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Brave.Brake.Fantasy[mind of world]  作者: OGRE
ゲームの始まり
7/19

拓く心と迷う心

 何となく解ってはいたけど、OGRE君の指導はとても厳しい。しかし、これくらいしなければ短期間での成長は望めないことは解りきっていたことだ。今では私は『時兎トキト』を、琴乃ちゃんは『紅蓮プロミネンス』を使う。外観はオマケとしてこの武器に合わせたような種族と能力。これからはそれらもフルに使いながら戦わねばならない。

 私達2人の習熟と共にOGRE君は野営しながらの広域調査なども視野に入れていると言う。以前のカメレオ…ゲイザー・アイの襲撃時にOGRE君が見つけた空間の(ひずみ)。それと同様の物が複数確認出来たために別の場所に移動出来るかを検証するらしい。他フィールドに生き残りが居て武器を覚醒していないかなどの捜索とスカウトまたは保護をするためだ。

 クリエイターのご友人以外にも大学に来てからの顔見知りも生き残っている可能性はゼロではないから…と彼は荷造りの段階でかなり意気込んでいる。それもそうか。彼には…彼自身に罪は無くとも作り上げた虚実(ゲーム)が引き起こしたこの状況から1人でも多く救い出したいのだろう。彼は優しいから……両手に余るような厳しい状態であっても救うための努力を惜しまない。それで彼自身が何かを失おうとも……。


「まずは隣の区画に向かう。各所に野営地を築きながら安定した進行を心がけよう」

「安全第一な訳ね」

「そ、そうですよね」


 ……。

 急に、仲良くなった気がする。確かに私はへばって後ろに居ざるを得ない状況だったし、琴乃ちゃんもスキルを使うために彼の助力を得てやっとの事で防御をしていた。息も合ってきたよ?

 琴乃ちゃんと彼が仲良しなのはいい……事だけど。

 想像したくない……。私以外の手が彼の手を握っていたり、彼の横で笑っているのが自分以外である事が……どうしようもなく嫌なのだ。それがいかに琴乃ちゃんであっても。私は嫌だ。

 ……っ。

 ダメだダメだ……。明日には1度この区域を離れ、隣の区域に行くのだ。チームワークを乱すような雑念は取り払わないと。私の武器はその乱れが如実に現れる。彼は感情の流れを読むのが得意らしく、そう言った所から私の乱れを読み取られないようにしなくてはならない。た、確かに朴念仁では在るけど…周囲の感情を蔑ろにするような人ではないから。真に受ける形で読まれたら困る。


「戦闘の痕跡だ。しかも今の文明には有り得ない程鋭利な刃物での切断……」

「双剣の攻撃パターンの1部だと思います。ただ、素人さんですね。敵を斬る事を躊躇した切り口です」

「ふーん、じゃぁ自力での覚醒者が近くに居るんだ……」


 その瞬間にOGRE君がククリ刀を投げた。しかし、蒼碧と青の鎧武者はそのククリを弾きあげる。……と、言うかOGRE君は本気で戦闘をする気ではない。急に現れた私達を警戒している彼らを技と挑発したのだ。それにより攻撃の手から私と気配に気づけていなかったらしい琴乃ちゃんを守った感覚だ。

 それに鎧武者は1人じゃない。武者は2人と……もう1人居るね。ちょっと遠目の場所に弓を弾いている人物が居るみたい。とは言えOGRE君に対しての警戒だけじゃどうしようもないだろうなぁ。

 それに琴乃ちゃんも気づいていなかった訳じゃ無いみたいだし。琴乃ちゃんも演技が上手になった。敵を欺く為の技を磨いたみたい。

 そして、目配せされて彼に合わせる。私達は攻撃せずに今の状態で混乱から攻撃的になっている彼らを無力化するのだ。未だに見せる事が少ないOGRE君のスキル……。それは近接系であれば回避系が弱い代わりに極度に高い攻撃力を用いた……一撃必殺の居合剣技。もう一つ、的確に弱点を切り裂く事でクリティカルを連続で叩き込むククリ刀を用いた乱闘仕様の双剣術。ゲーム内には色々な要素があるが彼の場合はどの様な方面であっても攻撃を効率化するスキルを多く積んでいるらしい。


