表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Brave.Brake.Fantasy[mind of world]  作者: OGRE
ゲームの始まり
1/19

リアルとゲームの混雑

 俺が…何かに呼ばれた気がして目を開けたその時、真っ黒い空間と初めて感じる様な無機質な靴音が聞こえてきた。自分の靴音でないために誰かが近寄ってきている。見えてきたのは無機質な奥行と看板の様な物に書かれた文字。…その看板は黒い燕尾服に身を包んだ少女が掲げている。網タイツ? ウサミミ?

 突っ込み処は満載であるも呆れが強すぎて声も出なかった。まとわり着くようなこの一面真っ黒で無機質な空間。生き物のあたたかみのある気配はしない。目の前のバニーガールも呼吸をしていないようにさえみえる。これはいったい何だと言うのだろうか?


「キャラクターの名前を入力してください」


 ……心内を先読みしたように用意された言葉。ゲームの導入か何かの様な機械的な感覚。

 これは何なのか? 解らない。しかし、俺は、俺達は昨晩もゲームを作る集会の会合を終えて床に着いたはず。それがどうであろう。訳の解らない夢を見ている。夢にしては朧気でないしっかり明瞭な感覚で五感もしっかりと働く。感覚というか空気に近いものは歪みすら考えられない様な秩序で構築されている確かな物だ。だが、どうしても感じるいつもの俺の部屋に近い空気。なんなのだろう。違和感がないとなればまた別になるけれど。この空間の組成という部分に違和感はあれど空気的なものには何もない。

 あるのかないのかはっきりしない変な気持ちになり、不快だがこの空気に関しては一言言う。夢の中でもゲームのシステムなのだろうか? 夢にしては出来過ぎな感もあるがバニーの女の子は一言も口にしない。俺に向かって身じろぎ一つせずに『この看板をみろ!!』と言いたげなジトーっとした視線。気不味い……。そして、俺が口を開くと、『「キャラクターの名前を入力してください」』が変化する。


『君は誰?』

「君は誰?」


 小さく反響し続ける自分の声。奇妙な空間の広さやどのような空間であるかさえも狂わせる違和感。方向感覚や勾配、傾斜……広く言えばここはどこに存在しているか……。ますます解らなくなる。それを攪乱するように少女の現れた方向の空間は奥行が消えたように黒さがふかまった。

 バニーガールの持つ看板に現れた変化に気づいたのは反響した声に違和感を覚えて周囲を見回そうとした時だ。ほぉ、俺が言った言葉がそれになるらしい。しかし、俺が首を振ると綺麗さっぱり、すべてが消えてもう一度初期の『「キャラクターの名前を入力してください」』になった。それ以外に進行も後退もできないようなので今は成り行きに任せることにする。今のところそれで気分が悪いとか飛び起きそうな程に過激な何かが起きた訳でもないからな。

 自身の名前でもいいがそれだとまったく飾りもない。それではつまらない。ある程度のジャンルで様々な趣向、意図などを持つゲームを触って経験を積んできた。まぁ、現在所属しているサークルに入ることでそれを得たのだが……。このゲームはどの様なゲームなのだろうか。そして、名前を口にする。俺がいつも使う名前。思えば縁起の悪い名前だが気の置けない友人達はいつもこれで呼ぶ。理由は俺の目つきが悪く機嫌が悪いと座った目は話しかけづらく、触りたがらない程に厳しいとか。それが理由。でも、そんな所も何故か少し気に入っていた。まぁ、趣味趣向は人それぞれで俺はダーク火ローに小さなころに憧れた。それもあってかこの名前が気に入っているのだ。


OGRE(オウガ)


