レティシア11歳 試験勉強
リオ視点
俺は叔父上に呼ばれてルーン公爵邸に来ている。
通された執務室は人払いをされ、叔父上と二人っきりだ。
「休養日にすまないな」
「構いません」
「これを見て欲しい」
叔父上に渡された数枚の紙はレティシアの文字で埋まっている。
採点されており、全て70点台。
は?
渡された紙は難易度が全て異なる。
これ入学後の試験内容も含まれてるよなぁ…。
1枚目は学園の入学試験の適した問題。
2枚目は1年生、3枚目は2年生で学ぶもの。
全部点数が70点台…。
まさか…。
「教師の報告では点数が上がらないのは精神的なものが原因ではないかと。教師も何がわからないかわからず、頭を悩ませている」
「叔母上は?」
「結果を聞いたローゼはレティシアの勉強時間を増やした。だが執事長からやりすぎだと報告が上がっている。
これ以上レティシアの勉強時間を増やせばエドワードが教師達をクビにするだろう…」
自由時間を減らさせれればエドワードと過ごす時間もなくなるか。
姉様の役に立たない無能な教師はいりませんってことだよな…。
「わかりました。お任せください」
「いつもすまない」
「いえ。いつでもお呼びください。大事なレティシアの役に立てるなら光栄です。失礼します」
叔父上に礼をしてシアの部屋に入室すると驚いた顔を向けられた。
「リオ、どうしました?」
「会いに来た。変わりない?」
ターナー伯爵家から帰ってきて会える機会は増えたけど、やはり物足りない。
シアはどんどん可愛らしく成長している。
令嬢モードも年上の令嬢よりも美しく洗練さが増している。
「ええ。リオは背が伸びましたね」
「まぁな。シア、二人で話したい」
「わかりました。シエル」
不思議な顔をしてシアが頷き人払いをした。
「フウタ、結界を」
フウタに防音の結界を張らせる。
「シア、なにを考えてる?」
「はい?」
「最近、成績が悪くて缶詰だろ?」
シアが青い瞳を見開いた。
「なんで…」
「叔父上から呼ばれた。成績が悪いのは精神的な問題だって」
「お父様が‥……‥」
シアが固まり、だんだん顔が青くなっていく。
相変わらずルーン公爵夫妻を怖がってるよな。
ルーン公爵夫妻はたぶんシアを溺愛してるのに、気付いてないよな。
まぁ、言っても信じないから言わないけどさ。
母上は「ルーン公爵夫妻は不器用なのよ」とよくため息をついている。
敏腕宰相の叔父上に色々言えるのはうちの母上だけだろうな。
「怒ってなかったから大丈夫だ。とりあえず、これ解いてくれる?」
シアに問題を渡すとスラスラと解いていく。
突然シアの手が止まった。
「満点とれたら、近々出掛けようか」
止まっていたシアの手がスラスラと動き、問題を解いている。
やっぱりわざと間違えようとしてたな。
シアの解答を覗き込むと全部正解してる。
それ3年の問題なんだけどな。
「リオ、終わりました」
「ああ」
採点すると満点だ。
「最近テストでわざと間違えてるだろ?理由を聞いても?」
シアが俺の顔をじっと見つめた。瞳を反らさず見つめ返すと大きなため息をついた。
「リオ兄様にはかないませんわ。入学試験対策です」
「は?」
「3組に入りたいんですが、お母様が1組以外ありえませんっておっしゃるので2組を目指そうかと」
シアの危険な考えに頭が痛くなる。
「1組はほぼ上位貴族が占めるだろ?だから公爵家であるシアに無礼を働く者は少ない。ただ2、3組は違う。貴族の常識を知らない者が多いからトラブルも多いし危険だ。平穏に過ごしたいなら1組に入るべきだ」
シアが呆然として、ショックを受けている。