「くっ……」

「そういきりたたないでくれ、こちらもやりにくいじゃないか」

「?!」

「別に取って食おうなんて訳じゃない実力(チカラ)を知りたいだけ…さ!!」


 彼のポテンシャルにあるキーは『攻撃』。回避や耐性を度外視したパワーを極端に上げるスキルを積んでいる。マイナスはそれ以外には特にプラスとなる物があまり見られない事。回避や状態異常については致命的なレベルの物さえ感じる。それでも彼は敵の挙動を的確に察知し、致命傷に繋がる事象を全て排除した選択的挙動を取っているらしいのだ。回避行動は愚か彼の被弾はたったの1度しか見たことがない。そぅ……私を守って……………腕を失ったあの……………………。

 回避挙動へのアプローチが下がってしまうマイナススキルはこの状態になってから有効になっているのかは解らないけど、彼の状態異常への耐性弱化は驚きが隠せないレベルである。それをさせない為の私の様な前衛がいる訳だ。……これまでの彼は本当に孤軍奮闘だったんだなぁ……。

 そんな彼から学んだ私も無理な攻撃はせず、無力化と沈静を目指して円滑な撹乱を行う。


「搦め手を加えるともっと楽な挙動へ移り易くなりますよ?」

「くっ……」


 彼の挙動は極限まで突き詰めたリスクテイクにより実現する。距離を取り過ぎず、かと言って詰められても対処出来る距離。私はその『距離』と『間隔』に幅を持たせる為の存在だ。1枚の薄い壁である。そんな私でもほんの少しくらいなら彼の挙動に自由度を与えられはずだ。

 私には超遠距離への特殊攻撃など無い。距離を取れたり、ある程度射程があっても波動や熱量を放つ攻撃のみ。規模の大きな技の対応はできないため、通常の攻撃を無力化する程度の力以外は持てない技ばかり。私は完全な近接特化。

 彼が奇抜な体技で体を傾け、ククリ刀を投げる。『投擲』のスキルは彼の初期職である『銃士(ガンナー)』の時にスキルを極めてあったらしい。それだからさらに遠距離攻撃判定の威力加算が見られる。双剣での連撃は一撃一撃のダメージ倍率は下がるが手数でその当たりをカバーしているのだろう。

 そんな彼を相手に2人で駆け回りながら戦う和調な鎧武者。確かに、リアルファイトとしては素人なのかもしれない。しかし、的確な攻撃間隔や回避の練度…『虚実(ゲーム)』か。


「アタシもいるんだけど?」


 弓か! 息を殺し、彼を射抜こうと狙いを定めていたらしい。しかもその使い方は絶妙だ。まるでミサイルを狙い発射するようなかなり洗練された曲射軌道……。更にすぐさま2本目の矢をつがえ、弦をいっぱいに張り、放つ。2本の矢は機軸が合わさる。彼もこれには感嘆の声だ。だだし、誰も彼が負傷するとは考えていない。彼も近接武器の2人をいなしているだけで弓に関しては何の対処もする気は無いようだ。


「一文字一句、同じだけど?」


 琴乃ちゃんも抜け目ない。

 魔法力が高まり、彼によって制限されていたスキルを解放された事から魔法を乱発出来るようになったらしい。相手がOGRE君じゃ無ければ火傷や酸欠が見られたかも知れないが火炎のドームを作り上げ、矢を無力化した。しかも矢と同じ機軸を描き、彼女の掌から火の玉が飛んで行く。弓士の女性武者は華麗に回避、体を捻りながら矢をつがえ、琴乃ちゃんに3本の矢を射ち放った。……忘れないでよ…………。私もいるんだよ?


