剣の誓
やぁやぁ、どうもどうも。俺はAREN。
一応はこの世界の元になったゲーム『Real.Real.Memorial「fortune」』を製作したゲームサークルのリーダー。んで仲間として一緒にきていたのは製作陣だ。まぁ、リーダーなんて言っても実際の人員統括やゲーム内のシナリオなんかは全て金剛やOGREに任せきりだったけどな。そんな右腕、左腕の位置にある2人。金剛は音楽を画面上で製作するスキルに長けている。もちろん楽器も扱えるけども。OGREは説明文を書くのに長けていて、ゲーム内の設定資料全般のまとめ役だ。
俺や仲間達がこのよくわからない不安定な世界にダイブしてから半年以上が経過し、何人もの仲間の死亡をこの目にして来た。ライトノベルやアニメなんかにもデスゲーム設定の物はある。しかし、実体験すると…恐ろしいよな。夢の中の様な出来事。一番最初に組み上げた場面。チュートリアルの盤面で俺達は全員が極悪龍に敗れた。それから十重二十重に押し寄せるモンスターを狩る毎日。私情だし、これがクリアされていなかったら俺も今この場には居なかったかも知れないが……。本当に幸いではあるが身重の嫁とは直後に合流できたから……まずは正気を保っていられた。
「よぉ、兎ちゃんよ。無理は禁物だぜ?」
「貴方こそ……。OGRE君の為に何かしたいとは思わないんですか? 最初以来、貴方の大剣は納められてますよね?」
「そりゃぁな。使いたくても…使う為の理由も今じゃな」
「? OGRE君を…取り戻したくはないんですか?」
この嬢ちゃんは盛大に勘違いしてやがるな。重要な場面と言うか、力のかけ方の問題だが。この兎ちゃんは本来かけねばならない部分が抜けていて、必要無い部分へ注目してしまっている。そういう意味じゃ天土が俺は好ましい。空気の読み方っつうか、考え方なのかな? アイツはかける力は揺らがないのに感情の緩急が上手いからな。
OGREが名代としてたてた鯖艦はOGRE寄りで少し考え込み過ぎんだよな。だが、あれだけ複数の要素を絡めて考えられるのは武器だ。だから、OGREはプレイングでは最も力を持つだろう天土を2番手に、頭が働き様々な物に力を流用、汎用できる鯖艦を頭に据えたんだろう。真っ直ぐな天土や兎ちゃんは力は強いが上手く使ってやらにゃならん。まぁ、あの兎ちゃんは天土よりもかなり特殊な様だが。
俺はその点OGREや金剛からは使われない側の人間だった。まあ、立場上はリーダーだしよ。それに俺達は人を使うという事を嫌う。同族嫌悪した事もあるくらいお互いにそれを知って居るから触れないのだ。その実、俺はアイツを最も信頼している。口に出さないだけで、仲間内で最も仲間を見ている奴だからな。少し突っついてやれば毒も吐くしよ。対照的に何にでも誠実で均一、平等な金剛は容量は良いが観察眼が弱い。性格が堅物だからか規則的な統制や業務監督を取るには適した人材だが、あまり柔らかくはない。そこを比較的融通の効くOGREが潤滑油になった事で、俺達は上手く回して行けていたんだ。
「寝ても覚めてもOGREを追いかけるのは構わないが、アイツは束縛は好まないんだぜ? それに兎ちゃんが傷ついてまでってのはもっと嫌がると思うが?」
俺が言葉を止める前から柄を弄り始めていた嬢ちゃん。同い年らしいが…同い年には見えない幼げな風貌に小柄な体躯。……人のこたぁ言えねぇけどなぁ〜。いつどのタイミングで斬りかかって来てもおかしくはない。初対面の時から内側に何かを隠してんだろうとは思ってたが、コイツは大物を隠してやがったよ。これまでは自制心で抑えてきていたんだろう。わがままさと言う心の要素をな。だが、OGREに助けられ、拠り所ができた直後にOGREの失踪。箍が外れ、内に秘めていた過剰な好意が暴発した。『ヤンデレ』だ。
俺が睨みを利かすと、2本の刀の柄へ手をかけた。戦闘の火蓋……か。
この兎ちゃんはゲームは初心者だが、リアルスキルに長けたタイプなんだろうよ。武器の構え方がド素人の俺達とは違う。だが、この世界は現実、虚実の双方を設定と言う壁で囲った新しい世界。OGREの残した分厚いメモにはそう記されていた。
俺は細かい仕事を模索しながら組み上げるのが大っ嫌いだが、それを進んで片付けてくれるヤツは大好きだ。OGREは面倒がる癖にチマチマと要望を聞き、奴なりにまとめてくれる。その奴が鍵とまで語るこの兎ちゃんを俺も気にはしていたんだ。これから生き残る力があんのか……俺が見定めてやる!
