女神の解放石
コルは困惑していた。目の前に純白の服装で、至る所に色とりどりの装飾を身に付け、金白の長髪に、エメラルドのような目をした女性が立ってたからだ。
コル「あ、あの....貴女は....?」
?「それよりも、今は彼を...」
そう言うと女性は、ラックに近寄ってしゃがみ、手を頭に乗せた。すると手が光り始め、その光はまるでラックを包み込むように広がった。
コル「これは...?」
?「大丈夫、ただ彼の苦痛と疲労を消しているだけです。」
コル(な、なんなんだ一体?僕は夢でも見てるのか?こんなのって....)
?「“あり得ない”と思うでしょう。でもこれらは全て事実、貴方の目は決して間違っていません。」
コル「!!」
コルは、自分の心をまるで読まれたのかというのとこれらが全て本物なんだという事に驚いた。
ラック「ん、うーん...」
コル「兄さん!」
しばらくすると、ラックが再び目を覚まし、起き上がった。しかし、そこからは疲れているような感じは一切見えなかった。
コル「兄さん、もう大丈夫なの?」
ラック「分かんねぇ、分かんねぇけど、なんだか体が軽くなった気分だ!今までの疲れが吹っ飛んだみたいだ!」
コル「本当に!?良かったぁ。あ、あの!兄さんを助けて下さり、ありがとうございます!」
ラック達の喜ぶ顔を見た女性は微笑み、再び立ち上がって話し出した。
?「元気になられてなによりです。申し遅れましたが、私はレント•ヴンダー。神々の国“ヌトロス”から来ました、掟と奇跡を司る女神です。」
ラック•コル「.....え!?」
ラック達は驚いたが、女性の見た目や先程の回復のようなもので、本物の神だと理解した。
ラック「つ、つ、つまり、あんたが...いや、貴女が神様なんですか!?」
レント「はい。貴方の強き願いが、私をここまで呼び寄せたのです。」
ラックは自分の願いがまさか本当に届くとは思わなかった。だが、逆に嬉しかった。自分の願いを聞いてくれた神様が、目の前におられたのだから。
ラック「やったぜコル!遂に神様が俺の願いを聞いてくれたんだ!こんな嬉しい事、他にあるか!?」
ラックは喜びのあまりコルを抱きしめたが、あまりにも強すぎてコルが必死に引き剥がした。
コル「に、兄さんやめて!死んじゃう!死んじゃう!ぷはッ!ハァ....ハァ....そ、そんなことより、そんな神様が、何でわざわざこの地に降りられたのですか?」
コルが聞き出すと、レントは話し始めた。
レント「私は空から、貴方方と転生者....いや、迷い者の対峙を見ました。とても悲惨な結果で終わってしまいましが...」
ラック達はこの前の戦いを思い出し、悔しさが再び甦ってしまい、つい目線を下げてしまった。
レント「あのような強大な力を持っている者が彼以外にも数多くおります。それにより、この世界に危機が迫っています。」
コル「それはどういう事ですか?」
レント「迷い者が来ることにより、それらの力や命を狙い、奪おうとしてくる者もおります。そのせいで国が、いや世界が巻き込まれ、その度に大勢の犠牲も生まれてしまいます。特に今回は迷い者の出現が一番多いのです。もし、彼らの力や命を狙い、大きな戦争などが起きたら、恐らくこの世界は...」
レントは少し黙ってしまったが、ラック達にはすぐ理解出来た。その戦争などが起きたら、この世界も滅んでしまうと....。
ラック「でも、そいつらを狙う奴って誰なんですか?」
レント「時代や国に問わず、様々です。魔物であれば人でもあり、同じ迷い者でもあります。」
コル「それじゃ一体、どうすれば....」
レント「貴方方に、迷い者を無力化して貰いたいのです。この世界の秩序と平和の為に...」
そう言うとレントは、懐から何やら宝石らしき物を、ラック達に差し出した。
コル「これは一体....?」
レント「これは迷い者に対して唯一無力化することが出来る“解放石”です。」
その宝石は白く透き通っており、光ってるように見えた。
ラック「おぉ...つまりこれが迷い者を倒せる石って事ですか?」
レント「倒すのではなく、無力化するんです。彼らは神々との契約を無視し、前世の記憶と力を強引に持ち込み、この世界に入ったのです。ですので、彼らは神々の品物に触れる事により、無力化出来ます。迷い者の魔法や能力は全て魔力によって形成されていますので、魔力を解放させれば、彼らは普通の人間になるはずです。」
ラックは、そんな素晴らしい物をもらうことにとても喜んだが、コルは不安になっていた。
コル「そ、その女神様、僕達で大丈夫なのでしょうか?何の力もないのに迷い者と戦うなんて...。それにもし、また兄さんに何かあったら....」
レント「そんなことはありません。人には必ず、大きな力をも覆す物を持っています。貴方方も例外ではありません。そして、お兄さんや貴方の事は私が最後まで見守っております。だから恐れずに勇気を出して、立ち向かえればいいんです。」
コルはレントの言葉を聞き、少しだが安心出来た。自分達にもそんな力があり、希望はまだあるんだと思った。
パレス「ラック-!コルー!どこにいるの-!」
村の方から、パレスの声が聞こえてきた。呼ばれるのは仕方ない。丸一日家に帰って居ないのだから、心配されるのは当然だった。
レント「さぁ、この石を持ってお帰りなさい。」
レントはラックに解放石を渡した。
コル「でも神様、今の僕達じゃあやはり....」
レント「それなら大丈夫です。村に戻ったら、必ず貴方方を強くさせてくれる人が現れます。」
ラック「強くしてくれる人?」
コル「その方達は一体....?」
レント「最後に私と約束して下さい。迷い者を見つけ、無力化したとしても、決して殺してはなりません。彼らも生きる事だけは罪ではありませんから。」
ラック達はレントの言葉を聞き、返事をして頷いた。そしてパレスが来て、声を掛けられ、二人は一瞬、目を離してしまい、再び石碑の方を見ると、そこにはもうレントの姿はなかった。
ヌトロス...
雲の上からヒョイッと着地したレントの所をクリオが見つけた。だがクリオはレントが下界で何をしてたのか知っていた。
クリオ「あれまぁいいんですか?掟を司る女神がこんなことしてしまって。お父上様に怒られますよ?」
クリオはそう聞いたが、レントは気にせずスタスタと宮殿らしき所に歩いて行った。
レント「ご安心を...私は掟の神ですよ。それに従ったまで...」
そう言うとレントは世界を照らし出てくれる太陽を見つめていた。だがクリオは太陽を見た瞬間、嫌な顔で手で目を覆った。
レント「そう...かつて母があの時交わした約束を果たしただけ...」