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異世界のネットアイドル

 そして、10日後。

 実家に戻ったオレの隣には、なんと、緊張感まる出しのリョウちゃんがいた。

 リョウちゃんもオレも、素肌の上にバスローブを羽織っただけの、大人な出で立ちである。と言っても、色っぽい場面ではない。

 目の前には、異世界への扉が黒々とした口を開いている。

 そう。オレたちは、今から異世界へ渡ろうとしているのだ。


「大丈夫か?」

「は、はい!」

 オレの問いかけに、ガクガクと頷いて応えるリョウちゃん。

 顔の色が青い。ここに至って、本当に異世界に連れて行って良いものか不安になる有様だ。

 実際、リョウちゃんから異世界への同行を求められてから、オレはひたすら断り続けてきた。タクヤみたいな殺しても死にそうにない男ならともかく、リョウちゃんの様な華奢な女の子(多分)をモンスターの跋扈する世界に連れて行って、もしもの事があったら悔やんでも悔やみ切れないからである。


「今なら、まだ間に合うぞ。やめておくか?」

「やめません! マコトさんには迷惑をかけませんから!」

 緊張しながらも、リョウちゃんはその意志が揺るがない事をアピールする。

 でも、リョウちゃんが大怪我をしたり、それこそ死亡しちゃったりしたら、確実にオレの責任が問われるんだよなぁ。リョウちゃんは、全ての責任は自分にあるとの念書まで用意してくれたけど、それでオレの責任が回避される訳はないのだ。仮に法律的に罪に問われなかったとしても、オレは自分自身を許せないだろう。


 でも、結局オレはリョウちゃんの頼みを受け入れた。

 下手をすると、オレが罪に問われる可能性があると重々分かっての事だ。

 それだけ、リョウちゃんが真剣だったからである。

 20才になったばかりの女の子が生命をかけてまでやろうとしている事を、オレは足蹴に出来なかったのだ。オッサンと呼ばれるトシまで何一つ成し遂げてこなかったオレには、彼女の生き様は眩し過ぎた。

 で、リョウちゃんが生命をかけてまで何をやろうとしているかと言うと――――。


「私みたいに20才も超えちゃって、何の取り柄もない人間がアイドルとして注目されようとしたら、こうでもするしかないんです!」

 異世界での自分の姿を動画に撮り、ネットで配信し、人気を得る。

 それが、リョウちゃんの狙いなのだ。

 目指すは、異世界アイドルという訳である。

 生命がけでアイドルをやったり目指したりしている人間は数多くいるだろうけど、ここまで身体を張ろうとする女の子は多分いないに違いない。

 果たしてアイドルとして売れる事が生命を賭ける程のものであるかは、オレには判断出来ない。でも、リョウちゃんにとっては、それだけの価値がある事なのだろう。


「了解。リョウちゃんが何の取り柄もないとは思わないけど、本気さだけはよく分かったよ。じゃあ、本当に行くよ。準備は良いかい?」

「は、はい! 大丈夫です!!」

 オレを信じ切った表情のリョウちゃんの手を取ると、2人して和室の畳の上に場違いに浮かんでいる黒い穴に正対する。

「じゃ、異世界に出発!」





 リョウちゃんが何か叫んだ様にも聞こえたけど、一瞬の暗転の後、オレたちは太陽の照り付ける草原に立っていた。

 最初にオレが降り立った場所と全く同じ場所である。

 オレにとっては2度目、リョウちゃんにとっては初めての異世界だ。相変わらず、木星に似た星が赤く不気味に輝いている。

 そして、土臭い風が素肌を撫でていく。

 ついさっきまで着ていたバスローブは、どこにもなかった。おそらく、実家の和室に取り残されている筈だ。つまり、オレは素っ裸なのだった。そして、リョウちゃんも同じく――――。


