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Brave.Brake.Fantasy[mind of world]  作者: OGRE
ゲームの始まり
9/19

抗い

 天照の暴走行為があり、幕引きは荒れたが海大人は退けた。

 あれから1ヶ月程経過するが、それ以降の超大型(マウント)級モンスターは確認していない。平和な時間が続けばいいとは思うし、現実(リアル)へ戻る為の(いとぐち)が早く見つかる事を願っている。ただ願うだけでは何も変わらないから、悪足掻きもしてはいるがな。

 言われなければ自覚できない事もある。そう気付かされたしな。これまでの、……最初の自分ならこんな事が出来たのだろうか? 自覚するだけで確かな違和感はある。本当なら小さな怪我に繋がる出来事であっても反射的に避けてしまうだろう。いくら必死だったとして…見ず知らずの女の子達を助ける事ができただろうか? ふと思い返せばたくさんの違和感が見つかり、明らかに俺が何かと乖離し始めている事は解る。だが、どうしてそうなってしまっているのか、はたまた何がそうさせる原因なのか解らない。だから今更止めようもない。

 確かに他の5人とは異なり、俺は特殊な立ち位置にある。俺は本編のシナリオライターだ。そして、新たに感じ始めた違和感もある。おそらくそれが解るのは極一部の人物達と俺のみ。これの状況、今現在が『現実(リアル)を食い潰している』と言う事を除いて……ではあるが。

 前提条件だらけで済まないな。今の状態、それは最初に書いた本編により近い事や、アイテムなどの設定、初期のデモ段階での問題等々。『R.R.M.F』を作り上げていった『製作の段階』に似ているのだ。それに、そうなるとこのような仮説も浮かび上がる。『俺が居たからこの様になった』ということだ。


「『そう言う事ならば巻き込んだのは俺の方になる。……だが、俺が望んだ世界って訳でもない。そもそも「何」が「どのようにして」この世界を造形してるんだ?』」


 実は夢だったんだ……、とか言われた方がしっくりくる。しかしながら、様々に生活でき、生き物としての感覚や心情も働く。そもそも『映像(ビジョン)』ではない。こんなリアリティの高い夢があってたまるか。

 この半年近い時間の中でがらにもない事ばかりしている。……ふぅ、1人の時間があるってのはなかなかありがたいことだ。人にもよるんだろうが俺は1人の時間と共有する時間を分けなければ気が済まない質でね。たまには1人で息も吸いたければ、散歩くらいは1人でしたい訳だ。無いだろうか? 誰かに見られたくない弱みや誰にも知られたくない素の深いところなんかがな。

 …………。そもそもこれらは他人に自覚させられた。イービル・グングニル、風神ゼピュロスやアルティメット・ダーカーとの連戦を経て、天照に指摘され始めていた『現実との離別』。言われなければ気にも留めなかった。気にしてみると様々な部分に抜け落ちた場所があって、俺が俺で無くなってしまっている現れなんだろう。記憶、感情、体の一部……。何が変わる原因なのだろうか。


「OGRE君」

「ん?」


 空から紬姿の少女が飛来した。正確には空中を滑る様に走ってきたのだろう。彼女、時兎もそう言う意味では大きな変化をしていた。最初は黒髪のショートヘアだった時兎。その彼女も今では白銀色の髪でウェーブが入ったロングヘアである。別人と言っても過言ではない。それだけでは無いんだろうが、ゲームの設定とは言え全てを見解だけで判別できないこともあり、彼女の詳細は今をもって外見からの見識に留まった。ゲームに取り込まれてからの変化は深刻だ。……親しい友人などであっても彼女を判別できるか危ういだろうな。果ては両親ですら解らないかもしれない。

 そんな時兎や天照は彼女ら自身の名前を未だに解っているらしいが……。俺は解らないのだ。今では自己紹介を受けた記憶のある時兎、天照、友人である鯖艦、天土の2人の名も解らない。俺はどうなってしまったのだろう。俺の表情が曖昧なのか、反応が薄いのが気になったのか、顔を覗き込んでくる。


