それぞれの特訓
試験が終わった後、ラック達はそれぞれ特訓をすぐに開始した。ラックとガレラは山頂に行くと言って走って向かい、コルとソピアはその場で魔法の練習することになった。
ソピア「貴方達は魔法を使用したことがないので、今回は初級で覚える魔法を教えます。そして今日の目標は、二つ以上の魔法を習得する事です。良いですね?」
コル「はい!」
するとソピアは、魔法書を開き、コルに十五ページを開くように指示した。
パラパラ...
コル(視力探知、魔盾、軽量化、音閉....すごい!一ページだけでもこんなに...!魔法にも色々と種類があるのか!)
さすがのコルでも、自分が今まで見たこともないような魔法を目にして、興奮が隠しきれなかった。
ソピア「そこに書いてある魔法はあくまでも初級です。魔力を高め、鍛錬を重ねれば、より高度な魔法を習得する事が出来ます。ではそろそろ始めますので、目線を本から私に向けて下さい。」
コルは自分がつい本に夢中になってしまい、ソピアの方を向いてなかった為、言われて慌てて目線を合わせた。
コル「あぁ!す、すみません!」
ソピアはコルの慌てぶりを見て、ため息交じりに説明し始めた。
ソピア「はぁ...では最初に十五ページの左上を見て下さい。そこに我々が魔法を習得するにあたって、必ず覚えなきゃいけないのがその魔盾と言うものです。」
コル「魔盾...?」
魔盾とは魔法を扱う者が必ず習得する魔法だと言われ、自分の魔力を使い、盾の代わりとする物である。その厚さは至近距離でボーガンを撃たれても何とか耐えれる硬さである。
ソピア「やり方は簡単です。自分の前に壁をイメージするのです。大事なのは分かってると思いますが“集中力”です。」
そう言うとソピアはコルが持っている本を取り、その本が突然と消えた。
コル「い、今のは...!?」
ソピア「いずれ教えます。それより壁のイメージをお忘れ無く。」
ソピアはコルから少しずつ離れ、その場で止まった。その行動にコルは不思議に思った。
コル「あのソピアさん?一体何を...?」
ソピア「魔盾とは本来、自分の身に危険を感じた時に発動しなければいけません。ですので、貴方がそれを張れるまで、私が風魔法の一つ“空気弾”を撃ちます。ですが安心して下さい。威力はなるべく抑えますので、痛みはないと思います。いいですね?」
コル「...えぇ!?」
ソピアは過酷そうな事を普通に言ったがコルは突然の事に驚き、困惑するしか無かった。だがコルは、冷静に考えると戦いに置いて自分を守る事は確かに大事な事だと気が付いた。それに、もし習得すれば、兄も守れるかも知れないと思い、ソピアの特訓を受け入れる事を決意した。
コル「...わ、分かりました。それで宜しくお願いします!」
コルは大きな声で答え、ソピアはその声と決意じみた表情を見て、フッと笑った。
ソピア「さっきも言ったと思いますが、目の前に壁を出すことに集中して下さい。」
コル「はい!」
そしてソピアは右手から緑色の魔方陣を出し、そこから風が塊のように集まり出した。
ソピア「はぁぁぁ....!」
コル(ゴクリ....!)
ソピア「空気弾!」
ドシュン!
バァーン!
コル「グアッ!」
小さな塊はコルの方に一直線に飛び、コルは魔盾を出せず、そのまま顔にに直撃してしまった。
コル(い、痛い...!多少の覚悟はしていたがここまでとは...。でも、ソピアさんはそれ位、本気だ。僕が強くなりたいと言ったんだから、それまでに全力な筈だ。だったら僕は、それに答えないと...!)
ソピア「立ちなさいコルさん。早く立って、態勢を整えて下さい。」
ソピアは冷徹に言ったが、コルは急いで立ち上がり、魔盾を張る準備をした。
コル「すみません!もう一度お願いします!」
コルが大声で言うと、ソピアはすぐに空気弾を発射した。
バァーン!
コル「クッ!...もう一回お願いします...!」
コルはソピアが打つ弾を何度も体中に受けても、必死に魔盾を張ろうとした。壁のイメージを想像し、より集中して張ろうと努力した。
全ては大事なものを守るため...誰よりも大切な兄を守るために...。
山頂....
