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着火の魔法

 オレはトンボ型モンスターの複眼に突き立てていたバッタの脚を引き抜くと、それを使ってトンボの脚を関節から切り離した。

 これで、更に6本の武器をゲットだ。

 トンボの脚はバッタの物よりも長く、生えているトゲトゲも大きくて鋭い。大刀の様に振り回せば、トンボの翅ぐらいなら切断出来てしまうだろう。それでいて、見た目に反してずいぶん軽くて扱い易い。

 加工技術があれば、ちゃんとした刀っぽく仕立て上げたいところだ。


 ゲームや小説みたいに、簡単に刀が作れたら便利なのになー。

 そう考えた時、体内にわずかに残った魔力が動き出す気配があり、しかしすぐに静まった。

 そして脳内に“不可”というイメージが明滅する。

 どうやら、神経系の強化に続いて、素材を加工する能力を身に付けようとしたらしい。その結果が“不可”という訳だ。

「なるほど。魔力をもっともっと取り込めば、そういう能力も手に入れられるんだな。これは楽しみだ」

 あまりにゲームっぽい世界の有り様に、思わず笑いが漏れてしまう。





 右手にバッタの触覚を持ち、左手でバッタとトンボの脚を抱え、オレは10本近い灌木が集まっている所まで移動をした。

 そこを、とりあえずの拠点とする為である。

 せっかくの異世界なのだから、移動して色々な景色を見たいのが本音だけど、まずはこの世界で生きていける力を身に付けるのが先決だ。

 今回は30時間何も食べられないだろうし、下手をすると水も飲めないかも知れない。ここを拠点とし、水を探しながらモンスターを狩るのが賢いだろう。


「でも一番怖いのは、夜なんだよなぁ。真っ暗闇の中、モンスターに脅えながら過ごさないといけないんだから。夜までに強くなるのはもちろんだけど、夜営の準備もしとかないと。あー、飲まず食わずの上に、徹夜か? そんな体力、おっさんにはないぞ」

 仕事を辞めたばかりで若干自棄(やけ)になっていたところに、異世界の扉を発見した驚きが加わって、衝動的に異世界に渡って来てしまったけれど、安全性を考えるなら、せめて3人ぐらいで事を始めるべきであった。勇者たちのレポートでも、そう推奨していた筈だ。


 オレは、何人かの知り合いの顔を思い浮かべてみる。

 身体もデカくて、精神的にもタフで、ちゃんと頭も回り、信用のおけるヤツ――――会社にいたな。ちょっと声をかけてみるか。

 が、それも今回の探索を生き延びてからの話である。

 1本の灌木の根元を拠点に決定すると、焚き火用の薪を拾い集めにかかる。モンスターもやはり、好き好んで火には近寄って来ない筈だ。派手に火を燃やすとしよう。


「って、どうやって火を付けるんだよ? 木をこすり合わせてか? どれだけ時間がかかるか分からないし、そもそも成功する自信がないぞ」

 どうせ時間をかけるんなら、モンスターを狩って火魔法を身に付ける方が良いよな。

 薪になる木をある程度集めると、トンボの脚2本とバッタの触覚だけを持って、オレはモンスターを探し始めた。残りの脚は、拠点で保管しておく。


 そして、すぐに見つかったのは、またもやトンボ型モンスター。

 この辺りには、トンボが多いのかな?

 トンボって水辺にいるイメージがあるけど、オレの思い込みかな? 卵を産む時だけだったかな? でも、近くに水場があるって言うんなら、本当にありがたいんだけど。

 オレがそんな事を考えてると、トンボ型モンスターが真っ直ぐに迫って来る。トンボくん、血の気が多いな!


