12.進
「&&~$%*‘+H?%$‘+*?@?」
進はまどろんでいた。ラジオで何やらわちゃわちゃ音がするようだが、彼の蝸牛には響かない。
目を細めて窓の外を見やる。眩しい日差しが彼の目をそうさせ、それ以上は何物も彼の目に印象を与えることはなかった。鈍い音を立てて道路を走っている車のぶうんという音、そして振動。それら環境が作り出す空気感と彼は一体になろうとしていた。
今日は日曜日。高校単位で受ける模試が県立の大学で行われる。1年生のころから模試慣れしていた進は特に新鮮味もないまま、いつも父に車で送迎されるときのぼうっとしたテンションで構えていた。昨晩は良く眠れたせいか、今朝は車内で寝たくても寝られない。起きてはいるが半分寝たような状態、良くいってこんなものだろう。こんな体たらくな自分の為に、朝早くから運転をしてくれる父に感謝しなければ。彼はそんなことを思いながら大学までの道を過ごしていた。
気づいたら、校門のところまで来ている。本当に一瞬のように感じた。朝ボケの自動運転モード様様である。とりあえず来たことのない大学なので、先ずは学内マップを見つつ、目的の場所へ足を運ぶ。朝早く、それも休日なだけあって人はそれほど見かけない。逆に進は「この人たちはわざわざ休みの日に大学に来る用事があるのだろうか」と考えながら、道行く人を眺めるくらいだった。
目的の校舎にたどり着く。受験番号を確認し、教室へと向かう。あまり電気が点いておらず、ほの暗いままの廊下をゆっくり進んでいく。多分自分が一番だろうから、そう早く着いたところで持て余すのが分かっていたので、掲示板なんかをときどき見ていた。
教室の前に立つ。やはり、室内には同級生の雰囲気は感じられない。代わりにといっては何だが、試験監督の人が問題冊子を机の上に配っているところであった。
教室にも入れないので、しばらく部屋の外で待つことにした。壁に背を持たれ、床に尻をつけるような形で腰を下ろす。鞄に手を伸ばす。これは中学生の時にも使っていたサブバッグだ。高校のサブバッグを使うのは中身の入れ替えが面倒なので行わない。結果、模試に来るときの彼の相棒は常にその鞄であった。中に入れている単語帳を引き出し、英単語の勉強。教室が空くまでまだだいぶ時間があるだろう。
彼はこのまま暫く、インプット作業に没頭していた。
長い一日がこれからまた、始まる。