一方、ラック達は走って、村を見渡せる程に高い所まで登った。
ラック「ウッヒァァァ!たっけぇな!やっぱりここは俺、好きだぜ!景色がすっげーいいぜ!」
ガレラ「そっか!お前も好きか!よし!ここで特訓するぞ!準備いいかラック!」
ラック「おう!」
ガレラが山から見渡しているラックに大声で呼んだ。ラックは呼ばれて走って近づいた。
ラック「それで、俺は何すればいいんだ?腹筋か?背筋か?それとも素振りか?」
ラックは走った時の興奮と早く特訓をしたいと言う期待でガレラに色々と質問などをした。そんなラックをガレラは肩を掴んで落ち着かせた。
ガレラ「まぁ待て待て!とりあえず一端深呼吸しとけ!後、俺は今日から先生だから敬語使えよな!」
ラック「ハァ...ハァ...悪ぃ悪ぃ...!でもガレラおじさんに今更敬語だなんてなんか変だぜ。」
ガレラ「おいおい....そんなこと言う奴には、何も教えんぞ!」
ラック「ハッ!すいませんでした!」
ガレラはラックの切り替えの速さに笑いを堪え、特訓の説明した。
ガレラ「よ、よし...今回やることは至ってシンプル!この俺、特製のサンドバッグをひたすら殴る!蹴る!ただそれだけだ」
そう言うとガレラは背中に背負っていたボロボロな状態の布の塊のような物を出してきた。
ラック「え?それ殴るだけでいいんすか?」
ガレラ「あぁ!だがこれでも一応、特訓の一つだからな。相手を人だと思ってイメージして、やってみろ!」
ガレラはそう言いながら、近くにあった木の枝にロープをくくりつけ、サンドバッグをぶら下げた。
ガレラ「よし!さぁラック!特訓開始だ!」
ガレラは大声ラックに言って、ラックはそれに応えるかのようにサンドバッグに向かって殴り掛かった。
ラック「よっしゃ!こんなもん、すぐ吹っ飛ばしてやるぜ!」
ラックは出来もしないことを高らかに言ったが、彼にとっては気合入れとしての発言だった。
バコッ!
ラックはサンドバッグの真ん中を狙って思いっきり殴った。
ラック(よし!)
ブウンッ!!
ドガッ!
ラック「グハッ!?」
ラックが殴ったサンドバッグがさっきの倍以上のようなスピードで返ってきて、ラックは避けられず、顔面に直撃して倒れてしまった。
ラック(な、なんだ!?あのサンドバッグ、今こっちに向かって来なかったか!?一体どういう...?)
ガレラ「言った筈だ。あのサンドバッグを人だと思って殴れって。殴ったら殴り返される。当たり前の事だろ。」
ラックはガレラが何を言っているのか分からなかった。“サンドバッグが殴り返す”そんなことがある筈が無いと。しかしラックは突然閃き、ガレラに聞いた。
ラック「...まさか、あのサンドバッグ、何か入れてるんじゃないすか?例えば、おじさんが前に教えてくれた“魔道具”って奴なんじゃ...」
ガレラはラックの問いに、フッと鼻で笑い、答えた。
ガレラ「その通り、実はこの中に、受けた攻撃を2倍のスピードで返ってくる魔道具を入れた。だがラック、これは俺が所属している傭兵は疎か、騎士団の訓練にも使用されている一般的な特訓用のものさ。こんなもんでへこたれてちゃ、いつまで経っても強くはなれんぞ!迷い者と戦うのなら尚更だ!」
ラック「!」
ラックはガレラの言葉を聞き、納得した。今の自分じゃ迷い者どころか、誰にも勝てない。それじゃあの人との約束を果たせないし、何より大切な弟を守ることも出来ない。そうラックは強く改まって思った。
そしてラックは再び立ち上がり、サンドバッグの前に立った。
ラック(俺は大馬鹿だ。たかがサンドバッグだと思って油断してた。大体おじさんや他の傭兵をやってる皆もこれをやってるんだ。これくらいは戦う人間にとっちゃ普通なんだ。なら俺もこれを越えなきゃ行けねぇ!そうでなきゃ誰にも勝てねぇし、コルも守れねぇ!)
ラック「まずはこいつに、絶対勝つ!!勝って次に進む!!進まなきゃ強くなれない!!」
ラックの意気込みを聞き、ガレラはフッと笑った。
ガレラ「よしラック!今日中に勝てよ!勝ってどんどん行くぞ!」
ラック「おう!」
ガレラ「返事はハイだ!!」
ラック「ハイ!!」
そしてラックはまたサンドバッグに向かって殴ったり、蹴ったりしたが、その度に倍で戻ってきた。それでもラックは諦めず何度も何度も立ち向かった。全ては強くなるために....大事な弟を守るために...。