音楽室にて
―音楽室
教室の名前を示すプレートに書かれた文字だ。
この扉を開ける事が、七不思議を探す最初の一歩となる。
僕は少し不安な気持ちになり、なるべく音を出さない様にゆっくりと扉を開ける。
教室に隙間が出来た事で中からピアノの音が聞こえてきた。
一瞬、僕は七不思議の話を思い出し、反射的に勢いよく扉を開けてしまう。
突然開いた扉に、ピアノを弾いていた人物も驚いたのだろう……演奏を止め、声も出さずにこちらを見ている。
「あ、えっと…こんにちは」
「あ、はい。こんにちは」
お互い挨拶をして数秒、沈黙と言う曲が音楽室に流れる。
相手が生きている人間だと安堵した僕は溜め息を吐く。
その様子を見ていただろう相手は少し笑っていた。
「ピアノの練習をしてたの?」
いきなり過ぎる僕の質問に「ええ、そうよ」と優しく返してくれた。
このまま音楽室の七不思議について聞いてみる。
だが、相手は何も知らないらしい。
「音楽室の七不思議ってどんな話なの?」
逆に聞かれてしまった為、先輩のノートで見た話をそのまま相手に話すと、ふーん…と、興味がなくなったのか気の抜けた返事が返ってきた。
これ以上ここに居ても七不思議を探すどころか、相手の練習を邪魔してしまうかもと思い、音楽室の調査は後回しにしようと決めた。
「ピアノの練習頑張ってね」そう言って僕は音楽室を出て行く。
扉を閉める音に混じり、ありがとう、と聞こえた気がした。