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巨獣と巨人の森で

 オレは、クモが嫌いである。

 最大限見栄(みえ)を張りたいリョウちゃんの前でも、クモ型モンスターには近づきたいと思わない。いや。その時は「逃げる」と、すでにリョウちゃんに宣言した筈だ。

 なのに、オレの目の前にクモがいた。

 デカいデカいクモだ。

 しかも全身が毒々しい赤と紫に彩られ、8本の脚にも胴体にもびっしりと剛毛が生えている。


 怖い。

 気色悪い。

 そして、ヤバい。

 テニスコート2面分程の大きさのクモの巣に鎮座したまま、そいつがオレをオレを見ている。地上5メートルぐらいの高さから、オレを狙っている。


 しかしオレに迫っている脅威は、大グモだけではなかった。

 オレの出現を感知したのか知らないが、強大な魔力を持った存在が、いくつもこの場所に接近して来ているのが、『魔力感知』能力にはっきりと感じられたのだ。

 保有魔力の大きさは、即ち強さに直結している。

 ティラノザウルスなど問題にならない程の強者たちが、もうすぐここにやって来るのである。


 頭上の大グモを気にしながら、オレはそろそろと移動を始めた。

 どうやら大グモは、クモの巣に引っかかった獲物だけを食べるタイプの様だ。少なくとも、巣からダイブして襲いかかって来る気配はない。

 大グモから距離を取ってから『着火』の魔法で巣ごと燃やしてやれば、集まって来るモンスターたちの目をくらませるのにも効果があるかも知れない。


 逃げ切れそうになかったら、もう一度『位相変移』レベル2を試すだけだ。上手く行けば、呆気なく危機を脱せられるだろう。

 ただ、活火山の火口や腹を空かせたモンスターの目の前に出てしまえば、一巻の終わりである。それに、消えたのと同じ場所に出てしまう可能性だってなくはない。

 気軽に『位相変移』レベル2を繰り返す訳にはいかないが、黙ってモンスターに食われるよりははるかにマシだ。


 よし。あと3歩も動いたら熱球をバラまいて、一目散に逃げよう。

 1歩。

 2歩。

 3・・・。

 身体が、何かに止められた。

 強靭な糸の束に絡め取られた様な感覚。

 げ! クモの糸だ!!

 

 慌てて逃れようとするが、1歩も動けない。

 むしろ、よけいに拘束が強くなっていく。

 あわわわわ。

 オレがジタバタする振動を感じ取ったのか、大グモが巣から静かに下りて来た。このクモの糸は、あそこまで繋がっていたのか。要するに、最初からオレは大グモの糸に囲まれている場所に現れてしまった訳だ。


 さて、どうするべきか。大グモが地上に降り立った今、迷っているヒマはない。

 とりあえず『着火』の魔法を放とうとした時、大グモがビクリと身体を震わせた。

 たどり着いたのだ。

 ここに向かっていた最初の1体が。

 巨木の間から、カブトムシの様な甲殻に全身を覆われた巨人が姿を現す。


「デカっ!」

 身長3メートルはあるだろう。巨人と言うよりは巨大ロボットと言う雰囲気だ。武器は持っていないが、両手の指から鎌を思わせる爪が生えている。

 いかにも凶暴そうな外見である。

 続いて、巨大ロボットのお仲間が4体、大グモの向こうに進み出た。クモの糸を切り裂いて来たのか、その爪に白い繊維が絡まっている。


 大グモがロボットモドキたちに向き直り、ガチガチと牙を打ち鳴らす。

 と、巨木の幹を伝い、大量の赤い大グモが這い下りて来た。20~30体はいるだろう。地上の大グモに比べると3分の1ぐらいの大きさだ。子グモか? オレの背を、何度も怖気が走り抜ける。

 子グモたちが、幹の途中からロボットモドキたちに襲いかかった。

 ロボットモドキたちは、鋭い爪を振り回して応戦。たちまち始まる、巨人と巨獣の争い。


 地響きとともに、揺れる地面。揺れる巨木。

 巻き込まれたら、オレなんかプチンと潰されてしまう。

 が、逃げる好機であるのも確か。

 オレは必死にクモの糸から逃れようとする。

 しかしオレの背後からも、強大な魔力の持ち主がたどり着いてしまった。


「くそっ、次から次へと・・・!」

 身動きの取れないオレの眼前に現れたのは、これまた巨大なトカゲだ。黒地に黄色の模様が入った身体は、尻尾の先まで入れると10メートルはありそうだ。もう、勘弁して欲しい。

 大グモにもロボットモドキにも邪魔されず、大トカゲは真っすぐオレに近づいて来る。

 なんで、こんな小物を狙おうとするのよ? もしかして、こいつらからすると、人間の大きさって丁度食べやすいサイズなのか?


