開拓の魔導師
アタシ達は新たに仲間を加えて遂に連携と部隊編成が可能になった。基本的な組み合わせは前までと同じで第1組にアタシ、亜莉子、OGRE。第2組に為子手、蒲葉、花崗だ。
分けていても臨機応変に動き回り、挙動に合わせて立ち位置も変わる。アタシもそれに対応できるように武器である紅蓮を変化させて仲間を守る闘い方をするようになった。
OGREもアタシや周りの仲間をよく観察し、適宜指導を入れている。最近の好例で言えばアタシの種族が解った事かな? アタシの種族はパッと見は獣人だが実は違う。最初の変化で狐のコスチュームが変わらなかったのはアタシ自身が狐なのではなくコスチュームがそう言うコンセプトだったかららしい。
亜莉子と花崗はがっつり獣人系らしいけど、アタシは女神族。肉体が脆弱なため、基礎HPや基礎筋力、スタミナなどの近接攻撃職に必要不可欠な要素がかなり弱い。その代わりに魔力補填量がゲーム内で群を抜き、魔法の待機数、魔法の展開速度はピカイチ。まぁ、近接攻撃などは全く効果を上げないが魔法攻撃に特化した種族なのだ。前までは地味だったけど今は火力面では最強のアタッカーである。打たれ弱すぎだけどさ。
「琴乃ちゃん、お疲れ様」
「亜莉子もお疲れぇ。花崗もね」
「お、お疲れ様…です」
OGREはアタシ、亜莉子、花崗の3人で組む様に勧めてくれた。……が、3人の息がなかなか合わずあまり上手く立ち回れ無かったため、結局元に戻す形となったのだ。そんなOGREはアタシ達が強くなって行くに連れて……、好ましいらしく武器を遠距離特化に変えていった。
OGREの周囲の変化と言うなら、未だ怖がっている素振りはあるしかなり態度も堅いのだけど、極度の人見知り持ちの花崗も変わろうとしている。出会ってから1週間程で彼を大師匠と認識し、今では良き弟子のような立ち位置になりつつある。OGREは確かにぶっきらぼうだし、仏頂面で何かをよく考え込んでいるから怒って見えるかもね。
……ちょっと前からOGREに好意を寄せている亜莉子は気が気じゃ無いみたいだけど。ふふっ。
「ホントに何にも無かったのぉ? 亜~莉~子~!」
「だ、だからっ! ホントに何にもなかったってば!! 夜に話してたら寝ちゃってただけだよ……」
平和だ。今は談笑できるくらいに強敵からの襲撃は見られず、小さな食物連鎖とも取れる小競り合いだけだ。今は3人をスカウトした近辺なのだが、彼らがフラフラとしていた区域とは違う場所を探索をしている最中。遠浅の海岸があり、干潮時には干潟になる。生き物の営みと言いますか…縄張を侵害したら攻撃を受ける訳でして……。度々形態の違うモンスターから襲撃を受けながら、どこがどの様な場所であるかを綿密にマップへ書き込みながらOGREを中心に旅をしている。
「し、師匠。あの……」
「いや、毎度言ってるが別にそこまで畏まらなくていいんだぞ? で、何だ?」
「機械弓はやはり威力が……」
「まぁ、手数で押し通すタイプの武器だしな。適正距離も近めだ……。それにお前さんの適性や特性もまだ解っちゃいない訳だから……」
最近はアタシ達3人が連戦したような超大型モンスターの襲撃がない。何故なのだろうか。口には出さないだけでこの事にもOGREが関係してそうだけど。1人で撃退してる可能性も無きにしも非ずってこと。OGREなら有り得る話。
別に闘いたい訳じゃない。でも、不気味なのだ。あんなに連続での出撃があったのにここ2~3ヶ月は音沙汰ない。胸騒ぎと言うか嫌な予感がするのである。
「天照。ちょっといいか?」
「え?」
OGREが亜莉子ではなくアタシを呼び出した。
