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ティラノモドキ

  ◇スキルリスト


 湧水 lv.1

 着火 lv.4(2up)

 神経強化 lv.1

 筋力強化 lv.1

 骨折治療 lv.1

 傷治療 lv.1

 位相変移 lv.1(new)

 アイテムボックス lv.1


 九頭森さんに付与してもらった『位相変移』は、かなり大量の魔力を注入されたにも関わらず、レベル1でしかなかった。同じレベル1でも、習得するのに必要な魔力は、それぞれ違いがあるらしい。

『位相変移』のレベル1は、『着火』のレベル3程度のコストがかかるという。


 そしてまたオレは、魔力稼ぎをする事になった。リョウちゃんたちのグループと合流である。

 九頭森さんと村木は、ツリーハウスを改造してくれるらしい。どうやら、頑張って生き残れという意思表示みたいだ。

 なおオレの服装は、特殊チームが到着した時点で、こちらの世界で手に入れたという物に変わっている。借りたシャツとスパッツのままだと、30時間でまた裸になってしまうからだ。

 麻の様な素材の長袖のシャツに革のベスト、革のゆったりしたパンツ、革のサンダルというラインナップ。腰には、モンスターの骨製の小剣。全て、隊員たちが異世界の商人から興味半分に買い求めて、アイテムボックスに仕舞っておいた物だそうだ。


 女性隊員は2人とも、20代後半のサバサバした性格だった。早見(はやみ)三田(みた)という。アスリート美女って雰囲気だ。体型だけを見ると、種目は走り高跳びというところか。

 夜間のゾンビ狩りを通して、リョウちゃんたちとはずいぶん打ち解けた様子だ。オレを見る目が、下世話な好奇心に満ち溢れている。20才の美少女に手を出そうとするエロ親父だと思われているのだろう。その通りだから、反論も出来ないが。


 連れて行かれたのは、水場のさらに向こう側。

 そこには、水牛たちの大きな群れがおり、それを狙う大型のモンスターまでが散見出来た。

「うわっ、サーベルタイガーだ。それも、デカい・・・。あっちにいるのは、完全に恐竜だし・・・!」

 古代の生物に似たモンスターの姿に、オレの少年心が躍り出す。昔集めてた食玩の古生物フィギュアの数々は、どうしちゃったんだっけ?


「良かった。マコトさんが落ち込んでなくて」

「状況を理解してないのではないか?」

「そうかなぁ? そんな能天気なタイプに見えないけど」

「おリョウの尻ばかり狙ってる様な男だよ? おリョウがそばにいる間は、何も考えていないと思うぞ」

 リョウちゃんの友だちの、かなり失礼なオレへの批評が聞こえて来るが、ジッと堪える。20才の女の子の言う事に目くじらを立てるのも大人げないだろう。それに、オレがリョウちゃんの尻しか狙ってないのも、事実と言えば事実だ。


「変な事言わないでよ。恥ずかしくなってくるじゃない!」

「何を言ってるのだ。あんなアダルトコンテンツみたいな動画を撮ってきておいて。見ているこちらの方が恥ずかしかったぞ」

「え、見たの!? あれは封印する気だったのに!!」

「そろそろ、いいか? 時間も限られてるんだ」

 リョウちゃんと佐和子が恥ずかしい言い合いをしてるのを、早見が強引に遮った。昨日の夜から、ずっとこんな調子でじゃれ合ってるのだろうか?

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 赤面するリョウちゃん。舌を出す佐和子。何も聞こえない振りをするオレ。

「まず、北野道さんはアイテムボックスをレベル3にしましょう」

 3人を醒めた目で見ながらも、真面目に予定を消化しようとする早見。普段から苦労を背負ってそうな、不憫な香りが漂って来る。


「九頭森さんからは、『位相変移』に集中して魔力を使えって言われたんだけど」

「それはもちろんですが、私たちが引き上げる前に食料等の物資を渡しておきたいので、出来るだけ収容量を増やしていただきたいんです」

「そうなんですか? そういう事なら、先にアイテムボックスのレベルを上げますよ」

 異世界から帰れないのは辛いが、食料事情が改善されるだけでも、かなり気分は変わってくる筈だ。


「では、あそこの恐竜みたいなの、1人でやって来て下さい」

「え?」

「この辺りにいるモンスターに勝てない様では、異世界で生きていけませんよ?」

 くそ真面目な表情で、オレを追い込もうとする早見。冗談かと思ってリョウちゃんたちを見たが、黙って首を横に振っている。もしかして、本気という事か?

