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君が大好きな君へ  作者: シュット
7/25

7.進&倫子

何か線引きみたいなものがあるらしい。

「ご飯!」

階下から母親が呼ぶ声がする。動画を見ていて寝落ちしていた進は、眠い目をこすりながら体を起こす。ボーッとしながら、ゆっくりと体の起動スイッチを入れる。調子が整ってから、階段を下りる。既に倫子と母親は席に着いていて、食事を始めていた。テレビ画面には毎週母親が見ているらしいドラマが映され、母親だけがちらちらと目を向けている。進も椅子に座る。そして双子は、黙々と箸を進める。

「あ、しまった」

母親が思い出す。

「回覧板、お隣さんに渡してこないと。ちょっと席外すわね」

母親が家を出ていった。進はリモコンを取り、テレビのヴォリュームを下げる。

「いつからテレビ見なくなったんだろうね」倫子が呟いた。

「知らない。高校に入ってからかな」と答える進。「なんか物足りないんだよな。どうせこの箱の中の人たちはフィクションの世界の住人だし、どれだけドラマがリアルに似せようと頑張っても、肝心なとこで現実味が足りてなかったりするしな。見てても空しくなるだけさ」

「そうね」と相槌を打つ倫子。「それに、もうあんまり学ぶこともないのかもしれない。大抵、ドラマって、何か製作者が伝えたいことや教訓があって表現されるものだけど、その手の教えってもう大体、この年になるまでに身に着けてるしね。『普通』がひとによって違うって話とか、『二つの正義が戦ってて、尚且つどっちが正しいとも言えない場合がある』みたいな構成の物語ももう飽きたわ。大体、これだけ生きてればそんなこともう自分で考えて分かってるし、今更感がある」

「なるほど」と進は言うが、それとは裏腹に(じゃあなんで、お前は本読んでるんだよ)と心の中でツッコミを入れた。しかし、口には出さなかった。彼女の中では何か線引きみたいなものがあるらしい。

ともかく、倫子も進も、世俗的なものにはあまり積極的でないきらいがあるので、流行っているドラマなんかは魅力的には映らないのだ。

母親がテレビ好きな関係で、常にテレビは点いているようなものなので、何が上映されているかくらいは二人は知っているし、勿論気になってみることもあるが、反応はない。

例えば、お笑い番組が映っている場合にも、二人は表情一つ変えないし、何もコメントすることもない。テレビを見ている場での笑いが、誰の為になるかが分からないのだ。

―日常生活の場で生まれる笑いは、相手の冗談が通じたという意思表明であったりするが、テレビ相手にそのようなことをしても意味はない。面白ければ自分の心の中で笑えばよいのであり、それを表に出す程のことだとは思っていなかった。

二人とも内向的な人間のため、自分の中の確固たる世界というものをもっている。この世界への、テレビの入場券はあまり発行されていないらしい。


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