夜中と迷い者
夜....
宗助達が去った後、パレス達はラックを治療し、ラック達の家で休ませていた。特にコルはラックに付きっきりで看病をしていた。自分の兄が無茶をするのは承知の上だったが、まさかこんな事になるとは思わなかった。何より、同い年であるはずの男があれ程の魔力を持っている事が異常過ぎたと思っていた。元々この世界では、一般魔法一つに六時間、戦闘魔法一つに3日、属性魔法一つに十年かかるらしく、仮に全属性魔法を習得するのに六十年かかると言われてる。
パレス「コル?ラックの調子は大丈夫?」
パレスが二人分の夕飯を持ってきて、入ってきた。
コル「母さん。うん....大分落ち着いて寝てるよ。出血も治まったみたい。」
コルは安心そうに言ったが、パレスには少し落ち込んでいるように見えた。
パレス「コル、心配しなくても大丈夫よ。二、三日寝てれば、また元気になるわよ。狩りは残念だったけど、今回は仕方ないわ。また来年頑張ればいいし、私達は無理強いはしないわ。」
パレスの言葉に少し安心したコルだが、やはりまだ不安があった。
コル「母さん....僕、あの宗助さんみたいに、僕達以上の力を持つ人が村の外に居るとしたら、僕....とても怖いんだ。ここから出るのがとても怖い....。」
村の掟では、十五になると大人として扱われるので、村から出て自立する事も許されるが、コルは昼の戦いなどで、外に出ることを恐れてしまった。何より、兄がこれ以上傷つくのが怖かった。
パレス「....」
パレスは怯えてるコルに、何も言わずただ肩を寄せて、頭を撫でた。
ウィル「コル、村長が会いたいと言ってるが、いいか?」
パレス「え?村長が?」
コル「?」
居間に行くと、ガニアが座って待っていた。何故ガニアが居るのか分からないが、コルはガニアと向き合うように座った。
ガニア「コル、ラックの容態はどうだ?」
コル「は...はい。大分落ち着いたらしく、今はゆっくり眠っています。」
ガニア「そうか、あの時わしがもっと早く気付いて止めればこんなことには....」
コル「そ、村長やめてください!別に村長のせいではありません!あの時は突然の出来事だったので仕方ありませんよ....」
ガニアが頭を下げようとするのをコルが止めると、ガニアがある話を切り出した。
ガニア「そうか、本当にすまない....。実はラックが戦ったあの男、彼奴は恐らく“迷い者”なのかもしれん。」
コル「迷い者?」
ガニアの言う“迷い者”とは、古くからこの世界とは全く別の世界から来る人の事を言っており、その者は強大な力を持ったまま来ることも、あり得るらしい。
ガニア「迷い者と言えどもいくつか居てな、殆どは神の力によって来るのじゃが、この世界に生まれてくる迷い者も居り、中には人の手によって来る者もいるらしい。」
コル「じゃああの人もその迷い者と言うんですか?」
ガニア「恐らくな、あの歳であの魔力は普通あり得ん。じゃがまさか本当に現れるとわなぁ...あの力なら、もはや誰にも負けないかもなぁ...そうなったからには、この先の世がどうなるかわからない。」
ガニアが腕を組み、悩んでいるとコルがガニアに確認のために聞いた。
コル「...その迷い者は、神によってこの世界に来るんですよね?」
ガニア「あぁ、そうじゃ....だがコル、これらももしかしたら神の主示しなのかもしれん。決して神を恨むではないぞ。」
コル「....はい、村長。」
コルは少し黙り込み、返事をした。
ガニア「今回の狩りは残念だったが、この事は誰も思いもよらなかった。仕方がなかったんだ。」
コル「だからいいんですよ村長、僕達はまた頑張ればいいんですし...」
そうコルは笑顔で答えたが、なぜかその顔からは、あまり気にしてるとしか見えなかった。
ガニア「そうか、だがあまり気にするんじゃないぞ。わしらはお前達の事を見守ってるからな、困ったことがあるならいつでも相談してもいいぞ。」
ガニアはコルやパレス達を見て、そう言った。パレス達はお礼を言った後、ガニアを見送った。
コル達が寝静まった頃、ラックは少し目を開け、寝ている間に聞いていたコル達の話を思い出していた。
ラック(迷い者....神の主示し....誰にも負けない力....)
ラックはあの時の戦いを思い出し、不機嫌そうな顔になりながら窓を見て、独り言をポツリと言った。
ラック「...神様って、不公平なんだな...」