第7話 魔法
「す、すみませえん……私、いつも道に迷ってしまうんですよ……」
「は、ははは……」
ミリアという少女は、どうやら方向音痴らしい。しかもかなり深刻な。
そう気づいたのは、一直線の道のはずなのに気が付くと脇道へ歩こうとしているミリアを止めるという行動を3回繰り返したときだ。……ミリアの、勇気を出して話しかけるという行為は大正解だったんだなあ、と思った。
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広場を南の方に出る。思いがけずミリアという同行者ができたが、俺のやることに変わりはない。まあ、せっかく同行者ができたことだし、何かしゃべってみようか。
そう思い、歩き始めてからずっと無言なミリアに話しかけるためそちらを向く。
「なあミリア、ミリアって……って、あれいない!?」
あれ!?出発したときは確かに隣を歩いてたよな!?
道の真ん中でぐるぐると回りながらミリアの姿を探す。道行く通行人に若干怪訝な目を向けられているような気もするが、今はそんなこと気にしてられん!
と、辺りを見回すと、人と人との間を歩き、脇の方へそれていく小さな影を発見。髪がピンクだし、おそらくミリアだろう。
「おーい!ミリア、こっちだ!」
ミリアを呼びつつそちらの方へ向かう。と、ミリアも俺が隣にいないことに気が付いたのか、慌てた様子でこっちに向かってくる。
「ミリア!」
「か、かいりすさん、どこにいってたんですか!?」
「それはこっちのセリフだと思うぞ!?」
あ、あう……と言いながら顔を赤らめうつむくミリア。
「まったく……案内してくれといったのはそっちだったと思うが?」
「す、すみません……どうも私、はぐれやすいみたいで、気が付いたら一人になっちゃってることが多いんですよ……」
と、俯きながらそう言ってくる。……これは大変な人を案内することになったかもしれん。
「と、とりあえず、話しながら歩かないか?そうすればはぐれることもないだろうし、黙って歩くのも辛いしな」
「そ、そうですね」
そうだなあ……
「んじゃ、こっちから質問するよ。ミリアって、どう戦うんだ?」
あまり共通の話題がなさそうだし、こちらの気になったことを質問してみる。見た感じ武器も持っていないし、こんな小さな少女がどうやってモンスターに立ち向かうのか気になったのだ。
「え、えっとですね……βテストの時は魔法を使って戦ってました」
お
「俺と同じだな、杖を背負ってるからわかるとおもうけど、俺も魔法を使うんだ。というか、ミリアってβテスターだったんだな」
小さい身なりのくせに結構ガチゲーマーなのか?
「そ、そうなんです。一応、βテストの時では少しは名前の通った魔法使いだったんですよ?」
と、少し誇らし気な顔で話しかけてくる。
ほー、自分で言えるくらいのプレイヤーだったんなら、魔法について聞くのもいいかもしれないな。
「そりゃすげえな。よかったら、魔法の使い方とか教授してくれないか?俺、正式版からのプレイヤーだからあんまりよくわかんなくてさ」
「い、いいですよ?案内してもらってますしそのくらいはお安い御用です。あ、あんまり詳しいことは教えられませんけどね」
「ああ、大丈夫だ」
「えっと……じゃあ、何をお教えすればいいんでしょうか?」
「そうだな……まず、この世界の魔法についてざっくりと解説してくれないか?わからないところがあれば聞くから」
「ざ、ざっくりとですか……えっと、基本的なことからでいいですか?」
「それで頼む」
何にも知らないしな、なんでも聞いて損はないだろ。……しかし、これだと理緒に聞いといた方がよかったかもしれんな。
「えっと、じゃあ……まず、このIAOの魔法について説明しますね?
