恐怖の始まり…
見える範囲での異常が無い事を確かめた僕は扉を閉める。
ふと、鍵の事を考えたが、どうにか出来る訳でもないのでそのまま放っておく事にした。
そして扉に背を向け、一歩進んだその時……
―――誰もいなかった屋上から、声が聞こえた。
あまりの出来事だった為、反射的に僕は振り向いてしまう。
そこには、扉の窓ガラスにハッキリと映る女生徒の姿があった。
(さっきまで誰もいなかったよね?)
そう思ったのも束の間、僕はこれがありえない光景だと気付く。
―どうして曇りガラス越しにハッキリ映るの?
「………ぁぁ」
気づいた瞬間、喉から空気が抜ける。
叫ぼうとしたのが声にならない音になって出ていた。
恐怖のあまり、視線は女生徒に釘付けで逸らせない。
逃げたくても足は金縛りにあった様に動かせない。
いつの間にか手は固く握られて、じっとりとイヤな汗をかいている。
「―――」
女生徒の口元が動いた。
何かを言っているが声が小さくて聞き取れない。
そんな僕の心を読んだみたいに女生徒はこちらに近づいてくる。
動きが無いまま姿だけがだんだんと大きくなっていく……
「あ…け…て…」
声が聞こえた時にはすでに女生徒が扉の近くまで来ていた。
こんな状況にも関わらず何故か恐怖心は消え去り、もしくは麻痺していたのだろうか…僕は扉を開けようと無意識に手を伸ばしていた。
「開けるなっ!」
突如、大きな声が響きわたる。
その声に驚き我に返った僕は慌てて手を引っ込める。
そこでようやく自分の意思で動けるようになった事を認識し、同時に恐怖心が戻ってくる。
ここから逃げようと階段へ体を向けようとした際、うっかりと女生徒の顔を見てしまった。
そこには先程まで見えていた顔は無く、深く暗い闇のような眼だけが、じっと僕の事を見ているのだった。
そこからはあまり記憶にない。とにかく必死に逃げたのだろう。
気が付くと僕はどこかの廊下に座り込んでいた。