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上位種

ただでさえ遅い更新がますます遅くなって、申し訳ありません。

小説を書くのに、ほとんど時間が取れなくなっていたす。

なんとかそれでも、更新速度を上げたいとは思っているのですが・・・。

  マコトという男がオークたちに何をしたのか、まるでゲンゴローには分からなかった。ただ確かなのは、自分たち3人でかかっても、オークたちを殲滅するのにはもっと長い時間がかかるという事だ。

  オークたちの攻撃は、無造作に立つ男の身体をことごとくすり抜けてしまい、逆に男の攻撃は至近距離から確実にオークたちにダメージを与えた。ゲンゴローの目には、そう見えた。


「な、何をしたんだ? どんな能力を使ったんだ!?」

  自分たちとはまるでレベルの違う戦いを見せられて、狼狽えるゲンゴローたちを尻目に、ウサギビトは当然の様子でオークたちの装備を剥ぎ取っていく。その顔を見れば、男が勝つ事を最初から信じて疑ってなかったのだと分かる。


「ほうほう。なかなか良い物を持ってるじゃないか。街に近い場所に出て来るだけあって、腕自慢のオークだった様だねぇ」

  思わぬ臨時収入の山に、ウサギビトの声が弾む。

  オークたちの持っていた武器は、それなりに値の張りそうな金属製の物ばかりだったのだ。おそらくはイラザカヴァールを出入りする者たちを殺して、奪い取ったのであろう。


  ゲンゴローは、戦利品を漁るウサギビトを守っている男に、恐る恐る近づいた。

「あ、あの・・・あんた、マコトっていうのか? ちょ、ちょっと、聞いてもいいか?」

「マコト()()だろ?」

「え? ああ、マコトさん・・・」


  まともに敬語を操れないゲンゴローを、マコトは残念そうに見ている。そして、あきらめた様に首を横に振った。

「で、なんだ?」

「今の能力は、何だ? 何を使ったら、あんな簡単にオークをやれる?」


「傷口を見たら、分かるだろ? 『着火』だよ」

  なるほど確かに全てのオークの胸の辺りにゴルフボール大の穴が1つずつ開いており、しかもその内部が焼け焦げていた。『着火』の能力により心臓や肺を焼かれたのが、オークたちの死因の様だ。

  しかし、『着火』は戦闘に向いた能力ではない。だからこそ、ゲンゴローも『着火』ではなく『火球』の能力を上げているのである。


  魔力をほぼ全て熱エネルギーに変換する『着火』は、容易にモンスターを殺傷する事が出来る。

  が、襲いかかって来るモンスターに『着火』を命中させても、その突進の勢いは殺せない。モンスターの頭や胸を焼いても、その突進を止められなければ、次の瞬間には人間など簡単に跳ね飛ばされてしまう。ちなみに、『着火』の射程距離はごくごく短いのである。


  その点、『火球』は魔力を主に爆発エネルギーに変換する為、モンスターの突進を止める事が出来る。また射程距離も『着火』に数倍するので、戦闘にはもってこいだ。

  もちろん爆発する分、エネルギーのロスは大きい。

  しかし、それを補って余りあるメリットが、『火球』にはあるのだ。


  それなのに、敢えてマコトが『着火』を使う意味がゲンゴローには分からない。

  命中させる事が出来れば『着火』は強いが、デメリットが大き過ぎる。『着火』だけでオークたちを一掃し、ピンピンしているマコトは、はっきり言って異常なのだ。






「おい、ゲンゴロー」

  考え込むゲンゴローに、仲間の1人が声をかけて来た。

  思考を乱されてムッとしかけたゲンゴローだが、その声が緊張感を帯びているのに気づき、仕方なく反応する。

「なんだよ?」

「ちょっとヤバめなのが出たぞ」

「え?」


  慌てて『魔力感知』を働かせると、オークを上回る大きさの魔力が近づいて来るのが分かった。数は1つだ。

  それに対する様にマコトが足を踏み出そうとするのを、ゲンゴローが制する。

「待てよ。今度は俺たちがやる」

「良いのか? カネにはならないぞ」

「うるさい! アンタは、そこで俺たちが戦うのを見とけよ!」


  マコトの言う通り、わざわざゲンゴローたちが新手の敵を迎え撃つ必要は全くない。放っておいても、ウサギビトの護衛であるマコトが対処するに決まっているからだ。そして、マコトには軽々とそれを成し遂げる実力もある。

