ならば手段は選びません!
ともあれ、冒頭で自己紹介し損ねたので、ここで改めて私の話をしよう。
面倒くさいとか言わないでね。思うのも勘弁。
さておき、もうお気づきかと思うが私は俗に言う『転生者』というやつである。
日本での名前は先ほど述べた通り、生粋の日本人で性は塚本、名は理衣奈。
都心より大分離れた田舎に生まれ、金銭感覚の破綻した親の元、中学から新聞配達を始めて高校では授業料支払いの為にバイトに明け暮れた。
就職後は正規の仕事と副業を掛け持った末に身体破綻で過労死という、我ながらお馬鹿な人生を送った享年二十歳である。
と、まあそれが何の因果か、異世界にあるミルヴァナ公国という大国の貧乏子爵令嬢に転生したというわけで。
ちなみに前世の記憶がおはようしたのは二十歳になった誕生日でしたー。
おかげで現在の年齢が死んだ年齢っていう意味分からん事態です。
いや、もしかしたら神様が気をつかってくれたのかもしれないけどね。
だったら生まれた時に記憶覚醒させてといて欲しかったわ。
そしたら天才児扱いされて人生冒頭イージーモードだったのに。
なぜに生まれ変わっても強制ハードモードなのよリセマラさせろ。
その上親の性格まで前世とツーペアにして下さった神様には殺意しか湧かないって状況でして。
この親切返品したい……。
ああつい愚痴が。
まあそういうわけで―――貧乏貴族のせいか、はたまた私自身に問題があるのか(そうは思いたくないけど)立派な嫁き遅れ令嬢(だって二十歳だからな! ここの適齢期十四歳からだってんだからもう……)として貴族にはあるまじき隠れバイト生活(前世とまんま)を送っていた中、もう首が回らねえよ、というあわやお家の取り潰しの事態となった頃合いで現れたのが、現在の夫クラッド様なのである。
晴天の霹靂とはまさにこのこと。
んで、金喰いオカン……じゃないロクシアナお母様が言っていた通り、国内でも屈指の大商人である彼は、何をとち狂ったのかジリ貧に喘いでいた我が家に突然来訪し、その上援助を申し出たのだ。
だがしかし、うまい話には裏があるとはよく言ったもので。
援助に対する交換条件というのが―――まさかの、私との結婚だったというわけである。
うん。分かり易い。
ひっじょーに、分かり易い。
はいはい爵位お買い上げ~毎度あり~♪ ってことになったわけですよ。
いや流石にここまで軽くは無かったけど
でもってもう一つだがしかしな案件がございまして。
冒頭読んだからわかるよね?
え? 一体何のことかって?
いや空気読みなさいなお客さん。案件つったら新婚初夜で夫に逃げられた花嫁(私のことね)しかないでしょうよむしろ他に何があるってんだこん畜生!
……口が悪いのは前世からだから諦めて。
クラッド様と結婚して一年。
私は未だニューカレドニ○じゃなくてお新品のままなのです。(この言い方どうよとは思うけど事実なんだからしょうがない)
ついでに言えば前世でも経験が無かったりします。
はいそこ突っ込みいれない突っ込まれたことないんだよこっちは!
(お下品失礼)
なぜに人生をまたいで枯れ女やらねばならんのだ……ちょっと泣きたくなるじゃないか。
あら目から水。
いやほんと、何であのひと私と結婚したんだって話よね。ってああ爵位の為か。
でもそれも変なのよねー。
よくよく考えると。
だってそんなモノ無くてものし上がってきた人が、今更それを欲しがるとは思えなかろう。
かといって、自分でいうのもあれだが『君に一目惚れして……』とかいう鉄板展開は私にはありえないと断言できる。
だってクラッド様この一年ほっとんど会いに来ないんだもん。
惚れてりゃ会いに来るくらいするでしょーよ。
正しくは『本邸』に帰宅していない、というのが正解だが。
まさか色んな意味での『別宅』があるんじゃなかろうかと侍女のエブリンに調べてもらったけど、それは無いとの事だった。
『情報蜘蛛のエブリン』の異名を取る彼女が裏を取ったのだから、これについては疑いようもない。
ならばなぜ、クラッド様は私に手を出して……じゃない、会ってくれないのか。
いや、まあなんとなく気付いてはいるんだけど。
そりゃあね?
