コンプレックス
唐突かもしれないが、本当は俺は、人間と接するのが大の苦手だ。
皆が俺に対して優しく接しようとしてくれたとしても俺は過敏に反応してしまい逃げてしまう。絶対に侵害されない場所を作った上で強固な壁を必ず作っておかないと俺は馴れ合いに耐えられない。弱いから故の心の壁だ。俺が描く主人公像はそんな俺の弱さがとても強く滲んでいて、書いていて辛いところも色濃い。
それだから直接の干渉を拒絶してしまう。誰かに侵害される怖さを幼い頃に味わったことで激しく変化した俺の心内は……。比喩するならば荒れた胃内壁のように爛れ続けていた。マイナスのイメージばかりが渦巻き、頭では忘れよう……、もう思い出したくないとも思うのに嫌思い出は焼き印のように張り付いて離れない。
「だから、俺は人間が嫌いだ」
俺が銃に固執し引き金と弾丸を好むか……、それは心から近づいて傷つくのを恐れているからだ。近づかれる前に抑えて……殺してしまえば俺は傷つかない。味方だろうが敵だろうが同じだ。俺に負担になるならばこれまでは排除してきたし、自分の生活圏という砦を侵害されるならば許さない。だが、同時に友人たちと呼べる人々が敵となるのがとても怖かった。それ故に俺は強烈な程に周囲へ自己の被害妄想を振り撒いて自身を守ろうとするのだ。
総合すれば、殻に入って守られなければ腐ってしまう。そのような弱さの癖に一定の温度に自分で管理しなければ生活環境で死んでしまう。……人間に作られて自然界では生き抜けない生き物達と何ら変わらないのだ。俺はどんなに親しい友人にも一線の防線を残している。俺自身が腐って死んでしまう前に……。
遠距離に居ればその防線は引きやすい。どんなに親しくなろうとも腹の内を吐き出そうともそれはフィルタリングされた開示が許された部分だけ。俺がどんな過去に踏みにじられ、まるでカメレオンやピエロのように仮面を被るようになったか。俺は無駄には動かない。関わらないならば要らない。要がないなら要らない。……昔の俺のように。
「大丈夫ですか?」
「ん?」
「外に出て長いから心配したのよ」
「悪かったな。単なる考え事だ。気にしないで大丈夫だぞ」
両手を握りながら詰め寄って来る時兎は先程もそのように意思確認をしたばかりだが、戦闘においての立ち回りとしては完全に以前のままだ。俺が……後衛の俺が守る。生き残る。人間からかけ離れた俺たちも生き物だ。ただ一つの命を失ってはならない。だからこそこの力は無闇に振るってはならないものでもある。これを使っていいのは襲撃や攻撃に対峙した時だけなのだ。
久しぶりに一人で息をできた。誰にもされてはいけない侵害を……俺はまだあの二人に隠している。絶対に見失ってはいけない自分を俺はまだ、持っているのだ。いつになればこのような性格を一新できるかはわからない。だが、これからは俺だけを守れば良い訳ではないから……。
「そろそろ、モンスターのレベル帯も上がりだす頃だろう。俺からできるレベリングは終わりだ。ここからは自らの足で歩まなくてはいけないだろう」
「はい」
「わかった」
「だが、俺達はチームだ。互いに守り会う。それで成り立っている。俺もお前たちに助けられているんだ。今日は帰って休もう。連戦は辛いだろうからな」
二人も疲労の色が濃い。いくらゲームのシナリオが世界の法則として柱となる世界とはいえ体力やスタミナ、精神なんかは現実から引き継がれている。俺だって気を張っていたに過ぎない。数日過ぎたが体は完全な休息を持てていないからな。実は早く寝たかった。二人には悪いが適当に飯を用意して俺は俺が拠点にした地区市民館の一部屋で眠りについている。
まぁ、二人は戦闘において疲れて居るとは言え、まだまだひよっ子で前面に来ないから疲れの程度も小さいのだろう。俺が奥へ逃げ込むのをただ見ていた。最初は俺の部屋を拠点にしていたがいろいろ手狭になるし女の子にはプライバシーが無さすぎたために俺が密かにここへの移行をしていたのだ。ちなみに二人は隣の部屋。
「疲れてたんだね」
「もしかして……コイツかなり打たれ弱くて遠距離とか?」
「だとしても……OGRE君は私達を助けてくれた」
