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Brave.Brake.Fantasy[mind of world]  作者: OGRE
創る人…歩む人…
19/19

心の距離 上

 私はその2人の言葉を聞き、幾ばくかの希望……とある人への強い怒りを覚えた。義理の兄であるOGREは私が生まれたばかりの頃に私の生家へ引き取られて来たらしい。私の母方の実家は古くからある武術を教えていたという。私も少なからず影響を受けたが私にはあまり才能がなく、どこも中途半端な状態でやめていった。

 でも、兄上は違った。

 私は彼を兄上と仰々しく呼ぶ。それは私と根本的な違いがあり、私との距離がある事を示すために選んだ呼び方だ。兄上もそんな私へ無理な干渉をしてこなかったのですけどね。……兄上は勉学はそこそこに武芸を修める上で、次々に様々な武具の用法や型を吸収していった。けして頭が悪い訳では無い……。あ、いぇ、確かに兄上はあまり頭の回転がよい人ではないかもしれない。それでも彼は負けない為に努力を惜しまないし、時に驚くような変化を一気に遂げてしまう。急激な変化に弱いはずなのに。彼は急激な変化の波に乗ることで、ありえない速度での急成長を遂げる時があるのだ。


「本当に、兄上の力が?」

「そうよ。この中に銃を扱える人間(プレイヤー)はいないし、どこから撃たれたのかすらドッペルも解らなかったみたいだし。ドッペル同士の潰し合いが……」

「でも、2人が吹っ切れてくれてよかったわよ。面倒な理屈はさておき、2人とも固執しすぎていたから」


 私が噛み付くように詳細を聞こうとしたのを椿さんに遮られた。詳しい部分はあまり語らない椿さんだから、兄上と共に居た5人は知らないであろう。実は私の恋人である金剛さんと椿さんは実の姉弟。私と兄上は義理の兄妹だ。もっと言えばサークルのリーダーであるARENさんは椿さんの旦那さんで椿さんは身重の状態。

 なぜ、兄上が急に家を出て他県の大学へ進学したのかが解らなかった。確かに兄上の人付き合いはあまり広いとは言えない。拒絶するような見方のできる接し方。それでは一部の寛容な人にしか受け入れてもらえないだろう。……と、私は思っていた。確かに彼の周囲には親密な人はけして多いとは言えない。彼の周囲にいる人々は皆が我の強い人物である。でも、皆が彼を嫌わない。信頼しているし…人によっては全幅の信頼や彼に命を差し出すような…そんな人までいる。時兎さんはだから嫌いだ。兄上のどこに…私にはないのに。天照さんまでも彼は……。


「お兄さんがそんなに嫌いなのかしら?」

「……なぜ、そう思うのですか? 確かにあの無愛想で人を見下す様な話し方は好ましくはありませんでしたが」

「……。そこはことなかれ主義ね。ここに集まる皆はOGREに関わる人間、関わった人間なのよね。貴女はこの中では最も根の深い関係よ。血の繋がらない兄妹なのだから」


 椿さんは試すような物言いをし、必ず探る人だ。情報を統合し、必ず全体に利益のある様に誘導する。そんな物事の運びを好む人。私はそんな彼女が嫌いではないけれど、特別に好いている訳ではない。ARENさんの奥さん。そして、たまたま私の恋人である金剛さんのお姉さんなだけ。このタイプの人は無理な接触さえしなければ特に問題のない人だ。

 対人関係での不協和音が嫌いなのだろう。

 だから、我の強い人が多い中でも彼女は均一の統制を好む。……壊れた時兎さん、衰弱から戦う事から逃げていた天照さん。2人が兄上からねコンタクトを受けた。天照さんと時兎さんは別々の言葉を受け、兄上から再び加護を受けた訳だ。兄上が気にかける理由はただ一つ。彼女らが最も場の空気を乱しやすい代わりに最も脱出への特化した『心の距離』をしているから。


「オニキスちゃん。大丈夫? いつにもまして顔色が悪いけど」

「金剛さん…大丈夫です。兄上の意図を少し考えていたので」

「ははは、OGREの考えかぁ。難しいね」

「兄上は肝心な所を隠します。できることならもっとさらけ出して欲しかったのですが」

「僕らもそれは思うよ。1人で背負う事は別に美徳でも何でもない。……でも、僕には解らなくもないけどね」

「……え?」


 堤防沿いで1人黄昏ていた私へ金剛さんが話しかけてきた。物腰柔らかで爽やかな立ち振る舞いの彼。彼のまめで几帳面な所は好ましい。でもふわりと寄り添い、私の……(ナカ)に滑り込んでくるのは気にならない。油断ならないもの……。彼も周りと比べてしまえば少し浮いた人だ。私程では無いのかもしれないけれど。

