表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

『位相変移』レベル2

 ダラダラと垂れる(よだれ)

 喉の奥から漏れて来るゴロロロ・・・という威嚇音。

 20メートルぐらい離れた場所まで漂って来る腐った様な体臭。

 対峙しているだけで、精神が削られていく。

 しかしそれ以上に、大型肉食恐竜から感じる恐怖は、半端なものではない。

 早見に「倒してこい」と言われ、思わず尻込みしてしまうオレ。


 その間にも、ティラノザウルスはこちらを睨んだままだ。襲いかかる気になれば、その巨体なら一瞬で距離を詰めて来るだろう。

「さあ、今のうちですよ!」

 背中を強く押され、オレは巨体の前に飛び出す。

 雷が轟く様な大音声で、ティラノザウルスが吠えた。

「うわっ!」

 腰を抜かしそうになりながら、反射的にオレはレベル4の『着火魔法』を連射する。


 青い熱球が3発、立て続けにティラノザウルスの右足に着弾。右足が炎に包まれ、苦悶の声とともに巨体が横倒しになった。

 飛翔速度の遅い魔法だが、的の大きなモンスターには相性が悪くない。とりあえず命中さえすれば、大ダメージ確定なのだから。それが横倒しになって身動きが取れないとなれば、なおさらだ。

 ティラノザウルスがジタバタしてるうちに、オレは更に魔法を連発した。胸に2発。頭部に2発。

 頭部を焼いてしまうと魔石がどうなるか分からないが、まずは倒すのが先決だ。


 噴き出した炎がティラノザウルスの上半身を覆い尽くす。

 予想以上の熱気に肌を炙られ、慌てて距離を取るオレ。熱い。シャレにならないくらいに熱い。

 しかし、そんな高温の炎に焼かれながら、ティラノザウルスのジタバタは止まらない。弱まらない。なんという生命力か。

 いや、弱まるどころか立ち上がろうとしてないか?

 呼吸もままならない筈なのに、必死に身をもたげようとするティラノザウルスに、オレは戦慄してしまう。


「ほら! もっと魔法を撃って下さい!」

 背後から早見の叱咤が飛んで来て、オレは気を取り直して魔法を撃ちまくった。

 まだ燃えていない左足や腹部に何発もの熱球が着弾し、ティラノザウルスは完全に火だるま状態。同時に、オレの足元からガクッと力が抜けた。ガス欠!?

 真っすぐ立っていられなくなって、ヨロヨロと後退る。その背中が、温かく柔らかな感触に受け止められた。


 振り返ると、我が天使リョウちゃんだ。体重70キロ近いオレの身体を支えようとして、一緒に倒れ込みそうになっている。ああ、やっぱりおムネの量感が素晴らしい。出来れば、背中じゃなくて手のひらでこの感触を味わいたい。

 エロい思考が脳内を満たした途端、なぜか身体に力が戻ってきた。

 魔力を取り込めばマコトくんが元気になるけれど、逆にマコトくんが元気になったら魔力も湧いて来るのか? つまり、この世界はエロを肯定していると? 脳をエロモードに切り換える魔法があれば、魔力の回復が楽になったり?


 役に立つかどうか分からない事を考えている間に、ティラノザウルスは息絶えていた。いつもの如く、強烈な熱が尾てい骨の底に生まれ、オレは身体を震わせた。強制エロモードの訪れだ。

 背中を支えてくれるリョウちゃんも息を荒くし、オレの身体に回す手の力が強くなった。細い指先がオレの胸に食い込む。ティラノザウルスからの魔力がリョウちゃんにも入って来たのだろう。佐和子や早見たちにも届いている筈だ。


 人目がなければリョウちゃんを押し倒したい気分だったが、あいにくオレは常識的な人間である。我慢して、早見に「何とか倒せたぞ」と告げる。

「ご苦労様でした。今ので『位相変移』を上げられるんじゃないですか?」

 そう言う早見の顔は赤く上気し、色気を振りまいている。おや、意外と早見もイケるな・・・。いてっ、リョウちゃんの指の食い込みがいきなり強くなったのは、なぜだ?