「流石ですね。OGRE君を"守護"していた近接戦闘員。今の牙を見切りましたか」
「兎ちゃんよ。間違えちゃいけないぞ?」
「無駄口は命……っく」
加速とそれに合わせた火力増加か。単に格闘戦闘なら俺とこの兎ちゃんは同系統。時兎の本来のスキル。……それは場面を選ばない『回避力の極度強化』と類希な程の『攻撃の無力化』、『攻撃威力、推進力の増減能力』だ。……強いて言うならば、この兎ちゃんがしっかりと自分を見つめ直し、白幻兔の本来の力を解き放てばどんなモンスターにも負けない。防具としての時兎の防具はあまりにも頼りないが、武器、半双刀"時兎"は攻撃兵装としては一級品なんだよな。
OGREが描いたお気に入りモンスターはいくつかある。そんな中に時兎も入ってんだよ。スキルの極振りが大好きなOGREは自分にプレイスキルが無いにも関わらず、そんな防具を沢山作り出した。場面や使用者を選びはするが、確かに強力な事には変わりない。時兎の力はこんなもんじゃない。迷走し続けているこの時兎が目を覚ますのが先か、OGREのキスが先か……。どちらにしろ俺は待っちゃおれんがよ!!
「なる程なぁ。OGREが言ってたお前さんの弱点はこれか」
「?! な、どういう事?! なんで私が……」
「兎ちゃんよ。……アンタは溺れすぎだ。仲間を見ようとしてんのに逆に見えなくなっちまってる。時兎の力はそんなんじゃ上手く使えねぇよ」
俺の職と種族、武器はOGREに"俺"のモデルキャラクターを作って貰った時に描かれた物だ。奴いわく……『風の様に苦難を掻い潜る器用さ、時に受け入れる寛容さ、……牙を向けば大地を穿つ』らしい。
俺のスキルは時兎のタイプとは違うが超攻撃特化だ。防御力はほとんど無い。その代わり、様々な火力へ繋がるスキルを積んでいる。それだけでは敵に近寄れない。だから、補填に回避力の強化スキルと大剣でのガードスキルは積まれているがやはり体は完全に生身。ダメージは即ち死と考えた方がいい。しかし、俺のプレイスキルをもってしたらこの"AREN"は負けを知らない。どんな巨獣だろうが、うじゃうじゃと湧き出る雑魚だろうが……この大剣で薙ぎ払う。
この天想剣でな。
だが、そんなレベルにないお嬢ちゃんには……手加減した一撃で充分。何がしたいのかは解らないが、先日の毒怪沈龍の襲来に1人で立ち向かったらしい。また、要らぬ負傷と要らぬ心配を周りにかけた訳だ。特に過保護な母ちゃんみたいな天照が煩いのなんのって……。家の嫁もあまり兎ちゃんには好感がないらしいしな。まぁ、確かに…この嬢ちゃんの力じゃOGREは手に負えない。OGREは理解しようとするだけではダメなんだ。アイツにはさらけ出してやる勇気と引き下がる勇気をもって接してやらなくちゃならない。わがままで偏屈なやつだが、それがアイツだ。俺の親友の描く道に中途半端なヤツは要らねぇ。……今は大人しく寝てな、お姫様よぉ……。
「時兎」
「嵐の咆哮……」
プレイヤーレベルとプレイスキルで完全に上を行く俺に小さな手傷を負わせたんだ。本来ならば及第点…としてやりたい。ただし、今回はそれはできねぇな。親友の想いは無駄にできねぇ。この嬢ちゃんにはしばらく1人で踊っていてもらう。脆弱で不安定なまま戦場に現れられても無駄死にするだけだ。OGREが…初めてと言っていい程に他人へ干渉している。アイツにとってこの兎ちゃんがそれだけ大切なんだ。この異常事態に巻き込まれた状態でアイツも変わってんだよな。アイツの選択が間違っちゃいない事を…皆に教えてやらなくては。
そんな時に、急な襲撃に対応せざるを得ない状況になった。ただ、今回は幸運で味方の展開が迅速だ。予測していた様に天土と鯖艦が現れた。鯖艦は気絶している兎ちゃんを拠点へ返す為に少しの間離れ、拠点へ向かう。俺の真横では天土と背中から降りたこれまた小さな嬢ちゃんが武器を構えている。この嬢ちゃん、いい目をしてやがるな。簡単に解る。OGREが目のつけ所を教えたんだな。