  が、まだ年若く自己顕示欲の強いゲンゴローたちとしては、マコトにばかり格好良い真似をさせるのが気に食わなかったのだ。


  特に強そうでもなくイケメンでもないオッサンより、自分たちの方がデキるという事を見せつけてやる。その思いだけで、ゲンゴローはアイテムボックスから大振りのナイフを取り出した。大型モンスターの骨を削って作られた無骨な武器だ。この世界の商人から買った一品である。

  仲間の2人も、それぞれ得物を取り出すと、ゲンゴローに続く。





  やがて街道に姿を現したのは、体毛の色が赤黒い大柄なオークであった。

  身長は他のオークたちより頭一つ高く、胸の厚みや手足の太さも同じ種族とは思えない程に逞しい。おまけに身に纏っているのは金属の鎧で、手にしているのは2メートルを超える斧槍だ。


「もしかして、上位種って奴か?」

  ゆっくりと歩み寄って来るオークの偉容に怯みそうになるゲンゴロー。だが、ここで退くという選択肢はあり得ない。

「思わぬ獲物だな。行くぞ、お前ら!」

  気合いとともに、ゲンゴローは『火球』を放つ。


  ボーリングの球ぐらいの大きさの炎の塊が飛来するのを、上位種オークは素早い身のこなしでかわしてみせた。

  が、それを見たゲンゴローが、ニヤリと口元を歪める。

  次の瞬間――――。

  オークの背後で炎の塊が爆発し、衝撃波を撒き散らした。


「よしっ!」

  背後からの爆風に、オークが体勢を崩す。

  そこを狙って放たれたのは、2本の石の槍だ。ゲンゴローの仲間たちが阿吽の呼吸で繰り出した攻撃である。

  しかし、オークは強引に斧槍を振り回すと、石の槍を弾き飛ばした。


「甘いぜっ!」

  崩れた体勢から斧槍を振り回したせいで、完全に死に体となったオークに、トドメの『火球』が命中する。オークがそこまで攻撃に耐える事を想定して、ゲンゴローは魔法攻撃を連発してみせたのだ。

  実際、その連射速度は、地球人としては誇って良い程のレベルにあった。

 

  だから、オークを爆炎が包み込んだ瞬間、ゲンゴローはマコトに会心のドヤ顔を向ける。

  自分たちの連携ぶりを、そして己の技の冴えをマコトに見せつけてやれたという事実が、ゲンゴローの鼻を大いに高くする。

  オークの群れを1人で一掃したマコトは凄いが、上位種オークを倒した自分たちもそれに負けてはいない筈だった。


  が――――。

  マコトの目は、ゲンゴローたちに向けられてはいなかった。

  まだ、ゲンゴローたちの背後に向けられたままだ。その表情が険しい。

「おい、まだ・・・」

  マコトが何か言いかけた途端、ゲンゴローの背中に強烈な殺気が叩きつけられた。


「ひっ!!」

  思わず悲鳴を漏らしながら、ゲンゴローはその場に座り込む。

  その頭上を、猛烈な風切り音とともに斧槍が走り抜けた。もちろん、その斧槍は上位種オークが振るったものだ。ゲンゴローが棒立ちのままだったら、彼の頭部は胴体と泣き別れになっていた事だろう。

  ゲンゴローの意識を、初めて死への恐怖が染め上げる。


  気づいた時、ゲンゴローは必死に逃げ出していた。

  一度座り込んだ姿勢から、ゴキブリの様に地を這って、オークから全力で距離を取ろうとする。

  仲間たちは腰が退けたまま、そんなゲンゴローをオロオロと見ているだけだった。ゲンゴローを見捨てるか、それとも助けるかの決断が出来ないでいるのだ。


「ゲ、ゲンゴロー!!」

  無防備なゲンゴローの背中に、オークの斧槍が振り下ろされる。

  誰しもが、ゲンゴローの無残な最期を確信した。

  が、斧槍は見えない力に受け止められ、宙に静止していた。

  それは、わずか1~2秒の事。それでも、ゲンゴローがオークの攻撃範囲から抜け出すには十分な時間だ。

  不可視の力を打ち破った斧槍が地面に食い込んだ時、ゲンゴローは仲間たちの背後に転がり込んでいた。


  ゴフッ!!


  自分の攻撃が邪魔された事に、怒りの声を上げる上位種オーク。

  その前に恐れ気もなく歩み出たのは、マコトである。

「レベル3の『念動』が、一瞬しか利かないとはね・・・」

「む、無理だ。逃げろっ!!」

  そう叫ぶゲンゴローに、マコトは背中を向けたまま右手をヒラヒラと振ってみせた。


「心配ないよ。オレは負けないから」

  背中越しにマコトがニヤリと笑ったのが、ゲンゴローには見えた気がした。


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