石碑に願い
山奥....
朝食や準備を終え、ラックとコルは道端の狭い山道を進みながら、石碑に向かった。
ラック「相変わらずここの道だけは草花どころか石ころ一つも無くて、歩きやすいな。」
コル「本当だね。村から別の村、遠くの街に繋がる道は毎月必ず整えようとしてるけど、ここだけは妙に綺麗だ。」
神が降りた事が名残になったのか、石碑に続く道は近付けば近付くほどとても綺麗になっており、まるで誰かが既に整えてくれたようだった。そうして二人が話をして歩いている内にさっきまで木零れ日しか無かった場所から急に眩い光が現れ、そこには木々がまるで道を開けるように左右に大きく分かれており、その先に石碑があった。
ラック「あったあった!あそこだ!」
ラックは見つけると喜び、走り出そうとしたが、コルに肩を掴まれ、止まった。
コル「兄さん、ここは神聖な場所なんだから騒いじゃ駄目だよ。石碑は逃げたりしないから落ち着いて。」
ラックはコルに注意され、悪いと言って二人で石碑に向かった。石碑はとても白く美しく、太陽の光のせいか不思議と綺麗に輝いて見えた。石碑には古い文字が小さく刻まれており、そこにはこう書かれていた。
「闇夜二輝ク星ヲ探サヌ限リ己二幸は訪レン」
この言葉は神が先祖に与えた言葉であり、今で言うと努力することを諦めず、最後まで励めば必ず幸福がやってくると言う事らしい。ラック達はこの文字を改めて見て、心に有り難みのような気持ちを感じた。
ラック「じゃここから、一回目のお願いするか。」
コル「うん。」
ラック達は石碑の前で御辞儀をし、手を合わせ、目を瞑り、心の中で願った。
ラック(迷い者にも負けない方法を教えて下さい...)
コル(兄さんがいつまでも元気で居られますように...)
ラック(そしてコルを...)
コル(そして兄さんを...)
ラック•コル(最後まで見守って下さい。)
ラック達は目を開き、また一礼をした。そしてラックはコルに向き、言った。
ラック「コル、こっから俺は神様と一対一で話す。お前はもう帰っていいぞ。」
コル「....兄さん、また無茶しちゃ駄目だよ。限界だったら辞めていいから...」
ラック「いいや大丈夫だ。俺は絶対辞めねぇからよ。」
ラックは石碑を離れ、先程出てきたた森の入口からまた歩き出し、石碑に向け一礼をし、少し目を瞑って願い、また開き一礼をすると言う事を繰り返した。しかし願いは変わらず、ただただ迷い者に負けない力を願った。
そのラックを見て、コルは心配に思った。何せ入口から石碑までの距離は約二十m。そこから数分間、願うと言うと、相当時間が掛かる。36回目となると、もう日も暮れてきたが、ラックは気にせず往復を続けた。
コルは両親にはとても大事な事をしてるとだけ言って、ラックの分の晩御飯を持ってきたが、いつもなら飯にすぐ食いつく筈のラックが見向きもせずに続けており、本気でやる気だとコルは気づいた。村の人達は冷やかしや応援などで来ていたが、次第にコル以外居なくなっていた。
コル(兄さん...もう夜も更けていると言うのにまだやってる...。頑張って、兄さん。)
コルは腹が鳴っても往復するラックを見て、応援すると同時に、心配する気持ちが募っていた。
そして夜が開けそうになる前に、百回目のラックの願いが終わろうとしていた。ラックは朝以外何も食べず、飲まず、更に休まず往復していたため、足はふらふらになり、今にも倒れそうになっていた。
ラック(ハァ....ハァ....これで最後だ....。神様...頼む、俺はどうすれば、あいつらに勝てるんだ....。ちょっとでいい、ほんのちょっとでいいから....)
ラックは石碑の前に立ち、手を合わせ、目を瞑り、願った。
ラック(迷い者に負けない方法を教えてくれ....!)
ラックは一礼をし、そのまま膝から崩れるように座り込んだ。
コル「兄さん!やったよ!遂に百回やったんだよ!」
コルは倒れそうなラックを抱き支え、喜ぶように言った。
ラック「ニシシ...これで...神様...聞いてくれるかな...?」
ラックの問いにコルは優しく答えた。
コル「うん、きっと聞いてくれてるよ兄さん。」
そして、山の麓からの日の光がラック達や石碑を照らし出した。その光はラック達にとっては今までに無いほど、とても眩しく、輝いて見えた。
?「貴方の願い、しかと受け止めました。」
気が付くと、石碑の前には見たこともないような、美しい女性がラック達を見つめていた。