 俺の意思の確定はジェスチャーや体を使った意思の表現で行えるらしい。もちろんコントロールするための機材などはないためにそれしか無いけれども。


「本当によろしいでしょうか?」

「YES・NO」

『YES』

「それでは、あなたをこの救われない世界へとお連れいたします」


 そこは…空から見ている様な情景。バニーガールの背後からいきなり眩い光が起こり、暗く閉ざされた世界に一瞬で穴を開けたような事が起きた。その直後に理解する間もなく方法や理論なんか意味不明だが、現在のように宙を舞っている。眼下に映る世界はまるでグラフィックではない程美しい。綺麗だ……。様々な…様々な文明が区画されたように作られた場所。だが、我に還り考える。ここがゲームに関する場所ならばある程度覚悟がいるだろうと考えたのだ。夢だとしても、安全策は必要だろう。どうやら俺のあまり好まないFPSのようにプレイヤー同士で争う様な空間ではないようだ。入り組んではいるが走り回るには簡素すぎる。それに細かい場所は細かすぎてあれでは何もできないだろう。本当に形式(かたち)が歪んでいるように見える。

 パズルのように組み上げられた街、そこは何か異質な形式を孕んでいる。区画は本当に組みあがっているのに何故だか文明は融合しきらない都市郡だ。様々な都市郡だが通常の都市だけでない。宙に浮く都市郡、海流に流れる都市群、海底の都市群、文明も様々……。さて、どの様な世界なのだろう。そこが気になる。少し前に確信は得ていたがキャラクターの名前を決めたということはこれはゲームか物語の中だ。これはその中でゲームという方向性を進んでいる。そして、先ほどのバニーガールが今度は看板トークではなく言葉で話しかけてくる。澄んだアルトだ。小さな体に小さな声だ。しかし、ここでは小さいながらも雑音がないために明瞭に聞こえる。

 俺の指向性を問いたいらしい。要はジョブやその他の設定を聞きたいらしい。俺の周りを飛び回る小さな女の子は機械的に、ざっくり聞いてくるためにどうしても威圧が強く感じてしまう。職業の選択ができるということは分業制の強い多プレイヤー式のネトゲに近いものなのだろうな。だが、それだけではこれをどの様なゲームかは絞りきれない。ジョブがあろうが何だろうが性別の補正や他にも種族としての補正などももしかしたら既に適用されているのかもしれないな。まだ判断材料が少なすぎる。これからの動きでわかってくるのだろう。


「OGREさん。あなたがこの世界を守る一員となってくださいましたことを感謝いたします。それではOGREさんあなたのこれからの初期ジョブを選択していただきます。この中から派生も考慮の上で選択してください」


 基本的だな……。待て、この切り出し……。今更気づいた。このゲームは俺たちが製作を進めていたものだ。かなり長期にわたる制作で内容が重たい作品。内容も濃い上にかなりゲームの中での難易度も高めだ。俺もデバグの作業で参加してもなかなか上手く立ち回れないアクション系のゲーム。『Real・Real・Memorial「Fortune」』という物だ。メインは先ごろはやっていた大型のモンスターを狩猟するタイプのゲームである。だが、このゲームの面倒なところはジョブを習得する上で任意のスキル習得が必要なシステムがあるのだ。たとえそれが……戦闘に関係ない物であってもということさ。もっと加えればこのゲームには大型モンスターの討伐以外にも生産系のオーダーをクリアしなければ手に入らないアイテム、特定の条件をクリアしないと発動しないイベント、そのイベントでしか特定のエネミーが現れない上にドロップもしにくい武具のパーツの材料などかなりの壁がある。

 さらにそれだけではなく、戦闘やスキルを選定していくだけで々に要素が噛み合うこのゲームのキャラクターメイキングはかなり重要だ。それを今行っている。一番大きな理由としてはジョブだけではなく作ったキャラの条件でサブスキルの経験値の入り易さなどが変動する。このサブスキルが割と重要なのだ。

 俺たちが作った……よく知っている自己満足を満たすためだけのゲーム。けれど、夢にも限界があるだろう。こんなことは……。どうしてこのようになっているのか解らない。非現実を信じる程俺の頭は柔らかくない。奇跡も神も信じない。だが、なんだろう。そういうことを考えると背筋がゾワゾワする。それに自分たちの作ったゲームで感じないはずはない。『違和感』…強烈なこれがどうしてもぬぐいきれない。今はめまぐるしい変化についていくのが精一杯のために深く考えを回せないが後々、理解していかなければならない。