「大丈夫?」

「何がだ? 何も異常はないぞ?」

「あ、いえ、最近はOGRE君が1人でいる事が多いので」

「そうなのか? 大丈夫だ。気にするな」

「何かあったら言ってくださいね?」


 背後にいる時兎へ手を挙げて合図し、『ARREST』を構える準備をしながら海岸の方面へ歩き出す。別に敵がいる訳ではない。俺の気分転換と訓練の様なものだ。

 時兎は今や能力を隠す事もなく、普段から何気なく使う。そんな時兎が空中を跳ね上がりながら拠点へ帰るのを見送り、気配が完全に消えた事を確認してから空をみあげた。深呼吸し、対物ライフル仕様に『ARREST』を変化させる。誰の気配も無いことを確認してからプリズムの様な物が付いたアイテムを装填した。銃の型毎に弾倉(マガジン)は異なるため、それ仕様に弾倉も変化していてリロードも特に問題にならない。まぁ、銃によっては装填の必要すら無い物もあるしな。

 そんな事よりもだ。

 現実には無かった魔法や物理的な事象干渉。それを可能にするような物事はどの様な物なのだろう。それを確かめる為に日々、俺も研究している。先程も述べたが悪足掻きはするし、俺だって日常(リアル)を取り戻す為に闘っているのだ。


「『これまでの人間の文明では有り得ない状況。たとえ映像であったとしても専用の機材、空間を用いねば何かを瞬間的に立像、具現化などはできない』」


 今は大潮の満潮。対物ライフルを撃ち放つ訳だが、俺はあえて直立で構える。本来、この手の武器を用いる場合は座った形であったり、寝そべった形を取るものだ。精度や反動からの取り返しが大きな理由。しかし、見た目は既存兵器に近いが『ARREST』は任意の武器へ変化する上、使用者を常識外れな補助機構で助けるなどの機能機能を積んでいる。そんな現実では有り得ない機構や能力を秘めているのだ。

 かなり離れた雲を狙う。急激な気温上昇による積乱雲の発生が見られる沖合の10数キロ先に自動照準機を合わせた。スコープとヘッドセットにあるらしい機能だが、ブレや風速の予測、弾丸に備わるパワーで到達可能なのかをはかる。そして、先日撃ち放った氷属性魔法を模した射撃を行えるプリズムにチャージを行った。


「『そうなれば俺達が寝ている、または拉致され何らかの実験に使われている……。なんて考えが浮かぶ訳だが。「夢」で見ているにしてはリアリティが強すぎる』」


 この世界と現実世界の違いを際立たせる最も大きな要素。それは天照が攻撃、防御、治癒、生活一般の諸要素に用いる『魔法』の力だ。

 その魔法を使う上でのエネルギーにあたる魔力。魔力はその前段階である魔気が組み合わさり作られる。魔気は原子、魔力は分子の扱いになるな。しかし、魔気はそれ単体では何の作用もなく、それを扱える『者または物』が無ければ力を持つ魔力になれない。元素などの素体からエネルギーを得る現実世界の常識とはまた異なる。

 それに加え、火薬なんかのパワーソースが文明レベルからしてもかなり古いにも関わらず、現実世界にあった熱核、電子、次世代兵器などが形無しの高性能さなのだ。現代エネルギーのベースである電気も然り。1つ1つの機材は便利なため、電気製品なども魔法により電気さえあれば使う事もある。……作業によっては中途半端に文明物を使うよりは、統一して原始的な方法のがいろいろと便利な訳だがな。

 おっと、長々と設定を喋ってる間に本命がそろそろ出来上がる。およそ1分程チャージにかかった。この手の魔力を作る為の魔気が周辺にあまりないのだろうな。さて、あの雲のどこを撃とうか。


「『何がこの世界を創造しているのか。はたまたこの世界を創る目的とは? 作る為の能力などと掘り進めれば進めるだけファンタジー過ぎてアホらしくなるな。だが、今はこれが俺達を取り巻く「現実(リアル)」な訳だ』」


 積乱雲の中程、目標としてはかなりアバウトな場所だが、そこに銃口を向けた。遠距離射撃が本来の用途となるこの手の銃。比較的近距離を狙う銃器には後付け光学機器ではなく、銃本体に備えられた照準機がある。銃にもよるんだろうが、この変化パターンには無いようだな。

 ざっとした距離と風向、風力、湿度などを自動で計算されるが……。実は魔法を用いるこの様な特殊な弾丸にはあまり意味をなさなかったりする。例えば、氷属性や火属性は基本的に直線光線だ。この二つの違いは着弾時に固形物を作るか作らないか、また収束に要する時間と収束の方式が異なる。火属性は単体で高火力で収束時間も短い。しかし、銃に蓄積してしまう熱量は最も高いため、銃の負担と弾丸の入れ替えから考えれば連続使用には不向きだ。対する氷属性は熱をあまり出さない代わりに収束に時間を要し、一撃当たりの威力もかなり小さめである。だからだろう、海大人も一撃で仕留めるには至らなかった。