それ自体がかなり珍しい事でアタシが驚いている。そして、アタシが隠しているようで、隠しきれていない不安を抱いている事について触れてきた。超大型モンスターが何故現れないのか……。いや、現れて居ないように見えるだけで実は出現していた可能性があるなどと語ってくる。確実性がない故の検証と調査なんだけど? そうだね。OGRE、アンタはアタシらには危険な橋を渡らせたくないんだよね。
ゲーム本来の形式に則っていれば、フリーハントミッションの形態になっているだろうこの状態で、レベル帯の差が広いからモンスターの出現が緩いのかと最初は彼も考えたらしい。しかし、彼は昨日の事、亜莉子が出てくる直前に彼は強大な殺気と気配を感じたのだとか……。今は、ない気配。アタシが急に感じるようになった胸騒ぎと関係しているのだとしたら十分に注意して仲間を見ていて欲しいのだとも。
「ま、マジで言ってんの?」
「あぁ、気配は感じた。だが、その姿を直接見ていないんだ。最初に違和感を感じたのは二日前、お前が不安気な表情をしだした時と合致する」
よ、よく見てるじゃない。変態……。バカ……。
OGREは何故、亜莉子に言わなかったんだろう。解らない。でも、……亜莉子に言わずに先にアタシの所に来てくれたのが……嬉しかった。
……ってなんなんこれ!
だからOGREは夜に見張りをしていたらしい。でも、毎度同じ場所に気配は感じる。しかし、居ない。ゲイザー・アイの様なケースも想定していたらしいが近寄ってくる気配もない。未知数であるため無闇には攻撃出来ず今は様子見なのだとか。……解らないけど何かあってからでは遅い。アタシも準備はしとかなくちゃ。
「あんな事聞いちゃったし、……信頼はしてくれてるみたいだね。アタシはアタシのできる事をしよう」
為子手こと鯖艦、蒲葉こと天土、花崗こと月詠。この3人もやはりアタシ達と同じ様に急激なレベルアップをしている。20レベルくらいで同じ様に二段階目の覚悟を問われ、アタシ達と似た境遇になるんだろう。OGREに導かれ、助けられたメンバー。これで5人だ。……アタシ達は彼に導かれている。
物思いに耽りながら時間が過ぎていた。野営地ではOGRE、鯖艦、天土が代わる代わるで見張りをしてくれている。アタシは何かあった時の為に女子勢に提案し、誰かしらが見張りをしている人と共に起きているようにしたのだ。
亜莉子は就寝が意外に早く、直ぐに寝付いてしまう。戦闘経験や年齢的にも花崗はあまり夜更かしさせられない。亜莉子はモチベーション的にもOGREの担当している日にやってもらっているのだけど……。今日は既に爆睡していた。なので今日もアタシが見張り番を一緒にしているのだ。
「仲間を気にするようには言ったがお前が無理をする必要はないんだぞ? 天照」
「ふんっ! いいじゃない。アタシが勝手にしてるだけなんだし」
「……無理だけはするなよ? お前ら2人は非常に頑固だ。方向性こそ違うし、性格も異なるからいろいろと違いはあれど……」
「それなら、無理しない代わりに我儘に答えてくれない?」
「ん? まぁ、限度はあるがとりあえず聞こうか?」
OGREの反応は表面上ドライに見える。言葉のキャッチボールができていないからで、投げたボールが彼から返ってくる過程で探りを入れる変化球に変わってしまうのだ。彼の話し方は1度体に吸着し、出方を見るための安全牌を控えた反応にする。しかし、アタシはそれをもさせないOGREの絶句を引き出した。相当、驚いたらしい。
それは彼がこの先どうして行きたいのか。果てはどんな人生を考えているのか……。いや、回りくどいのはアタシらしくないね。
そう……『ゲームと決別する事を諦めたのではないか?』
と、直接聞いたのだ。アタシや亜莉子が先に体験しなければ、また彼の挙動を気にしながら闘わなければ気付かなかったようなレベルの話。
