勇気あるものよ…立ち上がれ
「いったぁぁい!!」
「何言ってんだよ。自分で俺の足に蹴躓いておいて…」
「やぁ!!」
「おっと、そうだな、太刀筋はいいが目標に固執して攪乱が足りないな。時兎」
ホンっトに!! 信じらんない!!
まさか男に教えられる上にこんな面倒なことになるなんて……。確かに、モンスターをちまちまかるよりも遥かにアイツを殴って…スカった方が経験値の入り方はいい。試しに周りの雑魚を一人で狩り回った結果がこれだ。に入らないけれど今はこれでレベルを上げに上げていずれ、アイツをギャフンと言わせてやる!!
でも、一番気に入らないのはアイツと戯れている亜莉子の機嫌が異常な程いいこと。それに、位置的にアイツの住んでいるアパートがホームセンターや衣料品の店の残骸に近いから、そこに拠点として住んでいるためいろいろ頼らざるをえないこと。それに……亜莉子は……………。
「休憩するか?」
「アタシは休憩……」
「ま、まだ…」
「……」
「五時間ぶっ通しはきついだろ。チョコレートを取ってくる。ホントにこのゲームは食品の観点が適当で助かる。一日一回なんか食ってりゃボーナスEXPが入るからな。ほかに欲しい日用品はあるか?」
こいつはけっこうめんどくさがりらしくて、少しデリカシーにも欠けるところがあるけれど私達の一定のところに踏み込んで来ることはない。その点には他の男よりも関心できた。ただ単に面倒なだけなのかもだけど。それよりも、それ以外のことで亜莉子がアイツの世話を焼くのが本当に…なんでかムカムカした。亜莉子を取られたくないという気持ちがとても強く、アイツに強く当たるけど、アイツ自身は気づいていない。ゲームの主人公とかアニメの主人公なんてこんなものだけどね。
唐変木と言う人種はどこにでもいる。やつはそれだ。気づいているようには見えない。そして、腹が立つのは面倒臭いからやらないだけで真面目にしてれば大抵のことをこなすところだ。現に、十日間の訓練中にアイツは一回もアタシ達の攻撃はアイツに当たっていない。格闘技や武道なんかをしたことがないアタシはともかくとして剣術を習っていたらしい亜莉子すら一回もだ。特に亜莉子なんて可愛そうだ。よく観察していると毎回毎回同じ形でこけさせられている。アタシもそれに近い所はあるけれど何ともはや…レベルは既に20に近いところまで来ている。それに、アイツの目つきは訓練中と平常が違うのが……なんか嫌だ。恐怖を煽られると言うかアイツがたまに外敵を討伐しているのを見るけれどあの時と一緒の目。……怖い。
「そろそろ、レベル帯の差を教えるか。俺も攻撃していくからな。揃って20レベルまで来れたわけだし」
「でも、OGRE君は近接武器じゃないよね?」
「言っただろ? 俺は前にも色々やってんの」
銃とは違う武器が現れた。長い棒のような武器だが先に鋭利な刃物が付いている。槍の類だろう。彼は手応えを確かめるために一頻り体の周りで振り抜き、私たちに怪我をさせないようにする素振りを見せる。攻撃するからには小さくも危険な部分が出てくるのだ。
そして、アイツから始めの合図が出てから数秒後、攻撃を仕掛けた瞬間に亜莉子の刀は宙を舞い、アタシのロッドも弾き落とされた。実力差とかそんな言葉では片付けられないような動きだ。力の差を教えるにしてもやり過ぎな感が滲む。しかし、これが現実であることも事実。アイツは実体験させた上で経験を積ませようとするタイプの教え方をする。平時は優し気な雰囲気で頼りないくせしてこういう場面ではとても怖い。言葉や行動にも容赦ない。切り替えが激しいのだ。
「予想以上に早かったな。まぁ、いいか。武器の使用レベルは使った分だけ上がるんだ。今からその武器の使用レベルだけでも最大にしておく。それだけで数倍火力が違うからな