「『考えても始まらないか。動かなければならない。だが、知識も薄く浅い、ましてや戦闘に関して未だに不安の残る5人を連れて動くにも限界がある。……やはり、少しずつではあるが単独調査が必要だな』」


 この様にゲームだから有り得るが現実の物理的な物事では難しい物ばかりだ。しかし、以前の世界に通ずる部分も無いことはない。油断すれば死ぬ。……食わねば体は疲弊し、休息を取らねば体調を崩す。人間は頂点ではない。……俺達の生活していた現代には有り得ない話ではあるが、先人達の通った道筋には存在したはずだ。

 それに俺にもとある心境の変化が現れていた。抗う事で『ARREST』をこの手に得たのだ。ならば、更に抗う事をすれば俺は更に先を見る事が出来るのではないだろうか? 既に虚実(ゲーム)との混濁により、現実(リアル)の俺は希薄になりつつある。生き物とは順応しなくてはならない。……そうしなければ生き残れない。

 やはり、現実には有り得ない事象が易々と起こせるようだな。

 雲は小さな粒になった水、つまり水蒸気の塊だ。その水蒸気は言わずもがな上空に上がれば冷えて固まり、粒がぶつかり大きくなる事で雨や雪となる。しかし、俺が放った冷凍ビームは触れた場所の付近に限定されたようだが、瞬間凍結して海面におとしたのだ。


「なーにしてんのよ」

「天照まで来たか」

「あんまり亜莉子を心配させんじゃないわよ。アタシがアンタを消し炭にしなくちゃならなくなるじゃない」

「……、それはいいが何か用事か?」

「おっ!ひっ!るぅっ!!!!」


 太陽を指さしながら俺へ大声を飛ばしてきた。天照に呼び出されたためにARRESTを片して彼女の後ろを歩く。

 飯が冷めるだの、皆が待っているだのと文句と苦言を散らしながらの帰路。彼女も茶髪のボブカットから金髪のストレートなロングヘアになっている。狐の見た目の女神族か……。まぁ、いいが。

 魔法の力でホバー移動する天照には多少の段差や傾斜などは気にならない。2人とも規格外になり過ぎてて困りものだ。見せていないだけで俺にも無いことはないんだがな。現段階の俺には機動力向上や回避強化に必要なスキルは積まれていない訳だから、あまり目立たない上に見せ場も少ない。


「聞いてんの?」

「いや、全く」

「少しは悪びれなさいよ、バカ」


 天照が部屋に入ると表情をパッと明るくした少女が1人。そして、その1人だけ年齢が小さい月詠は俺が一緒に居るとわかるや、背筋を伸ばし居住まいを正した。ついでに言うなら時兎も服の乱れを慌ただしく直しているがな。2人とも生真面目と言うかなんと言うか……。

 月詠に関しては武器の観点で射撃が適する事から、同じく銃機を主体として使う俺を師匠と呼び、いつも俺には砕けた態度を取らない。俺にも血の繋がりは無いが、今年で16歳になる義理の妹が居るから扱いは何となく解っていたつもりなのだがなぁ。そんな月詠は俺に視線を向けた後、何故か隣の時兎へ視線を向けてから彼女は少し位置を変え、時兎と隣の椅子に俺を通した。


「師匠、おかえりなさい」

「済まない、遅くなった」

「まったくだ。早く食お~ぜ」

「天土、もう少し落ち着きなよ」


 鯖艦と天土。2人もまちわびていたようだがまだ手を付けずに待っていたらしい。天土にしては珍しいな。……いや、二日、三日前くらいだったか…摘み食いと勝手に飯を食うとかで天照にゲキ入れられてたな。まぁ、俺は何でも構わないが。

 男兄弟の多かったらしい天照は気が強く、態度はたいがい強気にでる。だが、真ん中の子らしく妹や弟の面倒を見る事が多かったこてなどが影響し、皆に公平で分け隔てなく口調や、ぱっと見の態度からは見られない程に家庭的で手先は器用だ。性格はアホみたいに不器用なようだがな。

 ここだけの話……対比に使うと失礼なのだが、そう言う意味では時兎はまったく役に立たなかったな。掃除、洗濯、料理、裁縫、後片付けなどはまったく出来なかったのだ。天照から聞く限りでは生粋のお嬢様らしく、かなり世間知らずで偏食家らしい。食べ物の話ではなく、物事の食わず嫌い、怖がり方が極端過ぎるのだとか。


「ここ最近さぁ、OGREはどこをほっつき歩いてんのよ」

「ん?」

「いや、”ん?”じゃなくてさ。誰にも言わずに居なくなると皆心配するじゃない」

「周りを散策ついでにアイテム収集してるだけだ。そんな遠出もするつもりもないから安心しろ」

「アタシは……別に構わないけど、さ?」


 天照が視線を向けたのは明らかに食事の進みが悪い時兎だ。彼女は刀を握る時と平時が全くの別人である。俺もよく言われるが集中したり機嫌の善し悪し、酒、タバコ、様々に変わる原因はある。人間は変化するだろう?