 彼に髪を梳きながら撫でられ、気持ちを落ち着けるような態度を取られてしまったと言うことに相当イライラしていたんだ。急な変化や浸透、侵害を苦手とし、嫌う。血は繋がらなくとも兄上と私の性格は似た。……『心の距離』は真逆だけど。

 そこから私達は2人揃って拠点へ帰る。考えさせられる事が多い日だった。敵のドッペルは用意周到に天照さんと時兎さんを狙っている。そこには彼女らを先に抹殺する理由があるはずだ。兄上と直接的な交わりが2人にあるのか? 違う。2人が未熟だからだろう。……この先、脅威になるかもしれない芽を先に詰むのが戦術的な意図として最もあがりやすい。悔しく…ない。悔しくなんて……ない。


「オニキスちゃんって似てないとは思ってたけど義理の妹さんなんですねぇ」

「え? えぇ、まぁ。そうですよ」

「昔の師匠はどんな感じだったんですか?」


 彼女は月詠。

 私と同い年で兄上に遠距離射撃を習った射撃戦闘員だ。ただし、兄上の様に銃での精密かつ特殊な射撃ではなく。弓を用いた一撃必殺の攻撃を得意とする。この虚実(ゲーム)の急所や負傷部位には追加ダメージ補整がかかる様になっているらしい。加える様に彼女の弓は弱点をピンポイントで突く事ができればその倍率を跳ねあげる事のできる武器なのだ。……その代わり、獣人の時兎さんとは違い、女神族の天照さんや月詠はかなり打たれ弱い。前には出さないに越した事は無いのだ。

 時兎さんは…最近は月詠に外出禁止にされ、拠点に縛りつけられている。どの道、今の手傷では満足に戦うなんて無理だ。私よりも脆い心の癖に兄上の様な人に密着し過ぎたから……壊れてしまったんだ。そんな判断もできない人は前には来ないで欲しい。

 私? 私は確かに、近寄って来ることを拒絶はしませんよ。でも、受け入れるかどうかというならば話は別。その為の重厚な鎧。そして、大盾と槍。……私は兄上とは違う。違うから……同じ轍は踏まない。さて、敵だ。最近はドッペルばかりで私の出番が少なかったから……久々に暴れても良さそうですね。


「あれは?」

古代機構人(エンシェント・ゴーレム)だ。コイツの大元の製作はOGREじゃなく、金剛と俺達の合作のはずなんだがね」

「うん、確かにネタ帳にあったから……って時兎さん。君は出禁だよ」


 時兎さんはニヤリと笑いながら刃を金剛さんへ向けようとして……。真後ろから天照さんにフライパンで叩かれた。頭を抑えながら我にかえったように元の時兎さんになっている? 違うか。最近は天照さんの言葉をしっかりと受け入れる様に成っている時兎さん。引きずられる様に部屋の奥へ連れていかれる。まぁ、確かにあんな体ではろくな戦いはできっこない。先日も彼女はボロボロに成りながら辛くもドッペルに勝利したのだ。天照さんと組んで……ね。

 見た目だけならば可愛らしい人である。最初の頃は綺麗な白兎だったらしいのだけど今では面影すらない。片方の耳は裂けてしまい、先の方がボロボロだ。痛々しいのは視力が無いらしい片方の目と胸の結晶で埋められている傷。荒れはただの銃で撃たれただけで出来る傷ではない。ドッペルとの戦闘中に撃ち抜かれたらしいけど。

 ……っと、時兎さんの事は一旦おいておいて、目の前の敵の話をしましょうか。動きは遅いけれど真っ直ぐにこちらへ進路を取る巨大な機構人(ゴーレム)。通常種と異なり意思と感情のある生き物と同じと考えた方が無難な敵とのこと。どの様な装備を積んでいるのか、はたまたどんな材質であるのか…で戦闘能力に大きな変化が出てしまうこのタイプ。接触してから敵の模様を掴むべきなのだろうけれど、こちらには拠点に近づかせたくない理由もある。ならば、前線を前へ押すしかない。でも、この先は砂泥の干潟とはいえ海。浅いとは言え不利は否めない。