『ガンナーを選択する』

「職業は複数の習得が可能です。この後、変更も可能です」

『了解』


 そして、次の選択が舞い込んだ。俺がシステム上の書き出しや設定を考えたためによく理解していた。次は種族の選択が待っている。俺自身のステータスは人間。だから、俺は人間で固定されるのだろうか? 妙にリアリティの強いこの夢、一体終わりはいつになるやら。機械的な少女の言葉は長い。こういうところも読みの流すといいことはないから読むけれど。

 驚くことに、俺が前々に立てた予想に反し、システムの流れが変わっている。種族設定は愚かこれからステータスを反映していく様な選択は一つとして現れなかった。製作の末端に関わったものとしては当然、訝しんだ。この後にはキャラクターの詳細設定が順序にしたがい羅列されていくはずなのである。それも何もない。選ばされたのは初期の武具だけだ。

 俺は遠距離職も近距離職も様々に熟せる。それでも、得意不得意もありその関係から俺は考えたかった。理解しなければこのゲームは上手く機能しない。製品版のネトゲと違い俺達の作ったゲームは様々な方面にめんどくささを強く持っていた。それだけに性別と種族などの小さな要素であっても弱点を埋めてくれる重要なパラメーターバランスを孕んでいる。それを加味しても……。


「それではチュートリアルに入ります。OGREさんと皆様、現在キャラクターメイキング中の方々を同時にお迎えいたします。それでは…後ほど」


 ……そして、次々に俺と同様にゲームのキャラクターが入り込んでくる。ここは確かにチュートリアル用に作られた俺たちにダメージを受けないようにしてある練習用のステージと酷似していた。キャラクターの表情には見覚えがある。時間の経過で次々にキャラクターが動き……。言葉を発すると相手も認知している人物だし、顔見知りばかりだ。そして、驚いたことに向こうの意識もしっかりしているのだ。


「まさか、お前らまでこんなことになっているとはな」

「夢じゃないのか? これ」

「これだけ相互的に認知しあえる夢があってたまるか」


 そんな言葉が続く中で製作に直接的に関わるメンバーが急に何かがずれていったことに気づいた。空間というかこのゲームのチュートリアルである最初の空間。ここはモンスターが出現しない。しかし……、そこには小型のトカゲの様なモンスターがうようよと湧いてきている。小型と言いつつ大型犬よりも大きい。それらが俺たちを警戒している素振りだ。だが、攻撃の確定的な決定打がないのかウロウロしているだけのように見える。複数の個体が入れ替わり立ち代り噛み付く様な真似をするが俺たちに実害を加える素振りをしてこない事が何とも不思議で仕方がない。何か起きるのか?

 そして、事件は起きた。ゲームサークルの絵師であった男が奇声をあげたのだ。何が起きたのかをいえば…『食われた』のだ。いきなりの空からの急襲にうろたえるばかりの仲間達。もう、あの噛み付かれ方では助からない。ゲームだから復活する…このゲームはそういう仕様だ。それでも俺たちがここにいて 相互的に何故かリンクできている事が本当に……恐ろしい。奴は死んでいないと信じつつも味方の誰もがうろたえるところで俺は所持している銃器へ閃光弾を装填し、放つ。俺たちが作ったゲームでアイテムの性質や特徴を知っているために俺は早く動けた。


「OGRE!!」

「何してる!! 早く助けるぞ!!」


 その男は木がクッションになり体を強く打ち付けることはなかった。しかし、そいつは既に事切れていてそこに居る皆がパニックを起こしている。青ざめながら仲間内で怒鳴り合ったり叫んだりアタフタし落ち着きは完全になくわけもわからずただただ統制が失われていく。これではダメだ。仲間達をまとめるのはいつも俺ではない。力の伴わない俺では……。それでも皆がここで死ぬよりもマシだ。俺は機関銃とライフルを複合したようなこの武器を上に向けて弾丸を打ち放つ。全員が爆音に驚き動きを止め、いつもの如く目つきの凄まじい俺に怯える様な目を向ける。特に女性のクリエイターたちはこの様なことになると弱いらしい。全員がそうではないがほとんどのやつが狼狽えていたわけだからな。