 俺の視線が向いたためなのか、時兎は少し考えたような素振りをした。開きかけた口を直ぐに閉じ、彼女が頻繁にする不安の表れを見せてくる。無理やり作った笑顔だ。時兎は剣士である時は本当に刀の様な『女性』だと思う。真っ直ぐで鮮やかな切り口を思わせる。剣士としてならば彼女は今や猛者の域だろう。的確な踏み込み、相手に間合いを取らせない絶妙なフットワーク。そんな剣豪。ただし、普通の時はかなり頼りないがな。当たり前だが、変わっているのは俺だけではない。こちら側への変化深度が浅い3人は別にして、天照、時兎はこれ以上の進行は危ないかもしれない。

 薄々感づいていたが……気づかない様にしていたかったのだ。俺は……。おそらく後戻りできない。天照や時兎を意識的に見つめ返し、己に照らし合わせる事でようやく理解してきたのだ。俺が俺で無くなり、彼女らをそうしてしまう段階的なトリガーをね。


「だ、大丈夫だよ? 確かにOGRE君の事は心配だけどOGRE君ならどんな事があっても帰ってきてくれるから」


 こういう時に楽観主義の天土みたいな奴が居るから助かる。楽観主義とは言いすぎか。何事にも彼なりの前向きさを織り交ぜているんだろう。人によっては鬱陶しいし、うるさくて空気をぶっ壊す事のある面倒な奴だが。俺はひた向きであり、革新できる奴を嫌わない。羨みこそすれど、それは俺が最も欠いていて、尚且つ本当なら欲しかった物だからだ。

 午後からも3人1組の軽度探索を行い。天土、鯖艦、月詠の3名を発見したエリアの調査を粗方終えた事になる。この周辺のモンスターの生態や縄張り、想定行動範囲もある程度目星をつけた。そうなれば次の土地への移動をした方がいいだろう。早く周辺を知っておくことは今後の挙動にとても重要な要素となるからだ。その旨を伝え、とりあえずは最初の本拠地へ帰る。野営地(キャンプ)は手入れしやすい様に設備を最小限に抑え、本来の設備を使うべきだ。……本拠地を空けすぎるのも問題だしな。


「OGRE君」

「ん?」

「えっとその、ちょっといいかな?」

「構わないが、どうかしたのか? 最近は輪にかけて情緒不安定だぞ?」


 一瞬ムッとした様な表情と態度をしたが直ぐに抑えに入る。この態度も最初なら有り得なかった時兎の成長だ。確かに頑固だが……。周囲と折り合いを付けられず喧嘩をするくらいならば……と言う様な感覚だろう。根が心優しくて気弱な彼女は、周囲に自身を見せるのが怖かったんだと思われる。

 今はその枷も外れてきているんだろうな。彼女の地を見せても大丈夫な友人ができ、彼女自身がそれを外そうとしているのだ。俺がどうこうした訳じゃない。確かに見た目やこの世界への順応などの要素は俺のせいだが……。そう考えたら、救われる気もするな。俺がしてきたのは改悪だけではなかったんだ。少しでも彼女や周囲のメンバーの為になれたなら。……よかった。


「私ってそんなふうに見られてたんですね」

「あぁ…まぁ…変わった人だなぁ、とはな」

「……」

「で、要件は何なんだ? 時間はあるから何でも構わないが」

「……『琴乃ちゃんの気配』ゴメンね。ちょっと皆に聞かれちゃうと恥ずかしい相談なんだ。だから、夜に見張り台にいて下さい」

「『天照の気配に気づいていたか』了解。いつもくらいには居るようにする」


 時兎は頷くと自然に分かれて歩いて行くふうに見せてその場から離れて行った。天照にさえ秘密にしたい事か……。アイツら2人は仲良し2人組って感じだったんだがな。まぁ、いいか。

