母
やはり人物描写は苦手です… 細かい事にはあまり気にしないでね…
椅子に座り悩ましげな顔をしてため息を吐く、1人の美女がいた。彼女の名前は恋中恵。少年と愛美の母だ。世の女性が羨むような、二児の母と思えないほど抜群のスタイルをしている。垂れた目に黒い髪、この性質が2人に受け継がれていることから母似なのだとよくわかる。
彼女には1年前からある悩みがある。それは決してお金のことではない。彼女は有名な大企業に勤めている。給料は高い。そして男子を産んだ母には国から男子を育てる為の支援金が給付される。お金に困ることはない。
なら子供との時間か。あってはいるがそれほど深刻ではない。恵の勤める会社はホワイトな事でも有名であった。会社の社長曰く「えっ?残業するくらいなら短時間でパッと終わらせた方が良いじゃん」とのこと。社長が面倒くさがりということもあり残業は基本禁止となっている。それ故に定時に帰ることが出来るし休みもしっかり取れる。だから子供との時間も確保出来ている。
では結局何が悩みなのか。それは少年のことである。少年は産まれた頃から異質だった。あまり泣くことがなく、感情が薄かった。姉の愛美はとても感情が豊かだったので、逆にこの子は感情が薄いのかと初めは思っていた。だがそれは違うと気づいたのだ。
幸多はまだ産まれたばかりの赤ん坊だというのに、日々何かに怯えその恐怖を心の中に押しとどめ耐え忍んでいる。
仕事柄色々な人間を見てきた。将来大成する人間や破滅する人間を見抜いてきた。だからわかる。この子は何かを恐れているのだと。さすがに原因はわからなかった。だが、少年が一瞬だけ感情を露わにする時がある。
大人が近づく時だ。この一瞬だけ感情が出る。一瞬だけ震えるのだ。明らかな拒絶と恐怖のサイン。そしてこれは恵が近づいても起こる反応だ。
恵は傷ついた。少年の拒絶、そしてその原因がわからない自分に。いったい何がいけないのだろう。
…!もしかして料理が不味かったからなの?いや、それは違うはず。感想を聞けば美味しいと言ってくれる。ほんのりと口角も上がっていたし… これは事実なんだろう。
ッ!?そうよ、娯楽。あの子とあまり出かけることがなかったわ。次の休み皆で行くとしましょう。
気がつけば最初の悩みから脇道に逸れている。前回、姉の愛美はかなりのポンコツ具合を披露していたが… それは母譲りなのだろう。あの娘にしてこの母あり。こうして次の休日の予定は埋まったのであった。
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「愛美、幸多。お出かけするわよ」
「どこへー」
「ふふふ… 遊園地に行きましょ!」
「ほんと!わーい!たのしみだね、こうた」
「ん、そうだね」
確か、馬に棒を刺したメリーゴーランドとか言う乗り物がある娯楽施設だったかな。楽しみだな。
認知の仕方にやや問題のある少年。しかし本当に楽しみなのだろう。薄っすらと笑みを浮かべている。
それを見た恵は、やはり娯楽だったのね!と思っている。本当はそんな単純ではなく複雑なものなのだが…
「ちょっと恥ずかしいかもしれないけどこれに着替えてね。あと帽子もしっかり被って」
「わかった」
そう言い手渡されたのは姉の服。少年は貴重な男の子だ。そして幼い。中学生や高校生ならまだしも2歳なので抵抗する力などない。世の中にいる危ないお姉さん方に連れ去られない為にも変装は必須であった。
とは言え幼児の性別の見分けなどつけにくい。変装などする必要はないだろう……などと思っているそこのあなた。甘い、実に甘い。人間の本能や勘は時に恐ろしい働きをする。ボーイッシュな女の子ですと言って通せば大抵の人に通用するだろう。だが変態は違う。勘で違うと当てる人間もいれば、男子の匂いという理由で当てる人間もいる。お巡りさんこの人です。
少しでも危険を下げるために女装は必須だ。少年は服など着られれば良いと思っているので恥ずかしいとは思っていない模様。スカートがスースーするなぁぐらいの気持ちだ。
こうして恋中家初の遊園地が始まる。
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「こうたがころんだらたいへんだからね、おててつないであげる!」
「あ、うん。ありがとう」
愛美との関係は変わった。前回の出来事と同年代である事が大きかったのだろう。少年は姉を恐れることがなくなった。これは大きな進歩だ。
少年が愛美を避けなくなったことに安心する恵。愛美が良い影響を与えてくれたのを理解していたので心の中で感謝する。
「あうっ!うぅ…… いたい…」
しかし、やはり姉はポンコツであった。
「あら、大丈夫?」
「だいじょーぶ… こうたのおねぇちゃんだから…」
涙目で言われても説得力はない。だが立派な姉でいたいのだろう。そのことを少年も恵も理解している。だから言及はしない。
「ふふ、そうね。偉いわ。けど絆創膏は貼りましょう。今貼ってあげるからね」
膝とおでこに絆創膏を貼られる。傷はあまり深いものではないので血もあまり出ていない。
「それじゃあ早く行きましょうか」
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いろいろあったがようやく遊園地に着いた恋中家。徒歩でも十分行ける距離にあったのは幸運だろう。遊園地は遊園地だ、名前などない、いいね?