 なお佐和子は、はしたなく股間を押さえたまま、悶絶している。色気も何もあったものではない。やはり恥じらいは必要だ。


 リョウちゃんのアイアンクローを胸に食らいながら、オレは『位相変移』に魔力を注ぎ込む。『着火』をレベル4に上げた時と同等の魔力がどこかに消えて行き、『位相変移』が無事にレベル2に上昇した。

「お、レベル2に届いた」

「良かったです。実際に使ってみるのは、隊長たちと合流してからにしましょう。それより、もう少し狩りをして感知系の能力を取っておきましょうか」

「了解。水牛を適当に狩ってみるよ」


 オレはティラノザウルスの頭部から魔石をえぐり取ると、アイテムボックスに放り込んだ。かなりの高温で焼かれたのに、魔石には変形したり変質したりした形跡はない。どういう物質なのだろう。

 まあ、その辺の事は特殊チームの専門分野だ。聞いてみたら、教えてもらえるかな。

 それより今は、魔力を貯める事が大事だ。

 水牛たちに目をやると、ティラノザウルスが焼かれる騒ぎに驚きもせず、先程と同じ場所でのんびりと草を食んでいた。

 では、狩りを再開しよう。






 ◇スキルリスト


 湧水 lv.1

 着火 lv.4

 神経強化 lv.1

 筋力強化 lv.1

 骨折治療 lv.1

 傷治療 lv.1

 暗視 lv.1(new)

 魔力感知 lv.1(new)

 位相変移 lv.2(1up)

 アイテムボックス lv.3(2up)


 意外と水牛たちは機敏で『着火』の熱球をなかなか当てる事が出来ず、新たに獲得した能力は『暗視』と『魔力感知』だけになってしまった。でも、この2つの能力を手に入れただけでも、オレの生存確率は確実にアップするに違いない。

 オレたちは暗くなる前にツリーハウスへと帰還。

「おおっ!?」

 そのツリーハウスは、九頭森さんたちの手によって、大きく変貌を遂げていた。


「隊長、頑張りましたねぇ」

 早見と三田も半分呆れているぐらいだ。

 天井と壁はトンボの翅を張り付けていただけだったのに、魔法で生み出したらしい謎の素材に置き換えられていた。驚いた事に、半透明なガラス状の素材で窓まで作られている。

 中に入れば床も平らになっていて、寝転ぶのも楽そうだ。

 感激である。


「ありがとうございます! こんな立派な物を作っていただいて」

「構いません。北野道さんが生き抜く助けになれば、我々も報われます。それより、『位相変移』のレベルは上がりましたか?」

「はい。レベル2になりました」

「では、早速ですが使ってみましょうか」


 念の為という事で渡された食料や武器等の物資をアイテムボックスに放り込むと、オレはより深い位相の変移に挑戦した。

「行きます」

 魔法を発動すると、前回と同じ様にオレの身体が薄い膜に包まれた様な感覚になる。

 レベル1の変移状態だ。この時点でオレという存在は、異世界からわずかにズレている。心配そうな表情のリョウちゃんの声も聞こえなければ、その身体に触れる事も出来ない。姿が見えるだけだ。


 そして、更に魔力を込める。

 より大きく世界からズレる為に。

 そうすれば、オレの身体が異世界から完全に切り離されて、地球に戻れると信じて。

 水の中に潜って行く様に、視界が暗くなる。

 肉体に圧力がかかる。

 息が詰まる。


『位相変移』レベル2。

 何も見えない。

 聞こえない。

 匂わない。

 触われない

 息も出来ない。

 まるで、ただ1人宇宙空間に打ち捨てられた様な孤独感が、オレを(さいな)む。


 それでも、30秒は我慢した。

 息を詰めたまま堪えた。

 孤独感に対抗した。

 が、身体が地球に飛ばされる感覚は訪れて来なかった。

「やっぱりか」という思いを抱きながら、オレは『位相変移』を解除。

 水面に浮かび上がる様に、オレは30秒前に存在した世界に同期する。






「あ・・・れ・・・?」

 リョウちゃんたちがいなくなっていた。

 いや、そうじゃない。

 いなくなったのは、きっとオレの方だ。

 その証拠に、周囲の光景が激変していた。


 そこは巨木が(そび)える森で、木々の間にはティラノザウルスを超える大きさのクモが巣を張っていたのである。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