「ナーイス、亜莉子」

「どういたしまして、琴乃ちゃんみたいに存在感は濃くないけどね」

『いじけてる亜莉子もかーぃーなぁ!! ……でも、アイツの視線はアンタにしか向いてないんだよ? 亜莉子……』


 武者達は実力差に気づき始めているようだ。

 ……こんな時だからこそだろう。OGRE君が見極めている最中にモンスターの急襲に見舞われた。漁夫の利が楽だろうからずっと様子を見ていたらしい甲殻類の様なモンスターが青い鎧武者を狙って巨大な鋏を突き出す。あの軌道だと捕食する為に掴みにかかっていたのだろう。

 ……さすが、私達の師匠。状況を瞬時に見極め、それこそ瞬きする間に弾丸、機構を換装し構えられたその銃……一式機銃『ARREST』。この『一式』とは何の変形も加えておらず彼が扱う形態で最も汎用が効く形態を意味していると教えてくれた。こうした武器は機械の様な武器に多く、私や琴乃ちゃんのような武器には少ないらしい。そんな彼の『ARREST』に何式有るのかは解らない。けれど、今の形態は榴弾を撃ち放つのに適した形状のようだ。リボルバー部分には口径の大きな弾丸が装填されている。


為子手(たじた)!! 体を浮かせろ!!」

「お、俺の名前を?!」


 一瞬反応が遅れてしまい爆風に巻き込まれかけたがどうにか彼は助かった。遠浅な海岸沿いのこの付近だとこういう水に入るタイプのモンスターが沢山いるらしく新たなアビリティでも編み出さない限りは呼吸の関係で本当に大変な目に遭わされそうだ。

 彼が何故、榴弾を使用したかと言えば、硬い殻を持つモンスターには中途半端な攻撃は効果を上げない。弾かれて大きな隙ができてしまいやすく、私以外は今の所近接攻撃できない。そんな私が少し離れており、他の弾丸が弾かれ効果を上げないなら特攻的な弾丸…榴弾を使うのが最適と考えたのだろう。

 それに、遅れて……と言っても良いくらいの虚実(ゲーム)との混同が最近になり見られ始めたのだ。これまでの特殊弾は作成が難しい点から使用を渋ってきた。当然だ。ここぞと言う時に無ければ何の意味もなく、特化したダメージ倍率を叩き出してこその特殊弾……とのことらしい。


「弓士さん!! 彼の救援へ!! 私も出ます!!」

「え、えぇ……」


 鋏を砕かれた蟹は口から泡のような物を吹きつけようと彼に頭を向けるが……彼は抜かりない。彼の作った榴弾は着弾と同時に弾けて複数回の被弾を与える武器だ。ただし、それだけではない。彼は既にリボルバー部分の換装を終えて敵が頭を向けて来るのを待っていたのだ。リボルバー1機に大口径弾は6発の装弾数。反動も大きい為乱れ撃つには整った状況が必要になる。

 どうやら撃ち切ったからの換装ではないらしい。別の弾丸へ切り替えたのだ。榴弾の時も反動は確かに大きかったが今回の

弾丸はさらに大きい。

 頭部の柔らかな部分に徹甲弾が突き刺さった。虫系などでは強度が無さすぎて当たっただけで弾け飛んでしまうような強力な弾丸だ。今回はかなり硬い甲殻に身を包んだ生き物。着弾だけでは中でも柔らかな部分に突き刺さり亀裂を入れる程度だった。それの追い討ちが……二段階破裂による傷の拡張。突き刺さった場所は見るも無残だ。そこにとても長い刀を担いだ赤い鎧武者が走り込む。彼は余程切り替えが早いらしい。……思い切りがいいのかな?


「そぉぉい…やァっ!!!!!!」

「お見事! なら、アタシにとりを頂戴な!!」


 頭部の外郭を完全に破壊され、肉が露出した蟹へ赤い鎧武者が追い討ちをかけた。斬馬刀と呼ばれる長大な武器を使う武者は大味な振り抜きで、その名の如く…馬と武者を同時に斬り殺さんと……蟹の柔らかな場所へ最早回復不能な断裂を与える。でも、まだ蟹は挙動が止まらない。あのままだと赤い鎧武者さんははねとばされて怪我をしてしまう。まぁ、それは無かったけどね。