「さあ、早く!」

 背中をどやされ、オレは仕方なく恐竜に向かって行った。





 姿勢を低くしながら、オレは慎重に歩を進める。

 恐竜は明らかに水牛に気を取られており、こちらに気づく様子はない。あまり頭は良くなさそうだ。

 体高は、オレより少し低いぐらい。緑と黒の迷彩柄は、うまく草原に溶け込んでいる。その姿は、毛皮をまとったティラノザウルスである。最近の説では、ティラノザウルスは羽毛をまとっているんだったか。

「齧られたら、確実に死ねるよな」

 ティラノモドキの大きな顎と鋭い牙を見ながら、オレはため息を吐いた。


 ならば、気づかれないうちに勝負を決めるだけだ。

 オレはレベル4の着火魔法をティラノモドキに発射する。緩やかな速度で飛んで行く、ピンポン玉大の青い球体。

 最初から気づかれていたら、かわされていたかも知れない。が、獲物に気を取られていたティラノモドキは、その背にモロに熱球を食らってくれた。


 毛皮を、皮膚を、筋肉を焼いて、熱球がティラノモドキの体内に食い込んで行く。

 己を襲った異変に、激しく身悶えるティラノモドキ。次の瞬間その全身から炎が噴き上がり、糸が切れた様に地面に倒れる。

 一応油断せずに炎を上げるティラノモドキを見つめていたが、再び動き出す事はなかった。

 下腹部にいつもの熱が生まれるのを感じながら、オレはティラノモドキが燃える香ばしい匂いに、ちょっと食欲をそそられたり、そそられなかったり。


「早見さん、これって食べら・・・」

 後方に控える早見を振り返った瞬間――――。

 周囲の草むらがザッと音を立て、5つの大きな影が飛び出した。

 速い!

 緑と黒の迷彩柄。ティラノモドキだ!

 心臓が縮み上がる。

 近くに、まだこんなに潜んでいたのか!

 その迷彩柄が周囲の保護色のなっている事は分かっていた筈なのに、完全に油断していた!!

 早見と三田が近くにいるからという甘えもあったろう。


 オレは必死に飛び下がりながら、骨槍を振り回・・・そうとして、やめた。

 5体のティラノモドキが食いついたのは、まだ炎を上げている同族の死骸だったのだ。

 そりゃあ美味そうな匂いはしたけど、それを食おうとするか? 同族を食う事に忌避感はないのか?

 でも、おかげで命拾い出来たのだ。このチャンスを逃す訳にはいかない。

 オレは青い熱球を景気よくバラまいた。ガクンガクンと力が抜けていくが、構わず魔法を撃ちまくる。ここで始末しておかなきゃ、次こそオレが獲物認定されてしまう。


 7~8発放った熱球は次々とティラノモドキたちに命中し、新たな焼きティラノモドキを量産した。

 香ばしい匂いが、更に濃厚に立ち込める。

 これって、また他のヤバい奴を呼び寄せてしまうんじゃないか?

 オレは尾てい骨の付け根の熱さを堪えながら、速やかにリョウちゃんたちの所へ戻った。

「だ、大丈夫ですか!?」

 リョウちゃんの顔が青い。5体のティラノモドキが飛び出して来た事に、オレと同じぐらいに肝を潰したのだろう。


「どんな時も、周辺警戒を怠ってはダメですよ。『アイテムボックス』『位相変移』の後は、感知系のスキルを取るべきですね」

 慌てた様子もなく、早見が冷静な指摘をくれる。5体のティラノモドキが殺到した相手がオレだったら、果たして彼女は守ってくれたのだろうか? 守ってくれた筈だと思いたいが、彼女の強さを見ていないだけに、ちょっと不安が付きまとってしまう。


「でも、今ので『アイテムボックス』をレベル3に上げるぐらいの魔力は貯まったんじゃないですか?」

「なるほど。試してみるよ」

 獲得したティラノモドキ6体分の魔力を『アイテムボックス』に注入。オレの身体の外側で、何かがググッと広がる感覚。

 スキルリストで確かめてみると、『アイテムボックス』がちゃんとレベル3になっていた。成功だ。これで、食料をたっぷり受け取る事が出来る。


「じゃあ、後は『位相転移』ですね」

「そうだけど、『位相変移』をレベル2にするのは、『着火』とかをレベル4にするのと同じぐらいの魔力が必要なんだろ?」

 伊勢崎さんたちと倒した、ワニ型モンスターみたいな巨大な相手を倒さないといけないという事だ。いくらレベル4の『着火』があるとはいえ、好き好んで戦いたいとは思えない。

「うーむ、水牛あたりでチビチビ貯めようかなぁ」


「あら。ちょうど良いのは来たじゃないですか」

「え?」

 早見が指さした方を見てみれば。

 体高5~6メートルの大型ティラノモドキ、いや、まさにティラノザウルスが赤い瞳でオレを睨みつけていた。

 

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