レティシア1年生 レティシアとエイベル
33話の前あたりのお話
エイベル視点
ノックの音に了承すると、予想外の人物が。
よく俺の部屋を知ってたな。
「お前、先触れはどうした?」
「シエルを連れているので問題ありません。」
勝手にソファに座るレティシアにため息がでる。
「忙しいですか?殿下の傍にいないなんて珍しいですね。」
先触れもなくきたお前が言うなよ。
「書類仕事があるんだよ」
レティシアが書類を見て何部か取る。
シエルからペンを受け取り、書類にペンを走らせ始めた。
「レティシア?」
「気をまぎらわせたいので付き合ってあげます」
あ、納得。これイライラしてる。
入学してそんなにたってないのに。
いいか。本人がやりたいならやらせるか。
止めて騒がれてもうるさいし。お前、手の動きがかなり早いな。
俺よりペース早いけど…。
「マールのも手伝ってんの?」
「手伝ってませんよ。リオ兄様はもう終わるからいいよって言いますもの」
マールは優秀だよな。殿下が大量に仕事を振っても涼しい顔で期日までに仕上げてくる。
殿下に任された仕事に文句を言わないあいつが、殿下が外交に誘ったのにマール公爵家を通せと笑顔で断ったのは驚いたけど。殿下は気にしなかったけど、不敬だ。
2日はかかると思って殿下にお傍を離れる許可をもらったのにその仕事が気付くとレティシアに片付けられてる。
「レティシア、やっぱり生徒会に入らない?」
「目立ちたくないですし、殿下と関わりたくないのでごめんですわ」
レティシアはなぜか殿下を避けている。
嫌ってる感じはないんだけどな。女はよくわからない。
殿下はそんなレティシアをなぜか気に入っているし。
「終わりましたわ」
いつの間にかシエルのお茶を飲んでやり遂げた笑みを浮かべている。
お前さ俺の部屋で勝手すぎないか?
マールの部屋でもこんな感じ、いや、あいつはあえて好きにさせてるだろうな。
「すっきりした?」
「多少は」
仕事を終わらせてくれたし、付き合ってやるか。
「何があったんだ?」
「内緒にしてくださいませ」
「ああ」
「リオを好きなご令嬢がうるさいんです。もちろん令嬢モードで対応してますよ。不満はリオにぶつけてくださいませ。」
レティシアはよく令嬢に絡まれる。こないだはパドマ嬢達に囲まれてたよな。
「マールのファンにも絡まれてんのか」
「ファンかどうかはわかりません。令嬢によっては私が命令をして優しいリオを怖がらせてるとか無理を強いてる。令嬢達に冷たいのは私の所為。昔のことをリオに伝えるなんて非常識など、どれも身に覚えがありません。せめて私の身に覚えのある内容なら納得できますわ。しかも何を言ってるかわかりません。この婚約に文句があるならお父様と伯父様に伝えてください。お父様の命なら破棄しますわよ!!」
一気に話して疲れたのか息切れしてるな。
シエルに差し出されたお茶を飲んでいる。
たぶんその婚約を破棄したらマールが荒れると思うけど。
俺はお前の面倒をマール以外が見れるとは思わないけど。
少なくとも俺はこんなに面倒な令嬢はごめんだ。
「お疲れ」
「魔力がないから面倒ごとを避けようと、か弱い令嬢やってたけどつらいです。徹底好戦したくなります」
「か弱い令嬢・・。自分で考えたの?」
「リオが考えました。できるだけ敵を作らないようにって」
まぁこの調子で令嬢達の相手をしたらまずいよな。
ルーン公爵令嬢としてありえない。
レティシアの外面は見慣れるまで驚いたよ。か弱いとか正反対だからな。
レティシアは気が強いし好戦的だ。
「エイベル、失礼ですよ」
顔に出てたか。睨まれてるな。
「お前は俺にいつも失礼だから。マールに言えば?」
「令嬢同士のやりとりに殿方を巻き込むのはいけませんわ」
「俺は?」
「エイベルは私のために動かないし心配しないからいいんです。それに令嬢達のリオへの不満を私が伝えるのもおかしいでしょ?」
「マールは俺のところにわめきにくるより自分に頼って欲しいんじゃないの?」
「ありえませんわ。それにリオは優しいから。そんな優しいリオにもっと優しくしてくださいなんて言えませんわ。令嬢達は望みすぎです。リオは身内に甘いので身内枠の入ってる私との扱いの差があるのは仕方ないんです。リオはエディにも優しいです。よく文通してますし。」
レティシアは普段のマールを知らないのか。
レティシアには優しいし、二人が一緒に行動するのは社交会か。マールも外面完璧だしな。
学園で令嬢に全く見向きもしないとか想像できないんだろうな。余計なこと言うとあいつが怖いから言わないけど。
「シオン嬢に言えば?」
「セリアはいま、発明で忙しいんです。それに面倒に思ったセリアがリオに伝えにいきますわ。私に無害で話を聞いてくれるのはエイベルだけなんです」
「友達、シオン嬢しかいないの?」
「学園にはセリアだけですわ。」
「学園には?」
「屋敷に帰ればダンとケイトがいますもの」
「使用人は友達じゃないだろ」
「友情に身分は関係ありませんわ。」
自信満々な顔してるな。これは言っても無駄か…。
使用人を友人と思うとか、こいつ大丈夫だろうか。
ん?こいつはルーン公爵令嬢だよな。取り巻きいないの?
「お前、取り巻きは?取り巻きを作ればお前の変わりに動いてくれるだろ?」
「作りません。ルーン公爵家に必要なパイプは作りますが、取り巻きは不要です。面倒ですもの」
「これがうちの派閥の筆頭ルーン公爵家の令嬢か・・・。」
「ルーン公爵令嬢の務めは、はたしますので心配しないでください。」
「麗しのルーン嬢とお近づきになりたい奴らが多いけど」
「ルーン公爵家の後ろ盾が目当てですよね。お父様もエディも紹介しませんわ。つながりを持ちたい方は社交会で親睦を深めるので学園では必要ありません」
こいつは学園で交友関係を全く広めるつもりはないらしい。
「学園は良縁探しと伝手を広げる絶好の場なのに使わないんだな」
「お父様の命でなければ使いませんわ。」
レティシアの顔がスッキリしたな。
話して満足したんだろうか。
そろそろ頃合いか。
「そろそろ帰るか?」
「ええ。少しすっきりしましたわ。ありがとうございます。失礼しますわ」
レティシアが大人しく帰っていった。しばらくして殿下が来られた。
殿下は俺に回す仕事を間違えたらしい。
仕事が終わっていることに驚かれたが曖昧に笑ってごまかした。
レティシアがここにいたことは殿下に知られたくないから。
殿下はレティシアと過ごしたいみたいだけど、それは協力しない。
マールの婚約者であるレティシアと殿下が親しくするのは周りが許さないから。
昔、学園に行きたくないと暗い顔をしたあいつを思い出すと尚更。
殿下には申しわけないけどレティシア以外のふさわしい令嬢を早く見つけていただきたい。