「嫌味じゃなくてぇ……。アタシらが頑張んないとね。亜莉子」
この世界となるにあたり俺達にゲームによくあるご都合主義が加算され生活が便利にも不便にも傾いた。それだけではなくゲームとしての前景であったFORTUENの時の設定すら歪曲が見られるのだ。俺の腕が切り落とされたのもそうだが、ゲーム内では設定されていた武器の破損設定などが無い。もともとはFORTUENの時でこそかなりシビアなセッティングだったことから今でさえ楽になったのだと思えるが……確かに考えて見れば俺の持つ一式機銃『ARREST』も時兎も天照もレベルから考えたら出現条件が明らかに後半だ。それを持てる訳もない。だとしたら、この現実は全く新しい続編的な扱いになるのだろうか。
俺だけではこの類の話は進めづらい。仲間達が生きているならば早く合流したいものだ。絶対的に手数が足りない。数日前に拠点を俺の部屋からも近いこの場所へ変えてからは広々と使えているからかなり快適だ。一人暮らし用のあの部屋で三人は手狭だしプライバシーは保証できない。女の子二人にそれはかなり酷な状況だ。相手がこの場にいるただ一人の男である俺だとしても出会って間もない訳だしな。信頼関係はこれから築くべきものだ。今は下積みが大事になる。
「亜莉子はコイツが遠のく理由解る? なんとなくでも良いんだけどさ」
「何となく……だよ? 彼は心に壁がある。昔に何かあったんだろうと思うけど」
「やっぱりそう考えるよね。てか……、亜莉子ってコイツの事が好きなの?」
「!?」
「……ぁぁ、まじかぁ。まぁ、そうなんじゃないかとは思ったけどねぇ。ぴったり当たるとやっぱりショックよねぇ」
いくら多勢に無勢だとしても数人は生きているはずだ。この世界で俺達三人だけなどということはないと思われる。俺達のメンツの中で一番の腕前のARENは生きているはずだ。それに頭の柔軟な金剛も生きていると思う。この世界は歪み、どこにどこがつながるかは解らない。もしかすると……この類のゲーム特有のローディングを介することで他の空間に移動可能なのかも知れないな。
それにいつまでもあの二人を俺だけで導くことはできない。ゲームに精通していたらしい天照はともかくとして時兎は素直な面と頑固なところが油と水のように乖離している。そんな人間を助けられる程俺はデキていない。俺の武器『ARREST』がなぜそのような名前となっているのか……。俺の性格が由来しているだろう。この武器の意味は『法的な拘束』だ。
法則……。俺の法則がこの銃には映し出されている。それは強い拒絶と周囲の状況の吸着だ。俺は……リアルの世界では刃を握る事もあった。剣道の様な形式のある剣技などは持たない。乱戦用の危険な剣を俺は学んだ事がある。だから、あの少女には勝つことができた。本名も知って居る。しかし、俺はあの領域へ入ることを拒んでいる。俺が侵害することであの少女が変わってしまう。いいところも悪いところも……。あの少女にはあの少女だけの世界がある。曲げてはいけない。
「!!」
「琴乃ちゃん……今、何か来たよね?」
「うん。前までと同じ系統の匂いだね。かなり大物?」
「私達で狩る事ができるかな?」
「できるできないじゃない…やるしかない、でしょ? フフッ」
「うん!!」
体が動かない。
しかし、夢見のようなこの光景は……現実? あの二人だけではまだ無理だ。レベル云々だけならば確かに俺との訓練で大きく飛躍した。それはそれだ。人間が持つもう一つの要素…それは経験だ。その経験を持ち合わせない彼女らはまだ若葉の域である。俺が教えられなくとも少しは先達として近くにいる必要があった。それを……動けない。
金縛りの様なこの状況で動けないという……この為体。俺はまた何もできないのか? 俺は……また失うのか? 今度は失ってはならない。絶対に……。俺の持つ全てをかけても、自らの精神を守るためにも俺は必ずあの二人を守り自らを安定させなくてはいけないのだ。
「何だろう……この感覚」
「どうかしたの?」
「う…ううん。何でもない」
「じゃ、やろうか!!」
「あいっ!!」
動けっ!!
動いてくれっ!!
『変わらなければ…進化はできないぞ?』
くそ!! 動け!!
