ください。
リオに話せばマール公爵夫妻からも抗議がいくでしょう。
母上に謀は向いていないので、伯母上ならうまくやってくれるでしょう。
「あら?わざわざルーン公爵のお耳に入れることではありませんわ。」
「私は未熟者ゆえ父上より、わからないことはすぐに聞きにきなさいと言われてますのでご心配なく」
「マートン侯爵夫人、我が家のことを気にしてくださりありがとうございます。お心遣いいただいたことお母様にお話し致しますのでご安心ください。私達はお祈りはすみましたのでお先に失礼させていただきますね。」
姉様が礼をしたので合わせる。
マートン侯爵夫人の視線は無視して歩みを勧めていく。
入り口近くで神官達がざわめいている。
姉様が近づいていき声をかける。
「どうされました?」
「申し訳ありません。」
「貴方たちが慌てるなんて、大変なことでしょう?私達の分まで仕えてくださる皆様がお困りならお力になれれば光栄ですわ」
神官達が戸惑ってる。
馴染みの神官に声をかける。
「事情を話してくだされば、悪いようにはしませんよ」
馴染みの神官は青い顔をして話しだす。
「マートン侯爵家より頂いた寄付金が足りないんです」
家ごとに最低限の寄付金額が決まっている。
最低の額より多めに寄付をするのが慣わし。
姉様が苦笑されている。この場には下位神官ばかりで上位神官はいないらしい。
貴族とのやりとりは上位神官が行う。修行中の下位神官から貴族に声をかけることはしない。
「うっかりされたんですかね。お幾らほど」
「金貨2枚ほど」
姉様に任せると不足分を寄付として立て替えてなかったことにしそうなので僕が引き受けよう。
これは愉快なことになりそう。
「姉様、ここは僕にお任せください。」
神官に金貨2枚を渡す。
「マートン侯爵家にはうちから取り計らいます。これでことを収めてください。後日確認しますが信心深い皆様が嘘をついたり着服したりすることはありませんよね?」
マートン侯爵家の寄付金が足りずにルーン公爵家が便宜を図ったことと着服と嘘は許さないと笑顔で圧力をかける。
神官たちとは親しいからこれで通じるだろう。
「エディ?」
姉様が顔色を悪くされているので、笑顔を作る。
姉様は無邪気な弟が好みだから。
「姉様、行きましょう。」
「ええ。」
姉様の手を取って馬車に乗る。
姉様の正面ではなく隣に座る。
姉様の腰に抱きつく。
「姉様、疲れました。」
姉様がクスクスと笑い出した。
「お疲れ様。エディはしっかりしてるから、姉様といるときは社交は姉様に任せなさい。」
姉様が頭を撫でてくれています。
「ありがとうございます。僕は姉様と一緒にいるだけで元気になるので大丈夫ですよ」
「中々、貴方の側にはいられませんものね。お母様達には内緒にしますから困ったりつらかったら相談してね。」
「姉様、夏休みになったらまた本を読んでくれますか?」
昔、姉様は目を輝かせて絵本を読んでくれました。
僕は絵本よりも姉様の膝の上で過ごすことが好きだったのは秘密です。
姉様は僕が本を好きだと勘違いして、読み聞かせてくれます。
僕は姉様との時間が一番なので、姉様の勘違いに甘えます。
僕が願うと姉様は嬉しそうに笑います。
僕と姉様のやり取りをリオは苦笑して見てますが気にしません。リオには、余計なことを言えば姉様との婚約を破棄させますと言ってあるので、大丈夫です。
「ええ。エディが楽しめるお話を探しておくわ」
「ありがとうございます。姉様が帰ってくるのを楽しみにして勉強頑張ります」
「ほどほどにね。」
馬車が学園に着きました。
門の前でリオが待ってるので視線を向けます。
「エディ、またね。」
「またお会いできるのを楽しみにしています。」
リオと姉様が去って行くのを見守ります。
しばらく馬車の中で待つとリオが戻ってきました。
マートン侯爵夫人とのことを説明します。
リオが笑ってます。
「寄付金のことはお前がうまくやるんだろう?」
「ええ。父上と一緒に対処します。伯母上と姉様の侮辱については」
「もちろん、母上と婚約者への無礼は俺と父上に任せろ。エドワード達も動くんだろう?」
「ええ。母上と姉様への侮辱はルーン公爵家への侮辱ですから。」
「頼もしいな。お前がシアと一緒にいてくれるから助かるよ」
「悔しいですが姉様をお願いします」
「ああ。任せろ。」
リオは悔しいですが頼りになります。
学園での害虫駆除は僕にはできません。
僕は家に帰って準備をしましょう。
どうすればマートン侯爵家に大打撃を与えられるかよく考えてから父上に相談しにいきましょう。
父上は甘いですから僕がしっかり計画をたててから動いていただかなくてはいけません。
母上は僕のことを頼もし気に見てくれますが、父上は不安そうに見ています。
母上の教え通り、敵に情けは無用。報復しようと思えないくらいに叩きのめすのが一番です。
もちろん父上の教え通り正しい権力の使い方も忘れてませんよ。