 周囲に危険な気配もない。なめてかかると確かに怪我はするかもだが、大した事ない小型モンスターが周囲に居るくらいだろう。それにこの周辺の肉食モンスターを大小関係なく討伐するためか安全と考え、草食系の小型、中型モンスターも姿を見せる様になった。時兎は鹿の様な見た目のモンスターを撫でながらどこを見ると無しに座っている。思いつめているのか、何かを変えたいのか……。天照と同様の事を問いたいのか。

 俺達の会話は今の天照の位置では聞こえなかっただろう。何を思って時兎を追いかけたかは解らないし、彼女の考える事は俺にはよくわからない。視点が違うからだろうか。いや、根本的な違いもあろう。俺は抗おうとして実力が伴わない事を極度に恐怖する。だが、彼女は一時の激情で物事を決める事ができてしまう。俺にはそんな思い切りはない。さて、時兎が空中歩行、天照がホバー移動ならば、俺は瞬間転移を使ってやろうかな?


「『あの2人、なんか意味深な切り出しと受け取りしたのに何であんなにあっさり? あの唐変木!!!!』」


 決まった範囲と直線距離、その途中に遮蔽物が無いことが条件の為に使い道があまり無いこの技。高い所に移動したり、低い場所に脚を傷めずリスクなく移動できる。途中に俺の体より大きな物が無ければ大概可能だけども。ま、壁抜けだったり格子を抜けるなんて事も出来ないから、便利なのかと言われれば激しく疑問符の出る内容だ。そんな力で隠れているつもりらしい天照の真横に無音かつ無風で着地した。温熱感知するくらいに今の俺を瞬時に見分けるのは無理だろうな。


「あ、アイツ……消えた?! って、うわぁっ!!!!」

「よう」

「よう…じゃないわよ!!!! アホじゃ無いの?!!」

「それに関しては否定しないが。お前も過保護が過ぎるんじゃないか?」

「え? な、何の事?」

「時兎はお前の気配に気づいていた。だから、話をこの場ではしなかったらしいな」


 苦虫を潰した様な表情をされても俺が困る。何を思ってコイツは時兎を追っかけて来たのだろうか。その辺りはアイツにしか解らない。深みに触れてしまってはならない部分は誰にでもある。特に思い入れやその人に強く執着するような物が有るならば尚更だ。俺がそこに触れてこの2人の関係を壊してしまうくらいならば触れない方がいい。結果として既に壊れ始めてしまっているのだとしても修復は早いに越したことはないはずだ。その辺りはよく解らないが、とりあえずは天照を落ち着かせて俺も再び別の行動を取る。選択肢は幅を取れた方がいい。……解っているんだ。

 俺が歪み始めたのはイービル・グングニル討伐以降である。……記憶が揺らぎだした箇所を自分なりに精査した結果だ。超大型級が俺が変異したトリガーであり、『結果』から言えばOGRE(オレ)、時兎、天照は数が揃っている。イービル・グングニル、ゼピュロス、アルティメット・ダーカーだ。それに、今回は月詠が変遷を遂げてしまうだろう。

 そして、最も重要で忘れてはならないもう一つの点。

 『俺』が気づくまたは関わらなければ『超大型級(トリガー)』はこれまで出現して来なかった。誰がどの超大型級の出現により深度を深めたかは俺達3人は解らない。しかし、月詠に覚醒の兆候が見られた直後の海大人による強襲……。未遂に終わらせたがあのまま対策を練らずに居れば間違いなく手痛いダメージになっただろうな。


『「アタシが追っかけて来たのは亜莉子の為じゃない。アンタを……追いかけて来たのよ。バカ……」』


 鯖艦、天土にも近々来るだろう。おそらく、俺はイービル・グングニル。次は時兎にゼピュロス。そして、天照にアルティメット・ダーカー。

 俺のような『鬼人族』は睡眠や麻痺などの毒性状態異常が致命的な弱点、イービル・グングニルはその点で言うならば最も出会いたくないモンスター。空を舞う超大型級のゼピュロス。コイツは時兎のような打撃と防御、遠距離攻撃手段を持たない近接戦闘に特化したプレイヤーには鬼門となる。そして、アルティメット・ダーカーは本来魔法攻撃を完全に遮断し、近接戦闘においても巨体を俊敏に動かす為に近接戦闘員がフォローし難く、魔法攻撃特化のプレイヤーに関しては苦渋を飲まされるような敵なのだ。