「足場の問題ですね」

「それに関しては私に案が有ります。でも、その場合は天土さんが前に出れません」

「海面を凍らせるのか。なかなか大胆な発想だね」

「まぁ、そんくらいしねぇと無理だわな。俺は拠点の防備にまわっからその辺は安心してくれ」

「それに敵がどういう物なのか、早い段階で推し測る必要も有ります。今回は鯖艦さんをリーダーにARENさんと私でアタッカー、金剛さんは月詠の防備をお願いします」


 月詠は本来余り得意としない魔法を制御し、海面を凍結させ続けるという大切な役割を担っている。このような場合ではどの様なケースが想定されるか解った物ではないのだ。鯖艦さんも最初からその布陣を固めたいと踏んで居たようで笑顔と共に頷き、一人で空中へ水のレールを作り上げて滑って行く。偵察役もしてくれる様だ。ARENさんは凍結してくるまでは待機している。攻撃に特化しているとは言え、他に補助的なスキルがあるわけではい彼。私もそうですが。

 ……最初の想定外は鯖艦さんが帰って来ないこと。それは空中で迎撃され、敵の使用している武器が遠距離も狙える砲撃武器であったからだ。ヘイトキーピングだろう。爆発する激しい音と発光する球体が確認できる。その中で焦ることの出来ない月詠が対にタイミングを合わせて海面を凍結させた。鯖艦さんはなおも空中に水のレールを作り、サーファーの様に身を返しながら撹乱させている。月詠が凍結させたため海面が盛り上がり、体積の上がった海水は亀裂と地割れの様な跡を作りながら地形を変えていく。待っていた様にARENさんが駆け出す。速い。私も体を結晶に包み、ゴーレム化して走る。さてどうなるか。


「2人供、気を付けてくれ!! こいつ、外装の部分と本体の挙動が全部別みたいや!!」

「あぁ……面倒な事になりそうですね。撃ち落とせる人間もいない。ならば……、盾で潰すしかないですか」


 この世界は心の距離や心に潜む歪みから生まれた。共感はせずとも理解はしましたよ。誰だって強い訳ではない。上があり、下がある。私はその下側の人間だ。周りを蹴落とし、自らの安住が確立できるのであれば私は苦もなく人を陥れるだろう。……一定の尺度に基づきはしますがね。

 誰彼構わず突き放し、叩き落とすならば兄上とて例外ではない。あの人は本家と疎遠になりつつあった母の立場を取り持ち、総師範であった祖父のお気に入りとなっていたのだ。門下生でも無ければ血の繋がらない兄上。そんな彼がですがね。そして、兄上はあの事件を起こした。本来この国にはそんな事が起こる様な空気はない。でも、立て篭り事件は警察を苛立たせ、近隣住民の不安を煽った。事実は隠蔽されたはず。しかし、極一部の人間は知っている。現世に返り咲いた猛武の幼将が起こした奇行を……。


「アレがあの子の本来の力だ。槍騎士なんて柄じゃない。あの子はどちらかって言えば頭が先に回るタイプだ」

「僕らを守ってくれるんかな?」

「そいつは解らないね。なんせ、あの兄にあの妹だ。"奇行"を起こすのは毎度の事さ」


 体を守る為と思われがちな盾。盾は使い方さえしっかりとしていれば強力な打撃武器だ。

 空中に全部で36枚の私が体に纏っている輝石と同じ素材の大盾を展開、脳内で処理しながら古代機構人が放つランチャーを無力化する。私は力を解放する直前に五体の殆どを損傷した。この輝石は私が感情で作り出した物。自由自在に動き、自由に形を変えられる。解って居るようにARENさんは動かない。動いた方が狙われ易く私が守りにくい事を理解しているのだ。数十発のランチャーが大盾に衝突し、1枚が砕けた。……再構成。

 ARENさんは本来ならば天土さんと似た戦い方をする。武器の力が似ているからだ。でも、ARENさんは天土さんとはかけ離れて違う。プレイヤーランクでいうならばリアルは除き、彼は明らかに高い。チャージしながらARENさんは走り出す。私の盾が追いつく速度に合わせながら射程と攻撃の透過性、回避の可能なギリギリの距離で彼の波動攻撃を打ち込む。


「どっせい!!」

「僕も行くよ。水波の構え…津波!」


 足に水の塊を展開しARENさんの風を上手く利用している。空中に踊り出した彼は何をするつもりなのだろうか。両手を直線上に開き、刃の鋭い蟹のハサミをした様な片方の刃をしまう。逆に打撃を付加されている方は突き出したままだ。……はぁ。解りましたよ。