 そこになんでかチュートリアルの中で姿が見受けられなかった数人の仲間が何かに追われるように走り込んでくる。そして、俺が再び銃を構え、彼らを追いかける猪を打ち抜くために構えた。それに気づいた俺の親友に位置するこのゲーム製作の上で一番の首脳である男が引き連れている全員にかがむように号令をかける。もちろん、しゃがみはするも俺が見えていた奴ら以外は一人として瞬時には理解できていなかっただろう。何が起きたのか理解したのは俺が大きな猪を蜂の巣にしたあとだと思われる。そして、なんを逃れれば息のない友人を目にすることとなる。普通にゲームのシステムならば復活し、傷などが完治した状態でここに運ばれてくるはずだ。それが起きずに彼は死んだまま。あまりにも哀れなために俺たちはその友人を弔うことにし、その場から離れる。プログラマーとして働いている女性のクリエイターが索敵系の工作に向いたジョブを選んでいた事でそれがよくわかった。周囲には危険な大型のエネミーが確認されているのだ。チュートリアルと言いつつこれはチュートリアルではない。死者も出た。これが『リアル』であったとしたら?


「OGRE。気づいてるか?」

「あぁ、空の上から見たあの景色。何かおかしいと思ったんだ。俺たちが作った『R・R・M・F』はあんな歪なエリア設定をしていない」

「それにお前ら、自分の元の名前を思い出せるか?」

『?!』


 周囲からざわつきが起きた。そう、何故俺が本名で呼ばれないか。それはリアルの名前を思い出せないからだ。もっとも…今の現状ではこの世界で戦闘し、生き残る事が俺たちの『生存方法』なのかもしれない。最初の空間での違和感はここではないのだ。自分の体が浮遊している様なふわふわした感覚が前まではあった。それが今はない。どういうことかは解らない。それでも今は打開するために色々な情報収拾をしていく他ないだろう。コマンダーとして頭の働くディレクターの役割をする男が俺に話しかけてくる。


「OGRE君とAREN(アレン)君もいちはやく気付けていたよね? ならわかるとは思うけど」

「そうだな。まずはこのゲームのルールを俺たちはよく理解しているという盲点から抜け出さなくちゃならない。新人を歓迎するようにはできていない。全員、メインメニューを開け」

「あぁ、だが、戦闘のシステムは大きく変わっちゃいない。メニューからマップを出して俺たちの拠点となる街を探さなくちゃな」


 言われるがままに皆がマップと所持アイテム、武器やスキルを確認している。それに全員の頭上に緑色の帯がある。ジョブによってはさらに黄色や赤の帯もある。多いやつは六本もの帯があるようだ。いきなりあんな高位のジョブを選ぶあたりがかなり気違いじみているがこのメンツで一番ゲームでの立ち回りが上手いやつだから口にはしない。

 そして、一様に全員が動き出す。しかし、前までの出来事を引きずるやつも多い。それもそうだ。いくら俺たちがそういう年齢であってもだ。今は平和で自らの知り合いがいきなり理不尽な力により、一瞬で命を奪われる経験などそんなに多くない。確かに交通事故や犯罪に巻き込まれることはあろうが……戦争でもない俺たちの元居た世界とここは違う。いくら人間に近い生物である俺たちでもゲーム内でのレベルの低い時期は群れて守り合い、エネミーと闘うしかないのだ。

 俺はその中で立ち位置が高い。下手なことはできないが俺だって落ち着いている訳ではないのだ。怖い。いつあのように俺も襲われるか解らないということである。その恐怖に駆られているのがよくわかるように俺は機銃にすぐに手をつけられる位置に絶対に利き手をかざしていた。


「大丈夫だ。OGRE」

「?」

「お前だって怖いのは解る。だが、あの時、お前が俺たちを助けてくれなければ半数以上の仲間が死んでいたかもしれない。あの時、お前がいてくれたことに感謝してるよ。これからは近接職の俺が絶対に守ってやる。補助を頼む」