 トンボの巨体を引きつけてから、オレはトンボの顔面にバッタの触覚を叩きつけた。そのまま地面を転がって、トンボの突撃をかいくぐる。

 神経系の強化をしたせいで、トンボの動きがよく見える。そして動きが見えるおかげで、恐怖心が薄い。

 また、自分の身体のコントロール具合が精緻になっていて、無駄のない動きが出来る感じだ。

 筋肉的には今までと変わらないので、自分の身体がゆっくりとしか動かなく感じられてもどかしいけど、初戦闘時に比べると余裕を持って戦えている。


 転がりながらバッタの触覚を手離すと、トンボの脚の1本を右手に持ち替え、立ち上がり様にトンボの翅を切り飛ばした。

 片側の翅を失って、トンボはあっさり墜落。その背にまたがり、頭部と腹部のつなぎ目にトンボの脚を突き立てる。

 一度、大きく身体をのけ反らせるや、すぐにその巨体から力が抜けた。

 びっくりするぐらいの楽勝だ。


 しかし、細かなトゲだらけのトンボの背中にまたがったせいで、オレの内太ももから尻、それに大事な大事なマコトくんが傷だらけになってしまった。

 しばし悶絶。

 トンボ型モンスターの魔力を取り込んだら急速に傷が治ってくれたから良いようなものの、素っ裸での戦闘はリスクが大きすぎると痛感した次第だ。


「くーっ。靴も欲しいけど、やっぱ服も欲しいなー。軟弱なおっさんの肌は、意外と敏感なのよねー」

 ぶつぶつ言いながら、またトンボの脚を切り離し、適当にそこいらの地面に突き立てておく。しばらくはこの周辺を巡回するつもりなので、あちこちに武器を置いておけば、役に立つだろう。

 そして、火魔法をゲットしたいと念じてみたけど、頭の中で“不可”のイメージが踊っただけだった。





 その後は拠点を中心に歩き回り、更にトンボ型モンスター2体とバッタ型1体、新たに身体の大きさがチワワ並みのコウモリを1体狩った。

 スライムを一方的に狩るのはイヤとか言いながら、ずいぶん動物愛護の精神に反する真似をしてしまったけど、「それはそれ、あれはあれ」という事にしておく。

 結局、オレは自分勝手な人間なのだ。言い訳は出来ません。

 これからは、スライムを乱獲したという話を聞いても責められない。「そういうのもアリだよねー」と思う事にしよう。


 で、それだけのモンスターを倒しながらも、オレはまだ火魔法を覚えられずにいた。

 勇者たちのレポートでは、どれぐらいのモンスターを倒したら魔法が覚えられたと書かれていただろうか。自分が異世界に渡る日が来ると分かっていたら、もっとしっかり予習しておくんだったのに。

「いや。あの穴に飛び込む前に、必要な情報を仕入れておけば済む話だったな」


 結局水場は見つからず、火魔法も覚えられないままだったけど、空が薄暗くなり始めたので、仕方なく拠点と決めた場所に戻る。

 濃い紫色に染まりつつある空の中で、木星に似た星が存在感を増していく。ちょっと気味の悪い雰囲気だ。

「うわぁっ、このまま暗くなると思うと、けっこうビビるなぁ。闇の中から得体の知れない化け物が現れそうな気がしてしょうがないよ」

 ますます、火の力に頼りたくなる。


「火魔法を覚えさせて下さい! お願いします!!」

 無理を承知で、もしかしたら見ているかも知れない神様にお願いしてみるが、やっぱり“不可”のイメージが返ってくるだけだ。

「ああ、せめて薪に火が付けられるだけでも良いのになー。こう、指先からライター程度の炎が出るみたいな――――」

 左手の人差し指だけを立てて、顔の前に持って来た途端、身体の中で魔力が大きく渦巻いた。同時に、脳裏に閃く“可能”のイメージ。


「え? え? えーっ!?」

 一気に魔力の流れが人差し指に集中して行き、そこにシャレにならない熱と痛みが生じる。

 人差し指が爆発したかの様な感覚!

 うわわわわわっ!!

 慌てまくるオレ。

 が、次の瞬間、不意に熱と痛みが消え失せる。


 今、自分の中で何かが書き換えられた。

 なぜか、それが分かった。

 そして。

 オレの人差し指の先に。

 ポッと、小さな炎が生まれた。


 着火の魔法、習得。







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