敵は……凍貫龍。超大型級の中では小柄な方だが、どの道狂った『神威種』なんだよな。まだ、作り上げたプログラム領域には現れて来ないハズのモンスターである。それが現れたか。
コイツはOGREの作り上げた数種の神威種で最も希少なモンスター。まずまず出会わないな。コイツの生息域が南極みたいな閉ざされた凍土だからだ。様子見していると小さなサーフボードみたいな物で水のレールの上を滑る様な鯖艦が合流した。それを待っていた様に月詠が言葉を放つ。
「ARENさん。アレの弱点は?」
「なんで天照母ちゃんはこんな時に限っていねーのかねぇ」
「焔で焼きゃいいんだな?」
「間違っちゃないが、お前さんの鳳燕じゃぁチッと難しいな。ヤツは地面を潜り、突き上げて来る。溜め攻撃主体の二型の武器じゃタイミングが合わせきれねぇ」
「私は氷で…同じく収束武器。論外ですか」
「僕のは近接やけども水やね」
全員が黙り込む。まぁ、そりゃキーマターを欠いてる訳だしな。だが、別に焔が効果的と言うだけで火がなくちゃ戦えない訳じゃない。はぁ、もう少し見方を変えようぜ、皆よぉ。先入観を与えちまったのは俺だが基本的な部分で皆が迷っちまってる。現実だろうが虚実だろうが殺し合いは一瞬の判断ミスで生存の有無が変わるんだ。迷うな……感じろ。
そうさ、あの嬢ちゃんも気づかなくちゃならない。俺が今気にしている兎ちゃんは……本当に酷い勘違いをしている。俺とOGREにはどちらかに依存する様な関係はない。2人が揃うからこそ均衡を保ち、持ちつ持たれつを維持できるのだ。けして、俺が"守護"などしていない。遠距離からの支援があり、1人では無理な状況をクリアできる。逆に射撃だけでは牽制の難しい敵に対して俺達が対処し、お互いに助け合う。兎ちゃんは……肩肘はって、彼女だけでOGREを護ろうとしている。それじゃぁダメなんだ。OGREがOGREである理由を…根底を理解してやらなくちゃな。まずはそこからだ。
っと……。言ってるそばから俺が迷走しちまってたな。まぁ、まだ凍貫龍も攻め時を掴めていないらしいからセーフだが。……さってとぉ、本来ならば鯖艦にコマンダーをして欲しいものだが、今回は俺が初動指揮をとる。鯖艦にも教えてやらなくちゃならない事は沢山あるしな。いくらゲーム内ってもこれは生存競争。命がかかってる。本当はお互いを知り合ってからのが良かったんだよな。こういう連携は初合わせではやりたくないんだ……。俺も器としちゃリーダーなんて柄じゃねぇよ。なんたってOGREが俺の親友になってくれるまで…俺は孤独だったんだからな。
「天土よ。俺の後方から奴を牽制する程度で構わね。短い溜めで斬撃波を連発してくれ」
「あいよっ!!」
「僕はどうしたらいいんかな?」
「鯖はとにかく走り回ってくれ」
「了解、タゲ取りやね」
月詠が『私は…』と切り出そうとして来るのを遮り、月詠を拠点へ帰還する様に促す。今の不安定な兎ちゃんと天照を2人きりにはさせられない。しかも、オニキス、金剛は別行動で気になる場所を探索に向かっている。時兎を過剰に心配し、OGREにも過剰な想いを向けている今の天照では戦場に連れては来れない。今だってけして彼女の信念や力が弱くはないのだよ。だが、真面目すぎて逸脱を許さないあの堅さは今の状態では重荷になる。兎ちゃんも同じだ。姉役達が心配ではあったらしく、特に異論も異議もなく月詠の嬢ちゃんは氷の道を作り、滑っていく。皆が皆、移動が自由だな……。
さてさて、久々に最前線の敵へ剣を向ける。そうさ、俺は悔しいんだよ。仲間を助けられない"剣"など無意味だ。俺は剣。最初に誓ったんだよ。共にある筈の親友と……。仲間達を……護るべき仲間達を!! ……俺は護りきれずに失っていったんだ。だから、親友を守る為にまだ諦めてはいない。この剣はお前の想いを貫く為にあるんだ。お前が居なきゃ……俺は弱い。