新たな3人のプレイヤーを迎え入れた彼は……機械的に再びレベリングし、明らかに足りない睡眠時間にも関わらず平然と闘う。アタシや亜莉子などとは違う。アタシの能力は攻撃が派手な為に緻密さはあまり必要では無い。亜莉子にしても近接攻撃だから回避や体技における判断力は関われど寸分違わず…という必要はない。OGREは……時として数10km級の遠距離特殊射撃を行っていたのだ。そんな体調で可能な訳がない。彼は着実に『人間味』を失いつつある。彼はアタシ達を救う為に自らを諦めるつもりなのだ。
「……」
「ねぇ、答えて」
「お前らから見た俺はそう見えるのか?」
「……えぇ、OGRE、アタシはアンタが望む事に口出すつもりは無かった。でも、これからアタシの親友やアタシを取り巻く環境にアンタは必要不可欠になる。アンタ無しで亜莉子やアタシは生き残っていけない。絶対にアンタは人間味を失わないで」
そんな最中にことは起こった。
彼には珍しく露骨な舌打ちと…ぁぁ、これが本当に怒ってる顔なんだ。重要な話を遮られた事、アタシが核心を突き自らが揺らいで不安定になった事が関係し、OGREは急激にその怒りと憤りを顕にした。確かに反応が小さいからいつもイライラしてるように見えた。でも、違う。彼は今本気で怒っているのだ。その現れなのか体からは禍々しいオーラが吹き上がり、彼の武器『ARREST』もそれに呼応した変化を見せる。各部に開閉可能な機関が現れ、次々に開き、何かを吸着する異音が聞こえ始める。
『魔法』を使用する際に起きる気体物質の変質や、魔力の素である魔気の減少。彼の職は『魔法銃士』。彼自身が魔法を使う訳ではなく、魔力を充填、保持管理、放出できる何らかのアイテムを使用する事で使うのだ。これを見るのは4度目になる。魔力を充填する為に彼はSP…技力を消費しその膨大な魔力を集めていた。アタシなんかではまだ追いつけないレベルの利用限界値。……まずい、魔力不足で貧血……。
「対物大型狙撃座銃による精密を射撃……氷忌の四番、冬貫疾風」
巨大な反動を抑えるためになのか、後ろに開く開口部から噴射した冷気がこちらまで吹き付ける。宛らレーザーだ。アタシの目には見えない標的に命中したらしく断末魔が上がり、少し後には地鳴りが起きた。……まだ終わりじゃない。
アタシが構えようとした時には鯖艦と天土はOGREを守るように駆け出していた。OGREによれば2人は相性の良い組み合わせでお互いに助け合いながら闘えるペアらしい。最初は鯖艦の方が残り、OGREを守る役割を担う。天土は斬馬刀と言うらしい長大な刀に焔を溜め、波動状にして飛ばして戦っていた。しかし、彼の隣に少し頼りなさげな女の子が佇んだ瞬間に彼も前進する。それに合わせて亜莉子も駆け出した。
「月詠は和弓に切り替えろ。今回の敵は超大型モンスターだ。鯖艦や天土を巻き込まない場所を十分に狙える。確定的な安全が保障できるなら、広域範囲攻撃を許可する」
「はっ……御意のままに」
「アタシはどうすんの?」
「天照は月詠にはできない的確な部位破壊を頼む。奴の攻撃の要……前腕脚を砕け」
「りょーかい」
OGREは次に違う弾丸を装填した。蒸気を上げている銃身は過負荷のせいなのか少々赤熱している。その赤熱が徐々にではあるが引いているようにみえるのだ。あの状態は以前に黒いドラゴンとの戦闘においても見た。あの時はアタシが弱くてOGREの助力と圧倒的な攻撃により助かった訳だけど。あれには大きな弱点があるからOGREはアタシに一瞬だけでも防御をさせたのだ。
