晩御飯
夜....
日も落ちたというのにラック達は帰って来ない。それでも彼等の帰りをパレスとウィルは山の入り口付近で待っていた。
ウィル「ラック達、いきなり特訓やら魔法なんか始めて...体を壊さないか不安だ。それに十日後までに鍛えるなんて、大丈夫なのか...?」
パレス「あんたは相変わらず心配性ね。大丈夫よ!あの子らの根気良さなら、きっと強くなっているからさ、私ら親はただ子の成長を見守るしかないよ。」
心配しているウィルをパレスは笑顔で返していた。十日後までに強くなれなかったら、二人は一生外には出れない。しかし、ある人との約束を果たす為に強くなると決めていたので、ウィル達はそんな大きな目標に目指す二人をただ待つしかなかった。
ザッザッザッ....
山道の向こうから足音が聞こえてきた。どうやら特訓は終わったと二人は安堵した。
パレス「ほら、あの子達が帰ってきたよ。ちゃんとお迎えしないと!」
パレスに片手で背中を押され、ウィルもラック達に声を掛けようとした。確かに、親である自分がなぜ不安にならなきゃいけないのかとウィルは思った。一番、不安なのはもしかしたらラック達なのかもしれないから。頑張った二人を、まず褒めようとした。
ウィル「ふ、二人共!よく頑張ったな。お疲れさ....」
ウィル•パレス「!?」
二人が驚くのは無理なかった。帰ってきた二人は服は土や砂まみれ。足はふらつき、腕はダラリと下がっており、目はほぼ白目を向いており、逆に前を歩いていること自体、奇跡に見えた。
ウィル「お...おいラック?コル?お前達、大丈夫なのか...?」
ウィルの言葉に反応したのか、ラック達は呻き声のような声を出した。
ラック「あ~~....」
コル「う~~....」
二人のあまりの疲労感にウィルは若干、恐怖を感じてしまった。
ウィル(い、一体二人はどんな特訓を....?)
ソピア「申し訳ありません。我々なりに加減はしたのですが、彼等の特訓に対する強き熱意につい感化され、やり過ぎてしまいました。」
ウィル「え、えぇ...教える側の貴方達が感化されてどうするんですか?」
ソピアがウィル達に謝罪し、頭を下げた。ウィルはパレスの話を聞き、状況は理解したが、未だに二人の疲れ具合に驚いていた。
ガレラ「いや~リベルダーさん、本当にすいませんね。久しぶりに会った親戚に修行頼まれて、つい本気だしじゃって~。アッハッハッハッ!」
ガレラは逆に謝る気配は無いように笑いながら話してた。だがパレスはそのふざけ半分の話とラック達の姿を見てため息を吐いた。
パレス「ハァ...しょうがないわねぇ...。ラック達が疲れてると思って、“夕飯”作っておいたけど...あの状態じゃどうかしらねぇ?」
その言葉を聞いた瞬間、ラックとコルはゆっくりと振り向き、もう一度聞いた。
ラック「め...し...?」
コル「ご...ご飯...?」
するとパレスはフッと笑い、二人に笑顔で答えた。
パレス「えぇ!テーブルいっぱいにあるから、早くしないと冷めるわよ?」
その事を聞いた瞬間、二人は数秒顔を合わせ、さっきの疲れが無かったかのように、全速力で家に向かった。
ビュウゥン!!