OGREは武器を変えた。アタシ達がついてこれていないと感じたようで武器を使用頻度の低い物に変えたと思われる。それでも多少の耐久時間がのびただけで結果は同様。ありえない程呆気なくアタシ達は伸されてしまうのだ。
少しするとアイツは武器に刀を使いだした。亜莉子がムッとしたように食ってかかる。さすがにあれは……。でも、亜莉子……私たちじゃたぶん勝てない。アイツもゲームの中だけではなく外でも何かやっていたのだろう。強さがゲームのステータスだけではないのだ。これはおかしい。笑えない程にアイツは強いのだ。
「剣では流石に私の方が……」
「試してみるか? 結果は変わらないと思うぞ?」
無表情な応対が流石に余程のことでは怒らない亜莉子の怒りに火を灯した。亜莉子は一番得意な型らしい構えを取り、完膚なきまでに叩き潰すつもりらしい。だが、煽るようにアイツは片方の刀を地面に突き刺して結晶で作り出す腕を解いて目を瞑る。嫌な性格の奴だが純粋に亜莉子が心配だ。たぶん、アイツの事だから煽る理由がある。理由もなく煽る程にバカじゃないだろうし試すためでなくてはしないだろう。煽られやすいアタシではなく亜莉子を選んだのは亜莉子がいつもいつも冷静で一歩引いた戦い方をするから……。本当に嫌な奴。
「ハンデだ。一太刀浴びせられたら何か望みをきいてやる」
「後悔しますよ?」
「どうかな?」
亜莉子が先にアイツの間合いに飛び込んだ。珍しい。あの子の攻撃的なところはなかなか見れないのだ。素早く二本の刃を的確にアイツへ向けるが全て予想されているらしく空しく空を切る。
アイツは仕掛けない……? やっぱり何かを試しているのだ。嫌みで憎たらしい奴……。避けに避ける。確かに速い。亜莉子も速いけどそれが追い付けないのはやはり経験や根本の実力的な差が響いているからだろう。柔らかな動きやアクロバティックな体術の数々を駆使しても……今のアタシ達にはアイツに勝てない。
「今の牙は命取りになるぞ」
「なっ?!」
「必ずお前は力を込めた術を使うときに半歩下がる。それが致命的な弱点になりかねない」
癖のようなその動き……。確かに亜莉子は重たい一撃を相手に向ける場合に必ず左足を半歩下げて衝撃に備えるような姿勢を取り、流動を加えて踏ん張った分の力を上乗せして放つのだ。まさか、それをアイツにカウンターさながらの動きで返されるなんて思いもよらなかっただろう。
亜莉子が左足を無意識に下げてしまい。重たい一閃を加えようとした時にアイツはほとんど同じような動きで亜莉子の攻撃を避け、柄で刀を弾き飛ばしたのだ。それだけでは終わらず、亜莉子が同じように避けようとした所に反対の足を回しており亜莉子は後ろ手に転んでしまった。最後はアイツの刀の切っ先が亜莉子の喉元で寸止めされて終わる。
「時兎…これがお前の致命的な弱点だ。確かにこの技術は使いこなせば強く応用が利く。だが、それは一緒に戦ってくれる前衛がいる時だけだ。その一瞬の隙を作る動作を正す必要がある」
放心している亜莉子は息一つ乱さないアイツを視界にいれながら何を考えているのか……。
次の瞬間に弾かれて転がっている刀を掴み、アイツに背後から斬りかかる。……結果は見えていた。今度は武器すら使わずに腹部に打撃を受けて昏倒され、運ばれて行く。仕方ないからついていくが……。
「演技でしょ。今の」
「まぁな。この先に死なれるよりもいいかと思ったんだ」
「ここでそんなにガラッと変わる物なの?」
「時兎の場合は特に気にしてた。君は武道をしていなかったから固定概念がないだろうがやっていた人間にはキツい変化さ」
「アンタもやってたんでしょ? 動きでわかるわよ」
「まぁ、な。だが、この子は本当に正直だ」
「うん。真っすぐすぎ。能力にもそれが顕著よね」
