頼み
ガレラ「戦い方を教えて欲しい?」
ガレラは突然のラックの頼みに驚いた。
コル「に、兄さん!いきなりなにを...!?」
ラック「俺達、あいつに負けっ放しでこのまま大人になるの、とても嫌なんだ!でも今のままじゃ勝てないから、おじさんに教えて欲しいんだよ!」
ラックは人との戦い方を少ししか知らなかった。だから負けたんだと思った。なら実戦経験もあるガレラなら教えて貰えるかもしれないと思い、藁にも縋るような思いでガレラに懇願するように頼んだ。
ガレラ「....」
ソピア「いきなり何言い出すかと思えば、戦い方を教えろ、ですか。貴方、迷い者と一度、戦ったことがあるのなら分かってるはずです。彼らが一体どれ程の力を持っているのか...。それなのに戦い方を知り、勝ちたいなどと、夢見がちな発言などは控えてください。」
ソピアはラックに向かって呆れたような口調で言い放った。
ラック「そりゃ、確かにあいつは強い。強すぎて誰も相手に出来ないかもしれない。でも、あいつに勝たないと、俺は成長出来ない気がするんだ。ずっと弱い子供のままでいてしまうと思っちまうんだ。だから強くなりたい!強くなって、あいつに勝ちたい!だから....」
ソピア「いい加減にして下さい!!貴方は何も考えていない!勝てないと分かってる相手に勝とうとする、その考えが私には理解出来ません!もしそういう無茶苦茶な事をしていれば、貴方はいつか自分や大切な何かを失うかもしれないんですよ!それで良いんですか!?」
ソピアの怒濤のような言葉に、皆はただ黙ったままだった。ラックはとても厳しく、当然の事を言われ、言い返せなかった。
コル「...だったら、僕も強くなります!」
ソピア達「!!」
コルがラックの前に立ち、ソピアに話し出した。
コル「僕は、兄さんみたいに喧嘩は強くないし、自分より強い人に立ち向かう勇気もありませんでした。そのせいで僕は、いつも兄さんに守られてばかりいました。しかし、迷い者のせいで僕達の国などがめちゃくちゃになるなんて、そんなの絶対に嫌です!だから僕は、兄さんに守られるばかりではなく、兄さんと同じ肩を並べて、共に迷い者を倒すぐらいに強くなりたいんです!」
ラック「コル...」
コル「ソピアさん、夢見がちな事だと思いますが、僕達は本気です。迷い者を倒すためなら、どんなに辛い訓練にも耐えます!ですので、どうか僕達に、戦い方を教えてください!」
コルはソピアに対して、深々と頭を下げた。そんなコルを見て、ラックは驚いた。コルが自分から鍛えたいと言うなんて初めてだった。それ程までに、迷い者を倒したいのか...いや、俺と同じ位に強くなりたいのかと思った。
ソピア「何なんですか貴方達は!?強くなりたい、強くなりたいと、そんなに死にたがりたいのですか!!だいたい、何故そこまで迷い者を倒したいのですか!仕返ししたいのならば、諦めてください!今の貴方達ではとても...!」
ラック「それでも俺たちは強くなりたいんだ!この国やみんなの為に...!それに...あの人との約束を果たさなきゃいけないし...!」
ガレラ「...!」
ソピア達「...?」
ソピア達はラック達の突然の不可思議な発言に驚いてしまった。一体誰との約束なのか、誰も分からなかったが、二人の本気のような言葉だけは、誰も嘘とは思えなかった。
ガレラ「お前ら、その約束とやらの為に、本気で俺達に教えて貰いたいのか?」
ラック「うん!」
コル「はい!」
ガレラが二人に質問すると、二人は共に頷いた。その時の目はガレラにとってはとても真っ直ぐに見え、覚悟を決めているようだった。
ガレラ「....村長、少し俺の頼みを聞いてくれませんか?」
ガニア「なんだ?」
ガレラはガニアに向かって、あることを言った。
ガレラ「こいつらを十日間、俺達に預けさせてもられませんか?」
ラック達「!?」
ガレラ「もし十日後、こいつらが一人前にならなかったら、こいつらを一生村から出さないことで約束してもらえませんか?」
ラック「そ、それってつまり...」
ガレラは立ち上がり、村長の玄関を出た。
ガレラ「言っとくが、俺達のやり方は少々荒いぞ。それでも着いてこれるか?後、教えられる者は必ず敬語を使えよな?」
ラック達はガレラの言葉を聞き、すぐ理解した。自分達の事を鍛えてくれるということを...
ラック•コル「はい!!!」
ガレラ「おう!良い返事だ!明日は早いから、しっかり寝ろよ!」
ガレラは笑顔でそう言うと、荷物を置いていった空き家に向かった。
ラック「やった-!やったなコル!」
コル「うんうん!そうだね兄さん!これから一緒に頑張ろうね!」
ラック達は喜んで、お互いを抱きしめていた。ソピアはすぐにガレラの後を追い、怒鳴りながら理由を聞いた。
ソピア「ちょっとガレラさん!一体どうゆうつもりですか!?あの二人を本気で鍛え上げるんですか!?しかもたったの十日で!!」
ガレラ「なーに心配しないで下さい!彼奴らはああ見えても、結構筋がいいし、気合もある。育て甲斐があるかもしれませんよ?」
ソピア「だからって...ん?ちょっと待ってください。貴方先程、村長さんの前で“俺達”って言いましたよね?それってつまり、私にも彼らの教育を手伝えってことですか?」
ガレラ「手伝えってとんでもない。俺は貴方に彼奴らに魔法を教えて頂きたいと思っているだけですよ。」
ソピア「...はーーーーーー!?!?」
ソピアはガレラの無茶ぶりな願いにソピアは断固拒否した。
ソピア「いやいやいやいや!!!あんな子達の教師になれって言うんですか!?無理に決まってるじゃないですか!!」
ガレラ「ソピアさん、気持ちは分かりますけど、彼奴らは本気です。育て方によっちゃ、あんたの理想通りの生徒になるかも知れませんよ。」
ガレラはさっきとは違う、低いトーンの声でソピアに言った。
ガレラ「俺は成長しやすい奴の一番の特徴は、信念や覚悟、そして勇気がある者だと思うんです。彼奴らにはそれがあります。だから、ここは今一度信じてみては如何でしょうか?お願いします、あいつらに魔法を教えてやってくれませんか?」
ガレラはその場で頭を低く下げ、懇願した。ソピアはガレラが頭を下げた事にではなく、言葉と顔で、本気で彼らを育てたいと言う気持ちがようやく理解出来た。
ソピア「.....ハァ、全く貴方は....その代わり、私のやり方に文句は言わないで下さいね?」
ソピアはため息交じりで小さく頷き、答えた。それを見たガレラは笑顔になり、思わず抱きつこうとしたが、ソピアが見えない壁のような物を出して、それを止めた。ぶつかって倒れたガレラをほっとき、ソピアは空き家に入った。