 蟹は意外な人に倒された。悔しいけど私じゃないんですよ。

 前々から杖を『魔法』で変質させて『弓』に『槍』にといろいろしている琴乃ちゃんが前に出る。琴乃ちゃんの扱う力には形が無いと言う彼女らしい特長があり、相手に合わせた挙動と彼女の持つ引かない一線に合わせた範囲の変化が可能なのだ。今回は『大槌』。


「武器の長さが変えられないだけでっ!!……色々出来んのよっと。一丁上がり!!」


 むぅ……。また私の出番無かった。

 まぁ、でも蟹の解体には一役かって、今回知り合った3人と話を始めるきっかけにはなれた。どうやら弓士以外の鎧武者のお2人はこちらでOGRE君と知り合い、テレビゲームをして遊ぶ友人だったらしい。2人ともまだ覚醒は序の口であるが戦えない事もないため、このまま合流する事で合意してくれた。

 弓士の女性は1人で逃げ回っていた所を彼らに助けられ、1人でよりも安全だろうと行動を共にしていたらしい。そんなこんなで同じ女性と言うこともあってか、既に琴乃ちゃんは妹の様に扱っている。かなり畏まった態度の彼女は私達よりも年下らしいし。

 この近辺は居住区ではなく私達が入学した大学であったり、学校や市役所などの大きな建物、ショッピングモール的な場所が固まっている場所だ。人が集まりはするが元の居住区ではない。そのはずなのだが……何に襲われたのかは知らないが大学のホールは大変な事になっていた。無数の血飛沫に腐敗臭、何かの巣になっていたらしい。しかし、ここの主は居ない……。何故? と考えているとOGRE君が恐ろしい名前を口にした。


「イービル・グングニル……ここに奴は居たらしいな」

「なんかヤバそうな奴みたいだな」

「討伐はした。しかし、奴がこんな拓けた場所に根城を作って居たとはな」

「この前の毒の奴?」

「そうみたいですね」

虚実(ゲーム)から現実(リアル)に変質している。……いいや、現実(リアル)虚実(ゲーム)が喰っている?」


 彼の深みがあり、底の見えない今の発言に周囲のメンバーは皆黙ってしまった。私と琴乃ちゃんは人間の時に助けられ、3人は今スカウトされた訳だけど。その『R.R.M.F』というテレビゲームについては何一つ知らない。OGRE君はとりあえず、この近くに野営地を作り上げて今日の所は本拠地に帰ろうと提案してきた。

 神威種はその圧倒的な個性により古来より姿を変えずに生き残った生き物の総称である。故に更に狂った生き物でもない限りあの周辺にはあらわれない。よってあそこは安全なのだ。……と裏設定を語りながら歩くOGRE君の後について拠点に帰りついた。イービル・グングニルは広い縄張りを持ち、近づく生き物を選り好みなく食らう。しかし、そのイービル・グングニルにも現実の要素が流れ込み、野生化…順応したとしたら。


「おそらくだ、イービル・グングニル討伐以前にあまり大型の生き物を見なかったのは奴が捕食していたからだ。しかし、奴は知識を付け、より狩りやすく数のいる脆弱な生き物に目を付けたんだろう」

「人の味に慣れたって事か? み、身震いが」

「有り得ない話じゃ無いのかも知れないですね。兎姉と狐姉の話を聞いてると……」

「そう言えば3人ともまだ見た目は人だよね?」


 私の発言に3人共が疑問符を浮かべたらしい。どうやら私が『兎姉』なのは最初からこの姿と勘違いされたかららしい。琴乃ちゃんも『狐姉』って言われてたし。そしたらOGRE君は『鬼兄』なのかな?