「ふっ。了解」

「やっぱりお前は魔法銃士(フォースガンナー)へ転職するのか?」

「そういうAREN。お前はガッツリ、死神(デス)なんだろうな」

「お互い様だろう。俺にはお前みたいな銃器での立ち回りはできない」

「持ちつ持たれつな訳だな」

「そうだ。ここには戦闘職以外のやつもいる。俺たちで必ず守ろう」

「あぁ」


 森を抜けるあいだにも何かの気配を強く感じる。『AREN』というなの小柄で童顔な俺の親友は近距離の先頭が得意な男だ。恐らく、このゲームは今、ゲームスキルというよりはリアルでのステータスをかなり濃密に利用されているのだろう。そうでなければ俺たちのキャラクターの判断材料がない。それでも、種族の設定でかなりそのステータスも補正されているのだろう。俺は『鬼』、ARENは『天人』だ。種族の説明は今は省くがもともと俺たちがこのゲームで使っていたキャラと同系統のものである。ステータスからそう判断した。このクリエイターチームの女子勢はほとんどが内職系のジョブで戦闘などできない。種族もほとんどが『人間』や『エルフ』、『悪魔』などで悪魔であれば一応戦闘もできるがそれでも職業が戦闘の特化ではないために前に出られる様なものではない。

 そして、見えてきた。街だ。ここに入ればゲームの本来の道すじとしては安全地帯だ。俺を含め全員が中に入ると…空が暗くなる。こんなイベントはないはずだ。システム関連のメンバーややシナリオを書いている俺は最初に気づく。そして、デバグに協力してくれていて内容を少し知って居るメンバーも気づいて戦闘のできるメンバーは各々武器を構える。何が来てもいいようにだ。先程もエネミーの現れない空間に大型のモンスターが現れた。小型ならまだしも大型の物が現れるということはシステム云々ではなくこれはゲームではない。何か目的があって動いているのだ。それも何か意志の在る物によって動いているということになる。

 ゲームはあくまで決められた道筋のシステム以外に動くことはできない。仕組まれた機械仕掛けの娯楽でしかないのだ。そのプレイヤーがそのトリガーを踏むことでフラグが立ち、イベント、もしくは確率でアイテム、行動やレベリングによって一定の方向性を進む。だが、そこに『存在しない者』が介入してくるとなれば『意志の在る何か』が意図的になんの目的かまでは図れないけれど俺たちを排除しようということだろう。


「はぁ……まったくあなたたちと来たら」

「?!」

「誰だ?」

「はぁ…どうせ死んでもらうんでなんでもいいんですけどね」

「死んでもらう?」


 かなり短気なARENが大振りな剣を構えて走り抜けて行く。彼のジョブの暗殺者(アサシン)はエネミーに確率で高倍率なダメージを与えやすいという特殊なスキルに加え、回避判定が長く、火力を左右する筋力の値がとても高い。さらに、他のサブスキルを多くセットする事ができるスロットも比較的に多い。その弊害として彼のジョブは防御力が低めという設定になっている。さらに、彼の種族である天人は技量と呼ばれる確率で発動する高倍率ダメージの発現率を上げ、天人特有の特徴で思い武具のウエイト値を引き下げることができるのだ。武器には重さがあり、そのジョブ、種族により、装備できる武器の重さには制限がある。だが、天人はそれを軽減する特殊な能力があるということになる。それは即ち、『高火力の重い武器を高確率でさらに高火力にして攻撃でき、回避もかなりしやすい』ということになる。弊害はやはり防御面での問題。それに、このゲームで必要になるもう一つのポイント、『魔法』の攻撃値と防御値が極端に低いことが大きな弱点だ。