IAOの魔法は、普通に発動した場合は他のRPGと同じだと思ってもらっていいと思います。魔法を選択して、詠唱時間の後に魔法が発動する。魔法が強ければ強いほどMPの消費量が増えますし、詠唱時間が長くなります。これは、魔法によって数値が決まっていて、発動ごとに変動することはありません。
ただし、これはあくまでスキル欄から魔法を選択した場合の話で、このIAOではそれだけではありません」
「……〈ボイスコマンド〉のことか」
「その通りです。このIAOには、普通にスキル欄から発動するだけではなく、それ以外にも発動方法があります。カイリスさんの言った〈ボイスコマンド〉はその基本ですが、そういった発動方法の場合、魔法の発動を自らの意志で制御しなくてはなりません。本来の発動方法から外れるためにそうなるのですが、この場合、発動するごとに威力が変動したり、MPの消費量が変わったりします」
なるほど、だいたいさっきの実験通りのままだな。ボイスコマンド以外にもあるということだが、どんなのだろうか?
「次に属性について話しますね。
このIAOでは、数々の属性が存在しています。基本六大属性となる、火、水、氷、雷、風、地の6つや、光、闇といった特殊な属性、それ以外にも様々なものがあります。六大属性はそれぞれ有利不利が存在しますが、特殊な属性は独立した属性のため、有利不利が存在しないことが大半です。とはいってもですね、βテストではこの8つが大半で、それ以外の先天属性はほとんど詳細不明だったんですけどね……」
なるほどね……あれ?でも俺の先天属性って確か……?
「それと、属性に関連して先天属性についても話したいと思います。
最初の設定のときにいくつかのなかから選んだと思いますけど、その属性と同じ魔法を使ったときにその効果がアップするというものです。でも、逆に不利な属性の攻撃を受けた時にダメージが大きくなったりするので、要注意!ですよ?ちなみに私の先天属性は火です!βテストの時と同じものを選びました!」
と、にこにこしながら喋るミリア。ここで、一つ疑問をぶつけてみる。
「なあ、ミリア。〈無〉っていう属性は確認されてないのか?」
「〈無〉ですか……えっと、確か先天属性でβテストで1人持っていたのを知っていますよ。どの属性の攻撃も強化せず、逆にどんな属性も弱点にならないといったものだったと思います。その人はパーティーのタンク役だったんですけど、どの敵も苦手にしなかったのでなかなか好まれていたものだったと思います。無属性魔法というのは…ちょっとわからないですね」
そうか……レアだと思って獲得したが、ただの中立属性というわけか。
「でも、もしかしたら発見されていないだけで無属性の魔法も存在するかもしれないですよ?……あとは六属性間の有利不利についても話したいと思います。火、氷、地、雷、風、水という風に、先に言った属性が、次の属性に有利になるという六角形な関係になっています。例えば、私の先天属性である火だと、氷に強く、水に弱いという感じですね!」
なるほど……俺の持つ属性だと、風魔法は水に強く、水魔法は火に強いという感じか。
「とりあえずこんなところでしょうか……すみません、基本的な話だけで終わってしまって……実は、β版ではあまり解明はすすまなかったですし、もしかしたら正式版で変わったこともあるかもしれないので、あんまり話せるようなことがないんですよ」
「いや、とてもためになる話だったよ」
しかし……
「ミリアって説明凄いうまいな、さっきの感じだとてっきり喋るのは苦手なのかと思っていたんだが……」
話す順序もしっかりしてるし、詰まることもなくスラスラと喋れてるしな。
「あ、あう……その、私、説明とか、そういう話すことが決まってるときだとしっかり喋れるんですけど、普通に喋るときだとなかなか考えが纏まらなくて……つい、話すのがゆっくりになっちゃうんですよ……あ、別に会話が嫌いだとかそういうことじゃないですよ!?」
「い、いや別にそういうことは思ってないけど……」
ただ説明うまいなーと思っただけですはい。
しかし、と前に向き直りながらミリアという少女について考える。
ここまでちゃんとした説明ができるのなら、先ほど言った、それなりに高名だというのは間違いではないのだろう。だとすると、俺が話しかけられたのはとても幸運なことかもしれない。初日から、このレベルのプレイヤーから教えてもらえるというのはとてもありがたい。
って、あれ?
「ミリアがいねえ!?」
なんでこんな一瞬注意をそらしただけでいなくなるんだ!?
辺りを見回し、ミリアを探す。……これは、大変な案内になりそうだな。
そんな、嫌な予感に襲われながら、人の流れにさらわれていくミリアを追いかけるのだった。