 どんな敵が来るかは解らないが2人にとっては辛い闘いになるだろう。今回、その特徴に気づくに至った戦闘からもそう思われる。例に違わず月詠のメインウェポンである『(ボウ)』は海大人には効果がイマイチな武器なのだ。弓は俺が使う銃等とは異なり一撃の特異性が薄く、火力も特殊な能力を添加しない限りは低めである。地火力が低いため添加をしたとしても苦戦をひっくり返す様な救世主にはなりにくい。海大人は中途半端な攻撃はなかなか通らない。瞬間火力と連続性が最も高かった時兎でさえ、弱点への集中攻撃で物にする形だったのだ。火力、連撃、精密射撃のどの観点においても中途半端になりがちな弓だけでは海大人の討伐は難しい。これでは弓の弱点ばかりだな。弓の強みは別の部分なんだが……。


「OGRE君、こんばんは」

「おぉ、昼間は天照が居たから遮ったんだな」

「はい。この会話を特に彼女には聞かれる訳にはいかなくて」

「……。そうか。アイツに聞かれたくないような深刻な内容なんだな?」


 時兎は見張り台から飛び降りて俺とは反対側を向き、少し俯き加減で動きを見せた。人間味の強かった彼女とは違う。なんと言うか、人間的な成長と言うのだろうか。時兎は俺に見せる姿や態度、仕草が急激に変化していた。彼女だけとは言わないが出会ったばかりの2人はまだまだ少女の面影が強く、不安が割を占めていたが様々な表情を隠せずにいたふうに思う。確かにまだ不安定な部分はあるにしろ、出すべき部分と隠したい部分を分けるだけの広い度量を身につけた事になる。まぁ、そう言う言い方をするなら感情起伏の小さな俺からしたら羨ましい限りだし、彼女等はそれだから心情の状態を読み解きやすい。俺程度ではその末端しかわからなくとも。ある程度なら読み取れてしまう。


「最近、琴乃ちゃんと仲が良くなってますよね?」

「? そう見えたか? 最初からあの程度だった気もするが」

「……『絶対に気づいてない。……違う』」

「時兎?」

「本当は、こんな事言うべきじゃ無いって…今も思います」

「?」

「OGRE君、貴方が本当に恐れていたのは、貴方へ周囲が与えて来る影響なんかじゃない」

「?!」


 真っ赤になった時兎は涙目になり、俺をしっかりと見据えている。女の子を泣かせるなどと言う状況はこれまで体験してきた事が無いため、どうして良いのかと戸惑うばかりだ。しかし、彼女が次に言葉にしようとしている物は俺が最も恐れ、何よりも嫌悪している事だ。

 そう言う事を何も考えずに居られる人間は本当に幸せなんだろうな。物事に大小の差はあるが俺には大きさなど関係ない。相手に悪影響を出したくないのだ。それに俺は相手の感情やきっかけが波として伝わるならば受け取りやすい。しかし、相手からのコンタクトや催促などがないと感じ取れないと言うことになる。それ自体は治したいと思い、行動に移してみたりするのだが……一切変わらなかった。


「貴方が周囲に与えてしまうダメージを……何よりも怖がっているんじゃないですか?」

「……」

「当たりみたいですね。私は……貴方に迷惑をかけられても気にしません。むしろ、頼られない方が私には辛いです。もっと私達の気持ちに気づいて欲しいんです!! 見て見ぬ振りをしないで……」


 ……既に事は動いていた。

 咄嗟に時兎を抱える形で走り出しながら、その放射系のブレスを回避する。金剛石、ダイヤモンドの巨大な破片だ。それを放つ超大型級…その名は特長そのままに『金剛亀』。2頭を持ち、長い尾には先端に鋲のような物がある。

 体表が硬く、時兎や鯖艦の様な切れ味の良い武器には酷な相手だ。今の我々のスキルや攻撃手段では苦戦を強いられる。ついでに言うなら俺も今回は実弾で戦わねばならず、月詠も特殊な矢を使わねばならないだろう。天照は残念だが、今回は回復支援以外は見込めない。

 今の俺は海大人の時以上に気が立っていた。……大切な話を遮られた事に強く激しい怒りと憤りを感じている。確かに、俺は鈍いとよく言われた。しかし、時兎の言うように見て見ぬ振りをしていた事実が無いわけではない。……そんな俺をまだ、信用してくれている。

 だから、俺は自らを棄ててでも、必ず彼女らを現実(リアル)へ戻さなくてはならない。その為には死ねないのだ。俺はやり遂げねばならない。俺は…こんな俺を大切と語ってくれた友人達を必ず救わねば!!

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