 視線を向けると、呆けた様に口を半開きにしているリョウちゃんの横顔が目に入った。

 アイドルを目指しているだけあって、呆けていても本当に綺麗な顔立ちだ。

 その下には細く華奢な首と肩が繋がり、更に視線を下げると、予想外に白く大きな胸の膨らみ、削げた様に薄いお腹、丁寧に整えられた(くさむら)までが・・・。

 オレの視線に気づいたリョウちゃんが恥ずかし気に胸元を隠しながら、身をよじった。

 騒ぎ立てたりせず、静かに頬を羞恥に染めるその仕草に、一瞬にしてオレはハートを打ち抜かれた。


「ごめん。つい・・・」

 慌てて視線をそらしながら、オレはアイテムボックスから小さなポーチを取り出すと、リョウちゃんに手渡した。

 一度目の異世界行で朝までゾンビを倒しまくったおかげで、オレはアイテムボックスが使える様になっていたのだ。

 ただし、その容量は500ミリリットルのペットボトルを4本まとめた程度。持って来れた物は、本当にごく少量だった。


 リョウちゃんに渡したポーチの中身は、彼女自身が用意した服だ。もちろん、ぎりぎり最低限の物である。

 オレもアイテムボックスからトレーニング用のスパッツを引っ張り出して、急いで足を通した。かさばらない事を重視して選んだ物だけあって、材質は薄々。股間のマコトくんの(たたず)まいが、くっきりはっきり浮き出している。これでスポーツジムに行ったら、出入り禁止になること間違いなしだ。

 上半身は、裸のまま。後は、ウォーターシューズとかマリンシューズとか呼ばれる極薄素材の靴を履いて、準備完了である。この靴もアイテムボックスに押し込む為だけに、丸められるというだけで選んだ物だ。


 リョウちゃんはと見れば、オレと同じく極薄のスパッツとスポーツブラを着け終わったところだった。こちらに背中を向けたままだが、キュッとくびれたウェスト、そしてスパッツ越しに形が見て取れるキュッと上がったヒップがオレのハートをザワザワさせる。

「リョウちゃん、靴も」

「あ、はい」

 オレのと同じ靴を渡すと、リョウちゃんはそれを手早く身に着けた。

 

 リョウちゃんの動きに合わせて、カップの入っていない薄々のスポーツブラの下で、押さえつけられたバストが魅惑的に弾む。弾む。

 先っぽの突起の位置が分からないのは、ニップレスでも貼っているのだろうか。

 非常に残念である。

 最後に、アイテムボックスから小型のビデオカメラを取り出す。

 2人分の服と靴、それとビデオカメラで、オレのアイテムボックスは、ほぼいっぱいだった。


「準備は良いかい? 試しにちょっと撮ってみる?」

「はい、お願いします!」

 ビデオカメラを向けると、リョウちゃんは露出度満点の格好で演技を始めた。

 驚きに満ちた表情で辺りを見回し、「ここが異世界なのね・・・」と呟いてからカメラに向き直る。かなり素人臭い演技・・・。

「こんにちは。リョウです。

 今回から、私の異世界探索の様子を動画で紹介していきたいと思います。

 私の事は、これから少しずつ紹介していきますね。まずは、この世界で30時間、頑張って生き抜かなきゃ。皆さん、応援して下さい」


 セリフを言い終えると、リョウちゃんはカメラにヒップを向け、ゆっくりと歩き出した。

 黒いスパッツと白いスポーツブラだけをまとった肢体が遠ざかる。スパッツは太ももの3分の1にも届かない丈な上に、ローライズ。背中側から見ると、無防備極まりない。

 これは、男どもに人気が出そうだ。

 アイテムボックスの容量の関係で最低限のの服しか持って来れなかったとは言え、リョウちゃんもわざと露出度の高い恰好を選んでいるのではなかろうか。

 オレの目は、リョウちゃんのヒップに釘付けである。





 20メートルほど離れてからリョウちゃんは(きびす)を返し、コソコソとオレの所に戻って来た。

 遠ざかる時の堂々とした様子は消え去って、へっぴり腰になって怯えまくっている。

「だ、大丈夫ですか? モンスターは来ませんか?」

「大丈夫、大丈夫。オレがちゃんと見てるから」

 何が出て来るか分からない異世界で、いきなりオレから距離を取ったのが、よほど恐ろしかったらしい。リョウちゃんが遠慮がちにオレの左腕にすがろうとする。

 ああ、異世界サイコー。


「じゃあ、いよいよモンスター討伐といこうか」

 可愛い女の子にくっつかれているのは嬉しいけど、いつまでもグダグダしている訳にはいかない。オレは、この出現場所に元々用意していたトンボの脚を拾い上げると、リョウちゃんに手渡した。

 いよいよ本番である。

 



 

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