特殊チーム、到着
恥ずかしながら、すごくオッサンくさい病気の症状が出て、現在苦悶中です(汗)
数日中には症状が消えると信じておりますが、それまでは更新速度が鈍ると思います。ご容赦下さい。
なお、何の病気かは、恥ずかしいのでノーコメントとさせていただきます。
ただ、そのうち小説内で病状の苦しさを克明に描写してやろうと思っておりますが。
オレの生み出したレベル4の着火魔法は、ピンポン玉大に封じ込めた高温の熱源を飛ばすという物だった。
射程距離は20メートルを超えるものの、速度は比較的遅い。
威力はあるが、動く敵にかわされ易いのが難点である。
しかし命中さえすれば、ワニ型モンスターにだって大きなダメージが与えられるだろう。
なお、同じレベル4の着火魔法でも、人によって魔法の形は違うらしい。伊勢崎さんが知っている別の人のは、強力な火炎放射器みたいな能力だったという。
同じ火を付けるという能力でも、人によってイメージの仕方は全然違うという事だ。
なんにせよ異世界で戦う術は手に入ったので、次は生活の拠点を作る事になった。
木材を使って、適当な灌木の上にツリーハウスを建てようというのである。
「本当にすみません。こんな事まで手伝ってもらって」
「いえいえ。実は、ツリーハウス、作ってみたかったんですよ。お手伝いするんだから、我々にもこれを利用する権利がありますよね?」
伊勢崎さんと田丸さんが楽し気に笑う。表情から察するに、本気で楽しんでいる様だ。
「そりゃ、いつでも遊びに来て下さいよ。多分、こっちでヒマしてると思いますからね」
「出来るだけ弓月さんとは時間をズラして、お邪魔する様にしますね」
相変わらず、リョウちゃんとオレの中を誤解しているらしい。
まあ、オレが誤解を解こうとしてないんだけど。
でも、こんな事があって、またリョウちゃんはこちらの世界に渡って来るだろうか? 本当なら、オレではなくリョウちゃんが元の世界に戻れなくなっていた筈なのだ。そう思うと、こちらに渡って来るのは、恐怖でしかないのではないだろうか。
来ないなら来ないでいい。リョウちゃんが無事である事が一番だ。
そんな事をオレが考えているうちに、伊勢崎さんと田丸さんは着々とツリーハウスを組み立てていく。
灌木の上に登っている伊勢崎さんに向かって、田丸さんがホイホイ木材を投げ上げるのを見て、オレは軽い目まいを覚えた。そりゃあ、水牛たちを一蹴出来る筈だよ。
「2人とも、筋力強化はどれぐらいのレベルなんですか?」
「ああ、レベル4ですよ」
「それは凄い・・・」
「我々は組織的に鍛えていますから、レベル4ぐらいは当たり前なんです。ただ、レベル5に上げるのは至難の業ですけどね」
レベル5の能力を手に入れた者は、まだ数える程しかいないらしい。
『スキルリスト』の能力を持っていないと能力のレベルは正確に分からない訳だが、政府が集めた情報を分析しても、世界中で20人は超えていないだろうという話だった。
レベル4からレベル5に上がるには、それだけ膨大な魔力を必要とするのだ。当然、レベル6の能力を獲得した者は、いまだ存在していない。
しかし、伊勢崎さんたちの重機並みのパワーを見ていると、こんな超人たちを地球側で野放しにしちゃって良いものかと不安になってしまう。オレの『神経強化』は地球側ではあまり効果を実感出来なかったが、『アイテムボックス』や『着火』は問題なく使えたのだから。
恐る恐るオレがその事を口にすると、地球では魔力の消費が激し過ぎて、能力の効果は著しく制限されるのだそうだ。
『筋力強化』を例にすると、能力を持たない者に比べれば、もちろん図抜けた身体能力を発揮する事が出来る。が、伊勢崎さんたちの実感では、レベル4の能力があっても地球側ではレベル1程度の効果を出すのが限界らしい。
なお『アイテムボックス』の様に習得時にしか魔力を必要としない能力は、地球でも変わりなく使用出来るという。
そう言えば、《百花》で出した炎はずいぶん小さかったなと、今更気づくオレであった。
木材を並べた床の上に、ツルで固定した骨組み。トンボの翅の屋根と壁。筋力強化レベル4の効果は半端ではなく、あっと言う間にツリーハウスは完成してしまった。作りがお粗末なのは、致し方ない。
伊勢崎さんたちは、またこちらに来れる様なら大工道具を持って来て、もっとマシな物を作ってくれると言ってくれた。
が、職務で30時間の異世界行があって、一度異世界に渡ると、また30時間経たないと異世界に戻れない事を考えれば、2人が再びこの場所を訪れる事はかなり難しいに違いない。
