第27話
今夜が、満潮となる。
日が一番高くなる時刻に潮が満ち、多数のモレイが、海岸線を埋め尽くした。
「弓隊、撃てー」
「遊撃隊、前へー」
弓は、ほとんど足止め程度の効果しか上がらない。マコトら、遊撃が直接モレイを削って行く形になる。
オンモは、先日設置した柵に物理結界を施し、モレイの大群を少しずつ、中央に誘導していく。遊撃隊が、大きく後退した時点で、オンモが中央に壁状に結界を張り、モレイの進行を止める。
魔術師部隊が、雷系の魔法をまとめて、モレイに放り込み、数を大きく減らし、オンモも、負けずと、雷の術式を無詠唱で展開し、極太の稲妻をモレイの集団に散らしていく。
大幅に数を減らして、後方に下がり始めたモレイに対し、遊撃隊が、追い討ちをかけていく。
マコトの振るう愛刀によって、モレイが斬り飛ばされていくが、数が数であり押され気味に転じてしまう。
冒険者で構成された遊撃チームに犠牲者が出始め、マコトの奮闘も限界に近づきつつあった。
そんな中、マコトはオンモの術のような雷の力を欲した。すると頭の中に言葉が浮かび、愛刀が輝きを持ち始め、その刀身の色が黄色に変化していく。
菊一文字改:熱界雷。
稲妻を纏い走らせ、その攻撃範囲を大きく広げ、次々にモレイを駿滅していくマコト。
奥に進むと、白い男が立っていた。
「貴様か。異物は」と白い男はマコトを睨む。
異変を感じたオンモはマコトの体に、遠方の陣地から物理と魔力への結界を施す。
「他にもいるのか。今摘み取らねば、後々邪魔になるな」
白い男は、右の手のひらに水の玉を生み出す。
「まずは、遠くの結界使いからだ」と言うや否や、水球が陣地へ飛んでいった。
オンモは、自分の方に禍々しい気が迫るのを感じ、結界を自分の体の大きさに多重に展開していく。水球が結界にあたり、結界の砕ける音が連続して響き、水球がオンモの目前に迫り、オンモは恐怖から目を閉じてしまう。
オンモは、激しく突き飛ばされ、陣内を転げていって自分の立っていた場所をみて驚愕した。オンモの身代わりに、体の半分が吹き飛んだダンコがゆっくりと倒れていくのが見えたからだ。
「はずしたか」
「オンモを狙いましたか。あなたのモレイを斬り飛ばしたのは、私ですよ」
「菊一文字、乱舞」とマコトが唱えると、刀身が点滅しその色を変えていく。
赤は炎、緑は風、黄は雷、茶は土、白は光、黒は闇の属性付与。
菊一文字は、振るわれるたびに刀身に纏う力を変化させ、白い男を斬りつけていく。
白い男も、指を変形させ剣のように振るうが、オンモの結界の効果もあり、マコトには傷ひとつ付かない。
「仕上げは、突きます。三段いきますよ」とマコトは白い男に言う。
劣勢となった、男は一歩さがるが、マコトの間合いにあり、マコトの言葉通り三段の突きが男の体に入り、刀身は男の心臓の辺りに残る。少し遅れて赤から始まる属性の突きが刀身は男の体に残っているにもかかわらず、順次男の体に突き刺さっていった。
「属性の突きも、三段ずつ入るのですね」
形の大きく変わった白い男だったものが、白い煙につつまれ消えていく。
残党のモレイは、急に動きが緩慢になり、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、ふっと我に返ったようで、波打ち際に向け一斉に走りだした。
マコト達遊撃隊が街の前に組まれた陣に帰ると歓声につつまれた、海の魔人を撃退した喜びに沸いていた。
一方では、一緒に戦った仲間や同僚、家族を失った者達が、歓声の中、涙にくれていた。
オンモも、動かなくなったダンコの傍らで、肩を震わせ泣いていた。
マコトが近づくと、オンモが「我の結界が弱く、ダンコが身代わりに・・・」
「我には、式神がおったのに。術に溺れ、準備を怠った」激しく、オンモは後悔した。
マコトは、優しくオンモを抱きしめ、ダンコの冥福を祈った。




