レティシア9歳 ターナー伯爵家のひととき
ビアード視点
野原に寝転んでるレティシアに声をかける。
「なにしてんの?」
「空を見てます」
「楽しい?」
「もうすぐここで過ごせるのも終わりです。ルーン公爵家に帰ったらこんなこと許されません」
「変わってるのにちゃんと公爵令嬢やってるんだな」
「エイベルだって外面はいいでしょ?言いふらしたら許しませんよ」
「やらないよ。本当にお前は想像の斜め上を行くな」
「失礼ですね」
レティシアの隣に寝転ぶ。
「なぁ、聞いていいか?」
「答えるかは内容によります」
「クロード殿下との関係は?」
「王太子殿下とルーン公爵令嬢です」
「ほかには?」
「わかりません」
「クロード殿下に全く興味はない?」
「臣下として殿下の治世にお役にたてるように努めたいですわ」
「殿下がお前を王太子妃と望まれたら?」
「ありえません。魔力のない私に資格はありませんわ。それに私には務まりません。」
「殿下が興味を持ってる令嬢はお前だけなんだけど」
「エイベル、殿下のお傍に仕えるなら内情をやすやすと他人に話してはいけませんわ。利用されますよ。気を付けてくださいね。殿下の誘いに乗らなかったから意外なんでしょうね。臣下として戯れはほどほどにして魔力のあるご令嬢を選んでくださいと進言していただきたいですわ。希望ですがお願いではないですからね」
殿下に興味を持たれてもお前だけは喜ばないんだな。
「殿下の容姿に令嬢達は悲鳴をあげるのに好みじゃないの?」
「私の傍にはお美しいお母様にエドワード、セリアに、マール公爵夫妻にリオ兄様がいますわ。優れた容姿なんて見慣れてますのよ」
「殿下は優秀な方だよ」
「是非、その優秀さでふさわしいご令嬢を魅了させていただきたいですわ」
「お前は全く殿下に関わる気がないんだな」
「ええ。許されるなら権力と関係ないところで平穏に暮らしたいです」
令嬢たちは権力のある家と縁を繋ぎたいと必死なのに・・。
「本当に奇特な令嬢だよな」
「エイベルだって全然紳士じゃありませんわ」
「必要ないだろ」
「失礼ですわ。エイベルもそろそろ入学ですね。楽しみですか?」
「まぁな。」
「いいな。私は学園なんて行きたくない」
「レティシア?」
隣で暗い顔で空を見上げてる彼女に思考が止まる。俺の視線に気づいてあきらかに無理して笑っている。
こんな顔はじめてみる。
「冗談ですわ」
手をのばして頭を撫でる。
「もっと優しく撫でてくださいませ」
「我儘だよな。殿下はお前のどこがいいんだか」
「知りませんわ。」
「もう婚約を決めたんだな」
「公爵令嬢ですから。それにお父様が安全のために取り計らってくれたんだと思います」
「安全?」
「私、魔力がないから。マール公爵家の婚約者なら誘拐されても伝手で探してもらえそうですし」
「本当にそんな理由?」
「お父様に直接聞いたことがないので知りません。私もこの縁談の家の利がわかりませんがお父様の判断に従いますわ」
「マールの三男でいいの?おまえならもっと高い地位を望めるだろ」
「お父様に従います。私はルーン公爵に命じられたことをするまでです」
「お前はよくわからないよな」
「貴族の令嬢なんてそんなものですわ。相手が気心しれてるリオ兄様なら安心ですわ。」
「リオ兄様はすごいんだな」
「ええ。エイベルなんて瞬殺ですわ。でも優しいからそんなことしませんね」
「さすがに外交一家に瞬殺は避けたい。」
「リオ兄様は優しいから気絶ですませてくれますわ」
「ルーン様、ビアード様」
騎士の声に起き上がる。
芝生まみれのレティシアの背中を払ってやる。こうなることわからずに寝転がったのかよ。
芝生まみれに驚いた彼女はいつもの調子に戻っていた。
休憩は終わりだな。
ここでレティシアと過ごすのもあと少しか。殿下が羨ましがるんだろうな。
俺はレティシアの予想通りに入学してしばらくするとマール公爵三男に瞬殺された。
レティシアに近づくなと言われて気付いた。
レティシアは婚約の利がわからないと言ったが一目瞭然だ。
お前の婚約者はお前に惚れてる。
マールは優秀だからルーン公爵家に手を回したんだよ。
一緒に生徒会の仕事をするとマールの優秀さに驚く。
まさかこの優秀なマールをレティシアが振り回してるとは思わなかったけど。




