白い肌と怒れるニワトリ
巨大ニワトリの嘴がオレの胸に振り下ろされようとした瞬間。
トンボの脚が回転しながら飛んで来て、ニワトリの眼前を通り過ぎた。
一瞬、動きを止めるニワトリ。
リョウちゃんが、咄嗟に投げてくれたのだ。
命中はしなかったが、オレが体勢を立て直すには十分な隙が生まれた。慌てて巨大ニワトリの下から逃れ、大きく距離を取る。
「グオッ!!」
獲物を取り逃がした怒りの表れか、巨大ニワトリが野太い鳴き声を漏らす。
そのお尻近くの羽毛がチリチリと燃えているのに、奴は気づいているのだろうか。
立ち上がりながら、左手の人差し指が触れた場所に、着火の魔法を使ってやったのだ。
「でも、やっぱり火力が小さいな。丸焼きになるのに何時間もかかりそうだ。だったら、もっとあちこちに火を付けてやれば――――」
ニワトリが攻撃を仕掛けて来たのに合わせて、オレは斜め前方に飛び出した。
すれ違い様に狙ったのは、今度は片方の羽根だ。
トンボの脚を振り抜くと、羽毛がパッと舞い散る。
しかし、大きなダメージを与えた感触ではない。
振り向くと、巨大ニワトリも同じタイミングで振り向いたところだった。やはり、弱った様子は見られない。
そこに、横手からトンボの脚が飛んで行く。もちろん、リョウちゃんだ。さっき倒した巨大トンボの脚を全部リョウちゃんに持ってもらっていたのが役に立ったか。
またも、一瞬オレから注意がそれるニワトリ。
オレは大きく踏み込むと、上段からニワトリの羽に斬りつけた。
トンボの脚が骨を打つ、ゴツッとした手応え。
「ギュアッ!!」
今度こそ確かな手応えとともに、巨大ニワトリの片羽根が伸ばされたままダラリと垂れ下がった。
追い打ちをかけるチャンスだ。
力を失った片羽根をオレは左手で掴むや、思い切り引き寄せる。
羽根の骨が折れたのか関節が外れたのか、左手にゴリゴリとした振動が伝わって来た。巨大ニワトリが苦鳴を洩らす。
伸び切った片羽根の付け根にトンボの脚を打ち付けると、またも羽毛が飛び散った。が、今度はそれに血飛沫が混じっている。
「ゴエェェェッ!!」
巨大ニワトリが嘴を繰り出して来たので、片羽根から手を離し、さっさと距離を取った。魔力を使って反射神経をアップさせているので、冷静になれば、ちゃんとニワトリの動きに付いていける。
今の攻撃で、完全に片羽根を壊す事が出来た様だ。左側の羽根が地面に引きずられている。おまけに、オレの掴んでいた場所からチロチロと立ち上る赤い炎が見える。
リョウちゃんが投げてくれたトンボの脚が1本、近くに落ちているのに気づき、オレはニワトリをけん制しながら、それを拾い上げた。二刀流でやってみようか。
ニワトリはオレを凄い目で睨み付けながらも、自分から動こうとはしない。オレから近づいて来るのを待っているのだろうが、悠長に構えてて良いのかね? ほら、だんだん炎が大きくなってきたぞ?