 鯖艦さんもニヤリと笑いながら私の作り出した壁に向けてジェット水流を当てながら物凄いスピードで古代機構人へ飛んでゆく。あれは双剣とか双刀の技じゃない気もしますが……。本人が良ければなんでも構いませんよ。古代機構人の側頭部へ痛烈なストレートが撃ち込まれた。そこから追い撃ちの……。


「水波の構え……海断斬!!」


 古代機構人の心臓(コア)のある胸部を傷つけながら垂直に落下。自身の着地は私の手を貸すまでもなく水を噴出し、勢いを弱めながらの着地だ。2人の合わせ技は鮮やかに決まるが古代機構人は怯みもしない。これが機械で作られているかそうでないかの違いだ。ただ、何かの思惑通りはあるらしい。ここの突破が容易ではない事に気付き、今度は月詠へ向けて高射程のビーム兵器を展開する。まずい、私の盾は完全物理判定のガードしかできない。天照さんの日輪盾(ソル・シールド)の様に光線や熱量をノーリスクで防御できないのだ。

 ビームのエネルギー収束もはやく、前衛部隊3人の抵抗では発射を止める事はできなかった。しかし、その為に居た人が力を発揮してくれる。外観は壮麗な騎士。剣とカイトシールドがきらびやかで美しい。金剛さんだ。彼の装備は……『銀鎧龍(シルバー・メイル)』なのだ。機動力、攻撃力、防御力、防具特殊スキルの全てを満遍なく、均一に高水準の状態で維持したこれ以上ない騎士の鎧。


「こうなる事は予測してたけど、やっぱり来たか。月詠さん大丈夫かな?」

「はい、私に影響はありません。しかし、あのような兵器をつかわれたのでは後ろが危ういですね……っ?! 今の後方からの光は?!」


 太陽の光? 放射、光線系の攻撃は距離が伸びれば伸びただけ威力が減少する。しかし、オブジェクトにぶつからなくては止まらない。それを月詠、金剛さんの後方から支援してくれている人がいる。天照さんだ。彼女が新しい力に覚醒したことを椿さんも示唆していた。ここまで規格外でしたか。……でも、この場では有難い。天照さんが放った熱線は古代機構人の頭部兵装の一部を焼き、砕いた。兄上を模した変化…ですか。

 今は集中しなくてはなりませんね。

 鯖艦さんとARENさんの2人は重い攻撃を一撃与えるだけでは体勢すら崩せない事にとある結論を見出したらしい。確かに一部の機関に痛手を与えた。しかし、機構人(ゴーレム)は一様に部位破壊では挙動に麻痺が出ない。確かにダメージの入りは良くなるがこちらが攻撃を緩めれば敵から痛手を貰いかねない。それに機構人はとにかく頑強だ。短時間で決める為には強大な特攻スキルを有する(プレイヤー)が居なくてはならない。兄上、貴方はなぜ必要な時に居ないのでしょうかね? いつも、いつも!!


「鯖よぉ、このままじゃらちがあかねぇ。別個に部分破壊、どうする?」

「それは僕も思いよったんよ。幸い、ARENも僕も地の攻撃力は高い。なら、ちょこまかと叩き続けるしかないんかな」

「おぅ、んじゃそうしようか。俺は足元で構わねぇかい?」

「うん、僕はスキルで飛べるからね。それじゃ、お互いに無事を祈って……」

「「行くぞ!!」」


 鯖艦さんの攻撃にはスキルと彼の能力から、角度と位置への制限が少ない。対するARENさんは補助スキルが極端に少ないため、攻撃を行う上での範囲に制限が大きい。どちらも最強クラスの武器なのですけどね。2人への攻撃が行われる際にそれを後押しするのが今私に求められる役目。的確に遠距離への実弾攻撃を潰すことこそが今の私へ求められた支援だ。

 後方にある二陣営はこの状況では緻密な支援や大きな挙動を見せる事などできない。月詠は海面の凍結を維持する必要がある。タイミングの悪いことに今夜は大潮、時間帯も満ち潮と来た。上げ潮と下げ潮が逆で有るならば月詠にも支援をしてもらえたかもしれない。しかし、海水が増えれば鯖艦さんはよくとも、陸上戦闘だけしかできないARENさんには致命的だ。場を整える意味でも月詠にはこのままフィールドの維持に力を注いでもらう。私の打ち漏らしは月詠へ直接の影響を出してしまう。その為の護衛に金剛さんが着いている。最後尾の拠点防衛の皆さんでは先程の天照さんのレーザーが効果的と言えるでしょう。余り予測射撃が得意では無いようで、味方が動き回り攻撃する今の状態では彼女は攻撃を控えているようですが。