外の二人だけではアレには勝てない。俺が一人で挑んでも面倒なタイプのモンスターだ。複数のモンスターが集まって居ないだけ幸い。この条件であの女の子二人が冷静な戦闘ができるとは思えない。俺がまだ必要な……。俺の力が……俺が……。
『お前は…なんの為に力を持っている?』
ゲームを進めて行く中で俺はシステムの調整やバランスの組み合わせを考える仕事をしていた。この仕事は本当に重要な位置を占めている。それだけに俺はこのゲームの限界や欠点もよく知っているのだ。このゲームは難易度的に難しい。コントローラーを握っているとそう感じた。今も、リアルとゲームが溶け込んだことで世界は崩壊し、俺達も変わった。変わらなければならない。解っていても……。全てを変えることはできない。
過去に起きたことなど今更……。覚悟の全てを向けることはできない。それでも俺に答えてくれた物はある。何が俺を縛っているのか。何なのだろう。俺が縛ってきた物は…何なのだろう。俺がしてきたこと……。諦め?
「でやぁっ!!」
「亜莉子!! 危ないよ!!」
「だっいっ丈夫!!」
ゲイザー・アイ……。あのモンスターは体を透明にできるカメレオンの様な爬虫類の形態をしたモンスターだ。透明になること以外は通常のカメレオンと何ら変わらない。……モンスターだから言うまでもなく大型ではあるも、動きとしては緩急が大きいから経験がないとかなり面倒なモンスターとなっている。カメレオンに限らず爬虫類や両生類の形態を持つモンスターはかなり特異な物が多い。これまでのことからあの二人だけではなんともならないだろう。ゲイザー・アイの怖いところは攻撃を受けると透明化できなくなる代わりに…周囲に特殊な匂いを散布して仲間を集める習性をもっいる。一体の個体は脆弱でも複数の連携攻撃はなかなか面倒だ。一撃は弱くともだ。この状況で後方支援とヒーラーを一人でやらせてはレベルとサブジョブが安定しない天照に任せるのはかなり酷な話だ。
俺がでなくてはいけない。なのに何で…動けない。今にもあいつらは術中にはまりそうなのに……。俺が助けに行く事ができない…。どういう事なんだ?
『お前はいつまで殻にこもっているつもりなんだ?』
「さっきから誰なんだ?」
『お前自身だ。お前はなぜ、自分を縛る?』
「俺が…いきていけなくなるからだ」
『お前は…自分から逃げているだけだ。そんな法など…消しさればいい』
「……」
『お前が法で拘束しているのはお前自身だ』
「俺…自身だと?」
『お前は何だ? お前が押し付けられ、逃げるために作った法は…お前が案ずる者達にお前が教えた物よりも危険な弱点だ。お前には、教える者は居ない。なれば、自らが気づかねばならない。従って…お前は自らを縛る鎖を解き、お前を解き放つべきだ。お前を縛っているお前という鎖をな』
体が軽くなる。動ける。
俺が封印してきた自分の感情が自分を縛る者につながっていたとは考えなかった。過去に俺はその問題で大きく性格的に後退してしまったことがある。人格形成の中で本当に必要な者を欠いたのだ。
それは『思いやり』という要素。
彼女らといることでそれが再燃し、火が付いたのだろう。そして、この世界はその人間の信念や心の持ち方により力の模様や存在のあり方までもが変化する。この右腕はそれが原因だ。俺は他人に侵害されることを極端に拒むあまりに他人への心配りを手薄にしてしまう節があったのだと今なら解る。俺は……ここで変わらなくてはいけないのだろう。
俺の目の前に新しい武器が現れる。こちらも以前に使っていた愛用武器だった。大ぶりなククリ刀が一対。外から悲鳴……。この展開も慣れが来た。これからは俺も変わっていく。これがこの世界で生きていくための条件となるのだろう。変わる意欲。これはこの世界がゲームと結合する前に俺が欠いていた条件だ。
「琴乃ちゃん!!」
「ったく……。お前らは」
どこから群れが来たのだろう。本当に気になる。
ゲームの時の設定と現在の設定がどのように動いているのかが気になるのだ。調査しなくてはいけない。この二人が一人で戦闘を行えるだけのポテンシャルを持ち合わせる段階になってからだな。……この世界がどのようになっていて空から見た時の……ん? 空…から?