「ゴゲッ!?」
それから10秒も経たないうちに、自分の羽根とお尻に火が付いているのに気づいた様だ。巨大ニワトリが、明らかにパニック状態に陥った。火を消そうと、地面の上をのたうち回り出したのだ。オレの存在は、瞬間的に綺麗に忘れてしまったらしい。
さすがニワトリ型モンスターだけあって、頭はあまりよろしくないと見える。
オレは巨大ニワトリに近づくと、トンボの脚2本でその巨体を叩きまくった。技も何もない、ただの力任せという奴だ。
羽毛を飛び散らせるばかりで、一撃毎のダメージは微々たるものだったろうが、叩き続けていると、たまに確かに肉を割った感触が返って来る時がある。
おまけに、途中からはリョウちゃんも残酷ショーに参戦してくれたので、巨大ニワトリは、確実に弱っていった。
羽毛を肌に張り付かせ、血飛沫でその身を彩らせたリョウちゃんを眺めながらトンボの脚を振るっていると、いきなり尾てい骨の底から突き上げる様な衝撃が、オレの身体を走り抜けた。そして同じ所から熱い物が湧き出して来る。
それが、巨大ニワトリを倒した代償である事は、容易に想像が出来た。
が、これまでとは、ケタが違い過ぎた。トンボやゾンビを倒した時は、わずかな熱量が身体の中に入って来たのが分かるという程度だったのだ。
尾てい骨の底からコンコンと湧き出す熱が、血流に乗ってゆっくりと全身に広がって行く。そして、その熱の直撃を最初に受けたのが、スパッツの中のマコトくんだ。まるで高校生の時の様な勢いで、熱く硬く己の存在を誇示し始める。
これは、悪くない。
驚くほど身体が軽く感じられる。
尾てい骨の底で、新品のエンジンに火が入ったかの様だ。
ニワトリからもらったダメージも、綺麗さっぱり消え失せていた。
今から巨大ニワトリと再戦したら、あっさりと勝ててしまえそうに思える。
それより何より、こんな出力全開状態の相棒と再会出来る日が来ようとは、想像も出来なかったわ。40才を目前に、急に勢いがなくなっていたのよね。
オレは、若き日の猛々しさを取り戻したマコトくんに気づいてもらいたくて、リョウちゃんに視線を向けた。
と、リョウちゃんはリョウちゃんで地べたにお尻を落とし、両手を太ももの間にはさんだ状態で、切なげに喘いでいる。完全に、その最中の表情だ。しかし、目を潤ませ、顔を朱に染めながらも、恥じらいは失われていない。
「大丈夫? 怪我とかしてないか?」
その状態が怪我なんかによるものじゃないと分かってながら、オレは心配する素振りでリョウちゃんに近寄った。リョウちゃんもオレと同じで、尾てい骨の底から湧いて来る熱に、身体を火照らせている筈だ。
「え? あ、はい、大・・・丈夫です」
こちらを振り向く瞳が潤んでいる。顎が少し上がり、厚ぼったい唇が半開きになっている。色っぽいオーラをまとっているリョウちゃんに、オレの理性はあっさり白旗を上げた。
「トンボの脚を投げてくれて、助かったよ」
言いながら、リョウちゃんを抱く様に両手を伸ばす。
リョウちゃんもオレを迎えようと自然に両手を伸ばし・・・急に動きを凍り付かせた。
視線が、オレの股間に釘付けになっている。
そりゃそうだ。座ったままのリョウちゃんにオレが歩いて近寄れば、ちょうど顔の高さに股間が来てしまう。それも、魔力を大量に吸収して相棒がいきり立った状態で。
オレはとっさに膝を突いて顔の高さを合わせると、なし崩しにリョウちゃんに抱き着き、そのまま押し倒した。
「え? え?」
理解の追い付いていないリョウちゃんは、うろたえるばかり。勢いのまま唇をふさいでも、抵抗する様子はない。むしろ反射的になのか、リョウちゃんの舌がおずおずとオレの舌を迎えてくれさえした。
これは、チャンス、大チャンス。
左手で、極薄スポーツブラの上から量感たっぷりの胸を優しく揉みしだく。
熱い吐息を洩らすリョウちゃん。
こ、これは、最後まで突っ走っちゃって大丈夫だろう。
つか、このチャンスを逃したら、二度とリョウちゃんを落とせる機会はないかも知れない。
オレは邪魔っけなスポーツブラをめくると、真っ白な丘の頂を覆い隠しているニップレスを剝がそうと・・・。
「ゴケェェェ~~~~ッ!!」
突然、けたたましい鳴き声とともに、爆発的な殺気が、オレの背中に叩きつけられた。
やばい!!
それだけは、分かった。
後ろも見ずにリョウちゃんを抱き上げると、全力で前方にダッシュ。
間一髪で、オレとリョウちゃんが寝ていた場所に巨大な質量を持った物が突き刺さり、地響きを立てる。
「いやぁ~~っ!」
リョウちゃんの悲鳴を聞きながら、オレは地面を転がった。
転がりながら見えたのは、さっき倒したのより明らかに大きな体躯で、派手派手な羽飾りをまとったニワトリ型モンスターの姿だ。鳥ながら、とても目付きが悪い。
もしかして、オスか?
だとしたら、大事なメスを殺されて、怒り狂っているのか?
だからと言って、オレ自身も、オレの大事なメスも、奴に殺させる訳にはいかないのである。
オレはリョウちゃんの胸の膨らみをオスニワトリの目から隠しながら、第2ラウンドの開始をゴングを頭の中で鳴らした。
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