OGREが欲しかったホンの数秒の時間以上にアタシがOGREを守れたから、アイツはアタシへ意味深な言葉を言い放った。凄まじい熱量放出はこの世の終わりを彷彿とさせるようなもので、撃ち放った本人がよく生きてたとも思う。OGRE……。その名は醜い鬼。しかし、彼は外側を醜く粗野に繕い、内側の細密で繊細な部分をひたすら隠し通そうとする。……そんな必要ないのに。
「月詠、構え」
「はっ!」
「天照は小規模な爆裂魔法を続投。MPの残量と自動回復の速度を考えて攻撃しろ」
「解ってるわよ!!」
前衛勢に本来いて欲しいはずの打撃武器はいない。OGRE曰く、この手のモンスターには外殻を弱らせ、砕くための打撃武器戦闘員がいた方がより闘いやすいそうな。居ないなら居ないようにするしかない。
奴の名は『海大人』。……の若年個体らしい。本来の海大人はこれ程小さくなく、島を凌駕し…山を跨ぐ生き物なのだそうな。まぁ、個体が小さかろうと大きかろうと脅威になるなら叩かねばならない訳でして。
後衛が安定した支援を繰り出せるのは前衛のお陰。今の前衛主戦力は亜莉子だ。ただし、彼女の刃も関節部への的確な切り込みで生きているだけで、特攻的な攻撃にはなっていない。そんな前衛にも役割分担があり、亜莉子が急接近するためのスキを作るのは鯖艦と天土の役目だ。焔なのか熱なのかは不明だが確かに天土の斬撃波は効いている。でも、時間稼ぎ程度の緩いダメージにしかできないようで天土は唸り、イライラしながら雄叫びを上げている。正直煩い。
「だァァァァ!! どんだけ硬ってぇんだよぉ!! 埒が明かないぜっ!! たっく、よぅ!!!!!!」
どこまでがどのようにリアルの条件を汲んでいるのか解らない。亜莉子など天土の斬撃波や海大人の水鉄砲、水飛沫などを踏み台に空中を移動し、切りつけている。この子もこの子でなかなか恐ろしい。戦っている時の目と平時の目が全く違うのだ。その点に関しては常識が一変した訳ですからね。……亜莉子まで、そちら側に行くつもりなのだろうか?
っと、雑念は敵だね。
アタシも亜莉子の攻撃をより効果的にするため、巨大な両腕の関節部を狙い、小さな爆発を用いて攻撃している。人で言うなら肘の内側を小突かれている感じになるのかな? 痛いらしく身じろぎしながら更に暴れてる。それにしても3人とも器用に避けるなぁ……。
「よっと…、ホントになんて硬さだよ。普通の生き物じゃ考えられない硬さだね!!」
鯖艦はちょこまかと干潟になっている泥濘の上を走り回る。沈まないらしい。こちらは亜莉子と似たような闘い方だが双刀の本質が異なるらしく、立ち位置はまた異なる。海大人の脚は特殊で水中を回遊するための遊泳脚を持っているのだ。だから、骨格はワタリガニに近い。
OGREに口吻、触角、背甲の一部を抉る様に撃ち抜かれたのが効いたのか姿を表した。奴を視認出来なかったのは日照りの強い日中は砂泥地の奥で休み、体が乾きにくい夜闇の中を干潟の砂泥地で待ち伏せていたらしいのだ。怒り狂い立ち上がっていはするが、直立姿勢を維持するのに不向きな遊泳脚……。だが、立ち上がるために後ろの支えをしている。鯖艦が執拗に行うその脚への乱打は奴の攻撃精度を格段に下げているみたい。
OGREは観察し続けている。いや、銃の熱を完全に引かせるまで待ちながら何かを警戒しているように見えるのだ。
そして、その警戒していた内容が誰の目にも明白になった。口元へ両手を合わせ、体勢を低く持ち直し、何かを放つ準備を始めたのだ。海水を吸っている。それに気づいた亜莉子がOGREの支持を仰ぎに2人の首根っこを掴んでアタシの目の前に現れた。
「レーザーみたいな何かを放つ気でしょうか? OGRE君……」
「あぁ、当たりだ。あのレーザーを使って来るって事は奴はダメージが体に溜まり、一発逆転を狙いたいんだろう」
薙ぎ払うように直径20mほどの高水圧砲を放つらしい。海大人の必殺技らしいのだがここが陸の為に奴も収束に時間を必要とするらしく防御体勢だ。