OGREよ……。お前は八方塞がりの中で戦い続け、感情と自分を溶かしながらの防衛、戦闘、仲間のケア。見事だ。否定はしないさ。だがな! お前はいつもそうだ。もう少し前に言ってくれ。我慢ができなくなる直前に…そんな事では俺達は対応しきれないんだ。お前の描くストーリーは絶対にキーマンを殺さない。ハッピーエンドを目指してる。だが、今は違う。お前が描くストーリーに他人が干渉している今じゃぁ、お前がいくら気を張り、体を張った所で限界がある。解ってんだろ? お前が解らないはずが無いよな? 本当は寂しがり屋で、孤独を最も怖がってるハズのお前が、解らないはずが無いよな。俺はそれが一番、悔しい。辛い時に頼って貰えない、力になれない事がよ。俺も知っちまったんだ。確かに孤独は気楽だよ。何にも気を使う必要はねぇ。それでも温かみはないし、1人じゃ限界だってあんだろ? 俺に剣を振るわせてくれ! 頼むからよ……。
「なぁ、ARENよ」
「言うな、解ってる」
「AREN、僕も悔しい」
「鯖艦…」
「おらァ、腹が立つ。悔しさもあるがな」
「天土…」
「だから、僕らで……新しい誓をたてよう。AREN」
「誓……か」
「上手いこと俺らは3人が3人バラバラの武器だ。だが、刃物で近接。省けにして月詠には悪いが、ここは男同志の誓ってことで、どうでぃ」
鯖艦と天土が示し合わせた様にその誓の題目を挙げた。『剣の誓』。俺達が鋒を合わせて気合を入れる様に声を出した瞬間だ。ターゲット、凍貫龍が姿を見せ、口部に球体を形成する。俺達を完全に敵とみなしたんだろう。あれは液体窒素だ。生身の人間に近い俺は即死、天土なら耐えるかもしれないが鯖艦も無理だろう。そして、天土のスキルが今、見られる。力持だ。ゲーム内には無い、俺達固有のスキル。一直線上には俺達が居るが天土は斬馬刀鳳燕を上段の構えに据えたまま動かない。
「物事には最適なんてもんがある。なら! 今は俺がオメーらを支えちゃる!! 俺から離れんなよ!」
本来ならば鳳燕自体に溜まる火炎エネルギーを体に流し込み、オーラとして体から放出する事で、冷凍ビームの様な液体窒素の高圧縮砲を相殺している。あらゆる難題を受け止める度量、そしてそれを抑えるパワー。器用とは言わないがこいつなりの強さだ。その咆哮を相殺し終えると、鯖艦が待っていた様に双剣潮騒を構えて空へ踊り出す。……まずいぞ、体の中に液体窒素を溜めている奴は収束時間が要らない。直ぐに第二波が……。
「僕は皆とは違う。レールをねじ曲げる事ができる。大丈夫、上手くやるからさ!」
液体窒素の高圧縮砲の前に巨大な水塊が現れた。そのまま水塊は凍結するも液体窒素の高圧縮砲は氷塊を押し返しきれない。……そうか。今も空中にあるのは下側から吹上げる高圧縮砲の力でだが、押さえつける氷塊は鯖艦の意思で水をまとわりつかせて体積を上げているからだ。凍貫龍の真上に……巨大な氷塊。その氷塊は徐々に育っていく。
鯖艦からウィンクが飛んでくる。
了解。解ったぜ! 鯖艦が作り上げた大きなチャンスだ。一撃では倒せなくても奴の第2段階には持ち込める。今の凍貫龍は幼生だ。第1段階から第2段階へ……。
氷塊が落下する。液体窒素の高圧縮砲の力に氷塊の体積が勝ったのだ。氷塊が掘削されるかとも踏んだが、どうやら鯖艦は水を操り、衝撃や反動、威力、掘削などを計算して氷塊の形状までもを調節していたことになる。そうなれば凍貫龍は身を守る為、迷いなく氷塊を砕くために掘削と潜航をしに飛び上がるはず。そこが狙い目だ。
「大気の咆哮!!」
「劫炎断ち!!」
