箱
目を覚ますと私は箱の中にいた。
真っ暗で、横に寝転んだまま身動きも取れない。
服装は昨日着たパジャマのままだ。なんでこんなところにいるんだろう?
弟の仕業かな。へんないたずらしやがって。
何時だかはわからないけど、早く出ないと、学校に間に合わない。
天井をガンガンと叩く。しかし開かない。
足元を蹴ってみたけれど、びくともしなかった。
えっ、ちょっとまって、どうして?いたずらじゃないわけ?
こういう時、どうしたらいいんだっけ、酸素がなくなっちゃうから、まず酸素を確保すればいいの?
でも穴も何もないし。
途方にくれてしまった。
お母さん、お父さん、助けて、誰か、助けて
叫んでも叫んでも、箱の中で響くだけで、誰の声も聞こえない。
このまま死んじゃうのかな?
それとも、もう死んじゃったのかな?
じゃあここは天国?
天国ではなさそう、地獄と呼んでいいかもしれない。
今頃、お母さん達はなにしてるんだろう。
私がなかなか起きてこないと、心配してるだろうか。
朝早くからバイトに行ったのかと、特に気にもとめてないかもしれない。
そうなると、探してくれるのは夜になるだろうなあ。
といっても、今が何時なのか、朝なのか昼なのか夜なのか全くわからないけど。
それとも、私はもういないものなのかもしれない。
お母さんもお父さんも弟も、私がいない世界を普通に生活してるかも。
学校も友達も、特に気にしないで生きていってるかも。
そうしたら、私は、どうしよう。今ここにいるのは、誰?生きてるの?死んでるの?
シュレディンガーの猫って話を思い出した。
生きてるのか、死んでるのか、箱の外からは誰にもわからない。
だから、無いのと同じこと。
私の姿は箱の外から見えないし、声も聞こえない。匂いだってしない。
だから、無い。
私はもう、世界から無いものになってしまったのだ。それってつまり、死んだって事になるのかな。
ただ、箱に入って、埋まってるんだか置いてあるんだかわからないけど、箱に入っているだけで、私は死んだ。
自分でさえ、自分が生きているのか証明ができない。
つねったら痛いし、引っ掻いたら皮だってむけたけど、死んだ後だってつねったら痛いかもしれないじゃん。地獄の人は苦しむのだから、苦しみや痛みは死んだ後だってあるはずだ。
そうおもうと、私が生きていようが死んでいようが、どうでもよくなった。
学校も、家族も、全部全部夢だったのだ。
少し、苦しくなってきた。
これで、本当に死ぬのかな。
あーあ、彼氏欲しかったな〜、夢なんだから、先輩に告っちゃえばよかった。
夏に先輩と海に行ったり、
誕生日をお祝いしあったり、
バカなことしたり。したかったな〜。
マキとユリナとももっと遊んだらよかった。
今頃、今日カスミいないねー、なんていいながら、私に「今日こないのー?」ってLINE打って、それでから、今日一時限目なんだっけー?とか、昨日の恋仲みた?とか、そんな話をしてるんだろう。
お母さんの肉味噌炒め、またたべたいなー。
お味噌汁と白いご飯も。
お父さんとデートもしてあげたらよかった。
弟にもゲーム貸してあげればよかったな。
結構いい人生歩んでる!って思ってたけど、思い返すともっともっと、やりたい事あったんだなあ。
もう、なにもできないんだ。
涙をポロポロと流すと、耳に涙が入ったり、髪が濡れたりして、なんだか気持ち悪い。
本当に、息がくるしい。
ぼーっとしてきた。
ああ、私は本当に、内側から、死ぬのだ。
こんな考えをしてただとか、死んでから箱に入ったのかだとか、箱に入ってから死んだのかだとかは、もう外側からはわからない。
内側の、私だけ知ってる。
それで、いいのかな。
なんだか、さみしいな。
私は目を閉じて、手を組んだ。
そして、「おやすみなさい。」と言ってから、動かなくなるまで、もう少しだ。