その前に目の前の敵を切り裂き二人を助けなければならない。特に大型になっている群れのリーダーを殺さなくてはならないだろう。ドジを踏んだ天照を救出するためにな。まだ、俺の存在は察知されていない。ゲームとは違い、一撃で急所を突けば殺すことも可能だ。ついでに…空中からこの周辺を観察するとしよう。
「っは!!」
「OGRE君!!」
思った通りだ。いくつかの場所に空間を歪ませ、接続できるようになっていることを表す『入口』がある。この入口により他から入ってきて居たのだろう。それなら感知できないはずのない量のモンスターが急に現れる理由が確かな物になる。この場合なら俺達も向こう側へ行かねばならないな。どのような繋がり方をしているかは解らないからもう少しだけ二人を鍛え上げ直さなくちゃならないが……。
天照を巻き取る舌へ向かってピンポイントにククリ刀を投げる。相手はかなり集まってしまっていた。不用意な戦闘はこういう事になりかねないからしないに越した事はない。要は殺り方の教導もしなくては。天照を絡めていた群のリーダーが舌を負傷したことで俺に向けて腕を繰り出す。ここまでは想定内だ。後は二人が無駄に危機感を持たないでくれたら助かるんだがな。
「遅くなった。時兎は天照を守れ。俺は気にしなくて構わない」
「わ、解った!!『あの動き……』」
『亜莉子の目つきが変わった……。やっぱり只者じゃないんだ。コイツ』
近接戦闘は本来得意ではない。ゲームの中ではな。
俺は過去にいろいろなことを経験した。多趣味で多くことに首を突っ込んだだけの器用貧乏と言えばそれまでだが……。そんな中に歴史の中でも隠れてしまうほど認知されない地方に伝わる武術がある。
重心を様々な場所に乗せて体の機動修正をする。普通では使われないような奇抜で常識外れの体術を用いているのだ。比喩を用いるなら、捕食者を翻弄して捕食するタイプのモンスターを翻弄して仕留める。それに今回は運がよい。なぜなら、爬虫類系の生き物は基本的に鱗を除けば肉質は柔らかいのだ。一部を除く爬虫類は皮膚に分厚い甲殻を持たない。極度に硬い殻を持つ亀や大型の飛龍、岩石を主食にする生物を除けば今の状態でも刃は通るのだ。
さすがにこれを見せて黙っていてくれないだろうな。二人に説明しなくてはいけない流れになりつつある。俺の持つ奇抜なククリ刀を振りぬき続け、次々に哀れな爬虫類共は息絶える。それにこの剣技についてこられる人間も珍しいだろうな。乱戦模様に強く、重心を変化させる運動を絶やさないことで緩急の大きなモンスターや人間に対して対応するこの武術…俺が一般人でないと認識されたろう。
「劔刃流総本家の剣術……なんで彼が」
「ど、どういうこと? それってすごいの?」
「うん……。現実世界で唯一と言っていい程に実戦系統の剣術を教え、殺生の重みを教え込む古い流派。しかも、その中でも一番危ない剣術」
「……」
「ただ者じゃないと思ってたけど……総本家の人だったなんて」
俺はその血筋の人間ではない。だが、その家の人間とも関わりが深い。それはおいおいだな。
あの二人、ボケーッとしやがって。ここは『戦場』だぞ?
食うか食われるか……油断は命取りだ!!
「伏せろ!!」
「ひっ!!」
「……」
天照の頭上と時兎の右側、二人の間を抜いてククリを投げ、後ろから二人を絡め取ろうとしていたハンターを三体貫く。流石に経験者の時兎は動じないな。天照はまぁ……オーバーリアクションだが。
そんなことはさておき……。やはり、ゲームの中ではこの体も人間から遠ざかるようだ。腕力が規格外になっている。最後の一体、羽ばたき空中へと逃げていたゲイザー・アイの親玉……。俺がしでかして封印していたこの剣術を護るために使わなくちゃならない。もう、俺もガキじゃないんだ。分別くらいある。
「劔刃流…外技“椿”」
空中へ飛び上がり本来ならば敵の大将や騎馬兵の首を叩き落とす技を用いる。
椿という花は花びらが散るのではなく花全体が綺麗に落ちてしまう。そのことから武家にはあまり縁起のよい花ではない。それを司り、暗躍する剣技を扱う流派こそが『劔刃』だ。武道ではない武術だ。この力は本当に危険である。生き物の命を奪うために突き詰めた力と威圧や形式を極める力では特異性という意味で大きく異なるのだ。
傷ついた巨大なカメレオンの急所を切りつけて仕留める。着地まで鮮やかに決めて……9.5点くらいかな?