 ARENは『速力強化のサブスキル』を使用しながら『一時的に会心攻撃(クリティカル)の出現率をあげるサブスキル』、『防御力を極端に低下させる代わりに火力を一時的に上昇せせるスキル』、『使用時間中に防御力の最大値が大幅に下がるが回避行動における回避成功率が格段に上昇するスキル』、『ヒットポイントの最大値を一時的に下げる代わりに攻撃の速度を上昇させるスキル』、『一定時間の行動力を無限化させるスキル』を併用しながらいつも闘う。それらを今回も使いながら明らかに禍々しい見た目の黒い装束をまとう少女にまったく無遠慮な一撃を向けるも向こうの移動速度がかなり速い。あれだけのスキルを積んでも当たらないのか……。


「ちっ…ちょこまかと」

「おっそぉい! あははは!! 鬼さんこちらぁ!」


 そこで俺ともう一人が頷き、示し合わせてARENの補助に向かう。まずは遠距離の機動攻撃の要となる俺がARENの攻撃に合わせ、軽くはあるも乱射ができる弾丸を標的に向けて打ち放つ。俺の現在のジョブは機銃士(ガンナー)だ。この段階では種族と性別の射撃攻撃力に依存するこうげきとなるために完全に火力面では後手に回ってしまう。けれど、ガンナーの強味は火力ではない。弾丸によりエネミーを仰け反らせたり吹き飛ばす事のできる器用さに大きな強味があるのだ。ガンナーには特出したスキルはない。なぜなら最底辺のジョブであってもサブスキルスロットが最多で機動力に長けているためヒットアンドウェイ戦法が一番扱い易く、攻防ともに安定的という部分だけでも十分に戦えてしまうからだ。

 そして、俺の種族、鬼は攻撃補正を極端にあげることのできる種族だ。近距離、中距離、遠距離の全てにおいて低下を抑える上に順応的で近接、射撃、法撃の各種攻撃補正を他の種族とは比べ物にならない程引き上げるという特徴がある。しかし、アサシンのようにサブスキルのポイント数値が高いジョブとは違い単体ではスキルを習得できず、状態異常攻撃やそれに関係する罠の類に対しての耐性がほとんどない。一番致命的なのは天人とは逆に回避性能にとことん劣る『脳筋種族』なのである。ただし、スキルをしっかり選べば後半に化けるジョブだ。ほかには特に特出した性能はないがそれ以外にはマイナスも少ないので防御重量職や遠距離職には比較的扱い易い種族だろう。だが、状態異常耐性スキルをつけてもあまり変わらない程致命的なので基本、そういうのが嫌な人間には使えない。


「俺たちは一人じゃないんだぞ?」

「うわ!! くっそー!! この服お気に入りだったのにぃ!! やったなぁ!!」


 俺に強力な魔法攻撃が飛んでくる。回避できない。

 そこに俺を守るように巨大な盾を構えた最初に俺たちに話しかけた男が動く。こいつはかなり頭の回る男だ。その名は『金剛(こんごう)』だ。リアルのやつは柔和な笑顔で長身の優男である。それでもかなり頭がいい。俺たちの中では一番だろう。

 やつのジョブは『剣士(ブレイバー)』という。近接攻撃の要となり動き回って確実にエネミーの急所を攻撃するタイプのジョブである。近接攻撃系のステータスにプラスを加え、防御性能が高い事が大きな特徴。スキルとしてもガードを強力にできるスキルや機動力に長けたスキルを種族との組み合わせで発動させて利用できる。他にもジョブの中でスキルポイントの平均的な割り振りが特徴で立ち回り次第では様々なジョブの代用が効く何でも屋というイメージだろう。

 しかし、実はそれはけっこう難しい。簡単そうに聞こえるが何か一つのことに特出している訳ではないことから決定打に欠き、一人での運用はそれこそ中途半端になりやすいのだ。様々な補助を行うために周囲の動きを事細かに確認し、手助けできる配慮の力を強く持たないと無理だ。それに特出したところが少ない上に被弾の大きい近接職であることからプレイにも技能がなくては務まらない。武器も火力の高い物が少ないと来た。アイツだからできると俺は思う。

