異世界の空に
今回、途中からスマホでの執筆に切り替えたので、文頭の一段下げがおかしくなっています。
ネット環境が再び整えば、手直しする予定です。
ご了承下さい。
(修正しました。2018 3 31)
気が付くと、また無音の空間にいた。
薄い膜越しに周囲が見えるだけの、世界からわずかにズレた空間だ。
失神しながら、ちゃんと『位相変移』を使ったらしい。
大いに自分を褒めてやりたい。
大トカゲと大グモの死骸は、まだ炎を上げ続けている。気を失っていたのは、ごくわずかな時間の様だ。大グモの死骸向こうでは、まだロボットモドキたちと子グモ軍団が激しく戦い続けている。
では、新しい能力を構築しよう。
オレに必要なのは、世界からズレたまま自由に動き回れる能力だ。
体内にある大量の魔力が、オレの望みに応じて渦巻き始める。
オレの身体を改変していく。
どうやら、魔力は足りる様である。が、『位相変移』ほどではないにしても、通常よりかなり多い魔力が消費されるのが分かった。
『魔力推進』レベル3。
それが、オレの新しく習得した能力だ。
『着火』あたりなら、いきなりレベル4に上げられるだけの魔力を使ってのレベル3である。ここからレベルを上げるのは大変そうだ。でも、おそらくレベル3で十分な気がしていた。
早速、使ってみる。
魔力そのものを噴射するイメージ。
オレの身体が、スルスルと移動し始める。
空気との摩擦以外に移動エネルギーを損なうものがないので、魔力の噴射も一瞬で済む。
方向を変える時と止まる時にも噴射は必要だが、それも大した負担ではない。
『位相変移』が効いている間は、自由自在に動けるという事だ。
燃える大グモの身体を通り抜け、オレはロボットモドキたちに近づいた。
親グモの凶暴さからすれば子グモ軍団は敵と見なしていいと思うが、果たしてロボットモドキはどうか?
オレが接近した途端、間髪入れず飛んで来るロボットモドキの裏拳。もちろんオレの身体を通り抜けただけだが、はい、敵と認定。
オレはロボットモドキと子グモが戦う真っ只中で、『魔力推進』による逆噴射を行い、急停止。入り乱れて争っていた筈の両者が、一斉にオレに注目する。
「悪く思うなよ!」
『着火』レベル4を連射。ロクに狙いも付けず、周囲に熱球を撒き散らす。
熱球はロボットモドキを、子グモを。そして巨木を瞬く間に炎で包み込んだ。薄暗かった森が、轟々と燃える赤に照らされる。
地獄絵図の現出だ。
いくらなんでも、やり過ぎだ。
オレは焦りながら、犯行現場から距離を取った。子グモたちの鳴き声が聞こえたら、罪悪感に胸を引き裂かれそうになったかも知れない。
◇スキルリスト
湧水 lv.1
着火 lv.4
神経強化 lv.1
筋力強化 lv.1
骨折治療 lv.1
傷治療 lv.1
暗視 lv.1
魔力感知 lv.1
危険感知 lv.3(new)
魔力推進 lv.3(new)
位相変移 lv.2
アイテムボックス lv.3
ロボットモドキたちと子グモ軍団から得た大量の魔力を使い、オレは新たに『危険感知』という能力を手に入れた。
『位相変移』を使っている時には、光以外の物がオレに届いて来ない。魔力さえもだ。つまり『魔力感知』が役に立たないのである。『位相変移』を解いた瞬間に敵に襲われては堪らない。よって、危険なんていう曖昧な物を感知する手段をゲットしたのだ。
しかし曖昧な物を感知する能力だけあって、取得するのに必要な魔力量は非常に多かった。
あれだけの数のロボットモドキや子グモを倒して得た魔力を、一気に消費してしまった程である。
危険を感知するという虫の知らせみたいな能力だが、その働きには期待したいと思っている。
炎が消えるのを待って、魔石を回収していく。
『位相変移』を解いた状態で森の中を歩くのは、予想外に大変だった。ドラム缶並みの太さの木の根がのたくった地面は、『筋力強化』を取得していなければ移動もままなかったであろう。
おまけに、焼けたモンスターたちの死骸がたまらなく臭かった。その死骸によじ登り、頭部から生えた魔石をこじり取りながら、オレは泣きそうになっていた。
細かく描写すると確実に倫理コードに引っかかるだろう作業を繰り返しながら、次は念力的な能力ゲットするんだと決意するオレ。
でも、日本に戻れるか分からない上、元の場所から離れてしまって警察の支援も受けられない中で、生真面目に魔石を集めている自分の姿に、オレはついつい笑ってしまう。
実際は、何か決められた事をこなしているお陰で、精神の平衡を保っていられるのかも知らないが。
異世界の街で魔石が売れるという話だし、これからも小まめに集めていくつもりである。
大グモ、大トカゲ、ロボットモドキたちから取った魔石をアイテムボックスに放り込むと、再びオレは『位相変移』状態になって巨木の森を移動し始めた。
『魔力推進』をかけると、ママチャリで快調に進んで行く程度のスピードが出る。
どちらに進めば良いか分からないのがネックだが、巨木もモンスターも通り抜けて真一文字に進んで行けるのは、ありがたい。
しかし不思議と、いくら『魔力推進』を連続して使っても、ママチャリ快調速以上のスピードは出なかった。もっと移動速度を高めたければ、レベルを上げろという話なのだろうか。
「あ、待てよ・・・」
『位相変移』を使っている間は重力の干渉を受けないという事は・・・。
オレは、とてつもない事に着が付いた。
上方に向けて『魔力推進』を使えば、どうなる?
先ほどまで水平方向に滑る様に動いていたオレの身体は、あっさり垂直方向への移動に移った。
滑る様な動きは変わらない。
重力に引っ張られる感覚もなく、当たり前の様に上昇していく。
ママチャリの快調速で。
延々と続く巨木の幹に沿い。
太く張り出した巨木の枝を通り抜け。
枝の上を我が物顔で動き回る様々なモンスターに威嚇されながら。
オレの身体は、巨木の森から飛び出した。
真っ青な空。
赤い巨星。
異世界の空だ。
「うおぉっ、ホントに飛べた!」
地平線まで広がる巨木の森を見下ろしながら、逆噴射をかけて空中に静止する。
オレって、もしかして人外の領域に踏み込んじゃった?
異世界探索に付いて回るヒーロー願望を、オレは曲がりなりにも手に入れたのかも知れなかった。でも、それがどうでも良い事の様に思えるのは、なぜだろう。
誰も知らない場所で超人になるより、凡人のままでいいからリョウちゃんやユーリちゃんのそばにいたかった。本気でそう思うオレである。
「リョウちゃ~~~ん、やらしてくれ~~~~~~っ!!」
オレは大空に向かって、叫んだ。が、その声は、異世界には届かない。オレしか存在しない、異世界とはズレた空間に吸い込まれて行っただけだ。
と。
突然『危険感知』能力の発するサインが、オレの胸の中に膨れ上がった。
何だ!?
『位相変移』をしているオレを傷つけられるモンスターなど、そうはいない筈。
オレは周囲を見回しながら、『危険感知』能力の声に耳を傾ける。
そして、分かった。
そろそろ『位相変移』の時間が切れるのだ。
『位相変移』が切れれば、オレの身体はたちまち重力の影響に捕らわれて、地面に向かって真っ逆さまである。『魔力推進』のレベル3には、重力に打ち克てるほどのパワーはない。
オレは『魔力推進』をフルパワーにすると、地面に向かって急降下を始めた。
急げ~っ!!




