修業と心配
それからラック達はガレラ達によって過酷と思えるほどの特訓をして、頭と体に覚えられる魔法を詰め込もうとした。
ラックは対人格闘だけでなく、剣の構えから振り方、払い方、防ぎ方等を教わった。他にも人型以外、つまり動物や魔獣等についての対策や討伐を教わった。無論、強化魔法も教わった。
自身の速さを一定時間上げる加速、体の一部を重くさせる重下、自身の筋力を魔力で上乗せさせ、更に強化する筋強騰等と言った主に近距離を中心とした魔法を覚えようとした。
一方コルはとにかく自身を守る為の魔法を覚えようとした。誰かを守るなら、まず自分が安全にならないといけないからだ。ソピアが教える魔法の基礎学から応用まで、更に魔力調節や魔力付加と言った物も教わった。魔力調節は一つの魔法を使う時に自身の魔力を調節することで、その魔法を一時的に上げたり、抑えたりすることが出来る。魔力付加は自分の魔力を相手に与える事だ。これにより、相手の魔法を強化する事が出来る。
魔法では魔盾の強化版である魔壁や相手の治癒力を上げ、傷を回復させる治癒、それを強化した治療、触れた物を短時間軽くする軽上、そしてある程度の小物を体の中に収納出来る体袋等とあらゆる魔法も覚えようとした。
とても普通じゃ考えれない特訓だったため、二人が特訓を終える度に、体はボロボロになっていった。しかし、それでも二人はあの約束を果たす為に決して諦めず、続けて頑張っていた。
特訓が始まって期間が後わずかになったある晩、皆が寝静まった後、パレスとソピアが仕事疲れの汗を流すため二人で風呂に入っていた。
パレス「はぁ~風呂の熱さが疲れた体に染みわたる~。」
ソピア「何なんですかその表現は...?それってただ熱いんだけじゃ?」
パレス「アハハハッ、そういう気分って事ですよ!気分!しかしソピアさん、貴女全然入ろうとしないですね?体洗ってから三十分位はかかっていますよ?早く入らないと風邪ひきますよ?」
パレスがソピアに一緒に入ろうと言ったが、ソピアは何故か断った
ソピア「私はいいですよ。そもそもそんな小さな風呂に大人二人入るには狭すぎます。パレスさんが上がったら入ります。」
ソピアはそう答えたが、風呂のスペースにはまだ人一人入れる余裕があった。パレスは彼女の言動を見てもしやと思い、何となく言ってみた。
パレス「とか何とか言って、本当は熱いの苦手だとか?」
それを言われた瞬間、ソピアが顔を赤らめて声を荒げて反論した。
ソピア「な!?な、な、な、何を言っているんですか!?国王認可の魔動師であり、公立魔法学園の教師であるこの私が風呂の熱湯如きに臆しているとでも言いたいのですか!?」
パレス「あら?図星だったかしら?熱いならそう言えばいいですのに...。念の為と思い水を入れた桶がありますから、ちょっと待ってて下さい。」
パレスは多少、煽り口調で言うと風呂場の近くにある水の入った桶を持ってきて、風呂のお湯を水で少し埋めた。
パレス「どうですか?これなら入りやすいでしょ?」
ソピア(ん、まだ熱い...し、しかしせっかく埋めてくれたなら、入るしか...。)
パレスがわざわざ風呂をぬるめてくれたからと、ソピアはゆっくりと足を入れた。
チャプッ...
ソピア「ひゃ...!」(あ、熱い!元々私、ぬるま湯が主な風呂だったからなぁ...ソピア・アストロギア、一生の不覚!)
パレス(なんか猫みたいね...)
しかしソピアはゆっくりと風呂に入り、何とか二人で入れた。風呂はまだ熱かったが、パレスが言う通り湯の熱さが体に染み渡るみたいな感覚があり、いつの間にか肩が降りていた。
ソピア「ふぅ...言われてみればここ数日間は教えてばかりだったので、少し体が楽になったような気分です。」
パレス「ハハッそうですか!疲れた後には風呂が一番ですよ。」
パレスが笑いながら言うとソピアもフフッと笑い、軽く頷いた。するとパレスがソピアの顔を見て聞いてみた
パレス「....あのソピアさん、あの子達はちゃんと頑張ってるんでしょうか?正直言って、あたしもちょっと不安なんです。あの子らがあんな目に会ったのに、強くなるために修業するとか言い出して...。あたしは本当はただあの子らが普通に大人になって欲しいんです。危ない目をして成長してほしくなくて....もしまた危ない目にあって、笑えなくなったら...」
パレスはラックがあの時の闘いで傷付いた姿を見た後から、二人が傷付くのが少し怖くなっていた。それほどに息子達が大切だった。一人の母親として、当然の思いだった。
そしてソピアは、俯いてしまったパレスの顔を上げさせ、笑顔で答えた。
ソピア「ご安心下さいパレスさん。あの二人は貴方が思ってる以上に誰よりも負けず嫌いで根気があります。そして必ず強くなって貴方達の前で、元気が溢れすぎた笑顔を見せてくれますよ。」
それを聞いたパレスは、ソピアの言葉と顔で大丈夫だと安心し、また笑顔になった。
パレス「そうですか、それは良かった...。ソピアさん!今後とも家の子らを、どうぞよろしくお願いします!」
湯煙が深まる中、パレスは頭を下げながら言った。ソピアはそれに応えるように頭を下げ、こちらこそと優しく言った。