 まだ高校一年生らしいこの子、北郷(ほんごう) 花崗(みかげ)ちゃんはまだ人間の容姿だ。しかし、変わり始めて居るのも確かなこと。元は色素が薄かったのか茶色味の強い髪色だったのに毛足から白っぽい灰色となって来ている。そう考えたら鎧武者の2人は……。察したのか自己紹介をしてくれた。意外と優しい人達だ。

 歪な形の双剣を持っている為子手(たじた) 令布(りょうふ)君。同学年で同い年、体格はOGRE君くらい小柄だから160cmくらいなのかな? OGRE君よりも細身でちょっと頼りない感じはあるけど笑顔が優しそうな感じの人だ。

 もう一人の斬馬刀の鎧武者さんは蒲葉(がまのは) (とおる)君。ちょっと……いや、太っている。身長は180cmくらいでちょっと外見からは取っ付き難い感じかなぁ。でも、話して見たらユーモラスで面白い人だった。

 ………………どちらもOGRE君の友人って事でちょっと変な人かも。全く失礼な話だけど……類友? ふふふ。


「2人とも見覚えあるよ。……元は人間だったよね? てか、OGREもそうだろ? ってあれ? お前の本名……思い出せない」


 不思議な出来事は続く。

 実は私も思い出せなくなっていたのだ。彼の名前だけ……。確かに聞いた。聞いたら忘れないようなあまり聞かない名前だった記憶まである。なのにモヤがかかって解らない。……それをさも当然の様に彼は流し、私達が兎と狐になった経緯を順序だてて説明された。OGRE君も彼の髪を軽く掻き分けて角を見せながら彼のケースも説明している。3人は完全に理解している訳ではないようだけど、どんな風になるかまでは解ったような口ぶりだ。

 そして、鎧武者の2人の変化は突然起きた。

 蒲葉君はリアクションが大きかったが為子手君はあまり驚かなかった。むしろ興味津々の様子。指の間に膜ヒレができ、首筋に鰓のような亀裂、少々青白い肌に鱗……魚人?

 蒲葉君はクルクル回ったり走ったりと面白がっていた。変化を一言で言い表したら『鶏』…『軍鶏(しゃも)』だ。鳥の足に鶏冠は……燃えてるけど、体の一部に鳥の羽に似た物もある。2人とも楽しそうだなぁ。


「僕は『鯖艦(さばかん)』ってハンドルネームらしいね。時兎さんと天照さんでええんかな?」

「ホッホーー! こりゃぁおもろい。身が軽っい〜! んで? 俺は『天土(あめと)』になったと」


 そして、隠れていたけど部屋の隅っこでフルフル震えていたのが花崗ちゃん。両手で抑えている頭の所からピコっと現れたのは犬のような耳。人間の頃の耳は無くなり私達に近づいたようだ。髪の毛で隠れるが私達も退化してしまっている。発達した犬歯とオッドアイらしい金と蒼の目。……? なんだろう。犬なのかな。琴乃ちゃんは九尾だから狐って解り易いけど。


「花崗ちゃんはわんちゃん?」

「っ!! 違います!! ニホンオオカミです!! あ、あとハンドルネームは『月詠(つくよみ)』みたいです」


 変化が恥ずかしいらしい。服装まで大きく変化し、白と青の和装。小柄な私よりもちょっと小さなだけだからその内抜かれちゃうけど…。だけど私と琴乃ちゃんでナデナデしながら可愛がる。妹が居たらこんな感じなのかなぁ♡

 切り出すタイミングをはかっていたらしいOGRE君が口を開いた。まだ花崗ちゃんはOGRE君が怖いらしく、ナデナデしてた間中フリフリしてた尻尾がピンッと立ってちょっとだけ緊張した視線を向けている。OGRE君は構わずに新しくこちらに来てくれた3人へ挨拶とこれからの方針を述べた。確かに彼は今、リーダーだ。まとめ役だからしっかりしたいんだろうなぁ。


「3人共、疲れていると思うし、いろいろ急な事ばかりで混乱もしているだろうから手短にしたい。聞いてくれ」

「お、OGREの挨拶かぁ」

「りょーかぃ」


 ……挨拶はそこそこにして琴乃ちゃんは夕飯の準備といって花崗ちゃんを連れてお料理しに厨房へ。OGRE君はアイテムの採取に向かった。最近になり、ゲーム内設定でしか現れないような草花や岩石、生き物の類が見られるようになったのだとOGRE君が説明してくれる。私はそんな彼のお手伝いでリュックを背負って薬草や軽い木材などを採取する為に同行していた。今更ながら彼と2人きりって言うのはあまり無い機会だ。こんな時でも無いと琴乃ちゃんと私、彼の3人での行動が多いからである。