数時間後に時兎こと亜莉子が起きだした。カッとなって切りつけそうになったことを申し訳なさそうなしている。本当にこの子は曲げが効かない。そういう意味ではアイツの場合は柔軟すぎる。柔らかいのはいいのだけれど芯を通せる程強度がないというべきか……。優柔不断で決定打に欠く性格。ハーレム系の二次元主人公によくある特徴だ。良くも悪くもアタシ達はそれの周りを取り巻くキャラだから上手くやらないと手篭にされてしまう。
それでアイツがどこへ行ったのかって? アイツ自身はエネミーを狩らないとレベリングできないからたまに一人で散策しながら周囲の変化を確認するついでに討伐、狩猟しているという。まぁ、そんなことではアイツのレベルは少しも上がらない。もともと集団で狩猟を行い、経験値を受け取りながら闘うために敵のレベルは遥か上でないとほとんど意味をなさない。それはどんなゲームでも言える。特に複数プレイヤーともなると良くあることだ。ネトゲなんかで多いかな? レベルアップまでの必要経験値が高すぎるのは良くあること。いろんなゲームにある。
それに、これだけスキル組が重いこのゲームではレベリングの後のスキル振りも大きく変わるのだろう。あいつはアタシ達にレベルが上がってもむやみにスキルを振らないように釘を刺されていた。まぁ、どうやるか解らないしやろうにも手段がない。ゲームは割と好きなアタシだからそういうことは既知の高い先人に習う方がいいことも知っている。
「亜莉子、アイツが足の癖を直せって」
「……」
「そんなに嫌なの?」
「私が最初に修得した技術なの。あれがあったから大会もけっこう上位いけてたから…染み付いちゃって離れないんだ。それに、彼は多分剣に関しては素人だよ。そんな彼に負けた。なんか……」
「多分、それを思い知らせたかったんだろうね」
「え?」
「この変化してからの世界では剣の技術は今のところ亜莉子しか使えない。だから、気づかせる事が必要だったんだと思う。アタシにはよく解らないけど…軸足に体重を乗せずに一瞬タイミングをずらす剣技は確かに対人戦には有効かもしれないけどさ」
「相手は怪獣……」
「そ、フェイントの幅が狭いし相手はより野生化した動きだからフェイントなんて効くかすら解らない。アイツは最初からそれを教えたかったんだと思う。けど、あんた口では返事するくせに全然心から承諾しないとこあるからなぁ。ホントによく見てる」
アタシなりの言葉にしてアイツをフォローしてやる。今回ばかりはアイツの行動は亜莉子の命に関わる重大な弱点を指摘してくれたことだし、気づけないアタシでは何も言えなかっただろうけど。それに関して、初めてアタシはアイツに遅れをとった。亜莉子のことならアイツに負けないと思っていたのに。OGRE……。アイツの経歴を知りたい。何でこんな辺鄙なところのまったく関係ない学部にゲームを作成するチームに入る程のやつがいるのか解らない。このクオリティのゲームなら売り出せば相当のヒットとなるだろう。まぁ、コアなユーザーしか長続きはしなくともこれだけ細密なキャラメイクは売りになるし、十分ゲームなら楽しかったのだろうと思われた。
そのシナリオ担当がまさかの生物系の学部で地方の名前も聞かないような知名度の低い大学へ? よほど何か理由があるのかそれとも心機一転? そんな柄じゃない。そんなことを考えているとアイツは帰って来ていた。途中にあるホームセンターに寄って保存食っぽい物をカバンに詰めて運んできたようだ。大荷物をおいて亜莉子に向き直る。一言謝り、体調を聴いている。気配りはできるようだ。まぁ、それくらいはできて当たり前か。けれど、気になる。根本から言えばアイツの中にこの現状を打開する鍵があるかもしれないのだ。
「悪かったな。煽る様なことしちまって。大丈夫か? 時兎」
「う、うん。私こそゴメンネ? 少しいいかな?」