「今までシアに嫌がらせをしてきた者は2組に多い。ルーン公爵令嬢が2組になればまた言いがかりをつけられるよ。魔力のことはいくらでも庇ってやれるけど成績はどうにもならない。ルーン公爵令嬢が1組以外になれば醜聞だよ。叔父上にシアの成績のことで文句を言う者も少なくないだろう。叔母上は発狂しそうだな」
シアの顔がさらに青くなった。
まずいな。言い過ぎたかな。
「お母様…」
シアの魔力認定の後に叔母上は寝込んだ。
それがシアには一番こたえたみたいだ。
シアは強がっていたけど、自分で選んだことだから泣き言を言えないって思ったんだろう…。
言えばいいのに。
我慢せずに泣いてくれるならいくらでも慰めるのに。
シアの選んだことはいいことじゃないけど、俺の前では正直でいてほしい。
無理して笑われるほうがしんどいのにな。
きっとシアが2組になれば同じことが起こるだろう。それは絶対にやめてほしい。
「叔母上のためにも1組に入ってやれ。シアは1組にはいるのが1番目立たないから」
「リオ」
「ちゃんと守るしフォローするから心配するな」
真っ青な顔のシアの頭を撫でる。
「わかりました」
「叔母上はシアが1組で成績優秀、品行方正に過ごせば喜ぶと思うよ」
「お母様が?」
「ああ。言葉にはしないと思うけど、絶対喜ぶよ」
「りお」
シアが心細げに見つめてくる。そうやって素直に甘えてくれればいいのに。
「おいで」
手を広げるとシアが立ち上がって抱きついてくる。
「ルーン公爵家の恥って言われないかな」
「言いたい奴には言わせておけばいい」
「お荷物の姉を持つエディが可哀想。お父様が伯爵家から妻を迎えたのがいけないって。私の所為で皆が悪く言われてる」
これは社交界で何か言われたかな。思い詰めた結果の暴走か…。
シアの冷たい体を抱きしめ、頭を優しく撫でる。
「貴族なんて誹謗中傷は当たり前だろ?俺も色々言われてるよ。シアはルーン公爵令嬢として恥じない行動をすればいい。さすがルーン公爵令嬢って言われるようにな」
「目立ちたくない」
「ルーン公爵家のご令嬢なんだから成績優秀で当然だ。宰相一族のルーンは常に民の模範になるようにだろう?成績優秀で品行方正じゃないほうが悪目立ちするよ」
「悪目立ち…」
「学園でシアがルーン公爵令嬢らしく過ごすなら俺も守りやすい。公爵令嬢だから視線を集めるのは諦めるしかない。何があってもフォローしてやるから、頑張れるか?」
「わかりました。がんばります」
冷たかったシアの体があたたかくなってきた。
もう大丈夫そうだ。
「なぁ、シアに色々言ってきたのは誰?いつの社交会?」
「忘れましたわ」
「ちゃんと覚えておかないと駄目だろ」
「家の利にならない方を覚えても仕方ありません。リオ兄様、約束は?」
むしろ害のある奴を覚えないと危険なんだよ。
その辺は俺がやればいいか。
シアには報復とか汚い世界は似合わないというか性格的にできなそうだ。
好戦的な叔母上とは正反対。
あんなに嫌がらせを受けても一度も仕返ししようとしなかったもんな。
「今度の休養日にまた来るよ。叔父上からの許可は俺が取るけど、叔母上からの外出許可は自分で取って」
「リオ?」
「シアの予定が空いたら出かけよう」
「お母様はお怒りです。私の成績が…」
「自業自得だから頑張って」
「リオ、怒ってます?」
「俺に相談しなかったことはな。叔父上に連絡をもらってよかったよ」
「リオ兄様は忙しいから」
「全然手紙も来ないし、シアには俺はいらないかな」
「いらなくないです。お外に連れてってください。馬に乗りたいです」
怒ってないけど、必死に縋りつくシアに笑えてくる。
シアもとうとう、学園に入学かぁ。
悪い虫がつかないといいんだけど。
ずっと俺の隣にいてほしいけど飛び級は嫌がるしな。
気合をいれて守らないとな。
シアが入学したら俺のものだと牽制しておくか。
俺がレティシアを溺愛してるのは有名だけど念には念を入れないとな。