「月詠さん。ありがとうね」

「え? 急にどうされたんですか?」

「いつもオニキスちゃんと仲良くしてくれて」

「いえ、オニキスちゃんって素っ気なくふるまってますし、口調もきついですけど優しいじゃないですか」


 確かに外装を崩すにはこの戦い方をするのが最も効果的だ。でも、手数が足りなすぎる。鯖艦さんは仲間に支持を出しながらと言うよりも、自身が率先して先陣で戦術展開する。ARENさんは言わずもがな単独行動(ソロプレイ)を好む。こんなチームをまとめていた兄上はどんな頭の使い方をしていたのだろうか。鯖艦さんは気楽に戦うようになったと周囲の皆さんは言う。自分を理解し、相手を理解する彼なりの形を手に入れたらしい。時兎さんは大体1人で突っ走り、天照さんに助けられる。金剛さんは防備に徹し、月詠も支援射撃…椿さんも大っぴらには出てこない。

 私はどうしたらいいのだろう。足元が固まらずフラフラしているというならば兄上と私は似ている。……けして基本を疎かにしている訳ではない。でも、私は先が定まらない事がこの上なく怖いのだ。兄上は……その宙ぶらりんの状態でも対抗策を見出し、彼の地盤を彼の力の範囲で作り出す。対応しきれない時にいつも不貞腐れたり沈みこんだりと面倒な人ではありましたが。……それがどうだろう。この世界に迷い込んだ兄上は人が変わった様に物事にぶつかる事で……あの人らしい表情を失っていった。


「彼女の優しさを理解できる友達ができた事が僕は嬉しいよ。OGREもオニキスちゃんも防御がとても硬い。特にOGREは……。君はあの兄妹の2人共を支えられる。僕のように自立するだけで精一杯の小さな伸び代とは違うんだ。君やオニキスちゃんが困った時は遠慮なく言ってくれ。僕は寄り添い守る事しかできないから」


 古代機構人の外装が崩れ始めた。それと同時に古代機構人も奥の手を見せ始めた。先程、鯖艦さんが傷つけた心臓に何かを溜め込み、変換して放つ様な体勢をとり始めたのだ。あれは……レーザー系の攻撃と見て問題ない。

 ならば、天照さんもしくは金剛さんが防げる。……ただ、強い胸騒ぎがする。それだけでは終わらない。私の内側にある物が何かを告げているのだ。とにかく危険。兄上が作り上げた設定ならば弱点を明確化し、防ぐ手立てを必ず残している。しかし、この敵は…兄上の設計した物ではない。それに兄上の感情を取り込んだ"何か"が付け入ったら。


「鯖艦! 逃げろ。これはマズイ!!」

「……AREN、僕は逃げない。僕は彼にもう1度チャンスをあげたいんだ。彼が、彼が悔いないような選択肢(ファインエンドルート)を……OGREに手渡したいんだ!!」


 古代機構人は自身の心臓を捻り、何かを引っ張り出した。それは、剣のような物だ。鯖艦さんは状況に対して良くない判断を下している。でも、彼の周りを氷の柱が立ち上がり、守るように古代機構人の体勢を崩そうとしていた。本当ならば魔法を直に使う方法が不得手な月詠が無理をして鯖艦さんを助けに力を注いでいる。古代機構人も直線上にある拠点や仲間を薙ぎ払う為、巨大な光でできた剣を振り下ろす準備をしている。

 兄上…貴方は本当に私を苛立たせるのが得意だ。

 私は、貴方のようなお人好しにはなれない。でも、私は…鬼じゃない。私は確かに冷淡で無機質な印象を与えがちだ。それだからといって私は私の心を燃やす事ができない訳ではない。私は……プレイヤー側についた機構人のキャラクター。防御と攻撃に高いパラメータを用意されはするが回避が苦手。そして、鉱石の種類により私達の様な機構人は特長が異なる。


「兄上、私は…貴方が大嫌いだ。運が良く、場を執るのに長けた貴方が大嫌いですよ。でも、私は同時に貴方が大好きだ。こんな弱い私へずっと気を回してくれた過保護な貴方が……。私の良き兄が!! 私との…………心の距離を盤石の基盤とする為に!! 冷淡でも無機質でも私は戦う。城塞業姫(キャッスル・プリンセス)!!」


