逆転
ふふ、やはりあべこべが大好きな変態さん(同士)はたくさんいるようです。しかしすまない… 逆転と呼べるほど要素は出ていないんだ。すまない…
胎内での記憶。皆さんはあるだろうか。人によってはあると言われているこの記憶。何年経っても記憶している人間がいるらしい。
当然、少年はこの記憶を持っている。朧げに、しかししっかりと記憶していた。それも当然である。転生により産まれた子だからだ。一桁の子供でもしっかりと自我はある。だから前世でしっかりと刻まれた心の傷も。
だからだろう、こんなにも他の人間が恐ろしいのは。人と触れ合うのが何よりも恐ろしい。
この少年は今世では、恋中 幸多という名を与えられた。少年に前世の名前など無い。文字通り無いのだ。前世で産み落とした人間の名前など知らない。苗字とは何だ、と少年は思っている。
そのせいだ。少年は名前など個体を識別するためのタグとしか思えない。こんなものに何の価値があるのだろうと疑問に思っていた。
余談だが、ウンウンと考え事をしているような赤ん坊は珍妙だが、それはそれで可愛らしいと少年の母は言っていた。
少年の考えは間違っていた。母が優しい声で、僕を抱きしめながらつけてくれたその名前は、そんな疑問など吹き飛ばしてくれた。名前を呼ばれるだけで心が満たされる。普通の人にとって当たり前のこれは、少年にとって小さくも満たされる幸せだった。
こうして1つ目の幸せを得ることが出来た。
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しかし誕生から2年、少年に新たな疑問が生まれる。はて、前世はこんな世界だったかと。
少年の唯一の癒しは読書であった。当然、誰かから文字を教わったわけでは無い。少年は賢かった。聞こえてくる産んだ人間の品のない会話や、テレビの音から声の出し方や言葉遣い、意味を学んだ。そして文字も同様に本から学ぶ。
初めは絵本ですら読むのに時間がかかった。けれど少年は読むことをやめなかった。自身の知らない世界を、想像を掻き立てるこの小さな紙の世界にどっぷりとはまってしまったからだ。
この物置のような部屋が一瞬で大きな城へ、空の上へ、美しい海へ、変えてくれるこの世界が少年は大好きだった。
だから今世でも本を読もうと、決意し童話を開いたわけだが…
はて、桃から産まれるのは男の子ではないのだろうか。
落とすのはガラスの靴で、落としてしまったのは女の子ではないのか。
攫われるのが姫でそれを助けるのは王子ではないのか。
前世で読んだ内容との違いを頭に羅列していく。そしてこの前世との違いを確信する出来事が起きる。母が点けてくれたテレビ。
明らかに男が少ない。前世は聞こえてくる男芸人達の漫才にクスリと笑うことがあったなと思う。だが男芸人が全くと言っていい程いない。代わりに女芸人が漫才をしている。まあ、これはこれで面白いものだが…
そしてニュースへと番組が切り替わる。男が痴女の被害に遭う?逆ではないのか?
ようやく少年は理解した。ここは男が少なく男女の在り方が逆転している世界だと。
頑張ります!