ウィル「ご、ご飯で元気出るのか...」
ソピア「まるで新米時代の貴方のようですね。」
ガレラ「アッハッハッハッ!全く若いってのはいいっすな!」
ガレラ達は二人の後を追い、他愛の無い話をしながら入り口を後にして家に向かった。
リベルダー家
天井に吊されたランプに照らされた部屋に、ラック達はテーブルを囲み、食事をしていた。特にラックとコルは今日の特訓で疲れた筈なのに、目の前に出された夕食を目にした瞬間に齧り付くように食べていた。
ラック「モガモガ....!」
コル「モクモク....」
ウィル「こらこら二人とも、飯は逃げないから落ち着いて食べなさい。」
ラック「モガモガ...ってるモガモガでも...モガモガ..減ってモガモガ止まらモガモガ....」
ラックは喋ってるが口に食べ物を詰めすぎていて、何を言ってるのか皆には聞き取れなかった。
パレス「ちょっとラック、食いながら喋らない!物が飛ぶでしょう!」
ラック「...ンゴクッ!悪ぃ母ちゃん!」
ラックは怒られ、急いで呑み込み、また食べ出した。パレスは今まで以上のラック達のがっつきに呆れてたが、それよりも二人がどのような特訓をしたのかが気になった。
パレス「ところであんた達、今日一日で何かガレラさん達から学んだことはあったかい?」
ラック「...ンゴクッ!あのなあのな!!おじさんに今日、二つも魔法を教えてくれたんだぜ!確か一つは硬質化、もう一つは高飛!」
ラックが食べ出た物を飲み込んだ後、覚えた魔法を説明しだした。
ウィル「へぇ、それは一体どんな魔法なんだい?」
ラック「硬質化は体の一部を硬くする出来るんだ!ほんの一瞬だけど...。後、高飛は普段の二倍も高くジャンプ出来るんだ!でも、二、三回やると足が痛んで使えないんだ。だから俺、もっともっと鍛えなきゃいけないんだ!」
ウィルはラックが自分が初めて覚えた魔法を話してる時の顔が、とても楽しそうに見えて、何故か自身も嬉しかった。
ウィル「そっかそっか、二つも魔法が出来るなんて凄いじゃないか。これからも頑張るんだぞ。」
ラック「おう!」
パレス「で?コルは何を教わったの?」
コル「僕は魔盾と浮動を覚えたんだ。」
パレス「魔盾?確か前の決闘の時に、ブカブカの魔法使いちゃんが出してたあれ?」
コル「うん、魔法を扱う者は必ず習得するようにと言われたんだ。そしてもう一つの浮動って言うのは、自分の周りの物を動かしたり、浮かす事が出来るんだ。とは言っても、実際、僕が動かせるのは手の平サイズの物しか出来ないんだ。」
コルは説明していると、ラックが近寄り、聞いた。
ラック「えぇ!?お前、物動かせるのか!?見てぇ!見せてくれよ!」
コル「ちょ、ちょっと兄さん!落ち着いて!分かったから分かったから...!」
ラックがコルにグイグイと迫って来て、驚いたコルだが、一旦ラックを落ち着かせて、目の前にあるコップに向かって手を伸ばした。
コル「...浮動...」
コルが唱えると、目の前のコップがズズッとゆっくり近付いてきた。
パレス「まぁ凄い!たった一日で物も動かせる程の魔法を覚えるなんて、あんたも頑張ったんだね!」
パレスがそう褒めると、コルは少し照れて、顔が若干にやけた。
コル「えへへっ...でも、ソピアさんはこれはまだ初級中の初級だから気を抜かぬようにって言われたんだ。だから僕も、沢山勉強しなきゃ!」
ラック「そうだぜ!俺達はまだまだ強くならなきゃいけねえぜ!そうじゃねえと、彼奴には勝てないぜ!」
ラックがコルの肩を組み、宣言するかのように言った。
ウィル「...なぁ二人共、大分話が変わってしまうが、お前達が前に村長の家で言った“約束”って言うのは何だ?一体、誰とどういう約束をしたんだ?」
ラック「あ....」
コル「そ、それは....」
ウィルが二人が言っていた約束を思い出し、再び聞いたが、ラック達は黙ってしまった。
ウィル「お前達が迷い者ともう一度決闘したい。その気持ちは分かった。だが、それとその約束というのとどういう繋がりがあるんだ?せめて家族には教えてくれないか?俺達はお前達がまだ心配なんだ。」
ウィルは問いただしたが、それでも二人は質問には答えられなかった。約束の内容は決して教えてはいけないとあの人からもそう言われたからだ。それが例え家族だとしても...。
パレス「はいはい皆!せっかくの晩飯が冷めるって言うのに、一々そんな事を気に止めないの。」
ウィル「し、しかしパレス...」
パレス「あんた達が喋らないって事があるならそれ位、大事な事なんでしょ?別に話さないなら、別に話さなくて良し!ただ、その約束って奴、一度決めたのなら絶対に守りなさいよ!いいわね?」
ラック「母ちゃん...!」
コル「母さん...!ありがとう!」
パレスの言葉を聞いた二人はとても嬉しかった。母が自分達の背中を押してくれてる。なら、その期待にも答えるために、絶対に強くなり、必ず約束を果たそうと決意した。