『なんだろう、今の羽のような背中の靄は…彼はまだまだ何かを隠してる?』
「面倒だから…俺の素性を隠すのは許されないのか? お二人さん」
「アタシは全く興味ないからいいけどさぁ。この子を納得させてあげないとアタシもアンタを殺すわよ?」
「できれば疑問詞に疑問詞で返して欲しくなかったが……それは確定的に必要な条件か? 時兎」
「はいっ♡ ……洗いざらい話してもらいますよ。藍緋 悠染君?」
ほう、二面性の強い奴だな。ただ単になよなよした頑固者お嬢様じゃないようだ。何やら裏の顔があるらしい。どす黒い。あと、本名覚えてるならハンドルネームではなく名前がいいのだが……。
「俺は劔刃の総本家の人間と関わりがある。だが、道場の正式な門下生でもなければ血筋も関係ない」
「はっ? どういう意味よ。何でそんな奴があんな気持ち悪い剣技が使えるのよ」
「それはだな……」
「全国剣術士武術大会少年少女の部総合優勝……最強の10歳」
「ほぉ……。その情報を知ってるのは本当に極稀な人間だ。俺とどこかで戦ったか?」
小中学生時代はそういう物に憧れた。しかし、世間的には適合しない。俺は幼いながらに事件を起こし、一時期は時の人となった程だ。大の大人を四十人…無傷で重傷へと追い込むという奇行をした。それだけではないが一番大きく取り上げられたニュースであり、中継されている立てこもり事件で俺は銃器で武装した集団の拠点を制圧したのだ。
その俺は幼い頃に実の両親と死別、その後に親戚縁者の居なかったことや幼く精神的に弱っていたことも加わり、暖かな家族であった劔刃の外家の家族に引き取られた。そこから俺は劔刃と関連を持ち、その家族からは勧められなかったが外枠の生徒として一般の少年少女が受ける剣道や柔道、空手、弓道などを片っ端から習得していった。それが俺が歪む原因になったのだがな。
「俺はその戦闘に適した機動力や他の観点から当時の総師範に迎えられて劔刃の本門を叩き、いつ頃からかはもう定かじゃないが周りから嫌煙される程危険な思考とそれに見合う腕っぷしを手に入れていた」
「フーン、それだけだと武勇伝ね」
「ところがどっこい。劔刃の技は言わずもがな殺傷性が高い。それでいろいろ事件を起こして今に至る。人間なんて信じられないという錯覚を自分に植え付ける結果に至ったのもこれが原因だ」
「……でも、今日はそれを見せてましたね。キレも昔とは段違いです」
「俺は規範に従う『生徒』じゃない。だから、向こうにも管理の義務はないんだよ。俺は外から見て、真似て、体で覚えただからな。それに年齢がかさむにつれて人が一人でできることの限界と可能性を見極められるようになった……だから、今の俺と昔の俺は違う」
言葉を繋ぐ中でARRESTを構える。二人もその方向を眩しそうに見上げた。
重芯補正と威力増大、同時に射程補正をかけるパーツを接続した対戦車ライフル使用のモデルだ。この段階で神威種の二体目を目にすることになろうとはな。太陽の光を遮り空中を駆ける巨大な塊。大きさと体積だけを考えるならばこのゲームの中で最強クラスの怪物だ。その名もゼピュロス。風神の名を冠するあの巨大な一角は空から落下の速度と自らの持つ推進力で地面を吹き飛ばそうとするのだ。言い方はあまりよくないが規模からすれば放射線を放たない核爆弾のような物だろう。
それが飛来し、二人も武器を構える。しかし、俺が座りながらボルトアクション式のライフルのレバーをおろし、球を装填すると動きを変えてきた。理解が早い生徒というのは心強い。そう、この類の生き物を安易に考えては困る。本当のゲーム内での戦闘であれば異常な程長くて硬いあの角を砕かなくてはいけない。だが、ここは市街地だ。隠れられるようなものはない。無理矢理に押しつぶしに来るだろう奴からはこんな建物では無防備そのもの。
「俺が奴の角を空中で折る。そうしたら…時兎お前は天照を引っ掴んで逃げろ」
「へ?」
「お前らのスキルだと即死だろうな。俺なら一撃は耐える。何とかなるだろう。お前なら、もう超神速くらいは使えるんだろう?」
「は、はい。『この人やっぱり普通と違う』で、でも……」
「俺は前が死ぬ心配はしていない。それよりも飛行や飛翔への転換が遅い天照は危ないんだ。それを考えろ」
「アンタは? 具体的にどうすんのよ」
「四の五の言ってる時間はない。早くするぞ」
「嫌ですっ!! それなら私が何とかしますっ!!」
巨大な角が近づく。間に合え……この超重力歪曲砲を撃ち放つ為には長時間の属性吸着と排熱が必要だ。その時、真横で強い熱量を感じる。
時兎の奴……。なんてエネルギー体だ。鮮やかな光沢を持ち、通常の刀からは考えられない一枚の鋼で打たれた二本で一対の刀である。その内の大ぶりな一振りに彼女の持ちうるスキルポイントのすべてを込めていると見えるのだ。頭上のゲージから一気に色が抜ける。おそらく、現在のスキルポイントから考えてもあの技を発動するには足りないだろうな。技が不完全になる場合…はぁ、フォローしよう。
その隣では天照までもがどこから出したのか真紅の焔に包まれた弓で狙っている。こいつド素人だな。まぁ、仕方がない。弓道経験者でない訳だから仕方ないと片づける他ない。焔の矢は…暑い。さて、行くぞ!! お手並み拝見だな…俺のパートナー達。お前たちの意志を見せてみろ!!