OGREからプランが伝えられた。あのレーザーを無力化するのはなかなか難しいらしい。これまでのモンスターとは違い物理判定が残り、薙ぎ払うようなことも可能なために簡単に押し返せるような物ではないのだとか。そんな太っい水をOGREはいつぞやも使った熱量砲で相殺したかったらしいのだ。しかし、いろいろな条件が重なり、彼の熱量砲では完全に無力化できるのかが怪しい……。安全牌を常に用意する彼らしい作戦ではあるが、杞憂に終わる気もする。
「リバース・ボルケーノを使用するにあたってだが……。実は弾丸の種類や付与されている属性によって蓄熱してしまう熱量も異なる。今回の弾丸はあまり熱量が蓄積しない属性でな。しかも、吸熱にかなり時間を要する」
「ふーん。なら、アタシが全部防御すれば済むんじゃない?」
「連発されたらお前がジリ貧になるぞ? だから、奴の最大の攻撃を最大の隙に変えてやるんだ」
「……。私の出番ですか?」
亜莉子が珍しく真剣で冷たい瞳をしている。たぶん、彼女は実家から逃げたくて下宿を選んだ……。大学はどこでもよくてこっちに一人暮らしをするために来たんだろう。何があったのかは聞かないけどさ。
OGREの作戦によれば亜莉子の斬撃が上手く通れば、アタシや花崗が出る幕はない……。との事らしい。ただし、不測の事態や彼の熱量砲が海大人のHPを削りきれない場合に、まずは花崗の力を借りたいと言う事だった。
「最も仲間を巻き込む可能性も高いが……最も広範囲を確実に焼き払えるのは天照だ。だから、お前さんは奥の手」
「はぃはぃ」
「わ、私はどうしたら?」
「その弓は二段階目の機能が付いている。お前のコマンドの中に『魔力強化』ってのがあるだろ? それを使う事でレーザーの様な波動が照射可能になる」
アタシの長杖に似ている。技力を解放、流用する事で形態の変化が可能になり、新たな機能を解放できることもある。花崗の弓の場合は解放と同時に任意領域の技力を消費する事で魔力を吸着し、放つ。タイプもいろいろあるらしいが彼女の弓は真っ直ぐなレーザーを放つタイプらしい。
その説明を事細かに受ける花崗が緊張で強ばっている。OGREは普段より苛立ってはいるが彼女に対しては特に気を使って優しく接するように心がけているようだ。……が、花崗からしたら歳上の男性で少し目つきの悪いOGREはどうしても恐いらしい。
アタシの出番かな?
「大丈夫っ! OGREも言ってたでしょ? 最後の最後にはアタシがついてるからさ」
「で、でも、琴乃姉に迷惑……」
「花崗は少し気にしすぎかな? OGREは怒ってなくてもああいう感じだし、花崗が慣れてくれたらOGREもたぶん気が休まるんじゃないかな?」
慌てるようにOGREに確認をしに行く健気な花崗だった。
そして、姿が見えない鯖艦と天土。2人はOGREに言われずとも、例の特大水鉄砲の収束を遅らせる為に足元でチマチマ叩き続けていたらしい。そんな2人を他所に亜莉子も深呼吸しながら彼女の定位置に向かって歩いている。あんな亜莉子は初めて見るかも。
時兎の刀は2本で1つ。亜莉子はそれをいつも形を変えずに用いていた。いや、頑固な亜莉子だから形態変化しないタイプの武器なのかも。そんな刀の片方を鞘に納めて居る。かなり集中してるみたい。
OGRE曰く、アタシ達の武器はアタシ達の心を映し出した物。……らしくて、亜莉子は曲げの効かない頑固さ。アタシは1線を逸脱させない頑固さ。確かに…アタシ達はタイプの違う超頑固。それを惚れさせたアンタが悪い。OGRE、絶対にアンタをこの世界から引きずり出してやる。アタシは諦めも悪いし、絶対に負けない!! 現状の難題に屈したりしない!!
