第30話
何もない、静かな村だ。狩猟や山菜、村の周りの畑で取れる物での生活。質素だが穏やかな雰囲気が儂には、心地よく感じられた。
禿の男が村長のところに儂を連れて行き、ことの仔細を話したところ、滞在を快く承諾してくれた。その際名を尋ねられ、昔の名前の一文字を取り、ショウと名乗った。
村人たちは、儂によくしてくれた。村長宅の離れに儂は居候させてもらい、村の女達が食事の世話などをしてくれた。
村の子供たちも、強面でギラついた目の儂のどこが気に入ったのか「ショウのおっちゃん」と声をかけてくる。儂が「むっ」と言って振り返ると、キャッキャと喜び、逃げて行く。
儂はそんな村に、恩を返そうと、野山を散策する際に薬に使えそうな葉や実を持ち帰り、調剤を繰り返し、村の病人や怪我人に与え治療をした。
そんなある日、日課の調剤をしている部屋に、女が大慌てで駆け込んできた。
子供が、森の入り口で野草摘みをしている際に、魔物に襲われて大怪我をしたらしい。
儂は使えそうな薬を、急ぎ準備し、女とともに子供の所へ走った。
村の入り口近くまで子供は運ばれてきていた。
儂は、治療のために近づく。子供は左手を食いちぎられ、右足にも大怪我をしていた。
母親は気も狂わんばかりに、儂達に助けを求めていた。
儂は目視でもう助からんと判断し、痛みを和らげてやろうと決め、母親にそのことを話した。
母親は、泣く泣く承諾し、儂にすべてをまかした。周りですすり泣く声が聞こえてくる。
救えなかった命を救うために、儂はこちらへ来ることを望んだのではなかったのかと唇をかみ締め、男の子の額にそっと手をのせた。
すると、目を開けた子供が、右手を儂の方に差し出した。その手には、毒消しや回復の葉が握り締められており、儂は両手で子供の右手をつつみ頷く。
子供は力なく微笑んでいるが、力が徐々に抜けて行くのが感じられる。