「ゾンビは木登りが出来ないっていう話を聞きましたから、これで少しは夜も落ち着けますね」
「そうですね。ありがとうございます」
昨夜の様に生きたゴブリンに狙われれば樹上にいたって安心は出来ないのだが、伊勢崎さんたちの気持ちが嬉しくて、オレは素直に礼を言った。2人にだって、こんな物でオレの生存度がどれだけ上がるか、大きな期待はしていないと思う。
それでも道具もない中、これだけの物を作ってくれたのだ。素直に感謝すべきだろう。
向こうに戻れたら、真っ先に2人に酒を奢りに行こう。
やがて夜が訪れ、オレたちはわざとツリーハウスから離れた場所で焚き火をし、散発的に現れるゾンビたちを相手にしていた。
伊勢崎さんたちが帰るギリギリまで、オレの魔力稼ぎに協力してくれていたのだ。ツリーハウスから離れたのは、せっかく作った拠点の周りを腐乱死体だらけにしたくないからである。
しかし、戦っているのは専らオレ1人。ワニ型モンスターから大量の魔力をもらったせいで基本的な運動能力もアップした上、レベル4の着火魔法という強力な攻撃手段も身に付けたからだ。ゾンビの様な動きの遅い相手なら、もう負ける気がしない。
元々骨槍だけで勝てていた連中なので、オレは意識して着火魔法を多用していた。
レベル4というだけあって使用に必要な魔力が多いのか、1発撃つ毎にガクッと身体の力が抜ける感覚があるが、連発が出来ない程でもない。
が、下手に連発すると辺りが火の海になって、オレ自身の首を絞めかねないので注意が必要だ。
無駄のない魔法の使用で、確実にゾンビを倒す必要があった。
10メートルぐらいまでゾンビが近づいたところで、魔法を発射。
ゾンビの動きは鈍いので、胴体を狙えばほぼ必中。
青い熱球がゾンビの腐肉を焼きながら埋没して行った次の瞬間、その全身が一気に燃え上がる。押し寄せる熱波に、思わず後退るオレ。
青い熱球の時点ではオレ自身は熱さを感じないが、二次的に発生した炎は普通に熱く感じられる。
至近距離から魔法を命中させれば、オレも高確率でダメージを負うという事だ。
「着火の魔法って、使い辛くない?」
これは、愚痴りたくもなる。
「どんな魔法も使い方次第ですよ」
「そうかも知れないけど・・・!」
あまりに真っ当過ぎるセリフに、珍しく伊勢崎さんに反感を覚えてしまう。
次は、炎耐性とかの能力を取るかな。でも服まで炎に強くなるわけがないし、高熱で燃えてしまったら、またオレは素っ裸だ。
仕方なくオレは魔法を撃つ距離を15メートルぐらいに伸ばし、ゾンビたちを一掃してみせた。
「北野道さん!」
そこに田丸さんの声が飛んで来る。振り向くと、暗闇の向こうの何かを気にしている伊勢崎さんが見えた。
「おそらく、特殊チームが来ました! 強い魔力の反応が次々と現れています! すぐに向かいましょう!!」
「あ、はい!」
地球側からの出現ポイントに向かって走って行くと、数人の男が盾を構えて立っていた。
それぞれ特殊警棒やピッケルらしき武器を手にしているが、なぜか服を着ていない。素っ裸である。
出現ポイント付近、即ち男たちの後方にライトが置かれている為、逆光になってその逞しい身体の輪郭しか分からないのが救いだ。
そのライトの後方の何もない空間から、ポロリポロリと裸の男が湧いて来る。
ああ、こちらの世界に渡って来る時は、あんな風なのか。そう思っている間に、男たちはアイテムボックスから盾と武器を取り出しては、出現ポイントを囲んで立ち位置を決めていく。
合計6人の裸の男が防御態勢を整えると、続いて明らかに女性と分かる人物が出現。伊勢崎さんたちもオレも急停止し、慌てて裸の女性に背を向けた。
一瞬目にしたシルエットは、背の高いアスリートを思わせる筋肉質な体型で、リョウちゃんではなさそうだった。チームの女性隊員なのだろうか。
そのまま出現ポイントの方に向き直るタイミングを計っていると、「準備完了しました」という女性の声に続き、「よし! B班、服を着ろ!」という男の声が聞こえた。
「もう大丈夫そうだ」
伊勢崎さんたちと頷き合い、ゆっくりと男たちへと近づいて行く。
「止まれ! 何者だ!?」
そんなオレたちに誰何の声が飛んで来た。まだ服を着ていない男が、慎重に接近して来る。その後ろに控えているのは、Tシャツとスパッツ姿の女性隊員が1人。さっきの女性だろうか?
「朝生市警察の伊勢崎と田丸です! 保護した北野道さんをお連れしました!」
その途端、女性隊員の後方から走って来た華奢な影が、勢い良くオレに抱き着いて来た。
「マコトさん! 良かった!!」
リョウちゃんであった。