俺と天土の波状攻撃が氷塊に飛びついた凍貫龍へ炸裂。俺の攻撃は物理判定だけではない。空気と風を帯びた攻撃ができる。天土の波動よりも到達の速い俺の空気砲が氷塊を砕き、中に居た凍貫龍にヒット。痛みに身悶え、地面でのたうち回る。そこに舐めるように地面を進む火焔の波動が打ち込まれ、更に痛烈なダメージになる……。最後にどの様に空中に居たのかは解らないが鯖艦が渾身の一撃とばかりに潮騒の特殊技、溜め攻撃を頭部に打ち込む。あれは効いたんだろうが、ヤツはこれまでの神威種とは違う。これまでの神威種や凶威種はランク帯が低い。オーラを纏った毒怪沈龍の出現で俺は確信した。この世界も着実に第2段階へと進んでいるんだ。
「油断はするなよ? まだ、来るぜ!」
倒れた凍貫龍が紫色のオーラを纏い、ゆらりと起き上がる。ちなみに、これは設定資料を読んで初めて知った衝撃の事実。……実は、コイツのモデル生物は……ウナギらしい。
貪欲な食欲、幅広い食性、かの毒怪沈龍をも襲うと言う攻撃性。生息域が狭い以外は危険な要素しかない。それが目の前で第2段階へと昇華した。倒さないわけにはいかない。オーラを纏った凍貫龍を見た2人の反応にも驚かされたがな。……アイツら以前の不安気な表情が消えている。OGREと俺や金剛だけではない、コイツらなら……良し。
OGREは複数ある特質が異なる武器を場面に応じて入れ替え、作戦と現場のイレギュラーを突き合わせていた。鯖艦はそれが完全にはできない。鯖艦には複数の技が無いから。だが、鯖艦には二次的な仲間を強化する添加型スキルが多量に積み込まれている。更にスゲーのはコイツにはOGREのストーリーに干渉する力が有るのだ。俺にも似た力はあるが俺の力は……。
「AREN! オーラってどんな効果があるん?」
「基本的には全ステータスの強化だな。俺達はどんな要素にもあるレベルで強化されてく。奴らは出現するランク帯で戦闘力に差が出るんだよ」
鯖艦は範囲は関係なく、アイツのキャパに見合った変化をステージや現象に与えて物事を有利にできる。ただし、プレイヤーには直接の干渉ができない。
天土はより戦闘向きであらゆる物を受け止め、無効化または沈静化できる。やはり自分以外のプレイヤーに直接干渉する事はできないようだが、鯖艦よりも応用範囲が狭い分効力は強めなようだ。
……俺の力は。……っしゃ、一丁やってやるよ!!
「拡張!!」
俺の力は味方にある才能を開花させる力だ。プレイヤーに直接干渉できるが、プレイヤーの成長が無ければあまり意味の無いスキル。俺自身には作用できない上に数値などの指標が無いもんだから使いにくくて仕方がねぇ。今までの成功例はオニキスのみ。貪欲なまでの向上心と兄への嫉妬が産んだ彼女の外殻。それがあの鎧だ。それだけ強く無くては意味をなさないスキルなのさ。兎ちゃんは反応すらしなかったしな。
俺がスキルに集中する為、本来ならば定点に留まるタイプの戦闘を行う天土が走り回る。鯖艦は言われずとも作戦を決行中だ。足場にするためのウォータースライダーをいくつも作り上げ、滑りながら軽快な乱打を打ち込んでいる。
解ってはいたが凍貫龍も易々とはやられない。そりゃランクアップした訳だからな。まず、氷の外殻が更に硬度を増し、動きも機敏になった。こちらの手数は減る一方、必然的に火力も下がる。なら、2人の望む武器へ武器を進化させてやればいいんだ。
「まずは天土! 受け取れ!!!!」
天土が急に転けそうになり、受け身をとった。なぜなら先程までは刀身が焔でできていた鳳燕が形を変えたからだ。鳳燕は二型の武器。属性攻撃力を極限まで突き詰める代わりに、本来あるはずの物理攻撃力を棄てた特化武器なんだ。それをOGREの設定資料内にあったハイブリッド型へランクアップしてやる。刀身が短く、刃渡りは60cm程しかない。それは……三型、焔一文字"鳳燕"となったのだ。コントローラーでのコマンドも複雑なコンボは一切ない。一種類のボタンが攻撃へ繋がる。この型へ達するには膨大な数のモンスタを狩らねばならない。しかも、かなりレアアイテムを必要としたはずだ。