「時兎……居合剣技。間の月。すぅっ……はぁー。半月断!!!!」
海大人の極太水鉄砲に技力によって造形するらしい亜莉子の斬撃が通って行く。水は二つに割れ、地面に当たると物凄い音を立てながら瓦礫を吹き飛ばしている。確かに、あんなの連発されたらたまったもんじゃないわよ。でも、海大人の口元手前で止まってしまった。亜莉子はそこで維持する様に刀を固定、踏み込みながら耐えている。
「どうやら、考えすぎとかではなく本当に月詠の力が必要になるな。天照、リバース・ボルケーノの射出時間だけ月詠を守ってくれ」
「了解!! 日輪盾!!」
花崗と自分を包み、再びあの巨大な熱量砲を目の前にする。アタシの防御が届かない前に居る3人は各々で対処した様だ。亜莉子は新しいスキルらしい能力で熱量砲の熱や爆風などのダメージを自身の機動力を捨てる事で無効化している。鯖艦は海側へ逃げて、けたたましい白波と暴風を海大人の体を上手く用いて回避。天土はどうやったのかは不明だが脚からジェットを吹き出して空へ逃げたらしい。
OGREから更なる号令が飛ぶ。
花崗は既に貧血や失神を起こさない程度だが、急激な技力消費の上で弓へ熱量を溜めている。たぶん、この子の弓は氷属性で熱量砲とは相性が悪い。それでも小さな手はまだ諦めていないのが解る。
弓に素人らしく握り過ぎたり、矢の擦れで手にはたくさんの傷がある。マメ、タコ、擦り傷、弦で弾いた傷……。そんな小さな子の手に私も手を翳す。
「大丈夫、アタシがいる」
「天照、残り10秒でリバース・ボルケーノは切れる。オペレーションとケアを頼む」
はぁ……。アタシだって怖いんだけど?
時間は、刻々と近づく。花崗の手は震えている。仕方ない。アタシがなんとかしよう。
5……4……3……2……1……0……。
その瞬間に花崗の弓から直線が放たれた。OGREの銃から放たれるレーザーとも異なる種類の波動。『魔法攻撃力依存の射撃であるか射撃様式化した魔法なのか』の違いだろう。要は魔法に近いか射撃に近いかの問題な訳で。
海大人の極太水鉄砲が凍結していく。これでは攻撃ではなくその場凌ぎにしかならない。OGREはどう……ってアイツ!!!!
「単独先行なんて許さないんだから!!」
「……」
今、花崗の手を離せば亜莉子や鯖艦、OGREが巻き込まれる。魔力の吸着と武器の制御に集中力を使いすぎている今の花崗では照準や照射の範囲までもを調整できない。どうしたらいい? アタシの魔法は仲間を巻き込んでしまう。
アタシの焦燥を他所に花崗が凍結させている極太水鉄砲の上をOGREは走り込んでいる。『ARREST』を大型なライフルから何かの大砲の様な形へ変えた彼は未だ鬩ぎ合う花崗のレーザーと極太水鉄砲の中間地点より奥に既に走り込んでいる。速力の一時強化スキルだ。
アイツの目的? そんなの決まってる。OGREは彼自身への最小限のダメージで味方を巻き込まず、事態の収集を狙っているのだ。何をするかまでは解らない。でも、本当なら海大人に致命傷を与えるための2発を不意にし、火力や手数でのゴリ押しも決定打に欠く。……だから、アイツは一撃で決められるという条件の上でアタシ達に害が無いのなら、リスキーな方法を選ぶに決まっている。
「亜莉子!! OGREを止めて!!」
「え?!」
「アタシが……アタシがなんとかするから!!」
「解った!!!! 天土君!! 鯖艦君を引き上げて!!」
「おうよ!!」
天土は鯖艦を掴みあげて満身の力を込める様に空高くへ。
亜莉子は瞬間移動し、何かを準備していたらしいOGREの度肝を抜きながら首根っこを掴んでアタシの真後ろへ着地。花崗は気が抜けたのだろうが、一撃目の極太水鉄砲を相殺し終えると腰を抜かした。