二人で外に出ていく。勿論気づかれないように気をつけながらつけて行く。まぁ、多分アイツにはバレているだろうけど。亜莉子にバレなければそれでいい。細身で小柄なアイツでも亜莉子は小さく見えてしまう程に小柄だ。頼りない女の子がこんなことになっている現状がまずは大きく歪曲している。普通の現実視される様なことであるならば私達、本来ならアイツすら強い人間にはかなわない。だが、キャラクターメイキングでデザインと服装は自由…私達のリアルから引っ張られた容姿と性格的な者をステータスに組み込まれて完成。その観点で私は狐、亜莉子は兎にと合成された様な見た目を受け、個人的にはあまり好きではないけれど人間離れした力を一様に手に入れている。
それで不安定なことに加えてアイツはお人好しでアタシ達の様な素性の知らない人間まで身を挺して守る程のやつだ。純情で乙女な亜莉子が惹かれる理由もよくわかる。あの子はそういうことに疎いのだろう。小さい頃は小中高と一貫校のお嬢様学校だったらしいのだけど。大学はそこへは行きたくないと親に強く話したのだと聞いた。理由は解らないけれど…あの子の挙動はわかりやすい。どうせアイツに何か言いたいだけだろう。それがあの子が恋愛としての道を歩むのなら別に構わない。それはあの子の道で侵害してはならない部分だからだ。この狂った状況下では私達三人しか『人間』を今のところは確認さえできていない……から。
「弱点については…知っていました」
「なら、何故直さない?」
「あれが弱点であり、私の技なんです。相手を懐に引き込み叩き込む……。このフェイントのような術はリーチの小さくて力に欠ける私にはそれがこれまでの中で一番の小細工だったから。手放せなくなっていました」
「ふむ…それは困りものだな。お前にはものそれは必要ないものなんだが」
「え?」
亜莉子の呆気にとられたような表情でアイツは後頭部をひとなですると再び説明を加えて来た。話すことを悩んだような素振りだ。何やらアイツなりに考察したことらしく確実性に欠けてしまう故のことらしい。アイツは物事をできるだけ完璧にこなそうとする節がある。それだからアイツはアタシ達にもだし渋る傾向が強い。アタシ達が理解できるようになるまで、もしくはその直前になりアイツは教えてくれる。確かにこれは考えたところで理解できるものではない。だからこそ、前々から言い含めておかなければならない人種もいるのに……。
「このゲームはリアルと混同した時に何らかの新たなステータスを組み込んだはずだ。そうでなければ色々な設定やこれだけ俺自身やお前が強くなれた理由が見当たらない。こんな腕を失うなんてギミックもないからな。本来は」
「でも……」
「お前は…俺を救おうと立ち上がった。その勇気を持つ事ができたとしてもまだ貧弱な『女の子』なのか?」
「ま、まだ、女の子ではありますけど。……そういう風に取ればいいんですね。私受容力が低くて…思い込みも激しいから周りの子ともなかなか馴染めませんでした。こんな私ですけど…その、あの、お付き合いしていただけませんか?」
「いいぞ」
「へ?!」
「友達だ。俺たちは三人で一つ、運命共同体というわけだからな」
馬鹿だ…………………………。こいつ、筋金入りだ。
それでも、瞬間的にアイツは表情を変えてしまう。アタシ達を守れる最大限の機動を構えて機銃が火を噴く。巨大な空中から飛来する龍族。それを軽々と打ち落とす。それを追うように次々に飛来する外敵はアタシ達を恐怖に駆られて攻撃して来ているように感じられる。何かに追われて訳もわからず被害の出そうな害敵を極力排除しようという恐怖による混乱だ。
こんな状況ではアタシもひとりではいつまでも隠れてられない。亜莉子に気づかれないようにアタシは追われてきた振りをしながら三人で合流した。いつもの大型のライフルの様な武器を使わずに銃剣仕様の機関銃を二丁構える。戦闘を開始後、彼の動きの違いはやはりすぐに露見した。