 種族にしてもやつは平均的な物を選んでいる。『人間』だ。全部のパラメーターが平均的で初期は苦労するが育て方によっては強力なユニットが化ける……気長に見れば強い種族である。そうでもなければ人間は旨みが少なすぎるくらいだ。


「大丈夫?」

「あぁ、助かった! 行くぞ!」

「うん!!」


 次々に俺たちの仲間が参戦する。近距離、遠距離、なんでもありだ。魔法、銃撃、打撃、斬撃、様々なカテゴリーの攻撃でその少女の様なエネミーを攻撃する。そして、ARENの斬撃が一撃通る。彼の攻撃で少女はよろめき一旦空中へジャンプしながら後ろに引くが……。追撃を仕掛けたARENがどんなスキルなのか解らないが吹き飛ばされてきた。なんとか俺たちで受け止めたが何なんだ? あいつ、いきなりどす黒くなり始めたぞ?


「あぁーぁ…、あんたらやりすぎぃ」

「……」

「もっと弱っちいと思ったのにさぁ。このレベル差で攻撃を通して来るなんてアタシびっくり……だから、おいたをする悪い子達には…お仕置きしなくちゃね!!!」


 あ、あれは……まだ、俺たちも戦ったことのない、高レベル推奨の高難易度のクエストで現れる漆黒の巨龍……。アルティメット・ダーカー? 俺たちはまだ、俺以外は全員が1レベルだ。俺は猪のモンスターであるボアの経験値で少々早めにレベルがあがっていた。それでもレベルは2だ。そんな状態で高難易度のクエストなど熟せる訳が無い。そして、その巨龍の放った一撃で俺たちは一瞬で消し炭になったはずだ。


「ん…んン?」


 俺のアパート。何も変わったことはない。

 朝日が登っている。そういえば今日から学校だ。入学式が終わりオリエンテーションを抜けてその後、俺たちにはいきなり三連休があった。それの間はずっと部屋で寝ていたかゲームの製作に参加していたのだが……。突然襲う地響きと爆発であろう轟音に驚き、悠長に朝飯を食っていたのだが胃に押し込み、俺は着の身着のままでアパートの玄関口から外を見た……。そこは前までに見ていた世界ではなかったのだ。俺たちの作ったゲーム……。呆然とするしかなかった。人間が太刀打ちできない。人間は知能面と武器がなければ野生動物よりも劣る脆弱な生き物だ。襲われ、捕食される。助かる訳が無い……。呆然と俺は見ることしかできなかった。昨晩、俺たちも体感した無力という歯がゆい感覚。まさに目の前で繰り広げられているのだ。

 そして、響き渡る。最後に俺たちを葬ったはずのあの憎たらしい声が俺をあおるように言葉を飛ばしてきたのだ。空から響く耳障りな高笑いに俺の中で怒りが募り、言葉は出る。しかし、俺は無力なんだ。闘う術などない。どうしろと!!


「何なんだよこれ……」

『OGREさん。あなたがこの世界を守る一員となってくださいましたことを感謝いたします。それでは、これから……いつ死んでしまうとも解らない狂気を存分に堪能しなさぁい!! アハハハハハハハハハハ

!!!!』

「クソッ!!」


 怒りに駆られ、強く、前進を望んだ自分の…自分の変化に驚く。俺の目の前には俺が俺のデータで使っていた愛用してきていた銃器が現れたのだ。握ってくれと言わんばかりにそれは浮遊している。ポーチも現れた。弾丸も十分。

 体が熱い。皮膚が硬化し、爪が伸び、違和感のある空気との触感、何か、俺にも変化が起きているのだろう。言わずもがな…リアルでは人間でも『R・R・M・F』では鬼である俺がリアルでも鬼へと変化している……。理解など要らない物となった。現状を打開するために…戦わなくてはいけないのだ。それを俺が望んだから俺は鬼となり銃を構えて闘うことを選んだから……。


「行くしか…ないか」


 俺の武器を掴んだ瞬間に俺が見えない様な素振りだった大型、中型、小型を問わないエネミーたちが俺へ牙を向く。なりふり構ってらんねぇ。行くぞ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