一番上
階段を昇りきると、少し開けたスペースに扉がひとつ。
曇りガラスで外は見えないけど、間違いなく屋上に続く扉だろう。
「そういえば…」
屋上の七不思議がどんな話だったのか、まだ見ていない事に気付きノートを開く。
―黄泉への入口―
昔、竜宮 乙女 と言う生徒が、昼休みに屋上へ行くと言ったきり行方不明になっている。
それ以来、屋上へ続く扉は鍵が掛かっており、立ち入る事は出来ない…はずなのだが、たまに鍵が開いている事があるのだという。
好奇心に負け、扉を開けると、そこは黄泉の世界に繋がっていて、開けた者を連れ去るのだと言われている。
辺りの空気が冷えた気がした。
薄暗い中で読んだせいか、はたまた扉の前で読んだせいか、どちらにしても不気味な寒気が僕を襲う。
落ち着こうと深呼吸したその時、目の前から鈍い金属音がした。
「――っ」
大きく息を吸った直後の出来事に驚き、僕は息を吐く事を忘れてしまう。
(今の音は…鍵、だよね)
扉を開ける、という行動をしていなかった為、その音は鍵を開けたのか鍵を掛けたのかがわからない。
仮にどちらかだとしても何故、僕以外に誰も居ない状況でそんな音がするのか…。
見えない恐怖と戦いながら考え、出した答えは……扉を開ける、だった。
「何も出ませんように…」と願いを声に出し勢いよく扉を開ける。
目の前にある景色は、いたって普通の屋上だった。
落下防止のフェンスに囲まれただけの普通の屋上。
はぁ~…っと、僕は安堵し、ため息を吐く。
七不思議に会えなかったのは少し残念だが、鍵の事もあるのでさっさと屋上の扉を閉める事にした。