使い方の説明すらしていない。それなのにその使い方を理解するなんてな。流石はこの狂った世界に生き残った生存者だ。動きながら柄に手を掛け、新たな形を手に入れた鳳燕を解き放つ瞬間を見定める天土。
手足の無い凍貫龍は這い回りながら、2人を喰らおうとしきりに頭突きを繰り返す。今の所はどちらも殺られる素振りは無い。さて、次は鯖艦の方を何とかしなくちゃな。……っと、その前に天土の技が派手に花開いた。三型は一閃のみを可能にする。抜刀するまでチャージをする事で物理攻撃力、属性攻撃力を跳ね上げるが、チャージをしなければあまり火力は望めない。リーチもかなり落ちた。だが、二型とは違い動き回れるのが強みだな。
「陽炎断!!」
天土の力、力持を外向きに使うか……。受け止めるのではなく、体を押し上げるのに使うとは。意外と野性味が強いなコイツ。三型の居合に似た剣技を急加速と強烈な踏み込みで更に強化して凍貫龍の外殻ごと体側に焼き込みを入れやがったよ。
「鯖艦! 待たせたなっ!!」
本来、双剣には技力解放と言う強化スキルがある。コマンドも簡単でよりオーソドックスな強化戦術だが、他のスキルとは併せにくい。それに併せて種族と職の関係で鯖艦にはなお使いにくい仕様だった。技力…spを使った加護とガードやチャージ強化などの変形や持続スキルが売りだったんだからな。一定時間で技力を消費する解放を使えばジリ貧になりやすい。もちろん加護やガードが使えなければ、自身や味方を危機に晒す。そんな事を堅実で優しい鯖艦がするわけが無い。
双剣や双刀という武器には天土が使う太刀系統のような特殊な形があまり無い。それは兎ちゃんの持つ時兎もそうだが、神威種の双剣は武器毎に強い特殊技があるからだ。そして、天土が砕いた外殻の反対側の外殻を鯖艦は見事に砕いた。意表をついたその攻撃は……"アッパーカット"だ。盾の機能も有する片割れの打撃を抜刀と同時に捻り上げる。
脳が揺れたのか凍貫龍は横倒しになった。頭部付近は重い一撃に耐えきれず、外殻が完全に砕かれ見るも無残。……忘れてはならない。鯖艦の武器潮騒は"双刀"だ。切れ味鋭く、口元から脳天を指し貫き、胴体へさながら背開きの出刃を通した。無理矢理になったが特殊技のキャパを一気にかいほうしたのだ。今のあの双刀は深研天碎"潮騒"。
「さぁ、AREN。とりを頼むよ!!」
俺の武器、天想剣は風属性の神威種である一角風神の武器。剣と呼ぶには無骨なそれはもはや巨大な棍棒だ。風を纏い、災厄を払う。一角風神自体は本来、攻撃性の弱い自由な生き物の設定だ。食性も不明、一点に留まらない事や様々な体格の一角風神が確認されるもその大まかな寿命すら不明。
そんな自由な生き物の武器を携え、攻撃的な中でも更に攻撃的な凍貫龍を倒す。虫の息に近い所はあるが、ここは拠点にも近い。なぜ、急にこんな僻地に現れるモンスターが現れたのかが不思議だ。……今は倒さなくちゃな。いい所だけくれた新しい親友達へ、俺のしまいっぱなしの剣を再び引き出させた2人に、誠意を見せなくちゃな!! OGREよ。俺も勘違い…いや、忘れてたは。全くタイプの違う俺とお前が出会い、サークルを立ち上げ。最初はそこに金剛が居ただけのただの同人サークルだったよな。
「風神招来……神風薙!!」
お前は日陰が好きで目立つのが極端に嫌いだから、俺達が必然的に目立っていった。まぁ、類友扱いでお前さんも同類には見られてたがよ。
クオリティ重視のお前が考えるモンスター共は確かに強い。それを使って何かに利用してきてるんだ。厄介なことには変わりないさ。だがよ……。ゲームってのはクリアするために有るもんだ。人生をゲームなんて言うなら胸糞悪いが……勝ってやろうじゃねぇか。俺達は負けねえ。