 OGRE君は火薬になる岩石を集めていた。これのような彼の使用する火薬を使った弾丸の材料を集めているのだ。ショップが無いため面倒でも全てを自給自足でやりくりしなくてはならないのである。

 ……そんな彼の優しさは私が使う砥石の代わりになる石も同時に集めてくれる辺りだろう。彼からしたら能率とか効率からの行動でも、私がわざわざするのとついででも集めて貰っているのとではまた気持ちが違うのだ。私も彼の役に立ちたい。


「OGRE君はなんで普通の銃士(ガンナー)系ではなく魔法銃士(フォースガンナー)にしたんですか?」

「ん? あぁ、……なんつーか。この『鬼人(オーガ)』って種族は俺がモデルにされて、俺以外のクリエイターによって構築された……俺専用みたいな種族なんだ。もうスキル組みなんかで察したとは思うが……」


 ……OGRE君は自身が弱い人だと思っているらしい。周囲のお友達も、けして彼が弱くはない事を伝える為の激励の意味を込めて彼に贈ったのだと思う。

 避けられない、避けるのが下手ではない。避けることで味方にダメージを出すくらいなら自分が支える立場になる彼。でも、けして打たれ強い訳じゃない。彼は他の人の悩みや弱さを彼自身が体感しているように受け取ってしまう。……そんな彼を良く知ったご友人が彼に投げかけたメッセージだったのだろう。

 『鬼人(オーガ)』は回避スキルがマイナス調整になっており、回避挙動における無敵時間が短い。その上、走る速度が遅く、受け身などの回避行動に移るまでの時間が他の種族より遅いと言う弱点を持つ。さらに彼は毒や麻痺と言った状態異常に極度に弱く、毒や麻痺などは致命傷になりやすいらしい。それを覆すためのあらゆる攻撃スキルへ加点とスキルがある程度選び込めるだけの幅の効いたスロット……。

 我慢出来ずに彼の話の途中に割り込む形で私は口を開いていた。話の結末に至る前に切り出したため結局は魔法銃士にしている理由を自分で聞けなくしてしまって……。あぁ、私のバカぁ………………。


「たぶん、貴方をとっても信頼している人が貴方を描いたんでしょうね」

「?」

「貴方は確かに逃げるのが下手です。私や琴乃ちゃんは他の3人のように武器も無くただの女の子。それをわざわざ助けるだけのお人好しなんですから」

「いや、それは……」

「貴方は私達が自力で生きていける……と判断しあの場で無視する事も出来たんです。でも貴方はそうしなかった。助けてくれた」

「時兎。申し訳ないが何を言いたいのかを明確にしてくれないか?」


 ……唐変木。……朴念仁。……激鈍!!

 今はいいですよ。でも、いずれ、貴方に気づいてもらいます。私は貴方と出会って変わりました。逃げて、逃げて、小手先の小技でその場を切り抜けるか先送りにする……そんな私からは少し変わったんです。OGRE君にも変わって欲しい。貴方はまだ目を背けてる。貴方は確かにお人好し。でも、もう一つ貴方が隠して自身から目を背ける理由がある。貴方はそっちの方が怖いみたいに見えるの。

 ……偉そうに言うけど私も怖い。

 今、雰囲気的に確実じゃないから……貴方に想いの丈を伝えて、関係が崩れるのが…………どうしようもなく怖い。その前に琴乃ちゃんに取られてしまう? その結果にも怯えている。私だって変わりきれてはいない。だから、私は……貴方に問いかけて行くことにしたの。


「今は秘密です」

「?!」

「えへへ…ごめんなさい」


 ちょっと照れ隠しも混ぜて、チロっと舌を覗かせて誤魔化した。彼は呆れたように少し顔を(しか)めたがいつものように『やれやれ…』と苦笑いしながら軽く溜息をつく。

 お互いにリュックの中身を気にしながら帰路につく。帰路といってもそこまでの距離はないけど。小柄ながらしっかりした体つきの彼の背中を見ながら彼の左腕に視線がむかってしまう。私の命が繋がった代償。