 喚き散らすなんて久しぶりだ。

 その声を聞いて取捨選択の幅を変えてきたのはARENさん。大剣へ最大級の溜めを行っている。振り下ろされ始めた光の剣に彼の必殺技をぶつけ、踏み込みながら耐えているのだ。私の超級スキルは構築に時間がかかる。城塞業姫は私の心を最大級の燃料として擬似的な巨殼を作り上げるものだ。いうならば、身長が20m以上ある古代機構人と同じ体格の強化外装を作る。

 続いて鯖艦さんもこれまでは隙の出た箇所を壊す為に走り回る戦法を選んでいた。しかし、今は光の剣を握る手や腕、肩を重点的に狙い破壊を目論んでいる。彼の潮騒は同種の武器としては規格外の攻撃力が備わる代わりに、特殊な超級スキルを持ち合わせていない。だから、彼はスタンスを変えず、目標を変えたのだ。


「これなら僕も前に出ても大丈夫そうだね」


 後方からの支援が来た。天照さんのレーザー照射と最前線へ古代機構人の脚部を破壊する為に金剛さんが前線に加わる。

 古代機構人の挙動や出現には強い違和感と胸騒ぎがしていた。こんな巨大な敵がいつも急に目の前に現れる訳。それが何を意味しているのか。……考えても仕方がない。私ができる事はいつも小さな事だけだ。だから、小さいなりに事を構えるしかない。さぁ、私には私が両手を広げて守る事ができる範囲しか守れないのだから……。めいっぱい、両腕を広げよう。私は…保守を好む。揺らがない場所を。だから、皆さんが帰ってきた時に安心できる場所を…安らげる場所を……私は守るんだ!!


超大型(マウント)級…石榴殼機構鎧(タイラントアーマー)。私は何かに縛られたり、私の身内を苦しめる者を許さない。体は小さく、華奢に見えても……私の心を潰す事はできない!」


 通常の鎧ならば2m程だ。しかし、このスキルを使用中は規格外の大きさに展開できる。使用後は体に倦怠感が残りはしますが。これまで、私に向かって来た超大型(マウント)級はこの力で退けてきた。私の防御……尊大な態度と口調からの威圧。そして、何者をも寄せ付けない性格上の硬さ。私の機構鎧(ゴーレム)はそうやってでき上がっている。

 兄上は遠巻きから、私は超近距離から敵を潰す。私達は表面上では似ていない。しかし、同じ親に育てられ内面が似た。

 そんな私を助けてくれる人も現れた。金剛さんが私へ武器を携えてくれる。椿さんはガラス細工の工芸家だ。金剛さんはそちらの方面には向かわなかったが……剣を打ち、盾を私へ与えてくれる。私達は守護者であり、騎士だ。さぁ、グダグダ言わずに片付けよう。このガラクタを。


「金剛さん、ありがとうございます」

「さぁ、オニキスちゃん。やってくれ」

「はい!」


 兄上、今は何が大切で何がどのように動いているのか、私には解りかねますが……。貴方に尋ねるために私も全力を尽くしましょう。1人ではどなたかに力をお借りせねば戦えね私でも、足がかりくらいにはなれます。

 古代機構人を薙ぎ払い、倒した? いや、違う! しまっ……!

 金剛さんが造形した巨大な剣の上を駆け抜けて来る例のアレ。ドッペルが見えた。この状況の私は本体が無防備になり、的確に致命的な攻撃を受ければ……。まずい。本当にまずい。


「私はァ…確かに押さえつけられてますけどぉ……。OGRE君が大切だと思う人が危ない時には必ず助けますからぁ。ね? 天照(コトノ)ちゃん」

「オニキス、アンタもアタシからしたら大切なの。悪いけどとりはもらうわ」


 片手に刀、反対の手に拳銃を持ったドッペルの突進を刀で止めたのは……出禁のはずである時兎さん。そして、私を守るのはそのお守役のはずである天照さんだ。高笑いをしながら時兎さんは刀を振り抜き続ける。そんな中で天照さんは私を守ってくれているようだ。

 私もただ見ているだけは嫌なんだ。さぁ、奮い立て私! 私は確かに心に壁を立てた。それだけが私である訳が無い。私が持つ薙ぐ力。今、体現してやる!!

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