「エレメンタルバースト!! インフィニット・ノヴァ!!」
ギリギリで収束が終了し、黒い靄の大玉が射出され、奴の角を砕きながら前進する。そして、痛みに悶えるように奴は身をひるがえした。一瞬で嵐でも舞い込んだかのような暴風を起こす。ゲームでもなければ物理法則的な意味で狂っているのだが奴はデカいくせして機敏だ。俺はそれに照準を合わせつつ次を構えているが…くそ、太陽を利用しやがった。戦闘機などでもそうだが、太陽の光を利用して射撃を行う相手を錯乱させる手法…化け物の癖に考えやがる。まがいなりにも神ってか?
そして、目が真っ赤になり狙いをつけ続けていた天照がついに矢を放つ。鳳凰を思わせる焔の直線は一直線にゼピュロスを狙っている。威力はない、やはりレベル差がデカいな。風の鎧を放射系、刺射系の射撃攻撃は貫通できない。ゼピュロスの特性だ。しかし、…天照の射撃はこの為か。
「亜莉子行くよ!! プロミネンス・ボウ!! フェニックス!!」
「三十月空歩……居合!! 新月!!」
時兎は空中を駆けあがるように天照の放った矢の残す焔を踏み台にする。その光景は普通ならお目にかかれないだろう。兎耳の和風コスプレ少女がおよそ生き物のする動きではない加速度で駆け上がっているのだから。
だが、過信するな…己の力は未だ未熟。
さぁ、俺も封印を解いていこう。昔の俺とは違う。見方も敵も無差別に傷つける狂気の戦士ではない。その分別はついている。
天照の不安そうな表情通りに刃の通りが悪い。そのうち失速してしまうだろう。その場合彼女の位置から考えると下敷きになりかねない。
「迎の構え…滅刀!!」
天照を抱え、抱き上げて空中へ踊りでる。魔力を使い切った魔導士は戦えない、逃げられない、防御ができないの三拍子がそろう。守るのであれば俺がどうにかするしかない。一瞬どころか抱き上げて今に至るまで不機嫌顔をされる……。仕方ないんだが……。
そして、時兎を抱き込み二人を抱えたままゼピュロスの背中を駆けあがる。ゲームではこんなことは考えられないな。ご都合主義というのは素晴らしい。そのまま尾の先端から飛び出て……。
「時兎、天照」
「は、はい」
「あによ!!」
「上を見てろよ?」
ARRESTを再び構える。弾丸や弓を放つと跳ね返すゼピュロスには……この弾丸が一番だ。
属性熱量化砲。弾丸を装填しているように見えるのはその特定の属性を吸着するプリズムを超級熱量対応バレルに接続するからである。凄まじい速度での吸着は本来俺自身に負荷が出る。だが、護らなくちゃな。
行くぞ!! 業撃弾装填…定着完了…放出!!
「THE ARREST BURST!! 破戒砲!!」
「きゃっ!!」
「うわっ!!」
さすがの巨怪ゼピュロスも脳天から強烈なレーザーを撃ち込まれては耐えられなかったようだ。
しかし、俺にはもう一仕事か二仕事残って要る。助けた二人が自力で戻れればいいのだが…それにこの嫌な空気と…俺の憎悪を駆り立てる悍ましい気配は……アルティメット・ダーカー!!
来るなら来い!! 退けてやる!!