「んー まずは何乗りたい?」
「メリーゴーランド」
意外にも真っ先に声を上げる少年。よほど楽しみだったのだろう。
「ふふ、わかった。愛美は?」
「かんらんしゃ!」
「そ、それはさすがに最後かな」
そんな訳でメリーゴーランドの前に来た一行。
「これがメリーゴーランド…」
目をキラキラと輝かせる少年。恵はやはり連れてきて正解だったと思う。
意気揚々と乗り込む少年。多分この時が1番の輝いていただろう。
数分後、そこには酔いで倒れる少年の姿が…
新たに発覚したことだが異常に乗り物に弱いらしい。
「拙者としたことが不覚であった…」そう呟く少年。体調だけでなく気分もおかしいようだ。
そして今、恵に膝枕をしてもらっている。隣では愛美がジュースを飲んでいる。
「意外だなぁ… まさか幸多がこんなに乗り物に弱いなんて」
「僕も、知らなかった…」
「ふふ、そっか。ねぇ、幸多…」
「ん、なに」
「貴方は、何をそんなに恐れているの?」
「ッ!?」
少年は動揺した。まさか聞かれるとは思わなかった。そして気づかれるとも思わなかった。
「私はね、貴方の母親なの。貴方のことをもっと知りたいの。そんな事を考えている私が貴方のその感情に気づかないと思う?」
「…」
完全に予想外だ。
「ねぇ、話してくれるかな?」
「あっ… う…」
怖い。もし本当の事を言えば捨てられてしまうのではないか。前までなら平気だった。厳しい世界を生きていた少年には今の世界は優しすぎた。誰も自分を害する事はない。誰もが優しい世界だ。孤独に耐えられる心を溶かされ、孤独では耐えられない心に作り変えられた。
「言えないならね、言わなくても大丈夫よ。言えなければずっと言わなくてもいいし、言えるなら教えてほしい」
「えっ…」
「あとね、貴方が何を言っても私は見捨てたりしないわ。だからね、もう少し私を信じてほしいかな。私は貴方を愛してるの。私の子供の恋中幸多を。他の誰でもない貴方のことが。私が必ず貴方の怖いものから守ってあげるから。だから安心して」
「うん…」
ぎゅっと抱きしめられる。
確か…産まれた時に言っていた言葉だ。僕を守ってくれる。この人は誰よりも僕の事を愛してくれている。僕は…母さんを悲しませたくない。
「ぼくは… まだ、はなせない。けど、かならず、はなすよ」
「そっか、ありがとね、幸多」
この人は本当に僕の事を愛してくれているんだ。うん、僕は恋中幸多、前世なんて関係ない。僕は必ず自分の幸せと、大切な人を幸せにする。
こうして少年は恋中幸多となった。前世の少年などもう関係ない。この世界に1人しかいない、恋中恵の息子。
「わたしも、こうたのことだいすきー!」
「うん、ありがとう。ぼくもだよ」
立派な姉であった。
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幸多が体調を悪くしてしまった為、あまり長居はしなかった。
「あんまり遊べなかったけどどうだった?」
「たのしかった!」
「うん、ぼくもだよ。おかあさん」
「ならよかったわ」
いつもなら不安になる夕暮れも、家族がいるから怖くない。母と姉の愛を知り新たな成長を遂げた幸多だった。
本当はUTJって名前を考えていたりなかったり。