アタシは絶対に負けない。
アタシが望む未来のためなら出し惜しみもしない。
イメージ通りの場所へ半径5mの爆裂魔法を数多と打ち込む? そんな生温い物なら既にしている。フルパワーでこれをやったらたぶんアタシも立ち上がれない。だけど、2発目を構える海大人もスクラップになってるだろう。いや、溶けて無くなってるかもね。
「我が祖よ。我が太陽よ。我に……新星の力を………………コア・リメイク」
今の限界値となろう魔力を一撃に込め、追加付与できる持続ダメージ効果も力変換スキルで技力を魔力へ変換して撃ち込んだ。海大人の真上には有り得ないサイズの燃える塊が現れ、それは対象を丸呑みし、糧として新たな形を作る為の源となったはずだ。アタシも自分が放った魔法の爆風に吹き飛ばされ、どうなったかはよく覚えていない。でも、これだけは言える。アタシにはまだ、切り拓く為の余力があるんだ。
……それから気づくと、アタシは本拠地のベッドの上だった。身体中に手当ての跡があり、亜莉子がベッドに寄りかかって寝ている。海大人は倒せたんだろう。……あ、この気配は。
亜莉子が扉のノックと共に起き出し、アタシの意識が戻って目覚めた事に気付きながらも複雑な表情をした。それと同時にその男を部屋に入れる。そこには…見るも恐ろしい形相のOGREが居て……。亜莉子に部屋からの退室を願い、亜莉子は不安げにアタシを見た後で部屋を出た。
問われる事など予想出来てるし、アタシは言い返す準備もしていた。最大級の爆破範囲を持つ最上級火属性魔法の行使。これはなかなかにリスキーだったし、下手したらみんな怪我をしたかもしれない。そんな無謀な一手を強行したアタシへの……。
「……怪我の調子は大丈夫そうだな。不自由はないか?」
「えぇ、お蔭さまで」
「なぜ、あのタイミングで手を出した?」
「やれると思ったからよ」
「下手したら全員が巻き込まれる様な状態でか?」
日に日に、彼は人から遠ざかってしまう。
止めたいのに……。止めたいのに!! 解ってよ。アンタが人で無くなるのが絶対に嫌なの。アタシや亜莉子にとっては掛け替えの無い命の恩人で……師匠で…………。アタシが唯一認めた男なんだから。
アタシがアレをやらなくてもOGREは彼自身が怪我をするだけに留まる超級スキルを行使したに違いない。彼はゲーム内で彼の思い描くキャラクター設定へとどんどん変化してしまう。だから、気づいて欲しかった。……この朴念仁で唐変木はどんな風に煽っても気づかない。ゲームの主人公から離れてしまっているのにだ。もう、アタシも亜莉子も戻れない。OGREを……失いたくない。人として、心を失って欲しくないのよ。彼はゲームのキャラクターではないんだから。
「海大人に邪魔された話の続き。アタシはアンタが無理をするくらいなら…アタシが代わりにやるって意思表示しただけ。OGRE、アンタ……人間から戻れなくなることを受け入れてない?」
「……俺自身には身に覚えがない。しかし、そうなって行くなら……」
「絶対に、許さない。アンタも含めて皆、元の現実へ帰るの!!」
やれやれと言わんばかりのOGRE。その後は少し厳しい口調の説教と、耳が痛くなるレベルでの無謀な挑戦を止めるようにとの苦言を呈された。淡々とした冷たい言葉。……OGRE。
我儘扱いは変わらないが、OGREは途中で諦めたらしい。アタシがこういう性格である事を。
絶対に諦めない。アタシは道を切り開く、絶対に皆で元の日常へ帰る為に。負けない。……その道がどんなに過酷でも。アタシは拓く為に闘うんだ!!