 大トカゲが大口を開いてオレを飲み込もうとするのを見て、『位相変移』を発動。

 例によって薄い膜に包まれた様な気がした途端、クモの糸が切れて、オレはバランスを失い横倒しになった。

 そこへ大トカゲの顎が襲いかかり――――見事に、すり抜ける。

 間一髪だ。『位相変移』バンザイ!

 すぐさま転がって距離を取ろ・・・って、回転するだけで横に動かない!


 そうか。普通、移動しようとしたら地面からの反動を利用するのだけど、世界から切り離されたオレは宙に浮いているも同然で、それが出来ないのだ。

 試しに地面を触ろうとしたら、その手は何の抵抗もなく土の中をすり抜けた。

 これって重力の影響を受けていたら、あっと言う間に地面の中に吸い込まれているところだ。

 怖い! 想像したら、目茶苦茶怖い!!


 いやいや、今は、そんな事を考えてる場合ではない。レベル2になったとは言え、効果時間には限りがある筈。いつまでも世界からズレたままではいられないのだ。更に大きく世界からズレて、強制ランダムワープをするか?

 そこへ再び大トカゲの大顎が襲いかかる。

 反射的に骨槍を振るうが、やはり顎も槍も何の抵抗もなくすり抜けた。ついでにオレの身体がグルグル回転してしまう。


「くっ、宇宙遊泳してるんじゃないぞ!」

 腕を振って、反動で回転を止めようとするオレ。邪魔な骨槍を放り投げると、ポトンと地面に落ちた。

「ん?」

 ポトン?

 地面に落ちた?

 あれー?


 つまり、オレの身体から離れた物は・・・。

 そこに、三度大トカゲの牙が迫る。学習しない奴だ。

 オレは大トカゲの口の中に向かって、『着火』の熱球を飛ばす。

 例によってオレの身体をすり抜ける大トカゲ。その左目から炎が噴き上がった。

 効いた!!

 やはり、オレの身体から離れると、それは元の世界に復帰するのだ。


 オレは大トカゲの顔面に向かって、熱球を連発。たちまち燃え上がる大トカゲの頭部。苦しがり、その巨体が激しく地面をのたうち回る。

 おおっ、『位相変移』からの『着火』レベル4って、反則じみてるぞ。自分は全くダメージを受けずに一方的に攻撃出来るんだから。

 あと、『位相変移』を使ったまま自由に移動が出来れば完璧なのに!

 と言うか、『位相変移』が切れないうちに逃げないと、ヤバい!


 宙に浮いたまま移動するって、どうしたら良いのか?

 空気を掻いて、泳げば良いのか?

 試してみるが、その場でジタバタするだけで、ほとんど動かない!

 ホントにヤバいぞ。『位相変移』は、後どれぐらい保つ!?

 そこへ真っ赤な爪が振り下ろされて、オレの身体を貫いて地面に突き刺さった。


 うわっ、びっくりした! 大グモが攻撃して来たのか!

 オレは視界いっぱいに広がった大グモの身体に熱球を叩き込む。

 一気に燃え上がる大グモ。大トカゲに比べると、明らかに火の回りが早い。グロテスクに膨らんだ尾部が熱により大きく弾け、大グモはガックリと動きを止めた。

 倒せた・・・のか?

 どう見ても死んだとしか思えないが、なぜか魔力は流れ込んで来ない。


 大トカゲもいつの間にか動きを止めているが、やはり魔力は流れ込んで来ない。

 こんな大物たちを倒せば、これまでに体験した事のない量の魔力が得られる筈だ。

 こいつら、まだ生きてるの?

 あ、もしかして『位相変移』のせいか? 世界からズレてるせいで、魔力も届いて来ないのか?

 オレは、一瞬だけ『位相変移』を解く事にする。


 一瞬だけ。一瞬だけだ。

 感覚としては、潜水状態から水面に鼻と口だけを出して息を吸い、すぐさま水に潜り直す様に。

 近くに敵影がいないのを確かめてから『変移』を解くと、モンスターたちの争う音と肉の焦げる臭い、そして激しく燃える炎の熱気が、オレに押し寄せて来た。

 そして。


 尾てい骨の底で爆発した膨大なエネルギーが一瞬にしてオレの全身を満たし、視界が真っ白に――――。

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