わかりますよ私だって。
エブリンには鈍いとかトロいとかよく言われるけどそりゃ気付くって。ただね……?
口に出して認めるのはとても悔しかっただけですよおおおっ!!
よしわかった。
正直ものすごく認めたくは無いがもう一年が経過した事だし認めてやろう!(上から)
はい! クラッド様私に全く興味無あああしっ!!!
イコール私に魅力が無あああいっっっ!!
残・念!!
大丈夫知ってる! それ前世から知ってたっ!!
むしろ今サラマンダーですよ!
ってか転生させるなら色気のオプションくらいつけといてよ神様のおばか!
とかまあ……叫んだところで後の祭りならぬ転生の祭りなので致し方なく。
しかし私の記憶が確かならば、かつて故郷である倭の国ではこういった場合においての名言が、先人達によって残されていた筈。
そう、それは―――
「リイナ様、ただ今戻りました」
私が無駄に長い回想をしながらふぬふぬ言っていたら、扉越しに耳慣れた女性の声がした。
既に外は夜を迎えている。
「入って」
私はその声に、時代劇の悪代官よろしく入室の許可を出した。
ふふふふふ。
これで……これでやっと……っ。
灯りを落とした部屋にキィイ、パタンと極力音を抑え入ってきたのは、艶のある褐色の肌にブルーサファイアの瞳を持った侍女装束の女性だ。
瞳と同じ鮮やかな青い髪は肩の部分で切り揃えられていて、それがより彼女の神秘的な雰囲気を際立たせていた。
というか、ぱっと見じゃ占い師や神殿の巫女に見えなくも無い。
彼女の名は、エブリン=エルダー。
幼少の頃より使えてくれている、忠義(?)ある私付きの侍女である。
まあ……侍女っていうかエブリンの場合は姉とか躾役とかのがあってる気もするけど。
確か本人曰く『調教師の資格も持っております』とかなんとか。私は家畜か。
と、それはさておき。
「エブリン! お帰りなさい! ……例のものは手に入れた?」
たたっと彼女に走り寄り小声で尋ねると、にっこりと極上の笑みでもって返される。
正直エブリンは超美人の部類だ。
が、微笑みは女神と言うより悪の女幹部に近いと思う。
昔本人に言ったら地獄の『淑女のたしなみフルコース(めちゃくちゃ臭いハーブで全身パックと激痛ツボマッサージ)』されたから言わなくなったけど。足のツボってなんであんなに痛いかな。
また話が逸れた。
「お嬢様のご希望通り闇市で仕入れて参りましたわ。こちらがアルモグラの尻尾とデボラの腸、キレネイナの胃液とミーミナの脇毛でございます」
言って、エブリンが手にした麻袋の口を私の前で広げて見せた。
喜々として中を覗き込むと、瓶詰めになった妖しげな材料が幾つか詰められているのが見える。
言っておくがお嬢様とは私のことだ。
幼少からエブリンには世話になっているが、嫁入りした今となっても呼び方はそのままらしい。
「うわあ……! まさか本当に手に入るなんて! 凄いわねエブリン! 一体どういう伝手を使ったの?」
「淑女に秘密はつきものですわお嬢様。そんなことより、料理長もそろそろ引き上げますし、調理場を使うなら今ですわよ」
麻袋の口を閉じたエブリンは、絶対S気質あるでしょ貴女、と突っ込みたくなる微笑を浮かべた。
彼女の右手が「ぐっじょぶ」になっているのは、勿論私が教えたからである。
いや、だって美女が親指立てて、ぐっ! てやってんの何か格好良いじゃないですか。
ってまたまた話が逸れた。
「ほんとだわ! 急ぎましょう!」
「お嬢様引っ張らないで下さいませ。あと淑女は走るものではありません。あくまで足音と気配を消して隠密行動がセオリーです」
「いやそれ暗殺者のセオリーだと思うよエブリン。んなことより早くっ」
「はいはい……」
苦笑するエブリンの袖を引っ張りながら、私達は抜き足差し足、屋敷の皆が寝静まった中調理場へと向かったのであった。
―――ほんと、先人は貴重な言葉を残してくれたもんだわ。
『鳴かぬなら、鳴かせてみせようホトトギス』なんて、ね。