 ああ、ご飯のいい匂い……。琴乃ちゃんはお料理が上手だ。私は実家の時もお手伝いさんや母がするだけで手伝いも何もしなかったから……実は家事機能はマイナス。掃除や片付けも下手だし、お料理なんて絶望的。入学直後のオリエンテーションでも琴乃ちゃんが全部やってくれて……。私って何が得意なんだろ。


「おっそーぃ!! 夕飯冷めちゃうじゃない」

「済まない。珍しいアイテムの群生してる場所を見つけてな。採っていたんだ」

「ふーん? まぁ、いいけどさ。ほら! 2人とも手を洗って席について!!」


 ゲームの中なのに琴乃ちゃんの料理はとても美味しい。決まったメニューを選択する訳ではなく普通に作って居るからビックリする。美味しいご飯の後はお風呂。この辺りに温泉なんて無かったはずなんだけど普通に涌いて来ていて、それを見つけたOGRE君がここを拠点にしてくれたのだ。部屋数もあるし男性組と女性組に別れて生活も可能。

 夕方の事もあって……布団に入っても寝れなくて、少し外の空気を吸いたくなり外壁がある庭先にまで出た。1人のつもりだったからかなりラフな格好なのだけどそこには今、私を惑わせている張本人がいた。

 OGRE君……。

 見張りでもしているのだろうか。夜に中型以上のモンスターが集まると時たま彼が討伐しているのだとは解っていた。不自然な戦闘の痕跡なのに真新しい。まだ彼との距離も近くはないのに彼から注意を意味する言葉が飛んできた。少しムッとして彼の近くに装いを変えながら歩いて行く。


「こんな夜更けに危ないじゃないか。時兎」

「え、えっと、OGRE君こそ、1人では危ないよ?」


 彼が急拵えだと言っていたが……見張り台に私も登って彼の隣に座り、膝を抱えた。肩が触れそうなくらいの距離だ。片膝を立てて銃を抱える形で座る彼。今の銃の形状はとても長く、おそらく遠距離を狙う為の仕様だ。んー、彼はいつ寝るんだろ。

 黙って彼の肩と首の間くらいで視線を泳がしていると彼が座り直し、彼の視線が私の視線と交差した。露骨な程に赤面したのがバレてしまい膝に額を付けて顔を隠す。理由を追求してこないから、彼は再び視線を前に向けたのだろう。それはそれで寂しいけど、これが彼なのだ。物静かで、語る時は篤く語り、揺らぐのが好ましくないから一定の波を作ろうとする。


「……」

「……」

「……あの」

「ん?」

「夜はいつもここに?」

「いや、考え事や胸騒ぎのする時だけだな」


 今日はどっちなんだろう……。

 それさえ聞けない弱虫な私。色白で男性にしては華奢と言うか骨格は細めだ。映画に出てくる筋肉モリモリの軍人さんとかみたいではない。でも、この体格の人にしては筋肉質で少々硬い。そんな彼に少し擦り寄る。肩が触れたくらいの所で額を膝に付けたまま、再び黙り込む。……そう言えば彼からあまり会話を振って来ることは無い気がする。

 そんな事を考えて悶々として居ると急に彼から先程よりも過分に体重がかかってくる。今頭を上げたら何を言ってくるかな? その程度の事も気になる。でも、……。気になり横目に彼を見ようとして……。………………寝ちゃってたぁ。しかも、結構しっかり眠りについている。肩を退けようとしたのに彼が動こうとする気配さえ感じられないのだ。


「OGRE君?」

「……」

「……ま、いっか」


 実は内心、嬉しい私。

 これから…彼と共に、皆と一緒にこの状態を打開できる時が来るのだろうか? いや、まだ解らない。完全に拓ききれてないんだから、迷うのが当たり前。だから、私は私達の道を斬り拓く。時兎となった時に、そう…決めたんだ。

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