これまで、アイツは自身だけの戦闘を考えていたのだろう。だからヒット&ウェイが主流で弾丸の適正距離ギリギリから射撃戦。弾丸を無駄にしたくないあまり堅実になりすぎていたのだ。それはゲームではありがちな効率主義の規律だった戦闘と取れる。……それが、アタシ達を戦力と認めてくれたのだろう。時兎こと亜莉子は既に二本の刀を展開し戦闘準備に入りつつある。機動型の戦闘はネトゲの中では基本。アイツはそれにもまったく物怖じしないし明らかに慣れている。それにアタシ達をこれまで訓練してきた理由はこれか……。アイツは自分の戦闘の場所を自分で考えていたのだ。アタシ達のスタンスを考えて動けるように。自分自身を訓練し、三人で生きていけるよう。『運命共同体』とはこういうことか。
「時兎、何が来るか解らない。天照を防衛する必要があるからお前はここから離れるな」
「了解です!!」
「天照は待機!! お前は対多数には向かない」
「わかってるわよ!!」
まさか、アイツは銃をブースターのように使うなんて…こんな闘い方もありなのだと感慨深い。それにこれまでのアイツの戦法から考えても能率はかなり上がっている。銃器戦闘をする折は必ず近接や特攻となるアタッカーが必要になると考えていい。アイツは今回の動きでそれを買って出たのだ。アサルトライフルでの特攻と牽制はサバイバルゲームでも良くある。チームのメンバーに状況を知らせる偵察の役目も果たし、チーム内で実力・判断力・決断力を問われることから副リーダー的な立ち位置となろう。近接があまり好きでないのか必ず初期は銃器を握る。それは悪いことではないがアイツは直接的にアタシや亜莉子へのコンタクトもしてこない。ひねくれているとは思っていたけど。
そして、お出でなさったのは豹の様な風貌で高くジャンプしながら飛竜を叩き落とそうとする大柄な獣だった。アタシ達から見ればどれも大柄ではあるけども。……いける。風速、遮蔽物、位置取り、敵の視認度のどれをとってもアイツを狙うことのできる範囲内だ。どのみち闘うのだろう。あんなやつが近くに居たんじゃ夜も寝られない。OGREへサインをすると『OK』との返答。アタシの準備次第であいつも補助してくれるというのだ。
「亜莉子、もう少しで行けるよ。アタシがアイツの頭にこいつを投げる」
「到達できそう?」
「当たり前じゃん。そうでもなければ言わないわよ。前に出て一人でドンチャカしてる効率野郎もいいって言うしね」
「うん、わかった。私もOGRE君の動き次第で動くね」
アタシの武器は魔法だ。属性は焔。広域攻撃系の大味な大型魔法が多く、これまではMPの数値の問題から上手く使えなかった。それは今もだけどこれくらいなら行ける。このロッドは先端が尖っていてそれに焔の熱量を持続的に付加できる補助系統の地味な魔法により強化するのだ。それを重ねて行うことで私は強くなる。肉弾戦では完全に後手のアタシは亜莉子やアイツに守られなければ闘うことすらままならない。それだからアタシはアイツの指示には異論は唱えない。極論言えば別にアイツの指揮に変なところないし、リーダーがいるなら郷には従う。
もう少しで臨界点だ。そこまで達したところで牽制行動をしてくれているOGREに合図を出してこちらへ動いてもらう。それが今のアタシのできること。亜莉子みたいに器用なことはできない。だから大味だろうとなんだろうと…一撃必殺を叩き込む。ついでに言えば、付加する魔法は何も熱量強化だけではない。細工も整い、どのようになるかが少々気になるが。恐らく大丈夫だろう。
「いいよ!!」
「わかった。時兎!! 左へ展開!!」
「はい!!」
OGREが亜莉子の反対側へと走りアリスがそちらへ向かう。なぜか亜莉子の方が美味しそうなのか…豹は亜莉子へと視線を向けるも銃を変えて、これも見たことのないタイプの砲身の太い銃をアイツは抱えている。当たった状況から見て迫撃砲だと思うけど。そんなことを考えていると近寄られすぎかと思うレベルで豹が突っ込んでくる。でも…関係ない!!
「でっりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
距離にして100m以上の遠投だ。やりは真っ直ぐに飛び、さながら赤い光線の様な格好で票の眉間へ命中。さらに、私の加えた魔法で刺さった槍を中心に小さく魔法陣が展開されて爆発する。これまたえぐいが頭が吹き飛び、首から先がないにもかかわらず…こちらへ走り込んで来た。でも、なんでか怖くない。アタシの攻撃自体はこれで終わっているのにだ。
直後として亜莉子の刀が納められた音がする。豹の四肢が分裂し、大振りなブロック肉が転がった。亜莉子を敵にしたらまずいかも……。もっとびっくりしたのは亜莉子が一瞬でアタシの前に詰め寄り心配層に肩を揺さぶるのだ。どうやら頭は働いているのに放心してしまっている様な状態らしい。アイツもゆっくり歩いてくる。アイツはこれがどうして起きているか理解できているらしく……気に食わないけど背負われてアイツの部屋へと運ばれた。平時はこのコスプレの様な服は着ない。ゲームだからご都合主義なんていくつもある。服なんて特にだ。着替えが楽!! コスプレみたいな戦闘服へ咄嗟に着替えられるし、私服へ戻るのも一瞬。
「魔力を考えないからだ。どうせ調子に乗って新しい魔法を添加したらキャパのギリギリになってんだろ」
「ほぇ、そうかぁ。琴乃ちゃんは魔法使いだもんね。そういうのもあるんだぁ」
「うん、悪かったわね。重かったでしょ」
「気にするな。さっき時兎にもいったが、現状は三人で打開する他ない。俺の友人達が生き残っていることを祈ってはいるがな」
「そ、そうだね。みんな無事だといいね」
そう言うとアイツは外へ出ていく亜莉子がめちゃくちゃオロオロしているから引き止めて置いた。アタシには兄貴がいたからわかる。アイツはそういう馬鹿なタイプではないからアタシ達の前では泣こうとはしない。あたしたちも現状の突破が最優先で今は考えられないだけで…世界中がこの様子では世界が崩壊しているはずだ。たくさんの人が死んでいてアタシの両親や馬鹿な兄貴ももう居ないと思う。亜莉子はそういうところは強いけれどアイツはアタシ達を背負ってここまで来た分だけ溜め込んでいたはずだ。
一番の渦中でかなり厳しい状況のアイツがこれまで一言も弱音を言わない上にアタシ達の前では必ずと言っていいほど澄まし顔だったと考えると…アタシ達の尺度では測り知れない程の苦痛や重圧と戦っていたのだとも思う。それを追うような仕草を取ろうとする亜莉子を引き止めてアタシ達にはアタシ達しかできない話をしておく。
亜莉子もアタシもここに来てアイツに相当助けられた。気持ちの面でもアイツがいてくれるからかなり落ち着けたし、アイツのようにそれなりの知識がなければここで空腹で死ぬか他の大型の生物に捕食されて終わるか……。たまたまだ。アイツに拾われたおかげで命を取り留め生きているし、この世界に順応している。それもアイツという鬼教官のおかげである。何を考えているかよくわからないこともあるけれどアイツは悪いやつではないと思える段階まで男嫌いなアタシを認めさせていた。
「OGRE君。大丈夫かな」
「そんな弱いやつなら武器を覚醒することもなかったんじゃない? アタシ等はアイツの足手まといにならないように頑張って戦えるようにならなくちゃ」
「うん!! そだね」
「……だけど、長くない?」
「た、確かに」
ゲームの世界と混在してしまったこの世界。それがどういうことなのかは本質は解らない。でも、今のアタシ達が感じているこの気狂いしそうな程の強烈な違和感。もう、戻れない。一度なってしまった者は止まらないのだ。何が引き金なのか……その糸口を探し、一人で背負い込もうとするアタシ達のクソ真面目な相方をどうにかして守り抜かなければならない。
今はまだ、このゲームで言う初期の段階。レベリングも満足に行えず、弱い敵を借りながらお金を集める様なあまりにも地味な段階でもある。でも、この世界はゲームの際を超えてリアリティが強すぎた。私たちもしっかりしていないと死んでしまう。『REAL・REAL・MEMORIAL・FORTUNE』は今はタイトルが違うと彼は言う。つけあがる人間に、何かが投げつけた運命なのかも知れない。人間は本当に…つけあがりすぎたのだ。
「俺は……このゲームの全ストーリーを書いた俺は…この俺たちの人生をゲームに見立てる凶悪な存在と直に闘い敗れた。俺はこのゲームをここに新たに命名したい」
それは……。
「BRAVE・BREAK・FANTASY!」
アタシ達も早くあいつと肩を並べないと。
人間を試す気分を悪くするこの世界を乗り越えるために……少しでも早く強くならないと。そのためにアタシ達は自らを受け入れなくちゃ。絶対にアタシ達は勇気を曲げない。アタシ達はアイツに勇気をもらった。もう、ただの女の子で守られるだけではない。アタシ達は絶対に屈しない。
「アタシ達には最高の仲間がいる」
「絶対、乗り越えてみせる」